彼は千鳥足でツーリングトレインを出て駅の方へふらふらと歩いていった。
彼はやる気満々の様子で、人が少なくなった駅へと向かった。
ちょうど蛍ちゃんベンチの前に18歳ぐらいの女の子が2人立っていた。
当然彼はその娘へと声を掛けた。「こんばんはー!!」と馬鹿でかい声で。
完璧にただの酔っぱらいだ。女の子はびっくりした顔で彼を見る。
後ろで見ていた僕たちは、これはまずいとばかりに3人ほどで彼を捕獲しに行った。

「ごめんなさーい、この人相当酔っぱらってるから」と僕たちは彼女たちに謝った
蛍ちゃんを捜してこいと言っておきながら、彼にとっては迷惑な話だ。
女の子達も何がなんだか状況が分からず、きょとんとしている。
そこですかさず、ナイスガイが笑顔で「俺達そこのツーリングトレインに泊まってる者なんだけど、何となく話が盛り上がって
地元の娘と話がしたいなと思ったんだよね。
突然変なやつが来てびっくりしたでしょう。ごめんなさいね。」
と彼は天性の、話のもっていき方上手な感じで弁解した。
この時、酔っぱらい鉄ちゃんは変人扱い、ナイスガイはそのままナイスガイという図式が成り立ってしまった。

そしてどういう訳か、蛍ちゃん2人をまじえての楽しい宴会がまた再会した。
彼女たちは20歳とのこと、ちょっと幼く見えるのは、色白で、茶髪だったせいかもしれない。あれだけ吠えていたハーレー髭
おじさんはと言えば、借りてきた猫状態だ。
本当に蛍ちゃんを連れてきたものだから、見かけに似合わず思いっきり照れていた。

もっぱら僕たちが彼女たちの相手をした。僕も正直楽しかった。
彼女たちもバイクツーリングしている人たちに興味があったらしい。とても明るく、いかにも現代っ子らしいしゃべり方は、
蛍ちゃんの日本女性の鏡的、質素で悲しくも犠牲的なあの情緒は当然無いものの、むしろ彼女たちの屈託のない笑顔が
貧乏旅行者の僕たちの心を和ませてくれた。

2時間ほど宴会は続き、そろそろ酒も無くなってきた頃。茶髪蛍ちゃんとの別れが来た。
髭おじさんを初め全員で手を振り、彼女たちを見送った。彼女たちもそれに答え楽しい旅の夜が終わった。特にハーレー髭おじさんは
満足そうな顔で「やっぱり北海道はいいな」と笑っていた。

前ページへ 北海道編へ HOME