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<意志決定>

 経営者や管理者の給与は、意志決定を下すことに対しての報酬として、支払われるという意見は良く耳にする話です。
 これはおそらく、報酬の理由として、難しい問題に対して適切な意志決定を、タイムリーに行うという、その能力と責任に対して、相当する地位や給与が与えられているということを表現しているのであると思います。

 経営管理の過程において、意志決定を下さなければならない場面はたくさんあります。我々が、今取り上げている計画案の選択についての意志決定もあれば、組織、指示、調整、統制に関連する意志決定もあります。意志決定を下す技術はこれらのどの領域においても同じ性質のものです。

 意志決定を全くの勘に頼って下す人は少なくありません。しかし、彼らは直感によって――過去の経験に裏付けされていることが多い――正しい意志決定が下せるものと信じているのです。
 科学的オリエンテーションを受けている現代の経営者は、この思考を軽蔑しがちです。

 しかし、仮に、直感的意志決定は誤りであるとしても、これを否定する訳にいかない事実や、意志決定には、直感を生かす余地が残っています。直感的働きの基礎となる仕組みは、問題に関する豊富な知識と経験によって構成されます。そして、これらの機能が潜在的に働き、経営者が妥当な意志決定を下すよう、助けると考えられています。

 しかし現代の経営者は勘に頼りません。問題に関する情報を、できるだけ多く集め、これをもとにいくつかの試案をつくります。
 意志決定を下すといっても、実質的にはそれらの試案の取捨選択になります。どの試案を採用するかを決めるには、どの程度目的にかなっているか、結果としてどういう問題が発生するか、さらには、どういう危険が生ずるかといったことを基準に、試案の一つ一つについて評価することになります。

 評価の方法で、評価試案を相互に比較するとき、並べて比較することが出来ると、長所短所は、即座に見通せます。
 経営者の直感とは、この様な経験の積み重なりで、能力が育つものです。あるコンサルタントは、ことの成否を判断するのに、やる気、自信、責任の三要素を確認することにしています。ここに、その成功を示す例があります。

 この意志決定の確認に用いた方法は、合理的分析といわれるものです。
 この合理的分析の第一段階は、まず、目標をはっきり理解することです。この狙いとするものがないと、試案を比較するときに、経営者は目標を見失って仕舞います。

 次の段階は、関連する問題の領域における争いについて調べます。この調査には、関連要因のリストが必要になります。
 この中には必ず有形なもの、つまり事業計画をスタートさせる経費、利用できる設備と人材、必要とする管理者の配慮などが含まれます。また素案に対する各案には、それぞれの顧客の好意、企業イメージ、従業員の士気にどういう影響を及ぼすか、さらに、その他の面についてはどうかなど、無形のものも考慮にいれなければならなくなります。

 違いが量的に表せる場合―――経費、設備投資、予想収益など―――の類の比較は、もっと容易になります。この場合、数字は共通名目の金額に換算するようにします。例えば、円単位の売上高と生産数を比較する場合は、生産個数を円単位に換算すると、ずっと理解し易くなります。

 費用を比較する場合に忘れてならないことは、ある案を採用したときに、それによって発生してくる費用と、たとえ採用しなかったとしても、発生する費用とを、比べてみることです。
「例=ある会社の支店の計画では、どの案を採用しても、当然に発生する本社関係の費用を考慮にいれない」

 意志決定をする際、自分に忠実でない行動をとる多くの理由は、ある種の費用が、意志決定とは、実質的に関連がないことを、認めようとしないで、問題解決の過程に、その費用を含めてしまうことです。典型的な例は、新製品の開発に、多額の資金を既に投入してしまった会社のケースです。しかも、新製品を製造するほかの方法を、検討中の段階に、この種の手段をとり入れております。

 この場合に良くみられる管理者の反応には「最初の製法に既にかなり投資してしまっているから、今後もその製法でいくよりほかにない」が出てきます。
 これでは泥棒に追い銭の状態です。意志決定を下すときは、これまでに費やした費用に、余りこだわることは良くありません。そういう金は「捨て金」です。意志決定は、これから使い始める金のことと、これに関連する他の要因を、考えてから下すべきです。

 無形の要因については、費用関係の要因と同じくらいに大事なことですから、ときには、それ以上に重要であることが沢山あります。そのため、分析は慎重に行わなければなりません。そして、一部の無形の要因は、未来の費用に転化出来るので比較しやすい特質を持っています。

 例えば、ある決定によって従業員の士気の低下を招いた場合、その決定が原因となって、従業員の離職が発生する予想を、具体的に示すことによって、その結果をある程度数量化することができます。

 もし、この意志決定が外部のものを雇うか、あるいは、内部から誰かを抜擢するかを決めることだとします。
 経営者は、「従業員のあるものは、近い将来退職する年齢に達したので、やめないことはわかっているが、低い地位にいる者はやる気をなくし、会社を止めていくかも知れない」経営者が、前述の意志決定の方法を用いる気になれば、補充採用を行った場合に、かかる費用を細かく算出、その数字を、意志決定の効果を測る指針の一つとして、出すことができます。

 近年、経営者が意志決定を下す際の補助手段は、色々と開発されています。その中の大部分は、数量化が主体になっており、しかも、高度の数学的技術に関する知識を必要とする傾向が多くあります。
 この種の数値分析にはまだまだ改良の余地があり、経営者は、意志決定の補助手段に用いる各種分析法には注意する必要があります。しかし、それらの技術を用いることは、数学的訓練を積むことになり、数学的技術を身につけることにもなります。けれども、経営者は、数量的意志決定技術は、経営の万能薬ではないことを、決して忘れてはならない、ことだと思います。

 数量化意志決定技術は、量的問題の評価にしか役に立ちません。
 優れた判断を下す主役を勤めることは出来ないのです。数学的分析の結果は、専門家に判断して貰い、それを最善の意志決定を下すために、使える道具の一つとして利用すれば良いのです。