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<意志決定の人間的要素>

 意志決定を、専門家集団が下すか、一人の人間が下すか、と、いう問題では、意志決定を、下す過程の人間的側面を、考慮しなければなりません。集団の状態においては、人間的要素は、あまりはっきり表れないものです。集団を形成する人達による違いが、集団の雰囲気によって中和されてしまうからです。それでも、やはり、集団を形成する一人一人は、自分自身の発想によって、自分の意見を導き出しております。

 一人で意志決定を下す場合、決定に人間的要素が加わると、特性が顕著に現れます。人は、それぞれ、かならず仕事と生活において、個人的目標を、すべてに持っています。この目標と、状況についてのあらましを纏めた考えが、その人の下す意志決定を左右することになります。

 管理者は、意志決定者として、真に客観的であるためには、自分の偏見、オリエンテーション、個人的目標を良く認識し、何よりも、会社のためになる意志決定を下す際、それらに左右されないようにしなくてはなりません。
 また、どのような状況においても、管理者の目標と会社の目標が、一致することは容易にありえないことです。

 しばらくまえ、川口市に本拠を置くある鋳物業者が、工場地帯の住宅化の波に晒され、川口地区から、工場を移転させる件について、決定を迫られました。移転先としては、2個所の新しい工業団地――一箇所は県内地区、他の箇所は、東北越地区が試案として出されました。
 東北越地区には、良い点がたくさんありましたが、社長は、県内地区を選らびました。彼にとっては、そのほうが通勤するのに便利だったからです。この大変人間的選択は、経営上の意志決定としては良くありませんでした。彼はその選択に、あまりにも自分の個人的欲望を、反映し過ぎたのです。

 一部の管理者、とくに階級組織の中間に位置する管理者は、自分の部の目標で頭が一杯になり、全社的状況を掴めなくなってしまいます。この様な管理者が参加する意志決定は、狭い視野に立って下されることが多いため、会社の目的と噛み合わなくなるのです。
 彼がトップ・マネジメントになっても、その様な状況は続く傾向があります。それ以前の、専門的な仕事をしていたときと、同じ狭い視野でしか判断できないため、その影響が意志決定に現れるからです。

 意志決定のもう一つの人間的面は、意志決定を下す際、多くの人が抱く危惧という不安の心です。
 これは前に批判されたり、あるいは、あっさり拒絶されたりした経験があると、それが災いの元になることが多くあります。そのため、不安感は、職務の遂行に支障をきたします。意志決定を下さないことが、最善の意志決定であるときもありますが、多くの場合、この様な心理的弱点は、何処かで排除しなければなりません。

 意志決定は、所轄を管掌する部や、組織によって、下すのが原則となります。有能な管理者は、常に自分は正しいとは限りませんが、必要な意志決定を下さないで、何もやらないよりは、間違いがあっても、やったほうがよい。と、いうことを認識しています。良い意志決定をして、悪い意志決定をカバーできる間は、悪い意志決定をどしどし下しても構いません。使える道具は使い、客観的に試案を評価することに努めると、意志決定を誤る可能性は少なくなるからです。

『妥協を図る』
 下した意志決定が、すべての人達を満足させるのは、希にしかありません。意志決定に参加する人達の中には、不本意ながら同意する人、原則的に同意する人がおります。けれども、細かい点になると先差万別なのです。完全な意志決定などは、滅多にあるものではないのです。経営者としては、あくまで、全員の合意を取り付けなければならないので、実際に不満を抱く人がでてこられても、とにかく、意志決定までにいたる全討議を通して、全員の承諾を得るように、妥協を図ることになるわけです。

 妥協の一番大事なものは、誰が正しいかではありません。何が正しくなければならないか、ということです。
 けれども、、会社の利益を、できるだけ図るために譲歩するというよりは、むしろ、強力な個人的派閥のために譲歩することで、妥協が図られることは実に多いのです。これは、国会の法案審議の実態を調べると、良く理解できます。妥協と取引は、本質的要因ではなく、別の政治的利害によって成立します。その結果、曖昧でしかも、効果のない法律が沢山できているのです。

 しかしながら、意志決定に、政治的要因を加味することは、時には非常に大事なことです。提案された全体の主要部分を、受け入れさせるために、提案の一部を取り引きするのもうまいやり方になります。
 他方で、妥協を図るために忘れてならないことは、肝心の目的を捨てて、反対派に譲歩したり、政治的理由で、役にも立たない解決策を、受け入れたりしないことです。

 赤ん坊を二つに分ける、ソロモンの提案のような妥協は、双方を満足させるように見えますが、赤ん坊を殺してしまうことになります。うまく妥協を図るには、交渉のできる性質のものと、できない性質のものとを考え、交渉で解決できるものについて取引をし、交渉できないものについては、原案にぴったりくっついて、原案から離れないようにします。

 争いや不和確執は、一部の経営者グループにみられる、意固地な態度が原因になって頻発するケースです。
 彼らは、これまでの長い経験から、行動環境の変化に、強く抵抗します。心の底に無気力や、変えることに、彼らの実績に対しての批判が込められているのではないか、という疑心暗鬼があったします。

 こうした考え方の理由が解れば、提案の反対について、どういう妥協すべきか、或いは、どういう妥協はすべきでない、という解決法も理解できます。以上のように、変化に対する抵抗を克服する方法は、屈服させる以外にも沢山あります。この点については後で詳しく説明することにします。 この項終わり