オリエンテーション
オリエンテーションとは、企画作業の最初に、スタートラインに立つステップです。企画する上での前提条件(制約)を確認したり、企画によって「解決する課題」を発見した上で、企画の目的を明確にします。
課題=シェアダウンの原因を調べる
(例) 某市に営業拠点を持つ▲食品会社は、ハムソーセージなどの畜肉製品を製造販売する中小メーカーです。
近年、大手メーカーの販売攻勢の前にシェアダウンを余儀なくされ、さらに今回の不況で、末端のに動きが極端に悪化しています。このままの推移を辿れば倒産もしくは大手メーカーの系列に入らなければならないほど悪い状態に追い込まれています。
役員会議の結果、同社がこの危機を自力で脱し、大手メーカーの構成に屈しないためにはどうすればよいか。
同社では各セクションより、えり抜きの社員を募り「市場開発プロジェクト・チーム」を編成し、これまでの販売活動と、製品についての見直しを行い、これからのあり方を方向づけすることにしました。
同社のプロジェクト・チームは何から活動をはじめ、この課題をどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。
オリエンテーションは、一般的に、依頼人から企画計画など企画システム作成に必要な、条件や情報について説明を受けることを指します。オリエンとも略していいます。率直な言い方をすれば、打ち合わせとか受注になります。また、広い意味では企業内部で上司から指示される場合もオリエンと呼ぶときもあります。
企画プロジェクト大きなシステムになるようなときには、下図の例のようなオリエンテーション・シートを配布します。
このようなオリエンは、おろそかにはできません。
ただ、相手の説明にうなずき理解を深める性質のものではありません。相手に与える印象や企画のために、オリエンの質によってスタートラインが違ってきます。
次の点に留意します。
- できる限り下調べする。
- 課題を明確にする。
- オリエンシートにかかれた内容以外に相手の希望をくみ取る。
- 企画に際して前提条件の確認。
- 疑問点や説明不十分な点は臆せず質問し、確認する。
- 依頼主のいうことを全面的に信じない。
(相手の人格ではなく問題そのもの科学性であるが態度に見せてはならない)
■ 課題概要
社長の説明によると、▲食品会社のトップが自社の今後の重要な方向付けを託したプロジェクトチームを、社長直轄で発足させたのは、バブル崩壊後消費不況がしっかり根を下ろし、比較的影響の少なかった食品分野にも、販売ダウンが表面化し始めた直後です。
原料高によるコストアップが製品値上げを余儀なくさせ、消費の沈滞をいっそう助長するという悪循環の中で、同社の売り上げも低下しました。しかも、年末を控えての歳暮需要が手控えられたのが大きい打撃です。
さらに、大手メーカーが新製品を次々に市場化し、積極的な販売姿勢に転じたことが、いっそう▲食品社を苦しい状況に追い込むことになったのです。
同社は、従来から製品開発には熱心な企業でした。
しかし、トップダウン型の企業体質で、この数年ヒットらしいものは生まれていませんでした。「良い製品は売れる」という公式は必ずしも当てはまらなくなってきたのです。
また、販売に当たっては精肉店を中心に、デパート、スーパーを販路としていましたが、中元、歳暮需要の後退から、デパートでの販売が思わしくなく、スーパーでのウエートの小ささが問題視されてきていました。
こうした状況から、同社の市場対策の洗い直しと、今後の市場開発のあり方が問い直されてきました。
■ 課題・前提条件の確認
指示された課題を取り違えては、社運に大きい影響を与えるだけでなく、自分自身の生活環境まで及かもしれません。そうならないために、5W3Hで企画課題の確認と把握を確実に行います。
- WHAT(企画対象は何か)「何の企画を立てるのか」
- WHY(企画の目的)「何故企画が必要とされているのか」
- WHO(ターゲット)「誰をターゲットとした企画なのか」
- WHERE(マーケット)「どこの市場で展開する企画なのか」
- WHEN(期間・時期)「いつ行う企画なのか」
- HOW(方法・媒体)「どんな方法で行う企画なのか」
- HOW MUCH(予算)「いくらで行う企画なのか」
- HOW LONG(スケジュール)「いつまで提出するのか」
以上の8点です。
オリエンテーションの際、依頼主が論理的に課題を提出してくれるとは限りません。依頼主でさえ、課題が漠然としていることが多くあります。しかも、間違っている場合もあります。この場合は、企画を進める自分が課題を発見しなければなりません。社内で、上司から指示を受けるような場合も同様です。
5W3Hの情報を押さえるのを最低条件として、とにかく質問することです。
企業の良い点、悪い点、強い点、弱い点、商品の長所・短所、営業の苦労話、競合に関する情報、企画の採用に決定権のある人の好み等々。
「いや、自分はこの商品について何でも知っている」と思っていても、とにかく聞くことです。自分ではそう思っていても、人の見方は違ったりするものです。何でもよく、どれだけ多くの情報をオリエンで得られるかによって企画の質も変わってきます。
この段階で、依頼主の意向をつかめぬまま企画作業を進めても「こんなものを企画してくれと頼んだのではない」と突き返されます。(こういう事態は信じられないほど多くあります)
これでは、「オリエン一つもできないのか」企画プロジェクトのメンバーに顰蹙を買い迷惑をかけることになります。オリエンテーションは、決して軽んじてはなりません。
■ 課題を与えられたプロジェクト・チーム
▲食品会社の課題を与えられたプロジェクトチームは、営業、商品企画、販売促進、広告宣伝、工場より、メンバーを募り、計五名で編成されました。
ヘッドは、営業出身のA氏(三十五才)です。トップは介入せず、すべてメンバーの自主診断に任されます。三ヶ月後に義務づけられた「プレゼンテーション」を待つだけという異例の組織が発足しました。
これまでの活動の洗い直しと、今後の市場開発のあり方を結論づけるという課題を与えられたプロジェクトチームがやらなければならない仕事は、最初に着手するのは何か、という問題です。
最初の会合において、各人の発言記録を見ると次のようになっています。
- A氏(元営業主任)=自社製品及び競合製品の販売実体や購買実体を調べ、自社製品の位置づけを明確にするのが先決である。
- B氏(元商品企画)=市場開発は商品づくりが先行するので、製品開発をどう進めるか、まずそれから勉強して行くべきだ。
- C氏(元販売促進)=商品づくりが大切なことはわかるが、簡単にはいかない。売り上げを伸ばすことが先決なので、売りの基礎研究から始めた方がよい。
- D氏(元広告宣伝)=他社に比べて広告予算が少なかったので、当社は知名度も低く、どんどん他社に追い越されてしまった。広告すれば、スーパーでも商品をおいてくれ、売れるようになる。広告のあり方から絶対始めるべきだ。
- E氏(元工場担当)=工場にいて販売のことはわからない。しかし、うちの製品は対抗商品に比べて、品質的には絶対負けないはずだ。主婦を呼んできてブラインドテスト(ブランド名を伏せて中身だけの差を見る目隠しテスト)をしても毎回わが社の製品は一番良い。だから、いまの製品には自信をもって、パッケージの問題とか、価格とか、売り方に問題はなかったかを洗い直していった方が良いのではないか。
各人は、それぞれもとの仕事の延長で考え、その不満に端を発した意見を述べています。
しかし、いずれにしてもこれら意見の共通点ををまとめると、二つの方向が見えてきます。
- 現状分析から始める。
- 基礎的な研究から始める
前者は実務的な発想であり、後者は理論的な発想です。実際にはどちらか一方だけというわけにはいきません。現状分析を行う過程で基礎的研究が必要となります。基礎的な研究だけでは実体のない空論になるおそれがあります。
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