仕事の教え方事例集Ⅱ    【目 次】
NO 項  目   内      容
「やる気を起こすとは」 今どきは、根性論や精神論では通じません。ではどうすれば下記の項目から……
「仕事に無関心」  「仕事に興味をもたせるには」  
Ⅱ-1 部 下が聞きに来るまで教えるな      物事を手取り足取り教えるのは、親切なようですが、これでは自発的に興味を持って覚えられません。教えられた知識や経験が自分の中にとどまるための手がか りが見つからないで忘れられてしまうことが多いのです。  
-2 自分 の体験を"教材"にせよ     話の上手下手に関係なく、若い頃の失敗談や創業当時の苦労話を始めると、新入社員等の上体が前にせ り出すといいます。それは語る人間がしっかり織り込まれるからで"疑似体験効果"とでもいうものでしょう。   
-3 教え るときは、成功談よりも失敗談を引き合いに出せ 俗に言われる「馬を川に連れて行くことは出来ても、飲む気のない馬に水を飲ますことは難しい」と言 うケース
-4 マ ナー一つ教えるにも、自前の教材を作らせよ     色々な情報から何が大切かを選び抜く作業は容易ではありません。これを身につけるには、普段から配列、整理等の選択力、整理力を自然に身につけなければなりません。
-5 同じことを教えるにも、一人で教えるより二人で教えよ。     多数の口から教えることは、内容は同じでも、客観性が高い。教える人の立場の違いで、伝え方のニュアンスは微妙に違います。が、一人が教えなかった情報の補完があります。
-6 実地指導するときは、一つぐらいわざとミスせよ      『先生でもミスをすることがあるんだ』と思わせながら、教え方も相手のレベルにまで落としたり、其のちょっと上のことを教えることで『自分にも 出来そうだ』と興味や自信を持たせてから教えます。
-7 部下に教えたいことは、「ホウレンソウ」などと短くまとめよ     教えられた仕事をケロッと忘れるのには、部下のほうに責任がありますが、教え方にも問題があるのではないでしょうか。教えたいことは、「ホウレンソウ」などと短く、消化吸収に効果のある工夫も大事です。
-8 教えるポイントは、三つに絞り込め     なぜ三語であることが優れているのかといいますと、問題を三つに絞り込んで話すので、聞き手の頭に話し手の言わんとすることが単純化されよく受け入れやすくなります。
-9 仕事を教えるときには、一区切り「三分」を目安にせよ 教えたいことをよりよく伝えるためには、まず、教える側がきちんと教える内容を覚えやすく整理しておくことが大切です。
-10 教えたことは、その場でメモを取らせる習慣をつけよ 覚えようとする意思がなかった場合、人間の記憶力ははなはだ頼りないものと言えます。覚えた後にすぐ復習すれば、忘れることが極端に少なく なると言うこともわかりました。
-11 『滅多に叱らない』イメージを作り、ポイントにだけ雷を落とせ      人間の『適応力』はごく簡単に『慣れ』とも言います。教え方についても、まったく同じことが起きます。物事に"慣れ"があると、『何か重要な変化』と言う心構えが失せるリスクが出てきます。
-12 節目節目に"反省会"を開く慣習をつくれ 反省会という言葉が嫌なら、"報告会"でも"発表会"でも"勉強会"でも構いません。企業としても創立記念日や決算と言う節目があります。特に、日本には四季の変化があるだけに節目には敏感です。
-13 教えることのポイントは、最後にもう一度繰り返せ 部下に大事なことを話す場合には、一番初め に其の話しのポイントを話すほうがいいことです。「新近効果」ともいいます。これを利用して話をすると、混乱が生じた話でも明瞭になります。
-14 仕事に行き詰まった部下には、いったん仕事を中断させよ     何か仕事に行き詰まったときでも、とにかく仕事へのやる気だけで乗り越えようとするので す。ものの見方が固定されてしまうとも言います。それ故に別の小さな仕事を与えることでもよいのです。
-15 どの程度わかったかだけでなく、より深く教えるためにレポートを書かせよ。 各作業は、同時に考える作業であり、その考えをまとめる作業にもなります。ですから、多くの文章を書かせ、その内容をチェックすることによって、自分の考えを理解させようとしたことが考えられます。
-16 自分のミスを知らせてきた部下には、叱るよりその積極的な態度をほめよ」 注意して上司を見ていると、自分から進んでミスなどを報告に行ったときには、きつく叱らないことに気づいたと言うことです。ミスを報告しない、または出来ないと言う部下には、叱られたことを避ける「回 路」が出来上がっているのです。
-17 「ときには、最高レベルのものを黙って見せろ」 「一流の品、最高の品を見せ続ける」と、なぜ価値があるのか最初はわかりません。しかし、『今はわからないが、この品の価値を見極める眼力をやがてつけてやるぞ』と言う貪欲さが芽生えてきます。
-18
「部署内には"専門職""定位置"を作らないよう、あえて担当を替えよ」 それを逆に見ると、人はいったん"座"を得てしまうと、それの安住に慣れ やすくなります。そして、えてして"専門バカ"になってしまうのです。
-19
アラが目立ちうちはほめ、アラが減ってきたら叱れ つまり「アラがあるから叱る→萎縮してアラは減らない→ますますほめるチャンスを失う→一層自身を失いアラが増え る」と言う悪循環に陥ってしまうのです。
-20
単純ミスほど厳しく叱れ 出来るはずの問題を単純ミスで落としたような場合こそ、厳しく叱るべきだ、と氏 は言います。慣れてきてからの単純ミスやうっかりミスは、慣れの上に安定した集中力の欠如から起こります。
-21
要領のいい部下ほど、ときには"アラ探し"をしろ     部下に仕事を教えるということは、実際の仕事の技術を教えることだけを意味しません。そして、部下を叱るときこそ、このような仕事の技術以外のことを教えたり、考えさせたりする絶好のチャンスになります。
-22
基本常識の大切さは、"客"に教えてもらえ 『知っている』と思ってしまったことほど、それを変えるのはむずかしいことです。人は、同じ情報に接すると、聞くこ とをやめ、省略しがちです。しかし、実際に体験したことや客の意見には逆らえません。
-23
"安定指向型"の部下には、わざと能力以下の仕事を与えよ 能力以下の仕事が続いていくと、能力にあった仕事に戻りたいと言う切実な思いに駆られ、その仕事に戻ってからも上昇 志向は残って、仕事を覚える姿勢も積極的なものになっていくのです。
-24
若者同士の"仲良しクラブ"は、解散させて孤独にせよ そこでも同じ大学、同期入社と、若い人たちの"仲良しクラブ"はなくならないと聞きます。仲間意識が強すぎると、甘えの傾向がふかまり、緊張感が薄れます。これでは交流の意味もなく、やらなかったも同じことなのです。
-25
初めに『出来ない仕事』を与えて、失敗させろ 入社して一年もたつと、仕事にある程度の自信を持つようになります。仕事とはこんなものか、となめてかかるようでは困ります。それが高じてくると、上司や先輩に教わろうと言う気持が希薄になり、ショック療法が必要になります。
「仕事に無責任」  「自らを学ぶ気にさせるには」  
「続 仕事に無関心」  「続 自らを学ぶ気にさせるには」  

仕事の教え方Ⅱ

部下を無関心にしていないか

◇no-1 部下が聞きに来るまで教えるな

 新日本製鉄の武田豊前社長は、職場の先輩でもあった経済界の重鎮・永野重雄氏(故人・元新日鉄会長)のものの教え方について興 味深いことを言っております。

 永野氏は部下にポーンとテーマを与えると『手取り足取りのアドバイスなどはなく、その人個人のやり方に任せ、出来上がった ものについて其の問題点を指摘するやり方』に徹していたそうです。ころあいを見て、『どうだ、出来たか』『もう一日くださ い』『そうか、一日だけだぞ』できたものを見せると、『だいぶええ、しかしここはこうだ』。そんな調子だったといいます。
 人の心は、自分が『判らないこと』を『よくわかってから』でないと、なかなか他人のアドバイスには従えない構造に出来てい るようです。体の調子が優れないとき、手当たり次第に薬を飲んでもよくならないのと同じようなものです。

 病名がわかり、それに適した薬を飲んでこそ、体はよくなるのです。しかし、「わからないこと」という病名に自分自身の関心 が向かなければ、どんな優れた内容でも、人間の心理の中を素通りしてしまいます。
 ところが私などの目には、現代のビジネスの現場には、新入社員には初めから手取り足取りで、ものを教えるマニュアル式社員 教育が多すぎるようにみえます。マニュアルはまったくの素人でもあるレベルまで引き上げ、即戦力化するためには極めて効率的 な方法ですが、"教育"という見地から見ると反対に、極めて非効率的な面があります。それは、マニュアルに書かれたとおりに しか動けないロボットを作ってしまうからです。

 物事を手取り足取り教えるのは、一見親切なようですが実はあまりうまい教育法ではありません。これでは何よりも教えられた ほうが自発的に興味を持って覚えられません。せっかく教えられた知識や経験が自分の中にとどまるための手がかりが見つからな いまま、忘れられてしまうことが多いのです。
 逆鉾、寺尾という兄弟力士を育てた大相撲の井筒親方は、弟子たちが間違った作戦や相撲の取り口を見せても、『二度までは自 分の思うとおりにやらせてみる』と言っております。二度までは失敗したのを見た上で適当なアドバイスをすると、相手はそこで 始めてつくづくと自分の失敗を理解し、親方のアドバイスを肝に銘じて納得したといいます。

 やはり物事のつぼをつかませるためには、一つのテーマを部下自身の考えで試行錯誤させ、部下自身が具体的に疑問に突き当 たって、聞いてくるように仕向ける。其の上で、誤りや問題点を指摘してやるほうが、相手はずっと効率的に覚えるものです。
 以下につきまして、このチャプターでは、このような部下自身に仕事への興味・関心を持たせ、教える方法について述べていき ます。。

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◇no-2 自分の体験を"教材"にせよ

 先日、あるテレビ番組で、教育志望の若者に、数日間教育実習を体験させる特集をやっていました。其の中で、特に印象に残っ ているのは、算数を受け持った若者の教え方です。
 教育実習の一日目、其の若者は、傍目で見ていて気の毒になるほどコチコチにあがっていました。
 彼はあらかじめ用意しておいた"教材"に沿って一生懸命分数について教えているのですが、一生懸命になればなるほどクラス 全体が騒がしくなってきます。ついには、後ろで黙ってみていた担任の教師のストップがかかるという惨憺たる結果をまねきまし た。

 ところが、二日目、彼と児童たちの間に劇的な変化がうまれました。児童たちの視線は黒板に集中し、彼の説明を聞き漏らすま いとする好奇心がクラスを支配したのです。昨日と同じ内容のことを教えているのですが、彼はこんな風に授業を始めたのでし た。
『この間、バスで中国を旅行したとき、みんなが水を飲みたいと言い出したんだ。水筒を持っていたのは僕だけで、中には1リッ トルの水しか入ってない。むこうじゃ、生水は飲めないからね。そこで、この水をバスの中にいた七人に同じ量ずつ配ることに なった……』

 彼が実際に水を配ったかどうかに関係なく、とにかく自分の体験として語りかけたことが、何よりの"教材"となり、児童たち を授業に引きずり込むきっかけになったわけです。
 また、こんな話がある商工会議所の関係者から聞きました。商工会議所では、毎年、一流企業のトップの人たちを招いて、各企 業から集まった新入社員たちの前で講演してもらっています。それは、話のうまい、下手に関係なく、後援者が若いころの失敗談 や創業当時の苦労話を始めると、新入社員たちの上体が前にせり出すというのです。

 体験談や失敗談には、それを語る人間がしっかり織り込まれているのです。話し手は話の中の自分に、聞き手は話の中に織り込 まれた人間に、それぞれ感情を移入し、両者の間に一体感が生まれるのです。新入社員たちの上体が前にせり出したというのは、 彼らが情報を身近なものと感じて興味を抱き、積極的に吸収する態勢を体で示していたのです。

 自分の体験を通して得た知識ほどしっかりと身につく、というのは、事実で、今更いうまでもありません。しかし、他人から体 験談などを聞いてたときにも、これに近い効果が得られるのも事実です。これは、"疑似体験効果"とでもよいのでしょうか。
情報に人間的な要素が加わるだけで、受け入れるほうに関心がぐっとそそられます。そして、自然に受け入れた情報は、疑似体験 を通してしっかりと定着するのです。

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◇no-3 教えるときは、成功談よりも失敗談を引き合いに出せ

 ある会社のトップからきいた話しです。
 会社内に、A氏、B氏という二人の課長がいました。A氏は一流大学出身で、入社十年目で課長になりました。数々の実績を残 し、社内でも"切れ者"として通っていました。一方のB氏のほうは、どちらかといえば目立たず、入社十七年目にして、A氏と 同時に課長になりました。B氏の場合は、取り立てて大きな実績を上げたわけでもなく、むしろB氏ののこした数々の失敗談が社 内でもよく知れ渡っていました。

 この二人の課長の"競争"は、社内の誰もがA氏の勝ちだと思っていたらしいのが、大方の予想を裏切って、いままでのところ B氏のほうが勝っているということです。二人が課長になった年こそあまり差は出ませんでしたが、二年目以降、B氏の課の実績 が目覚しく伸びていきました。A氏の課もそこそこの実績はあげているのですが、B氏の課に比べると、さすがに見劣りすること は否めなかったのです。

 この話をしてくれた人によると、これには部下の教え方の差であるというのです。A氏は、部下に仕事を教えるときには、自分 の成功談を引き合いに出すことが多いのに対し、B氏は失敗談を包み隠さず引き合いに出して教えることが多かったといいます。 おそらく、この差が、部下の成長の差になって現れたのだろうというのです。

 私は、成功談を引き合いに出して教えることが別に悪いことだとは思っていません。成功談は成功談なりに教えを強化する効果 を持っています。しかし、特に若い部下に仕事を教えるときは、成功談よりも失敗談を引き合いに出したほうが、確かに効果的な 面があります。
 というのは、成功談は、一歩間違えると自慢話として受け取られて反発を買う恐れがあります。そして、A氏のような切れ者が 語ると、若い部下のほうは、とても課長のようには出来ないというコンプレックスから、自分も成功しなければ、という強迫観念 が生まれ、失敗を過度に恐れて萎縮してしまう傾向が出てきます。

 一方、失敗は、若い部下には身近なものであるため、失敗談のほうは親近感を持って受け入れられやすい傾向があります。そし て、上役でさえ何度も失敗しているのだからということを聞けば、自分たちが失敗するのは「当たり前だ」という気持が出てきま す。その結果、失敗を恐れずにのびのびと働ける素地が気配りされるのです。
 当たり前のことですが、都合の悪いことを、包み隠さず部下に話すことは勇気がいることでしょう。しかし、自ら汗をかき恥を かいた失敗談でなければ部下の興味が失せてしまい、話しを聞こうとしなくなることも心にとめておいてください。

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◇no-4 マナー一つ教えるにも、自前の教材を作らせよ

 筑波大学で、『期末試験における不正行為に対する懲戒のあり方のワーキンググループ』という委員会が、八十八年の十月から スタートしているそうです。平たく言えば、カンニング防止、かつ処分のスピードアップを図る、ということらしいのです。
 それだけカンニングをする学生が多いということかも知れませんが、私に言わせると、実際に行使するのはともかく、カンニン グペーパーは、大いに作るべきです。なぜなら、カンニングペーパー作りには大変な努力を要するからです。

 まず、各種の情報から何が大切かを選び抜く作業があります。これだけでも並大抵のことではありません。次いでそれを、配 列、整理しなければなりません。カンニングのためにこれだけのことをするというのは、すでに覚えるのと同じことをするので す。選択力、整理力も自然に身につきます。
 最近、各企業でQC運動がしきりになされています。すでにご存知でしょうが、QCとは品質管理のことで、QC運動は従業員 が品質管理と生産性向上に自主的に参加する運動です。この一環として、各社ともマニュアル作りなどが行われておりますが、こ れも私に言わせれば、企業のカンニングペーパー作りの作業と同質のようなものです。

 しかも、これは、いくら作っても停学や退学の心配はありません。かりに大げさなものでなくても、工場の道具整理マニュアル を作ったとします。それを衆知を持ち寄って作ると、そこに仕事への興味も生まれ、其の過程で相互に検討を行って互いのコンセ ンサスも得られます。そうして作業の流れが飛躍的によくなったりするのを目にしますと、道具の管理が以下に大切なことであっ たかを認識するのです。そして其のマニュアルも、自分たちの作ったものなのだから、自ら進んで守っていこうとします。
 ある会社では、新人会社員にクレーム処理のフローチャートを作らせるそうです。これを一歩進めればそうした場合のマナーの あり方をビデオで作ってみようということになります。現代の若者はAV(視聴覚)教育になれています。ビデオ自慢の方も多い ことでしょう。

 新入社員ばかりでシナリオを作り、スタッフを割り振り、苦情を言う役、それに応対し接遇する約などとは違約もして、一本の ビデオを作ってみます。こうすると、プロの作ったマナーようAV教材などより、はるかに面白く楽しく、飲み込みも早くなりま す。つまり、この一本のビデオは、出来上がった段階ですでにマナー教育は終わっているのです。
 カンニングペーパー作りにしても、マナー用ビデオ製作にしても非日常的な作業であり意義の多い教育になります。

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◇no-5 同じことを教えるにも、一人で教えるより二人で教えよ。

 企業の新入社員研修のやり方にもいろいろあると思いますが、研修期間を通して一人の上役が教え続けることはあまりないよう です。たいていの場合、ベテラン社員たちが入れ代わり立ち代りして教えています。
 新入社員研修では、まだ細かい仕事内容について教える段階ではなく、企業や仕事の全体像をつかませることが一つの目的で す。ところが、実際には何人もの社員たちが同じような内容について、立場を変えて教えています。其のことで、新入社員に与え る効果には、次のようなものがあります。

 一つは、教えられた内容が、より強調されて印象に残るということです。一つの内容のことを教えるにも、一人より、多数の口 から教えることによって、客観性が高まっていきます。あの人も、この人も同じことを言っていました。という客観性が受け手に 信頼感を与え、教えられたことがしっかりと印象にとどまるのです。
 さらにもう一つの効果として、教えられた内容に厚みが出来、補完性を持つようになることがあげられます。教える内容は同じ でも、教える人の立場が違えば、伝え方のニュアンスは微妙に違います。そして、受け手のほうは、それぞれの人から教わったこ とを自分なりに統合する作業が必要になってきます。この作業の過程で、受け手は自分の情報を整理していくうちに、共通したと ころを見つけ出すのです。

 実は、教える側が教えたかった内容とは、まさにこの共通した領域の中に含まれていることが多いのです。そして、この領域の 外には、それぞれの人が、それぞれの立場で付け加えた情報が付加されています。むしろこれが、部下の興味を引き、教えた内容 に厚みを持たせているのです。  また、一人が教えなかったことでも、もう一人が教えることによって、情報が補完されるという点も見逃せません。教えた内容 に厚みができ、それぞれの情報が補完しあうことで、受け手は教えられた内容をより広い視野から検証する手がかりを得るので す。

 このように、同じ内容のことを複数の人間が教えることの効果は、何も新入社員教育に限ったことではありません。仕事に行き 詰まった部下は、ともすれば狭い視野から物事を見がちです。そんな部下には、たとえば、他の信頼できるベテランの部下からア ドバイスを送ってもらうのも良いでしょう。また、新人が研修を終えて新しい部署に配属されたときにも教育係として一人の部下 を当てるのでなく、部署にいる全員がいろいろな立場から教えられるようにしておくことも有効です。

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◇no-6 実地指導するときは、一つぐらいわざとミスせよ

 メキシコオリンピックで日本サッカーチームを銅メダルに導いた釜本邦茂氏が、ヤンマーサッカー部の監督になったころのこと です。練習の後、釜本氏は選手たちがいろいろ質問に来るものだとばかり思い、お酒を用意して選手たちを部屋で待っていまし た。けれども、選手たちは一向に来る気配がありません。結局、その夜は誰一人として釜本氏の部屋を訪れませんでしたのです。 実は、選手たちは釜本氏の完璧すぎる理論を一度聞いて辟易してしまい、近づこうとしなかったからです。釜本氏がそれに気づい たのは後になってからのことです。

 人は、あまりに完璧な手本を示されると、かえって萎縮してしまい。学ぼうとする気持を失ってしまいがちです。学ぶと「まね ぶ」の変化したものだといわれるとおり、真似して覚えていくことを意味します。其の目標があまりにも遠いと感じれば、まねる きっかけもつかめないことになってしまいます。
 このことは、教師に学生の場合にも当てはまります。完璧すぎる講義を聴かされると、学生のほうは自分の興味とはあまりにも かけ離れていて、学ぼうという気持がなくなってしまいます。つまり、教師が遠い存在になってしまい、『所詮、自分とは違う人 間なんだ』とあきらめてしまうのです。

 逆に、常に『学ぶ気』を起こさせる教師は、学生にとっては兄貴分のような身近な存在になります。これは完璧なことをするの ではなく、わざとちょっとしたミスをするなどして、人間的な行動をしながら接することで可能になります。『先生でもミスをす ることがあるんだ』と思わせながら、教え方も相手のレベルにまで落としたり、其のちょっと上のことを教えることで『自分にも 出来そうだ』と興味を持たせてから教えているのです。
 職場でも同じことが言えよう。たとえば、あまり切れ者が上司にいると、よい部下が育たないといわれています。いきなり高い レベルの仕事を見せ付けられて、そこからくる『あきらめ』が部下の関心を削いでしまうことになるからでしょう。

 よい部下を育てるならば、いつも上司が『何をやるかわからない』といった危うさと親しみを兼ね備えたような演出を心がける のも一つの方法です。少しでも部下に興味を持たせて仕事を教えるためには、はじめから高い目標を与えるのではなく、失敗する 上司といった手の届きそうな目標、サブゴール(下位目標)を示すことも大切です。
 そしていったん仕事を部下に教えたら、少々歯がゆいと思っていても辛抱強く見守り、あまり口をだしません。もし率先垂範と ばかり、上司が手を出すとするなら、折にふれ今言ったような"教育的ミス"の一つでも見せてやったほうがいいのです。

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◇no-7 部下に教えたいことは、「ホウレンソウ」などと短くまとめよ

 最近、若いビジネスマンの間で転職がはやっている、といいます。新聞にも『入社してすぐやめる新人類』なる記事が出ていま した。

 上司に叱られたりするとけろっとやめる昭和四十年代生まれのため、ケロヨンというらしいのです。しかし、私に言わせれば。 彼らはケロットやめるのではなく、ケロッと仕事を忘れることのほうが多いようです。もちろん、教えられた仕事をケロッと忘れ るのには、部下のほうに責任がありますが、上司の教え方にも問題があるのではないでしょうか。部下は入社早々の右も左もわか らないときに、あれもこれもだらだら並べられるので多くのことを吸収できずに忘れてしまうのです。ただでさえ覚えきれない仕 事を、無理に詰め込んだりすると、部下に"反発心理"が働き、ケロッとやめることにもなるのです。

 それでも、部下に多くのことを教える必要に迫られているのが、仕事の実情ですが、教えるほうも部下の消化をよくしてやる工 夫が必要でしょう。消化をよくしてやれば、多くのことで部下は吸収できるし、反発なども防ぐことができます。たとえば、旧制 中学以来の私の友人である山種証券社長・山崎富治氏は、仕事のポイントとして『ほうれん草が会社を強くする』と教えたことで 有名です。「ほうれんそう」とは、報告・連絡・相談の頭文字を並べた、いわば標語のようなもです。
 無数の注意点の中の一つとして『報告の重要性を忘れないように』などといっても、平凡で抽象的なおしえでおわってしまいが ちです。

 そこで、ポイントを短くまとめ、かつ具体的な『ほうれん草』という消化のよさそうな食物のイメージに引っ掛けたため、部下 は興味をそそられ、忘れられなくなったのです。
 同様の工夫例は他にも多いのです。住友銀行名誉会長の堀田庄三氏は、『オイアクマを守れば、人間関係も仕事もうまくいく』 と教えてきました。これは『怒るな、威張るな、あせるな、腐るな、負けるな』の頭文字をとり、『オイアクマ!』と挑戦してい る意気を表したものです。怒りたくなったとき、"自分の中の悪魔に挑戦"と言うイメージがすぐ湧くので、氏の部下たちには 『効果抜群』と評判だったらしいのです。

 もちろん、意味のあるフレーズにとらわれることはありません。毎日新聞社に勤めながらマスコミ界受験者のための私塾を開い た故・山崎宗次氏は、「カンカラコモデケア」と言う標語でものを聞く仕事を教えてきました。就職試験の作文対策に効果を挙げ ていました。就職試験の作文に求められるのは、感動・カラフル・今日性・物語性・データ・決意・明るさの七要素だ、と言うの です。きちんとしたカリキュラムなどはなく、授業料は取らない位置私塾なのに、このおまじないで合格率は高かったと言いま す。

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◇no-8 教えるポイントは、三つに絞り込め

 プロ野球で新監督が就任するとき、標語を作るのが流行しているようです。 標語を掲げることで、チームの雰囲気を一新しようと言う願いらしいのです。1989年の各球団の標語が発表されたとき、日本 ハムのそれを新聞で見て、私は『やはり近藤貞雄という人は頭がいいな』と思いました。
 近藤監督が考えた標語は『ファイト・ファスト・フレッシュの3F野球』です。『ファンをあきさせない面白い野球をするた め、スピード感のあるきびきびしたプレーを仕様』と言う意味です。

 しかし、私が感心したのは、標語の意味内容に対してではありません。"フアィと、ファスト、フレッシュ"という三つの言葉 で標語をまとめた点です。近藤氏は、大洋の監督時代にも、『スピード、シャープ、センス、の3S野球」というキャッチフレー ズを作っています。
 それでは、なぜ三語であることが優れているのでしょうか。
 戦後日本の参謀と呼んでもいいほど、多方面に多大な影響を与えた伊藤忠商事特別顧問の瀬島竜三氏は、難しい質問を受けて も、即座にポイントを三つに整理し明快に回答したと言います。予測するのが困難な国際問題をぶつけても、『其の問題は三つの ケースが想定されます』と即答した。問題を三つに絞り込んで話すので、聞くもの頭に瀬島氏の言わんとすることがよく入ってい きます。

 瀬島氏の影響力が大きくなっていったのも、この語り方と無関係ではないでしょう。
 白か黒か、YESかNOか、右か左か、損か得かといったような、二項対立の論理は、私たちが考える過程によく行います。し かし、それ以上に、複雑な世の中は二項対立の論理では割り切れないことがたくさんあります。
 YESでもNOでもない、損であるが得でもあるといった事態は常に身の回りにあるものです。むしろ、『正反合』「三位一 体」「序破急」『三すくみ』といった「三」による思考性のほうが、ものごとを説明するのに説得力を持ってくるのではないで しょうか。

 事実、私たちの住む宇宙そのものが『空間・時間・物資』の三要素から成り立っています。立体は、「縦・横・高さ」の三次元 で説明できます。
 したがって、人に何か複雑なことを教えようとしたら、話しを三つのポイントに絞り込んでみるのも、一つの方法でしょう。も ちろん、現実には、三項だけでは絞りきれない問題もあるでしょう。しかし、ポイントが、四つ以上になってしまうと、興味を持 つ領域が広がってしまい、人の頭の中になかなかすっと入っていかないものなのです。逆に言えば、三つに絞り込むと言うのは、 様々な細かい異論をスパッと切り捨ててしまうと言うことを意味します。とかく人間は、断定的な言い方に弱いものです。

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◇no-9 仕事を教えるときには、一区切り「三分」を目安にせよ

 NHKの看板キャスター、山川静夫氏の著書「もっとうまく話したい」には、スピーチをする上での具体的なノウハウがいろい ろ示されていて、たいへん示唆に富んでいます。
 氏はこの著書の中で、人に聞かせるスピーチは三分が限度であると述べています。いくら話がうまくても、三分を越えると聞き 手の緊張が緩み始め、話し手が本当に言いたいことがかえって伝わりにくくなると言うのです。
 また、話すほうは、話し足りないと思うくらいが丁度いいと述べています。

 あらかじめテーマを決めておいても、話しているうちに、あれもこれも話しておきたいと思って補足を繰り返すうちに、結局、 聞き手の印象が弱まってしまうのです。"いいたいことは的確に、かつ短く"と言うスピーチの心得は、部下に仕事を教えるとき にも、そのまま当てはめることができます。
 部下に仕事を教えるときは、特に相手が新入社員の場合、"早く仕事を覚えてほしい"と思うあまり、一度にあれもこれも通し えたくなるものです。ところが、教えてもらうほうは、その場ではちゃんと聞いても、後になって印象が薄れて忘れてしまうこと が多いのです。教えるほうにして見れば、一生懸命になって教えたことを忘れられるのは、非常に腹が立つことでしょう。

 しかし、教わる側の立場から考えてみると、これはある程度やむをえないことです。
 教わる側にとっては、いま、その場で問題意識を持っていないことについてあれこれ教えられても、どうしても印象に残りにく いのです。まして、話が長くなってみれば、緊張感を失って、ただ声が聞こえていると言う最悪の状態を招きかねません。
 あれもこれも教えたいと欲張ることで、かえって何も教えることが出来ないことになるのです。
 教えたいことをよりよく伝えるためには、まず、教える側がきちんと教える内容を整理しておくことが大切です。それには、教 える前に自分で三分なら三分と時間の目安を決め、何をどう考えるを組立ておくのがよいでしょう。

教える時間はいくらでもあると言う意識は,いきおい話しを脱線しやすく、自分でも何が教えたかったのか不明確になってしま うことすらあります。自分であいまいに感じる内容は、相手にも伝わるはずがないのです。
 教えたいことを十話し、其のうち一つだけ伝わればよしとするなら、はじめから一つだけ如何にうまく教えるかに心を配ること です。自分で時間を決めて其の時間内に一つのことを教えるというのは、意外に難しいことです。しかし、短くすることで、部下 の関心を持続させ、記憶をより確かなものにすることができます。

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◇no-10 教えたことは、その場でメモを取らせる習慣をつけよ

 人間の記憶と言うのはまったくあてにならないものです。それを証明した有名な『ゲッチンゲン実験』と言うのがあります。実 験の内容はこうです。心理学者四十人を集めて、次のような犯罪の芝居を、事前に何も教えずに見せました。突然ドアが開いて、 一人の農夫が部屋に入ってきます。其の農夫を追って、ピストルを持った黒人が飛び込んできます。
 部屋の中央で二人は取っ組み合いをし、倒れた農夫の上に黒人が乗り、ピストルを発射します。それから二人は部屋を出ます。

 二十秒間の芝居を見せた後すぐ、おこったことについてレポートを書かせたところ、すべてを正確に記述できたのは、なんと四 十人中六人に過ぎませんでした。客観的な観察力を売り物にする心理学者でも、わずか十五パーセントのものしか、直前に起こっ たことを覚えていないというのです。つまり、覚えようとする意思がなかった場合、人間の記憶力ははなはだ頼りないものと言う ことがわかります。

 それでは、普通の人は覚えようと努力して覚えたものを、どのくらい忘れてしまうものでしょうか。ドイツの心理学者エビング ハウスの実験によると、「TAG」{VEG}と言った意味のない単語を被験者に覚えさせたところ、其のうち四十七パーセント が二十分以内に、六十六パーセントが二日後に、そして一ヵ月後には七十九パーセントが忘却のかなたに消えてしまいました。

 しかし、覚えたことを、覚えているうちにもう一度思い出す、つまり、覚えた後にすぐ復習すれば、忘れることが極端に少なく なると言うこともわかりました。
 このことから、人に何か教えたときは、その場で復習させることによって、かなり其の記憶を確かなものに出来ることがわかり ます。大部分の人間は、人のいうことを興味ありげに聞いているように見えても、実際は半分も覚えていないと思ったほうがたし かです。
 たとえば、口で復唱させて、再学習させれば、伝えたことをなかなか忘れませんし、また、誤って受け止めていないかどうかを 確認することもできます。

 もし、満足に復唱できないようなら、もう一度教えてメモを取らせるようにします。いったことが理解できないと言うのは、こ ちらの言葉を意味のないものとして頭の中を通過させただけだったと言う可能性があるからです。
人間の興味や関心は、其のとき抱いても、途切れ途切れになりがちです。教えられた内容が面白いとその場では感じても、暫くた つとなかなか思い出せないこともしばしばあります。仕事を教えるとき、常にメモを取らせる習慣をつけておくことで、時間が たっても自分でこの関心を持ち続けることができます。

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◇no-11 『めったに叱らない』イメージを作り、ポイントだけ雷を落とせ

 母親が子供を叱る言葉で、一番多いのは『早くしなさい』、次が『勉強しなさい』。それで、子供が機敏に動き、勉強するよう になるかと言うと、決してそんなことはありません。
 むしろ逆効果で動作がのろくなったり、勉強しなくなったりする事態もあり得ます。
 人間には『適応力』と言うものが備わっています。ごく簡単に『なれ』とも言います。いつも母親に同じこちをがみがみ叱られ ていると、それに慣れてしまって、なんとも思わなくなります。つまり、馬耳東風で聞き流してしまいます。

 だから、ほめるにしても、叱るにしても、効果をあげるためには、『適応力』のメカニズムを狂わせる、『意外性』が重要に なってきます。たとえば、自他共に認める美女に『あなたはお美しいですね』と言っても、相手は悪い気はしないはずだがあまり 喜びもしない。
 そんな台詞は、もう慣れっこになっているからです。そこでアングルを変えて、『あなたの手はきれいだ』とでも言えば、相手 の受ける印象は違うはずです。

 教え方でも、まったく同じことが言える。若い部下のちょっとしたミスにも目くじらを立てて、其のつど叱りつけていると,い ざというときに、効果がなくなります。部下は、『また、例のヒステリーが始まったか』と思うくらいで、真剣に聞こうとしなく なりやすいのです。。『何か重要なことをいうな』と言う心構えがなくなり、"慣れ"が出てきます。

 古い言葉を使えば、『ならぬ堪忍、するが堪忍』で、小さいことには、じっと我慢します。『あの人は、めったに怒らない』と 言うイメージを植えつけておくと、こんどは、いざというときに雷を落とせば、効果はてきめんに出ます。つまり、"意外性の効 果"です。こうすれば、『あの人は怒ると怖い』と言う定評が出来て、部下も無関心ではいられなくなります。
 意外性は、相手の関心をひきつける大きな要素です。普段と違うことをはじめると、部下は『何かあったな』と叱られた本人ま で野次根性を見せるものです。 

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◇no-12 節目節目に"反省会"を開く慣習をつくれ

 昭和天皇の崩御によって一番得をしたのは、一部の新聞社や出版社ではないかと言われるほど"昭和史関係"の本は飛ぶように 売れたらしいのです。いままで歴史にまったく関心がなかった人でも、昭和史関係の本や雑誌を買い漁り、そこから何かを学ぼう としています。
 このように、時間の流れの"節目"には、人間に改まった神妙な気分になり、過去を回想し反省しようと言う気分になります。 いわれたことを冷静に受け止める"受容性"が大きいのが、節目に当たるとも言えます。特に、日本には四季の変化があるだけに 節目には敏感です。

 この節目効果を利用して、学年のはじめや進級のとき、あるいは学期の改まったときなどに、子供に勉強にも精を出すよう話し て聞かせる父親も多いのです。こうしたときは、相手も受容しやすい気分になっています。ほしがっていたものを買い与えたりす るのも、こうしたときや誕生日を選ぶと、改まった気持になるものです。
 企業としても創立記念日や決算と言う節目があります。そして、ボーナスや金一封が出たりします。しかし、褒賞ばかりでな く、こうした機会こそ、"節目効果"ととらえて、反省会などを持つとよいです。

 反省会という言葉が嫌なら、"報告会"でも"発表会"でも"勉強会"でも何でもよいです。要は、おさらいをすればいいので す。
 こうした会は、新入社員の研修が終わった後など、どこの会社でも行われているに違いありません。しかし、それだけで終わっ て、その後のフォローをなおざりにしてはいないでしょうか。
 ある会社は、毎月の第三金曜日の午後三時から"月例会"を行っているそうです。正式には"月例会"なのですが、社員の間で は人気番組の内容に引っ掛けて"金曜チェック"と呼んでいます。

 そのひと月の間にあったこと、考えたことなどを報告、説明させ、抜けている点や考え違いなどを相互にチェックさせます。反 省点や問題点を提起させます。司会、進行役を順送りにしていき、『当番になったものが整理し「報告書を作る」それを各部ごと に行い、報告書のコピーを作ってほかの部へ配布する』というシステムをとっているそうですが、其のコピー集は、会社運営上の 貴重な資料になっているとの事です。

 雑談会のようなものであっても、集まって話し合ってみるとさまざまな問題点が出てくるものです。研修のときに飲み込んだつ もりになっていたことを実は忘れていたことに気づいたりもします。来週は金曜チェックがあるな、と思うだけでも、日ごろのこ とに関心を寄せて、仕事を覚えようとする"節目効果"が生まれるのです。

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◇no-13 教えることのポイントは、最後にもう一度繰り返せ

 人間には、先に与えられた情報ほど信じやすく記憶に残りやすいと言う傾向があります。これを心理学では『首意効果』と呼 び、またさらに、最後に与えられると記憶に残りやすいと言います。「新近効果」もあります。たとえば、先方との打ち合わせ で、何日の何時でどこどこで、と、日時の取り決めをしたとします。
 しかし、数日後、先方の都合で二時間後に変更してくれと言われた場合、スケジュール長には変更した時間を記入するのです が、いざ当日になってみると、一番初めに決めた時間が頭に残っていて不安になり、結局先方に確認の電話を入れて確かめる、と 言うことを経験した人は多いとおもいます。これも同じ理由です。

 この効果を使って部下に話しのポイントをより深く教えることができます。つまり部下に大事なことを話す場合には、一番初め に其の話しのポイントを話すほうがいいことです。それから付随するものをいくつか話す。無意識のうちにこのような話し方をし ている人も多いでしょうが、意識して伝えるようにすると効果的です。
 しかし、話しの一番初めにポイントを伝えるだけでは、いくら大事でも、その話しが長くなる場合、最初に言っただけでは、途 中の話しと大事なこととが混じってしまい不明瞭になってしまいます。

 部下のほうも『長い話だな。エーと大事なポイントは何だったのだろう』と混乱します。
 そこで、『首位効果』と『新近効果』を利用して部下に話をすると、混乱が生じた話でもポイントが明瞭になります。つまり、 一番初めにポイントを押さえた話しをし、部下にポイントを明瞭にさせます。そして最後にもう一度それを繰り返すことで、強く 印象付けてしまうのです。

 これにより、たとえ長々と話しても大事なことだけ覚えていることになるわけです。 また、『首位効果』は一人からの情報に起こりやすく、『新近効果』は大勢の人との話しで起こりやすいことが認められていま す。これを利用して、その場その場で使い分けると、部下の関心をより強くひきつけられます。

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◇no-14 仕事に行き詰まった部下には、いったん仕事を中断させよ

 たった一人で真夜中近くまで必死に残業している部下の姿を見たとき、あなただったらどのように声をかけてやるでしょうか。 『がんばれよ』の一言が、部下の大いなる励みになることは間違いありません。しかし、時と場合によっては、とりあえず仕事を 中断させることがよい結果をもたらすこともあります。

 仕事上手は遊び上手と言われるように、仕事が出来る人は、仕事と、遊びの切り換えが上手です。大日本インキ化学工業社長・ 川村茂邦氏は、仕事に執念・やる気を持つのはよいが、執着してはいけない。と、『私のストレス解消法』の中で述べています。 氏によれば、何かに執着するとそれだけにとらわれてしまい。ものの見方が固定されてしまうと言います。いったん仕事を離れた なら、仕事のことはすっかり忘れ、遊ぶことに没頭します。そうすることで、自分の中に生じた執着心をさらりとかわし、新鮮な 目で物事を見る目を取り戻すと言うのです。

 ところで、仕事の経験の浅い部下などは、このような気持の切り換えがあまりうまくないです。と言うよりは、切り替えのタイ ミングがよくつかめていないのです。何か仕事に行き詰まったときでも、とにかく仕事へのやる気だけで乗り越えようとするので す。ところが、執着すればするほどものの見方が狭くなり、せっかくの意欲が空回りすることになります。そんな部下の状態をよ く見て、タイミングよく気持を切り替えさせてやるのも、上役のつとめでしょう。

 高校野球で有名な常総学院の木内監督は、選手たちが寮生活に野球を持ち込まないように注意しているといいます。選手たちを 野球漬けにしてしまうと、肝心の練習が惰性に流れてしまうと言います。そして、たとえばレギュラーから外されて行き詰まって いる部員には、テレビを与えたり、犬や猫をペットして与え、うまく"気"を紛らわせてやるのだそうです。

 部下の仕事ぶりを見ていれば、仕事に行き詰まったときの様子はよくわかるはずです。そして、ここでひとまず気分転換だから といって、何も外へ飲みに連れ出す必要はありません。別の小さな仕事を与えることでもよいのです。そうすることが、次に同じ 仕事に戻ったときに、新たな視点から打開の手がかりを発見することにつながるのです。

 さらに、そのときに、気分転換することの効用がはっきり自覚できれば、気持を切り替えるべきタイミングが自分でわかってき ます。気分転換のタイミングをこのような形で伝えてやることも、仕事への関心を持続させるための重要なテーマの一つになりま す。

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◇no-15 どの程度わかったかだけでなく、
  より深く教えるためにレポートを書かせよ。

 昭和二十一年に首相になり、以後七年二ヶ月にわたる長期政権を確立した吉田茂は、戸川猪佐武氏の小説にもなり有名になった 『吉田学校』を築き上げ、池田隼人、佐藤栄作、田中角栄ら多くの門下生を輩出しました。

 吉田は池田や佐藤をどのように鍛え上げたのでしょうか。その一つに、多くの文章を書かせ、その内容をチェックすることに よって、自分の考えを理解させようとしたことが上げられます。メインは、当事懸案であったサンフランシスコ条約における日本 側の文章作りでした。池田や佐藤は吉田から何度も書類を突き返されて、文書の書き直しを命じられたそうです。吉田としては、 そこから自分の考えを学び取らせようとしていたのです。
 私事で恐縮ですが、私は、何かモヤモヤした不安があった場合、その不安の原因は何か、と言うことを箇条書きにします。つま り、文書化するわけです。この文書化の過程で、モヤモヤしたものはなんだったのか、不安の原因はどこにあるのかを探り出そう とするわけです。

 このように、各作業は、同時に考える作業であり、その考えをまとめる作業にもなります。もし、仕事の内容が好く伝わってい るかどうか不安なときは、報告書やレポートの形にさせてみると、理解度だけでなく、より深く理解させて、覚えさせるきっかけ をつくることができます。
 会議などでよくメモを取っている人を見かけますが、このような場合、ただ書くだけではた いていは把握できていないもので す。そうした恐れがあったり、部下がどの程度理解しているかを知りたければ、その会議の内容をレポートさせて提出させて見れ ば良いでしょう。レポートをまさか白紙で出すわけにはいきません。かといってできないと音をあげるほど難しい作業でもない、 結局もう一度内容を整理を整理しなければならず、結果的には内容をより理解させることにつながります。

 教えたことが、一度だけで理解してもらえない場合は、二度、三度とレポートを提出させればよいです。部下は『どこがおかし かったのだろう』と、より深くその内容を考えることにより、理解力が高まっていくのです。
 混み入った内容を教える場合や口頭で指示する場合にも、この方法を使うといいです。こうすれば部下は後でレポートを書かさ れるために、聞き方が真剣になり、関心が高まります。つまり。耳で入ってくる情報を書いてみるという情報の両方に注意をそそ ぐことにより、伝達される情報は二倍にも三倍にも強化されるのです。こうしたことで誤解やミスが少なくなり、内容の理解にも 大きな違いが出てくることになります。

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あなたは、知らずに部下を無欲にしていないか

――――意欲を掻き立てる仕事の教え方――――

◇no-16 自分のミスを知らせてきた部下には
             叱るよりその積極的な態度をほめよ」

 卒業して、社会人になった教え子から聞いた話です。
 会社に入ってから半年くらいの間、彼は自分から進んで上司のところへ行くことがあまりなかったようです。それは、身近で先 輩たちが上司に厳しく叱られるのを見たり聞いたりしているうちに、怖い上司と言うイメージが出来てしまったためかもしれませ ん。
 ある日、彼は、彼の上司から会議のための資料作成を指示され、数字の見直しをしないまま提出してしまいました。上司が会議 に向かった後、気になって資料のコピーを見直してみると、重大な数字の間違いを見つけたのです。

 あわてて会議室に内線を入れたところ、上司は、『わかった』の一言だけで、彼はその声に上司の怒気を感じたといいます。
 会議が終わると、彼は上司のところにすっ飛んでいき、謝りました。てっきり最大級のカミナリが落ちると思って身構えていた 彼は、上司の『さっきはありがとう、助かったよ。急いでいるときは出来るだけ慎重に頼むよ』と言う言葉を聴いて、拍子抜けす るとともに、うれしくなったと言います。

 その後、注意して上司を見ていると、自分から進んでミスなどを報告に行ったときには、きつく叱らないことに気づいたと言う ことです。
 誰でも叱られるのは嫌なものです。ああ、また叱られるのか、と思えば、自分が出したミスを上司に報告する気持ちがなえてし まうのは、自然の感情といえかもしれません。ミスを報告しない、または出来ないと言う部下には、叱られたことを避ける「回 路」が出来上がっているのです。

 自分から報告しなければ、もしかしたら上司は気づかないかもしれないし、たとえ上司に発見されても、自分でまったくミスに 気づかなかったという正当な理由で言い逃れすることも可能です。報告に行って叱られるよりよっぽどマシだと言うわけです。
 ミスの原因は、いろいろあるでしょうが、部下が自分なりに考えて行った部分や、前例のまったくないものなど、あらたなス テップに飛躍するための手がかりになるものも少なくありません。 ミスを報告してきて部下を叱るのは、この大切な芽をつぶし、『やらないほうが安全』と言う"五無主義社員"を作り出してしま います。

 だから、自分からミスを認めて報告に来た部下には、その積極的な態度をほめてやるくらいの気持ちを持ち、しかるより、ミス の内容について一緒に考えてやるのがよいでしょう。そうすることで、部下はますます仕事に対する欲が出てくるので、当然仕事 の覚えも早くなります。
 このチャプターでは、仕事に対する部下の"欲"を書き立て、このように『教わろう』『もっと仕事が出来るように成ろう』と いった仕事の吸収度をよくしていく方法について述べていきます。

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◇no-17 「ときには、最高レベルのものを黙って見せろ」

 サッカーファンなら、長崎の国見高校のなを知らない人はいないかもしれません。島原半島の片隅に位置する、人口わずか一万 二千人の田舎町にある高校ですが、昭和六十一年のインターハイに突如出場して見事優勝、全国のサッカーファンを驚かせまし た。この国見高校を語るときに忘れてはならないのが、小嶺忠敏監督の存在です。五十九年国見高校に転任してからわずか二年間 で、同高校を日本一に導いた名指導者です。

 国見高校は、地理的なハンデがあるため、日本リーグや国際試合を見ることが出来ません。そこで、小嶺監督は、いろいろな指 導者の話を熱心に聴くことで、そのハンデを補いました。さらに約二週間ブラジルへ行き、本場のサッカーを実際に見て、勉強し たと言います。その成果を取り入れ、国見高校もブラジル・スタイルの個人技をベースにしたトータル・サッカーを特徴とする チームに仕立て上げたのです。

 日本の片田舎にありながら、世界の最先端のサッカーのスタイルを吸収することで、関東や静岡の強豪校を打ち破ることが出来 たのです。
 中国に、「聞くよりも見る、見るよりも行う」という諺があります。何事か習得するには、人の話しを聞くよりも、一流の人が 実際にやっているところを見たほうが勉強になります。さらに、見るだけでなく、自分で実地にやればさらに、深く学ぶことが出 来ると言う意味です。

 小嶺監督は、まさにこの諺を地で言っております。まず、一流の指導者の話しを数多く聞き、次に、世界の最高峰の技を自分の 目で確かめ、最後に、得たものを生徒たちに実際にやらせてみます。その結果、長い高校サッカーの歴史でも、例を見ないほどの 驚くべき短期間のうちに、国見高校を日本一の座に押し上げることに成功しました。
 骨董店が店員を育てる際も、あれこれと口で教えるのではなく、本物だけをただ見せ続けるそうです。「一流の品、最高の品を 見せ続ける」ただ見ているだけでは、なぜその品に価値があるのかは最初のうちはなかなかわかりません。しかし、本物を見させ れば、『今はわからないが、この品の価値を見極める眼力をやがてつけてやるぞ』と言う貪欲さが芽生えてきます。

 その"欲"が、本物を見極める鑑定眼を育てるのです。同じことは、企業の社員教育にも言えるでしょう。営業社員なら、超一 流のセールスマンの仕事ぶりを見学させるもよいです。建設会社の社員なら、他社の手がけたものであろうと、優れた建築物は優 れた建築物として、しっかり見学させると言います。
 最高レベルの人の仕事を黙って見せてやれば、自分が何を目指すべきか、そのためには何をしなければならないか、次第に見え てくるのは当然の成果です。

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◇no-18 「部署内には"専門職""定位置"を作らないよう、あえて担当を替えよ」

 昨年リーグ優勝した中日の星野仙一監督について、数人の記者が話し合っているのを読んだことがあります。それによると、中 日では、控え選手も試合のはじめから手袋をはめたまま、「オレが行く」とばかりスタンバイしています。野球は九人で戦うので はなく全員でやるものだと、どんどん控えの選手も使っていきます。主力も控えも常に回転させます。練習にしても、エース投手 が黙々とバント練習をするなど、主力も控えも例外や差別をつくりません。

 それが、選手にやる気を起こし、リーグ優勝という"大仕事"を成し遂げたと言う話しです。
 すべての動物、犬や猫にしろ小鳥にしろ、テリトリーを保持しようとする本能を持っています。人間もまたボディー・ゾーンを 保持しようとします。このボディ・ゾーンの座席を地位に置き換えて、『社長の座を射止めた』とか『不動のエースの座を手放し た』とかいったりするのですが、人は、そうした"座"を得ようとしたり、いったん得た"座"は容易に明け渡したくなくなった りします。

 星野監督は、どの選手にも"座"を獲得するチャンスを与え続けると同時に、同席の高さの高低差を少なくしていくことによっ て、向上心を引き出したと言えるでしょう。だから、それを逆に見ると、人はいったん"座"を得てしまうと、それの安住に慣れ やすくなります。そして、えてして"専門バカ"になってしまうのです。"学者バカ"と言う言葉もあります。必ずしも悪い意味 ではなく、世事俗事にはまったく疎い反面、専門分野では高峰を極めている人などを言うが、時には狷介になって信念を曲げない とか、人と和合しないとかの発想の硬直している人もいます。

 一般ビジネスマンに要求されるのは、仮に専門職であっても、広い視野を持つことです。 縦思考ばかりでなく横思考をもつことは、ときに専門分野でも思わぬ発見につながったりします。超ロングセラー『零の発見』で 有名な数学者・吉田洋一氏は、横書きの数字ばかりでなく縦書きの俳句作家としても有名ですし、物理学を専攻する学生に、一般 教養として文学を学ばせたりもします。情報が多様化している現代では、時には部署内で担当換えをするのも対応策の一つになり ます。

 人には、新しい環境などの新奇なものに触れることで、もっとよく知ろうと思う"欲"を起こす習性があります。同じ部署内で あっても、専門職や定位置をつくらないことで、この"欲"をかきたて、覚えようと言う気持を起こさせることができます。
 住友生命保険会長の千代賢治氏は『商品はどんどん多品種少量化しているため、三年ほどで例外なく他の部署に人事異動させま す。つまり、総合的に判断できるよういろんな経験をさせるわけです。最も専門的なシステムエンジニアでさえ、営業にまわした りする』と語っています。これは仕事を覚える上での硬直化を防げるばかりでなく、組織の柔軟化にもつながることでしょう。

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◇no-19 アラが目立ちうちはほめ、アラが減ってきたら叱れ

『花伝書』と言えば、ご存知のように室町時代に作られた能のための書物ですが、教え方の名著としても有名です。
その中には、『三十歳になったら芸により厳しくなれ』と言った意味のことが書かれています。私流に解釈すれば、三十歳と言う のは芸に自信がつき始めたころであり、この時期こそしかって延ばす絶好のチャンスであると言うことです。芸事にも一通り精進 し、ともすれば天狗になりがちな鼻っ柱を折り、欠点を直すのは、伸び盛りの時期にはもってこいです。

 逆にまだ手探りのうちに叱っては、伸びる芸も伸びないことになります。むしろ、ほめて育てたほうがいいと言えます。
 ところが、実際に仕事を教える現場では、逆のことが行われがちのようです。当然アラが目立つ新人や初心者を、そのアラゆえ に叱り、アラがが少なくて当然の慣れてきたものをそれゆえにほめているケースが多いのではないでしょうか。これでは話しが逆 であり、悪循環を呼ぶことになります。
 すなわち、アラがあるから叱る→萎縮してアラは減らない→ますますほめるチャンスを失う→いっそう自身を失いアラが増え る。と言う悪循環に陥ってしまうのです。

 これを最初はアラがあって当然と考え、むしろ長所を見つけてほめるようにしますと、逆の好ましい循環になります。つまり、 アラがあっても長所を探してほめる→ほめられたために自信がつく→自信がつくと少々叱られても素直に聞けるから進歩する→進 歩するからほめられるチャンスは増える、と言うコースをたどるようになるわけです。

 このコースのよさが最もハッキリ現れるのは、いうまでもありません。子供の場合でしょう。ある受験者指導の名人は、『ほ め続けて本心から自身が湧いてきたら、ビシビシ注意もします。自分は本当は出来ると思い込んでいるから、落ち込まずについて きます』と言っています。
 これは、子供に勉強を教えるときだけでなく、本人に仕事を教える時にも適用する方法です。

 成長の程度によって"欲"を出すキッカケが違いますから、自信のないときは自信をつけさせることで向上心を引き出し、小さ な範囲で自信があふれてきたら、叱ることで新たな貪欲さを引き出せば、自然に学ぼうという気持になります。

 よく"上役風""下士官根性"で、部下への小さなアラをあげつらっているのを見かけますが、これなど自分が快感を得るた めの趣味でしかない。小さいことで叱ってばかりいると、心理学でいう"怒られることへの耐性"がついてしまうので、肝心なと きにも『ああまたか』としか思われなくなります。
 アラが目立つうちこそほめるチャンスを探し、減ってきたら叱るチャンスを探すくらいで丁度いいのです。

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◇no-20 単純ミスほど厳しく叱れ

 うっかりミスや単純ミスについては、前にもちょっと触れましたが、わざわざ取り上げて問題にするほどのことはないと見過ご されることが少なくありません。
 しかし、こうしたミスほどたとえば若手の社員でいうと、仕事をある程度のみこみ、十分こなせる自信がついてきた時点で起こ すことが多いのです。車の運転になりきったころに、交通事故を起こしたり、ボディを傷つけたりすることが多いのと同じです。
 これに対して、まだ運転に慣れないころに事故を起こすと、本人にとっては大変なショックになります。

 そして、もう一生事故は起こすまいと、自分自身にしっかり言い聞かす。誰に言われるまでもありません。厳しく自分をしかり つけているはずです。会社でも、まだ仕事になれないうちに犯したミスは、本人が最も大きく傷ついているはずです。これを厳し くとがめだてすることは、本人を萎縮させるばかりで効果がないことは前にも触れました。
 しかし、慣れてきてからの単純ミスやうっかりミスは、慣れの上に安定した集中力の欠如から起こります。集中力と言うのは自 分自身の力で考えるときのエネルギーであり、このエネルギーの欠如がミスにつながっているためです。

 進学塾で有名な白金セミナー塾長の粕谷賢次氏によると『うちの子は頭がいいけど、単純ミスで損している』などと、得意げに 報告する母親がいるそうです。こうしたミス、出来るはずの問題を単純ミスで落としたような場合こそ、厳しく叱るべきだ、と氏 は言います。どうしてもできないときは、自信を失わさせないために叱らないほうがいい、と教えるそうです。
 私たちが学生の卒業論文などを見るときも、中間発表のときに、誤字や脱字と言った単純ミスを指摘してやると全体の水準が上 がります。『ここまで細かく見ているのだから』と言うこともあるかもしれませんが、集中力と言うエネルギーがアップするから です。

 つまり、誤字と脱字と言う単純ミスを厳しく注意すれば、単にそれを直せば事足りると言うものでなく、それ以外の面にまで注 意がいきわたること似ています。テーマに対する突込みが深くなったり、文章がよく整理され、全体の流れが生き生きしてきたり します。
 社内だからと言って見過ごしにせず、時には徹底的にそのミスを問題にしてやることです。単純なミスほど、本人は納得して直 す。不思議なもので、指摘された問題をそのまま直しただけでは気がすまなくなり、何か付け加えたり、もっとよく見せる方法は ないかなどといいます。

"向上心"が出てくるのです。たいていの社員は、単純ミスを大きく取り上げることによって、仕事を覚え、ひいては仕事全体の 水準を上げていくことが出来るようになります。

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◇no-21 要領のいい部下ほど、ときには"アラ探し"をしろ

 部下に仕事を教えるということは、実際の仕事の技術を教えることだけを意味しません。仕事の技術以外のもの、たとえば組織 について、人間について、失敗について考えさせていくことも、広い意味で仕事を教えると言うことにつながっています。
 そして、部下を叱るときこそ、このような仕事の技術以外のことを教えたり、考えさせたりする絶好のチャンスになれます。
 部下にも、仕事ののみこみが速く、なんでもソツなくこなしていく要領のいいタイプと、何事につけ要領が悪く、危なっかしく 見えるタイプがいます。

 要領の悪い部下は、当然、叱る回数も多くなり、そのつど、いろいろなことを教えることができます。ところが、いわゆる要領 のいい部下は、叱る必要があまりないために、叱ることを通して学ばせたり考えさせたりする機会が、どうしても少なくなってし まいます。
 仕事の技術以外のことを学んでこなかった部下は、ある種の脆さを備えてしまう危険性があるようです。たとえば、大きな失敗 をしたときや、何かを決断しなければならないときなど、どうしても近視眼的で独善的な判断に陥ってしまう危険があります。こ れは、要領以外の側面から仕事を捉える視野をもてないことからくる弱点でしょう。

 金融機関で過去に起きた横領事件の犯人たちには、ある共通点が見られます。それは、職場では完璧なまでに仕事をこなし、ほ とんどミスを出さないタイプの人間であると言うことです。事件を未然に防げなかった遠因の一つに、彼らあるいは彼女たちを信 用しきって、上役たちがチェックを怠ったことが上げられよう。しかし、私は、チェックを通して仕事の技術以外の大切なことを 教えてこられなかったことこそ、無視できない原因ではないかと考えています。
 上役から注意されたことのない部下は、上役の期待通りに自分が動いていると思い込みやすいのです。しかも、上役が考えてい ることの先回りをして動くため、ますます口を出す機会を失います。

 そんな部下には、ミスがなくても意識的にチェックを入れ、そのつどいろいろなものの見方があることを教えることです。それ によって、仕事に対してタカをくくっていた自分に気づかせたり、新たな視点から仕事を見つめなおすキッカケを与えることもで きます。
 とかく、要領のいい人間は、仕事をこなせるようになると緊張感を失い,新たな目標を積極的に探そうと言う向上心をなくしま す。そこで、常に新鮮な緊張感を与えるために、あえて""あら捜しとまではいかなくても、定期的に仕事の経過を報告させ、上 役としての意見を伝えてもいいのです。そうした機会を通して、仕事とは何かを教えることが重要になります。

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◇no-22 基本常識の大切さは、"客"に教えてもらえ

 最近、企業の方から『新人研修』について意見を求められることがまた多くなりました。どうやって教えたら会社の求めている ものが伝わるか、と言う質問がその大半なのですが、私は、マナーや技術的なものは比較的容易に伝えられても、『あたりえ』の ことほど伝わりにくい、と言う意味のことを答えています。

 社内ルールや業務内容などは、はじめ多少の反発があっても、模擬訓練をすればあるレベルまで引き上げることはできます。受 け手である新人にとっても、初めての体験・知識であり、好奇心も手伝って"受容性"ができやすいです。やっかいなのは、『お 客様あってのわれわれ』『若いうちほど恥をかけ』など、当たり前とされている基本常識を教えることです。
 いったん、『知っている』と思ってしまったことほど、それを変えるのはむずかしいです。人は、同じ情報に接すると、聞くこ とをやめ、省略しようとしやすいからです。『親を大切にしろ』『もっと勉強が必要だ』などと繰り返して聞かせれば、反発すら 感じます。こうした当たり前のことの本当の意味を知るのは、自分が親になってからであり、知識不足を痛感させられる出来事に あったりしたときです。

 企業の研修担当者がいくら口をすっぱくして『ニーズはお客様に聞け』『お客様本位』と言っても、なかなか伝わらないのは、 当たり前のこととして片付けられてしまうからです。こうした重要なことは、言葉で教えるよりも、早く現場に出して"体験"さ せるのが一番早道でしょう。知っていると思ってしまったことを変えられるのは、"自分の体験"だけだからです。
 新人教育に熱心なダイエー社長・中内功氏も、『商売はお客様に教えてもらえ』をくちぐせにしているといいます。こうした体 験が、知っていると思っていた"当たり前"の内容を少しずつ修正していき、やがて本当の意味を知ることを、中内氏自身がよく 知っているからなのでしょう。

 よく『最近の新人は、恥ずかしくてなかなか外に出せない』と言う声を聞きますが、大事な客に接触させる機会を早くしたほう がよいです。
 ある会社の人事部にいる友人は、親しい取引先に頼み込んで、新人を教育することがあるといいます。取引先と示し合わせ、簡 単なお使いを頼んで相手の会社に行かせた上で、厳しく指導してもらうのだそうです。いささか強引な方法ですが、本人は"教育 されている"と言う自覚がないだけに、注意されたことが一つ一つ自分の体験として胸に刻み込まれることになります。
 客に会うとき、緊張しない人はいないはずです。接客や訪問を一つの学習材料とし考え、意図的にやることで、部下は、自信の 向上心を引き立てるきっかけをつかむことができます。

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◇no-23 "安定指向型"の部下には、わざと能力以下の仕事を与えよ

 企業の経営者や管理職にある知人たちから最近よく聞くのは、野望とか闘争心とかいったギラギラしたものを感じさせる若い社 員が少なくなったと言われるのは、一致した見解です。ということは、自分の仕事は一通りこなす力がありながら、それ以上のこ とも、以下のこともしたがらないタイプの"五無主義社員"がふえているということです。
 そういわれていつも思い出すのは、三井銀行会長の草葉敏郎氏の『いまの若い人は自分で自分の人事を決めているような例が少 ない』と言う言葉です。「オレの力量なら何年後には課長、無難にこなせば何年で部長…」、こうした胸算用で仕事をしていると 言うのですが、こんなことで、果たして思い切った決伝や行動が出来るだろうかと、その現状を嘆きました。

 仮にでも、こんな社員が少なくないとしたら、その上司たるものの悩みを大きいに違いありません。人間の真理を考えるとき、 本来どんな人でも、"安定感"を求めているものだから、こんなタイプは、ちょっとやそっとでは居心地のいい"安定志向"から 外へは出ようとしないものです。これを覆すには、一種の荒療治が必要になってきます。仕事のレベルを落として実質的な格下げ をされれば、ふつう誰でも心理的に強い不満や屈辱感を感じないでいられません。ところがその不満が、同時に"心理的補償作 用"とでもいう深層に眠っていた強烈な向上心を揺り起こすことになり、多くは人を奮起させるきっかけになったりします。

 つまり能力以下の仕事が続いていくと、能力にあった仕事に戻りたいと言う切実な思いに駆られ、その仕事に戻ってからも上昇 志向は残って、仕事を覚える姿勢も積極的なものになっていくのです。
 この心理のメカニズムを利用すれば、たとえばスポーツでも、選手を突き放して彼らの闘争心をかきたてることができます。
 たとえばプロ野球で、チームの優勝に貢献したある投手は、まだ最初のころ、大事な試合で散々な成績だったことがあります。

 このとき、この投手は試合の後監督に、『お前はストレートだけてろ』と叱られ、見方の打撃練習に登板させられた。ストレー トだけだから当然投球はめった打たされてしまいます。
 この屈辱は大変なものだったが、しかしこうして突き放され、屈辱を味わったことで、この投手は『なにくそ』と闘争心を燃え 上がらせ、見事終盤の優勝チームの花となったわけです。川が飛び越せないとわかれば人はいったん下がって勢いをつけて飛びま す。心理学では『助走効果』と呼びますが、これを部下から引き出して教わる気にさせるのも、上司たるものの務めでしょう。

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◇no-24 若者同士の"仲良しクラブ"は、解散させて孤独にせよ

 大学で教鞭をとっている関係で、帰国した留学生から話しを聞く機会があります。しかし、どんな暮らしぶりだったかを話して もらうたびに、私はいつも言いようのない失望を味わうことになります。留学生の多くは、外国にいながらも同じ日本人留学生と 集うだけで、せっかくの国際交流の機会を生かそうとはしないのです。団体の観光と大差はないのです。

 日本人の習性でもあるのか、こうした例は他にもあります。わざわざ他校に遠征して合宿しながら、自分の大学の仲間だけで固 まって行動します。これも私には納得がいかない。交流の意味もなく、これではやらなかったも同じことなのです。

 学生時代ならまだしも、問題は社会に出てからです。そこでも同じ大学、同期入社と、若い人たちの"仲良しクラブ"はなくな らないと聞きます。昼食に行くにも、仲間と大勢で行きます。この仲間意識が進みすぎると、人は"甘え"の傾向が深まり、緊張 感がなくなるものです。このままだと、一人ひとりの自立が妨げられ、企業にとってはマイナスになってきます。極端な場合、仕 事に一生懸命な同輩をつかまえて「所詮サラリーマンなんだ」などと、足を引っ張る手合いが出てこないとは限りません。そうな らないためには、早めに"仲良しクラブ"を解散させ、関係を分断する必要も起きてきます。

 この場合、もっとも効果的なのが、互いの依頼心を競争心にかえといくやりかたです。たとえば、仕事を教える場合でも別々に 教え、『何を教えてもらっているのか?』と気をもませる。
 また、仕事をさせるときも同期だからといって同じことをせず、出来るだけ違ったことをやらせてみます。時に一人だけ強引に 昼食に連れ出す。あるいは力の接した同士なら、ことさら比較して見せるのも、競走心に拍車をかける。

 やがてどんな人も互いに心理的な距離感を感じるようになってくるはずです。ライバルとの競り合いは、極めて強烈な上昇志向 を生みます。これを引き出し、仕事を覚えさせるかどうかで上司の質も能力も問われるのです。

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◇no-25 初めに『出来ない仕事』を与えて、失敗させろ

 JR西日本会長の村上勉氏は、住友銀行頭取からアサヒビール社長に転出して、アサヒビール『中興の祖』とまで言われまし た。
 なかなかユニークな人柄で、およそバンカーらしくないところもあります。若いころは、いろいろな部署に回されたが、どれも 気に入らない仕事だった。そのためもあってか、しばしば上司と衝突し、てこずらせたらしいのです。が、後年、自分も部下をも つ身になって、ようやく気に入らない仕事をさせられた意味がわかってきたと言います。

『自分の好きな仕事ばっかりやってるんじゃ、人間がアンバランスになります。いやだと思う仕事をなわされるのも、やはり、上 司が私の欠点を見抜いて、それを補うためだったんですね』
 さすがに、鋭い指摘です。部下を育てるためには、いろいろな仕事を与えて失敗させる、と言っています。上司が部下の本当の 姿を見抜いていればちゃんと部下を立ち直らせ、成長させることが出来ると言います。
 ご自身の経験として、村井氏は『失敗は自分で買え』を知ったわけですが、意図的に失敗をさせることによって、部下を教わる 気にさせる、という仕事の教え方もあります。

 大体、入社して一年もたつと、仕事にある程度の自信を持つようになります。自信を持つのは、大いに結構なのですが、仕事と はこんなものか、となめてかかるようでは困る。それが高じてくると、上司や先輩に教わろうと言う気持が希薄になります。
 そうなる前に、一度自信を打ち砕いて、教わると言う謙虚な気持を持たせる必要があります。村井氏も当初反発を感じたよう に、いやな仕事や荷の重い仕事を与えるのは、性格や態度を十分に観察してから行う必要があるでしょう。また、他の部員でもこ なせないほどの仕事では、部下は理不尽な懲罰を受けていると感じてしまいます。
 むしろ、二、三年先輩が軽々こなせる仕事なら、まだ『実力がない』『教わらなければ』と言う現状への不満を起こさせやすい でしょう。

 当然のことながら、こちらが意識的に失敗させたのだから、アフターケアも必要になります。『初めはみんなこうなんだ落ち込 むことはない』と、さりげなく励ますくらいのことはすべきです。失敗させた後、ほめる前提に、易しい仕事をさせると言う手も ありますが、ショック療法だけに副作用を注意深く見守る必要があります。
 また、失敗した部下が、どんな反応を見せるか、観察することによって、"部下の本当の姿"を知るようになります。立ち直る のが早いか遅いかによって、性格を判断する参考になるし、つぎに失敗したときの教え方も考える必要があるでしょう。


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