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問題解決:あなたが抱えている問題は何か

問題解決
問題にもいろいろな「型」がある。まず、この違いを把握することが大切
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1 今、あなたが抱えている問題は何ですか 問題にもいろいろ種類があります。  「問題」と言えば、期末・年度末の「試験問題」でした。このような正解のある問題を「閉じられた問題」と呼びます。これに対しビジネス上のような種類の問題を「開かれた問題」と呼び、何れも「論理の問題」として扱います。
2 すでに存在する問題と創る問題がある また、「発生型の問題」は、「守りの問題」であるともいえます。問題解決に消極的な姿勢であっても、「守りの問題」は問題のほうから飛び込んできます。一方、日常化して見過ごされ、問題として取り上げられない危険性をはらん類の問題。これが「探索型の問題」です。いわば「出てくる問題」です。「ネガティブな問題」もあれば、一方、「ポジティブな問題」もあります。これが「創る問題」です。
3 ビジネスの問題には答えがたくさんある ビジネスにおける問題は、正解が用意されていない問題であり、しかも、「正解は一つではない」と言う問題が多いのです。学生時代に、○×問題や選択問題に慣れ親しんだ秀才型ビジネスマンの中にはこのことが理解できず、問題解決というとつい「正解探し」に走る人も少なくありません。
4 クイズとパズルはどちらが難しいか クイズは知識があれば解けます。パズルを解くにはさらに知恵が必要です。クイズは知識があるかどうかの問題で、パズルは知恵があるかどうかの問題です。ビジネスの問題にも、クイズ方とパズル方があります。これらはパズル型の問題でパズルの答えです。この知恵を求めているのがパズル型の問題なのです。
5 問題解決では自分を責任者と考えよう 問題を解決すべき責任者は自分自身であると自覚している問題を「自責の問題」といいます。それらの問題を、「自責の問題」と「他責の問題」に分けてみてください。「自責の問題」は、いくつありますか。「他責の問題」はいくつありますか。問題解決を進めるには、まず、問題を「自責の問題」として捉える必要があります。
6 異常と不良の区別を明確にしよう 「ネガティブな問題」に、「不良」と「異常」があります。これに対して「異常」か、「異常でない」かは、異常判断基準によって判断さることになります。この場合、前者は「異常に悪い」のに対して、後者は「異常に良い」ということになります。多くの場合,「異常」か、「異常でない」かは、経験的、常識的に判断され、格別に異常判断基準が意識されることはありません。
7 統計的な方法で判断基準を設定 許容平均の範囲は{(平均値)+(3シグマ)と(平均値)-(3シグマ)}によっふ求められます。「標準偏差」は一つ一つのデータのバラツキが大きければ、「偏差」の平均値である「標準偏差」は大きくなりますし、バラツキが小さければ「偏差」の平均値「標準偏差」は小さくなります。
8 問題とは目標と現状のギャップである 問題解決のための「問題」についてさらに理解を深めていただきたと思います。立教大学土方文一郎氏は、問題には、「問題をなくすことが解決だ」と言うタイプと「生み出され、増殖する」タイプのものがあると言っています。ビジネスにおいては、「問題とは、あるべき姿と現在の状況との差(ギャップ)である」と言われています。
9 問題解決は『問題』を認識したときに始まる ①提示される問題がなければ、解く必要もありません。②問題に気づく ③問題を創る問題解決に対する姿勢が消極的になると、時間がかかり、少し難しい問題はあきらめて放り出してしまいます。『あるべき姿』に到達した場合、積極的な人間はさらに『あるべき姿』をより高いレベルに上げ、新しい問題を創り出し、その解決に取り組みます。
10 即決と熟慮は状況によって使い分ける 「KKD」とは、「経験」「勘」「度胸」です。このような「KKD」を身につけた人が、『即決』の出来る人でしょう。これを別の見方をすると、『集中』と『弛緩』、あるいは『反復思考』と『間欠思考』を繰り返していると言えます。ものごとには、『即決』を迫られる場合と、『熟慮』を求められる場合があります。
11 まず、緊急・応急の処置をとろう ①緊急・応急処置をとり、②どのように緊急行動(例外処置を含む)をとるのか、あらかじめ考えて決めておき、不良や故障の場合も、放置したために損害が拡大しないよう、必要な応急処置が大切です。③訓練しておく必要があります。発生型の問題が提示された場合、まず、緊急・応急の処置をとらなければなりません。
12 発見型の問題解決は現状の把握から始まる 重要問題を選びます。問題解決の基本ステップは、最初に発生型、次に探策型の順序で形式を選択。創造型の問題として解決を進めます。つぎに、問題(テーマ)を選択します。問題が発生した原因にどのようなものがあるかを究明、さらに、問題解決のやり方を反省し、残された問題点を把握します。
13 形成型の問題解決ではまず目標を明確化にする 「問題解決のプロになろう」理想の姿と現在の状態とのギャップが、解決すべき問題(=課題)になります。形成型問題の解決ステップは問題領域の整理、問題(理想の姿と現在の状態とのギャップ=課題)を明らかにします。代替案を考えます。これは、創造型の問題の解決ステップ、形成型問題解決ステップ、あるいは、設計的アプローチをします。
14 問題解決のプロはDCAサイクルを回す 仕事の出来る人は、問題形成と問題解決の出来る人であるといわれています。仕事のプロは、マネジメント・サイクルは、"プラン(Plan)・ドゥ(Do)・チェック(Check)・アクション(Action)"=PDCAのサイクルをまわしますが、やわな人間は、計画も反省もない「ドゥ」だけのしごとの、「ドゥ・ドゥ」めぐりに終始します。
15 新しいチャレンジでは「計画」を重視する ①段取りとスケジューリングの段階から始まります。ルーチンワークです。 ②難しい仕事は、たとえば、プロジェクト・リーダーとして、これをやってくれと言われた仕事で問題解決のための方策を検討し、策定する段階から始めます。③未知の探検をし、混沌を整理し、『理想の状態』『あるべき姿』『よい状態』を明確にし、すべてを任される仕事です。
16 『管理』レベルのチェック・アクションをしよう 仕事の結果(伝票)をチェックし、結果(伝票)に不良があったので、結果(伝票)を手直ししました。このようなチェック・アクションのやり方を『管理』と言います。伝票を書き(ドゥ)、見直し(チェック)、訂正(アクション)しました。寒い朝、ストーブに火をつけます。このようなチェック・アクションのやり方を『検査』といいます。
17 不確実な状況にも対応しよう 達成すべき目標とする状況、理想の状況を書き出します。経営計画、事業計画などで示されたポリシー、競合、競争の状況、プロジェクト、開発商品の魅力、セールス・ポイント、新規性、現在の技術開発レベル、経営資源(人材、投資資金、経費予算、設備、資材など)、法律の規制、流通経路、市場状況、なども記述します。
問題解決のスキルを磨こう
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18 前向きな姿勢が問題解決の成否をにぎる 心理学者は、『こころと身体はいつも対話している』と言います。プラス思考する人は『成功希求動機』が働き病気に強く、マイナス発想する人は『失敗回避動機』が作動し、情けないくらい簡単に病気になるといいます。プラス思考をしていると、脳内にノルアドレナリンが分泌され細胞を活性化し、身体を元気付けホルモンが出てきます。
19 問題が発生したらまず現場に立つ 昔は、現場に入らないと、データが取れませんでした。コンピュータ・システムの進歩に伴って、現在では現場のデータがコンピュータに蓄積されるので、そのデータを統計解析さえすれば問題は解決します。そこで現場に入らず、問題解決を行うとする三次元と勘違いするスタッフが現れます。
20 メモを取ることには三つの効用がある メモを取っておくと、このメモが手がかりになり、思い出すことができます。 「なぜ大事かと言うと、メモが癖になると、『感じること』も癖になります。①メモは、感じたことを確認する。②メモは記憶力を補い。③メモは発想を促す。集中力なしでは、メモを取ることができません。
21広い視野が問題発見能力を高める 必要な情報をトレーナーに請求すると、請求したものだけが与えられます。管理職研修をやりますと、受講者の関心の範囲が、ものの見事に浮き彫りにされます。組織や制度には目が向くが、そこにいる人間には気がつかない者もいます。人によって関心が違います。視野を広げるためには、指針となる羅針盤が不可欠です。
22 視野を広げる指針を持とう 「問題がないから、書かなかっただけ」というのは、優れた問題形成者、問題解決者から見ると言い訳に過ぎません。チェックリストを使って、あなたの職場、現場を見渡して見ましょう。「モノサシ」を持っていなかったために見落としてはいけません。
23 信頼できるデータで判断しよう データによって判断することが重要なのです。データには「数値」つまり「数値データ」のほかに「言語データ」や「形象データ」もあります。「計量値」には、データを取る「モノサシ(尺度)」の違いによって、「順序データ」「間隔データ」「比例データ」の三つの種類があります。
24 言語データを使いこなそう 言語データは抽象的な表現になりやすい。しかし、ビジネスの問題すべてが数量化可能かというと、決してそうではありません。これらの言語情報をデータ化して、論理的に処理しようとするのが、言語データの技術です。事実を指摘するときにはできるだけ具体的に、抽象的な概念形成をします。牛や馬も加えて「家畜」という例あります。 
25 形象データを使いこなそう 「言葉」で考えるとき、「話し言葉」で考える場合と「書き言葉」で考える場合があります。本田宗一郎氏の言うような"絵"のことを、「形象データ」といいます。私たちは、問題解決を進めるとき、「数量データ」「言語データ」とともに、この「形象データ」を使いこなしたいものです。
26 重要度の高い問題から解決しよう 必ず、重要問題から、小さな問題までいろいろあります。問題がたくさんある場合、すべての問題の重要度が、まったく同じであると言うことは、まずありません。小さな問題を解決しても効果が薄い
27 パレート図は重要原因を明らかにする 多くの原因の中から一~三項目の重要原因を選んで、それらの重要原因に対して改善の手を打ちます。 改善後のパレート図を改善前のパレート図と比較すると、改善の効果が明確になりますし、残された問題点もはっきりします。
28 複数の代替案からベストなものを選ぶ 第一プロセス(工程)第二プロセス(工程)第三プロセス(工程)と、プロセス(工程)を考え、各プロセス(工程)ごとに代替案を発想します。代替案を発想する段階では、多段階に発想する系統図法が役に立ちます.
29 人間関係の問題解決には深い知恵が必要である 人間関係の問題には、プライベートな問題もあれば、仕事上でのオフィシャルな問題もあります。 顧客との問題、取引先との問題、上司先輩との問題、部下後輩との問題、部門間の問題、仲間同士の問題などがあります。これらの問題は、本来プライベートな問題で、オフィシャルや仕事には関係ないはずです。論理では解決できない。相手の言い分を聞くことが大切
30 未知の領域では不即事態に備える 、「思わぬこと」への心構えを怠るな」あるのは、自分のこころの中にある灯台だけ、しかし、これには十分な準備がなければなりません。「創造的な領域では、基準とするものがありません。新しいことを始めるときには、「やらねばならぬ動機」があり、「やる」という決心が先にあります。
原因究明が解決の決め手
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31 原因究明ではまず問題点を絞り込もう たとえば、「不良が発生する原因は?」 、単に「不良原因は?」 そこで「キズ不良」に絞り込みます。外観不良にもキズ不良や汚れ不良などがあり、それらの不良現象によって、原因が異なります。単に、「不良の発生する原因は?」具体的に特定できなければ、有効な再発防止策は取れない。
32 「なぜなぜ問答」を五回繰り返そう 系統的に原因追求できるのが特性要因図。大枝に小枝、小枝に孫枝、孫枝に曾孫枝、曾孫枝にさらにもう一本の枝をつけよ、ということになります。
33 絡み合った原因は連関図でよくわかる 特性要因図が、原因系を系統的に追求するのに対し、互いに絡み合っている原因系を追及するのに用いられるのが、連関図(Relation Diagram)です。 特性要因図や連関図が役に立たないのは、問題や原因の表現が抽象的で、あいまいになっていることに起因します。
34 本当に"効いている"要因を確かめよう 仮説ですから、当り外れがあります。ですから、原因究明の第二ステップは、想定した原因、原因の中から、寄与率の高いものを見つけ出すことになります。  仮説の検証するる段階です。「パレート図を用いるほかにも、原因にウエイトづけする方法があります」
35 原因と結果の関係は散布図でよくわかる 明らかに比例関係や逆比例の関係が見られる場合、逆に、まったく関係がないとみられる場合は問題ありませんが、関係があるのかないのか微妙な場合があります。二つの特性値(結果と結果)の関係や要因(原因)と特性値(結果)の関係を調べる簡単な方法が「散布図」です。
-1 問題点解決の技法-1  一、問題解決とは何か
二、なぜ問題解決ができないのか
三、問題解決は問題の定義から始まる  
-2 問題点解決の技法-2  四、問題掘り下げの具体的方法
五、未来型問題のとらえ方
六、問題解決者必修の分析手法
七、解決案の立て方  
-3 問題点解決の技法-3  八、知的生産性向上のノウハウ
九、解決案を成果に結び付けるには

問題解決

◇no1 「今、あなたが抱えている問題は何ですか」
「問題にもいろいろな「型」がある。まず、この違いを把握することが大切」

 本論に入る前に、皆さんに質問があります。「今、あなたが抱えている問題は何ですか」。次のページにワークシートを用意しましたので、この質問に対する答えを、必ず本書を読み始める前に記入してください。

 さて、問題にもいろいろ種類があります。
 学生時代。「問題」と言えば、期末・年度末の「試験問題」でした。これらの問題には必ず正解があり、しかもそれは一つしかないのが当たり前でした。このような問題を「閉じられた問題」と呼びます。これに対して、ビジネスおける問題は、正解が用意されていません。しかも「正解は一つではない」と言うことが多いのです。このような種類の問題を「開かれた問題」と呼びます。

 一方で、遊びの問題として、「クイズ」と「パズル」があります。皆さんはこの違いをはっきり理解していますでしょうか。
 たとえば、「ミスチル」と言うのは、何の略称でしょうか。と言うのが「クイズ」「「五十八チームが出場する野球のトーナメントでは、優勝決定までに、最低何試合が必要でしょうか」と言うのが「パズル」です。

 ビジネスの問題でも同様の区別があります。税法の改正にどう対応すればよいか、このような問題は、法律や制度についての知識が問われていますから、クイズ型の問題です。変化する消費者の思考に対応してどのような新商品を開発すればよいのか、このような問題は知恵が求められますから、パズル方です。

 以上の問題は、どれも「論理の問題」として扱ってよい問題です。
 しかし、よのなかには、「夫婦喧嘩は、犬も食わぬ」と言うように、論理では解決しない「感情(感性)の問題」もあります。これが人間関係なのです。

「感情の問題」の根底には、理屈ではなく、好き嫌いといった人の感情があります。これを理屈で解決しようとすれば、かえって問題をこじらせてしまう危険性があります。お互いの関係や心理状態を考慮したきわめて高度な解決の技術が必要になります。

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◇no2 すでに存在する問題と創る問題がある。
より高い理想や目標を掲げたときに、「創る問題」が見えてくる

 ラインで異常が発生した、不良だ、事故だ。デイラーから納期遅れだ、品目違いだ、数量不足だ、顧客からクレームだ、と。ライン業務を担当している人は、常に問題を抱えていると言ってよいだろう。こちらから問題がないかと探すまでもなく、次々と問題のほうから飛び込んできます。これらを発生型の問題といいます。

ライン業務の例で言えば、突発不良が丁度「発生型の問題」にあたります。突発不良は目立つので、これを放置しておき分けには行きません。必ず問題として取り上げ、解決を図ることになります。 また、「発生型の問題」は、「守りの問題」であるともいえます。われわれが問題解決に消極的な姿勢であっても、「守りの問題」であるともいえます。われわれが問題解決に消極的な姿勢であっても、「守りの問題」は問題のほうから飛び込んできます。

 これに対して、慢性不良は、よくない状態が継続するうちに、大したことでないと見過ごされて、日常化し、問題として取り上げられなくなる危険性をはらんでいます。これが「探索型の問題」です。
 また、「探索型の問題」は、「攻めの問題」でもあります。こちらから「問題はないか」と探索しなければ、見過ごしてしまう問題です。積極的な姿勢で問題はないかと捜し求めて、初めて見つかるものです。いわば「出てくる問題」です。そしてこれらはいずれも好ましくない「ネガティブな問題」と言えます。

「ネガティブな問題」もあれば、一方、「ポジティブな問題」もあります。これは積極的に作り出さないと、問題として存在しません。これが「創る問題」です。
 それはかくありたいと言う理想を描くとき、よりよい状態を求めるとき、より高い目標を掲げるとき、まだやったことのない新しいことをやろうとするとき、これらを実現するためにはどのようにすればよいのかと言う課題が生まれてきます。克服すべき問題が出てきます。
 見方を変えると、「不良」と「異常」の問題がありますが、これについては稿を改めて説明しましょう。

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◇no3 ビジネスの問題には答えがたくさんある。
ビジネスの問題の多くは、正解が用意されていない「開かれた問題」である。

 冒頭にも触れましたが、昔懐かしい学生時代のこと。「問題」といえば、期末、学年末の「試験問題」でした。
 これらの問題には、必ず正解があります。しかも、それは一つしかないのが当たり前でした。つまり、「ワンベスト・ソリューション」があったのです。「1+1=2」が正解でこれが「3」や「4」になることはありません。

 学生はこの「ワン・ベスト・ソリューション」を捜し求めて四苦八苦したものです。時には、先生が間違えて、正解のない問題を出したりすると、生徒たちは鬼の首でもとったかのように騒いだものです。大学入試の問題もこの典型で、出題に誤りがあると、新聞の記事になるほどです。このように正解が用意されている問題を「閉じられた問題」といいます。

 これに対して、ビジネスにおける問題は、正解が用意されていない問題であり、しかも、「正解は一つではない」と言う問題が多いのです。このような問題を「開かれた問題」と言います。学生時代に、○×問題や選択問題に慣れ親しんだ秀才型ビジネスマンの中にはこのことが理解できず、問題解決というとつい「正解探し」に走る人も少なくありません。
 この「正解探し」の性向を持っている人も、なかなかそのことに気がつきません。企業内研修で、問題解決訓練のケース・スタディーをやってみますと、この性向を持っている人は、必ず「正解は何ですか?」と聞いてきます。

 日本人は、意思決定するとき、満場一致で決まると安心します。ところが、ユダヤ人あるいは、ヨーロッパ人は、誰も反対するものがいないときは、危険だからと言う理由で決定しないそうです。ビジネスの問題に、「ワン・ベスト・ソリューション」などありえません。ですから、答えが、一つしかないと言うのは、まだ検討が不十分で、危険だと言うのです。このような発想の根底には、気づいていないだけで、さらによい回答があるかもしれないと言う柔軟性があります。

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◇no4 クイズとパズルはどちらが難しいか?
クイズは知識があれば解ける。パズルを解くにはさらに知恵が必要である。

「ミステル」というのは、何の略称でしょうか」と言うのは「クイズ」でね「五十八チームが出場する野球のトーナメントでは、優勝決定までに、最低、何試合必要でしょうか」と言うのが「パズル」だと言うことはすでに説明した

 クイズは、知識がなければいくら考えてもだめですが、パズルは、考えれば答えを得ることが出来ます。クイズは知識があるかどうかの問題で、パズルは知恵があるかどうかの問題です。ビジネスの問題にも、クイズ方とパズル方があります。
 税の改正にどう対応すればよいのか、PL法の制定にどう対応すればよいのか、ISO9000にどう対応すればよいのか、これらは、法律や制度についての知識が求められますから、クイズ型の問題だと言えます。

 縮小する国内マーケットに対応して、どのような経営戦略を立てればよいのか、変化する消費者の思考に対応してどのような新商品を開発すればよいのか、リストラが進行する中で、ホワイトカラーは、その知的生産性を高めるために、どのような自己啓発を進めるべきか、これらの問題を解くためには、知識ばかりでなく知恵が求められます。これらはパズル型の問題で。ワン・ベスト・ソリューションはありません。相当に高度な問題と言えます。

 さて、ここまで話をすると、最初に提示したクイズ型とパズル型の問題の答えが気になる人がいるでしょう。参考までに答えを示します。
 まず、クイズの答えです。

「ミスチル」というのは、「ミスターチルドレン」と言うロックグループの略称です。次にパズルの答えです。
トーナメント方式では、一試合ごとに、一チームが敗退して消えて生きますから、優勝校一チームが残るまでには「58-1=57」で57試合が必要です。トーナメントの系統図を書かなくても、このように考えれば、簡単に答えが出ます。この知恵を求めているのがパズル型の問題なのです。

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◇no5 問題解決では自分を責任者と考えよう
自分のせいじゃない」逃げていてはだめ!
当事者意識こそが重要である。

 アフターファイブに、同僚と連れ立って飲み屋に行きます。ふと、隣の席から聞こえてくる大声に気がつくと、「うちの係長は~」「うちの課長は~」「うちの部長は~」「うちの社長は~」-人手が足りない」「時間がない」「予算がない」「いや営業がだめだ」「だてたい生産のコストが高すぎる」「うちの物流は、たるんどる」゜そうじゃない。円高の影響だ」「そもそも、バブルを拡大した金融の責任だ」「いや、大蔵省の責任だ」などと、悲憤慷慨しているサラリーマンの声が聞こえてきます。問題が山積しており、何とかならないかと投げ言います。「責任者、出てこい」と、叫んでいます。
 皆さんもこんな経験はありませんか。このように問題の責任者が自分自身ではなく、他人であったり、他部門であったり、社外の周囲の環境にあったりする問題を「他責の問題」といいます。これに対して、問題を解決すべき責任者は自分自身であると自覚している問題を「自責の問題」といいます。

 さて、この本の最初のところで、皆さんに、いま、問題だと意識していることを列挙していただきました。それらの問題を、「自責の問題」と「他責の問題」に分けてみてください。「自責の問題」は、いくつありますか。「他責の問題」はいくつありますか。仮に、皆さんの精神状態が消極的で守りの状態であれば、皆さんの抱えている問題は、ネガティブな問題や守りの問題が多く、「他責の問題」になっているはずです。逆に積極的で攻めの姿勢にあれば、ポジティブな問題が多く、ネガティブな問題でも「自責の問題」が多いことでしょう。

 問題解決を進めるには、まず、問題を「自責の問題」として捉える必要があります。与えられた仕事、任された仕事の当事者は、自分なのだと言う当事者意識、与えられた仕事、任された仕事は、私がやらなければ誰がやる私がやるのだという責任感とプライドが必要です。「自責の問題」と「他責の問題」の区別は、実は問題の捉え方の違いにあります。「他責の問題」だと逃げていることも自分の立場で、その問題を解決するにはどうすればよいのかと考えることによって、゜自責の問題」に転換することが出来ます。

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◇no6 異常と不良の区別を明確にしよう。
「異常には良い悪いの意味はない。異常に良いは持続させる」

「ネガティブな問題」に、「不良」と「異常」があります。うっかりすると、「不良」も「異常」も同じように考えて、区別がつきません。しかし、この二つには、はっきりと違いがあります。問題解決をするためには、この区別を明確にしておく必要があります。

「不良」と言うのは「良い」にたいする「悪い」違いですし、「異常」と言うのは「普通の状態(通常)」に対する「異常(通常でないこと)」です。「通常」と「異常」には、「良い」「悪い」意味は含まれていません
 誤解をまねくのは、多くの場合、「普通の状態(通常)」が「良い」状態であり、「異常(通常ではないこと)」が「悪い」状態と捉えているからです。
 不良率が小さくて(たとえば一%前後で)安定しているときに、不良率が突発的に大きくなると(たとえば五%位に)「異常」として検出されます。これに対して、不良率が大きくて(たとえば、10%前後で)安定しているときに、不良率が突発的に小さくなると(たとえば3%位に)これも異常として検出されます。
 この場合、前者は「異常に悪い」のに対して、後者は「異常に良い」ということになります。前者の場合は、再発防止のアクションが求められていますが、後者の場合は、この良い状態を継続させるのが望ましいのです。

 たとえば、商取引の場合のように,「良」「不良」を厳密に判断する必要があるときには商品の検査規格が定められ、この規格に照らして「合格」していれば良品、「不合格」であれば不良品として処理します。
 これに対して「異常」か、「異常でない」かは、異常判断基準によって判断さることになります。
 多くの場合,「異常」か、「異常でない」かは、経験的、常識的に判断され、格別に異常判断基準が意識されることはありません。しかし、これを厳密に判断する必要があるときには、統計的な方法によって、「異常」か、「異常でない」かを判断する異常判定基準が定められます。

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◇no7 統計的な方法で判断基準を設定
「異常の判断には管理図法が有効。データノバラツキで判断できる。」

 前項では、「不良「と「異常」の違いをご説明しました。
 商品の「良」「不良」を厳密に判断する必要があるときには、検査規格が定められます。そして、この規格に照らして、「合格」「不合格」が判断されます。この規格は、顧客の要求水準によって決められます。

 これに対して、「異常」「異常でない」かを厳密に判断する必要があるときには、統計的な方法によって異常判断基準が定められます。

 自然現象、たとえば、人間の身長や体重や管理された状態にある工業製品の品質特性値はデータにバラツキがあり、正規分布という西洋のベルの形に似た左右対称のきれいな分布法則に従うことが知られています。この分布法則を利用して、異常判定基準を定めるのです。
 アメリカの統計学者、シュハートが考え出した製造工程の管理技法に「管理図法」があります。製造工程が安定した管理状態にあれば、製品の品質特性値は、正規分布に従います。もし、品質特性地が、正規分布に従うならば、品質特性値は、平均値を中心にばらつき、それらのほとんどは平均値を中心にある範囲に入ってきます。

 その範囲は{(平均値)+(3シグマ)と(平均値)-(3シグマ)}によっふ求められます。ここで、シグマというのは、バラツキの大きさを表す物差しで、「標準偏差」と言います。「標準偏差」は一つ一つのデータのバラツキが大きければ、「偏差」の平均値である「標準偏差」は大きくなりますし、バラツキが小さければ「偏差」の平均値「標準偏差」は小さくなります。

 正規分布では、{(平均値)+(3シグマ)}、{(平均値)-(3シグマ)}の範囲にほとんどすべてのデータ(厳密にはデータの99.7%)が入ります。そこで、管理図法では、(平均値)±(3シグマ)を異常判定基準(管理限界線)とし、データが管理限界線の外へ出たら、「異常」と判断します。さらに、データが管理限界線の中にあっても、データの並び方に、「連」とか「傾向」「周期性」などの癖がある場合には、「異常」と判断します。次のページでそれらの癖を解説していますので見てください。

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◇no8 問題とは目標と現状のギャップである。
あるべき姿と、現在の状態を把握することが、問題解決の大前提である。

「問題にもいろいろな種類がある」ということを、さまざまな角度から見てきました。問題解決のための「問題」について理解を深めていただけだと思います。
 実は、問題に対する理解を深めるだけでも、みなさんの問題解決能力は、従来に比べて向上しているはずです。

 ここで、まとめとして、「問題とは何か」を明らかにしておきたいと思います。
 ビジネスにおいて、「問題とは、あるべき姿と現在の状況との差(ギャップ)である」と言われています。この定義は、ビジネスの世界ではほとんど共通に受け入れられています。

 アメリカのシンクタンク「ランド・コーポレーション」にいて、後に「ケプナー・トリゴー・アンド・アソシエーツ」を設立したチャールズ・H・ケプナーとベンジャミン・B・トリゴー・ジュニアは、「問題とは、逸脱、あるいは(そうあるべき状態)と(実際にそうなってしまった状態)との間の不均衡である」といっています。

 そしてこのこの(不均衡)は、「何らかの(変化)によって起こったものである」としています(「管理者の判断力」産能大)。

 また、東京工業大学の片方善治氏は、「問題とは、「機会もしくは危険の認識」である「機会もしくは危険は、解決を求めるための資源の投入を正当付けるものである」と言っています(「問題解決の技術」日本生産性本部)。

 立教大学土方文一郎氏は、問題には、「問題をなくすことが解決だ」と言うタイプと「生み出され、増殖する」タイプのものがあると言っています。({問題形成マニュアル}産能大)。
 さらに、帝京大学の佐藤允一氏は、「問題とは、目標と現状のギャップである」、「目標」とは「あるべき姿」「のぞましい状態」「期待される結果」であり、「現状」とは「実際の姿」「予想される状態」「予期せぬ結果」である、といっています。(「図解、問題解決の技術」産能大)。

 日本のQCでは、問題解決の手順を「QCストリー」として標準化、問題を「悪しさ加減」として捉え、改善してきました。
 まず、目標とするあるべき姿をはっきりさせます。次に、これに対して現在の状態がどうなっているのかを把握します。あるべき姿と現在の状態にギャップがあるとき、これが「問題」であると言えます。

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問題解決の基本

ステップを押さえよう
⑨問題解決は「問題」を認識したときに始まる
⑩即決と熟慮は状況によって使い分ける
⑪まず、緊急・応急の処置をとろう
⑫発見型の問題解決は現状の把握から始まる
⑬形成型の問題解決ではまず目標を明確化する

先達の言葉
創造は、過去と現在とを材料としながら新しい未来を発見する能力です。(与謝野晶子「与謝野晶子評論集」岩波文庫)

◇no9 問題解決は『問題』を認識したときに始まる
「提示される」「気づく」「創る」が、問題を認識する三つの契機

 問題解決は、問題を認識したときにはじまります。問題がなければ、解く必要もありません。  われわれが問題を認識する場合には、次の三つの契機があります。
 ①問題が提示される
 上司から、顧客から、関連部門から、行政から、社会から、家族から、問題が提起され解決を迫られることがあります。

 与えられた仕事にまだ精通せず、何をどうしてよいのか、よくわからない新人社員や、二ないし三年以上の経験年数があるにもかかわらず、主体性(責任感)がなく、指示されたことしかやらない社員は、仕事に対する姿勢が受身で、依存心が強いようです。彼ら問題と言えば、与えられるものだとばかり考えています。

 与えられた問題を解決するのに精一杯で、問題解決に追われることになります。問題解決に対する姿勢が消極的になると、解決までに必要以上に時間がかかり、少し難しい問題になるとあきらめて放り出してしまいます。さらに、上司や関係者が問題を与えなくなると、ヒマをもてあますことになります。

 ②問題に気づく
 仕事に対する当事者意識(責任感)を持った人間は、仕事に対する姿勢が積極的で、何をなすべきか、どのようにすればよいのか、いつまでに完了すべきか、求められているクォリティーは? コストは? と「あるべき姿」を自ら考え、現状とのギャップに問題を認識します。

 ③問題を創る
 気づいた問題を解決し、『あるべき姿』に到達した場合、積極的な人間はさらに『あるべき姿』をより高いレベルに上げ、新しい問題を創り出し、その解決に取り組みます。優れた陸上競技の選手が、常に、自己記録の更新を目指して、より早く、より高く、より遠くし、常に、より高い目標にチャレンジするのと同じことです。

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◇no10 即決と熟慮は状況によって使い分ける
 即決には『経験』『勘』『度胸』、熟慮には『事実』『論理』が必要である。

 ものごとには、『即決』を迫られる場合と、『熟慮』を求められる場合があります。営業マンが顧客を訪問して、『即決』を迫られることは少なくありません。新規事業、新製品開発、革新的システム変更などと言った場合には、『熟慮』が求められるでしょう。

「KKD」という言葉をご存知ですか。「KKD」とは、「経験」「勘」「度胸」です。
 自ら選んだ、あるいは、負かされた仕事の当事者、責任者として何をなすべきか、目的意識を持ち、あるべき姿の理想を描き、現状の足下をしっかり見つめ、その間のギャップ、問題を把握して、それに対処して仕事をしてきた人が『経験』を持ちます。
 そのような人は、洞察力を持ち、一手先が読めます。『勘』が働くのです。

 加えて新しいことをやろうとチャレンジし、任せてください、私が責任を持って成功させますと提案します。これが『度胸』です。

 このような「KKD」を身につけた人が、『即決』の出来る人でしょう。
 さらに「KKD」に付け加えるべきものがあります。「JR」です。「事実にもとづいて」、『論理的に』という『科学的アプローチ』です。この場合は、『熟慮』が求められます。

 考えるとき、どのように考えているのでしょうか。思い巡らす「内省」と、物事を思い出す『想起』を繰り返しているのではないでしょうか。
 これを別の見方をすると、『集中』と『弛緩』、あるいは『反復思考』と『間欠思考』を繰り返していると言えます。
 われわれは、緊張しっぱなしと言うわけには行きません。あるときは、必死に考え、しばらく忘れます。『集中』と『弛緩』の繰り返しであり『反復思考』と『間欠思考』の繰り返しです。

 アイデアが生まれるのは『馬上,枕の上,厠の上」と言われますが、いずれも、集中を解いて、リラックスしているときです。『反復思考』と『間欠思考』の結果として、発想が生まれることを示しているようです。

『思考』は個人的なものと思われていますが、グループで考えることも可能で、場合によっては効果を高めるものだと考えられています。昔から、『衆知を集める』『三人寄れば文殊の知恵』などといわれています。ディスカッション、ブレーン・ストーミング、ディベートと、衆知を集める話し合いのやり方にもいろいろあります。

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◇no11 まず、緊急・応急の処置をとろう
第一次情報をすばやくキャッチする。また、予行演習も怠らない。

 発生型の問題が提示された場合、まず、緊急・応急の処置をとらなければなりません。地震、津波、暴風、水害、火災、事故、傷害、急病、苦情、不良、故障などの問題が生じたときには、まず、緊急処置、応急処置をとる必要があります。

 当たり前のことですが、日ごろから、
①第一次情報をどうキャッチするか、
②どのように緊急行動(例外処置を含む)をとるのか、あらかじめ考えて決めておき、
③訓練しておく必要があります。

 阪神大震災のとき、中央政府の隣接地方自治体、自衛隊の三者とも、兵庫県からの災害報告、出動要請を待っていたために、初動が大幅に遅れました。緊急事態が起こったときには、非常行動(例外行動)が必要であったにもかかわらず、永年の安定になれ訓練を怠ったため、判断が出来ず、行動が取れなかったのです。

 火災の時には、初期消火が大切ですし、人身事故や急病では、人命救助が優先されなければなりません。
 特殊任務や危険物を扱う職種では、日ごろから真剣な訓練がつまれています。しかし、一般には、不特定多数の人々が群集する場所でも、非常事態を想定しての訓練があまり積まれているとは思えません。各自が非常事態を想定して、対処できるよう心がけている必要があります。

 不良や故障の場合も、放置したために損害が拡大しないよう、必要な応急処置が大切です。
 販売、サービスなどでは、顧客からのクレームへの対応も注意が必要です。必ず、
①緊急・応急処置をとり、
②顧客の怒りを静め、
③顧客に対する迷惑を最小限度に押さえ、その後に、
④原因究明、
⑤再発防止のアクションをとることになります。

 当事者が逃げの姿勢をとり、必要な緊急・応急処置をとらないと、顧客の怒りを増幅し、顧客の損害を拡大し、ひいては、自社、自己の損害を大きくし、取り返しのつかない結果をもたらす不手際につながります。緊急・応急の処置は、理屈を考える前に、行動を取れる敏捷性が求められます。

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◇no12 発見型の問題解決は現状の把握から始まる
「発見型問題の解決ステップは目標の設定、原因の究明、対策の立案」

 問題解決の基本ステップをご紹介します。一つは発生型、探策型の問題の解決を進めるためのステップ、もう一つは、創造型の問題の解決を進めるためのステップです。前者を発見型の問題解決ステップ、後者を形成型の問題解決ステップと呼びます。

 ①現状を把握する。
  幅広く現状を調査し、問題(悪さ加減)を把握します。
 ②問題(テーマ)を選択する。
  いくつかの問題の中から重要問題を選びます。(重点指向)
 ③改善の目標を設定する
  取り上げたテーマについて、何を、いつまでに、どれだけ改善するかを決めます。

 ④原因系を究明し、重要なものに絞り込む(解析)
  問題が発生した原因にどのようなものがあるかを究明します。いくつかの原因について、 問題点に対する寄与率を求め、重要原因(要因)を絞り込みます。

 ⑤対策(代替案)を立案し、優先順位をつける。
  重要原因(要因)について、改善の対策案をいくつか考え、優先順位をつけます。
 ⑥試行する
  代替案の優先順位に従って試行します。
 ⑦効果を測定する。
  試してみて、良ければ採用し、問題があれば修正するか、ほかの案を試みます。
 ⑧歯止めをする
  採用した代替案を標準化します。元の悪い状態に戻らないように歯止めをかけます
 ⑨問題解決のやり方を反省し、残された問題点を把握する。
  やり方を反省し、次のテーマ を解決するときのやり方を改善します。また残された問 題を確認します。
 ⑩次のテーマを決定する(今後の計画)。
  残された問題点や新たに生じた問題点の中から次のテーマを絞り込みます。

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◇no13 形成型の問題解決ではまず目標を明確化にする
形成型問題の解決ステップは問題領域の整理、
現状の把握、代替案の立案。

 発見型の問題解決ステップは、QCストリートして知られており、屈折的アプローチとも言います。これに対して、創造型の問題の解決ステップは、形成型問題解決ステップ、あるいは、設計的アプローチといいます。

①未知の領域を探索し、混沌を整理する。
 何をすべきか、何をするのがよいのか、未知、未経験の領域を調査、探索します。その結果、未知、未経験の領域が少しずつ見えてきます。モヤモヤを整理し、その構造を認識します。

②理想の姿を明確にする(定義する)
 実現したい目標、かくありたいよい状態、あるべき姿を明確にします。

③現在の状態を明らかにする
 描いた理想の姿、実現したい目標、良い状態に対して、現在の状態がどうなっているのか明確にします。

④問題(理想の姿と現在の状態とのギャップ=課題)を明らかにする
 理想の姿と現在の状態とのギャップが、解決すべき問題(=課題)になります。

⑤代替案を考える
 課題を解決するためのいくつかの代替案を考えます。

⑥代替案に優先順位をつける
 重要性、緊急性、成長性を比較して、優先順位をつけます。

⑦試行する

⑧効果を確認する。
 効果があるか、副作用がないか、確かめます。問題があれば、ほかの案を試行しす。

⑨本格に採用する
 良ければ、本格的に採用します。

 先達の言葉
海のほか何も見えないときに、陸地がないと考えるのは、決して優れた探険家ではない。 ベーコン(学問の進歩)岩波文庫

問題解決のプロになろう

⑭問題解決のプロはP D C Aサイクルを回す

⑮新しいチャレンジでは「計画」を重視する

⑯「管理」レベルのチェック・アクションをしよう

⑰不確実な状況にも対応しよう

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◇no14 問題解決のプロはDCAサイクルを回す
「ODCAが仕事の基本。「反省」「改善」が伴わないと計画倒れになる」

 仕事の出来る人は、問題形成と問題解決の出来る人であるといわれています。ここで、出来る人の仕事の進め方を考えて見ましょう。仕事の進め方の基本は、マネジメント・サイクルによって示されます。マネジメント・サイクルは、プラン(Plan)・ドゥ(Do)・シー(See)=PDSサイクル、あるいは"プラン(Plan)・ドゥ(Do)・チェック(Check)・アクション(Action)"=PDCAによって示されます。ここでは、わかりやすく"PDCA"のサイクルで考えて見ましょう。

"P"は「計画」の段階です。「計画」は、「方針(考え方)」「目標(何をいつまでに、どれだけ)」「方策(やり方)」の三つの要素からなります。
「標準」「基準」「規則」「規格」「マニュアル」の形で示すこともあります。

"D"は、「実施」の段階です。この段階では、『やり方』『仕組み(システム)』『プロセス』が重要です。

"C"は、『振り返り、反省』の段階です。『計画』の立て方は良かったか、「実施」の仕方は、どうだったかと振り返り、反省します。

"A"は、「改善」の段階です。「計画」の立て方や、「実施」の仕方を改善します。「方針(考え方)」「目標(何をいつまでに、どれだけ)」「方策(やり方)」の立て方、「標準」「基準」「規則」「マニュアル」の内容を改定します。「やり方」「仕組み(システム)」「プロセス」を改善するのです。

 このPDCAサイクルは、しっかりした「目的意識」と「責任感」の土台の上で回転し、回転するにつれて、進歩していきます。

 仕事のプロは、このPDCAのサイクルをまわしますが、やわな人間は、計画も反省もない「ドゥ」だけのしごとの、「ドゥ・ドゥ」めぐりに終始します。少し進歩すると、計画を立てますが、チェック・アクションが伴わず、計画倒れになります。また、失敗を反省しても、計画立案能力がないと改善に結びつかず、失敗と反省を繰り返すことになります。

 このような仕事しか出来ない人は、決して優れた問題形成者、問題解決者にはなれないことが、おわかりになるでしょう。

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◇no15 新しいチャレンジでは「計画」を重視する
「何を、いつ、如何にやるのか。『計画』には三つの段階がある」

 高度成長時代、産業構造が順調に発展している時代のマネジメントは、先に説明したマネジメント・サイクルを回せばよかったのですが、変化の激しい時代に、積極的に仕事を進めようとすると、『計画』段階が重要になってきます。

 高度成長時代のQCは、PDCAのサイクルを、"CAPD"の順にまわせと教えてきました。つまり『悪さ加減』を把握して、それを改善するのです。そこにQCの極意があったのです。しかし、未知、未経験の新しいことにチャレンジするためには、まず『理想の状態』『あるべき姿』『良い状態』を明確にする必要があります。

 したがって、マネジメント・サイクルを"PDCA"の順にまわすことが必要です。
『計画』段階を重視し、詳細に検討すると、さらに三つの段階に分けることが出来ます。

 P1(Plan1):未知の探検をし、混沌を整理し、『理想の状態』『あるべき姿』『よい状態』を明確にし、問題を明らかにする段階です。『何をなすべきか』"What to do."を明らかにする段階です。

 P2(Plan2):問題解決のための方策を検討し、策定する段階です。「いかになすべきか」"How to do."を明らかにする段階です。

 P3(Plan3):段取りとスケジューリングの段階です。『いつやるのか』『どのような段取りであるのか』"When to do"を明らかにする段階です。

 私たちの仕事を考えて見ますと、一番初歩的な仕事は、『何をやるのか』、『どのようになるのか』がすでに決まっており、スケジューリングと段取りをすればよい仕事です。P3の段階から始まります。ルーチンワークです。

 次に難しい仕事は、たとえば、プロジェクト・リーダーとして、これをやってくれと言われた仕事です。『何を』やるのか決まっていますが、『どうやってやるのか』は任されます。P2の段階から始まります。

 最も難しい仕事は、これからの時代、『何をやるべきか』『どうすべきか』を考えてほしいと言う仕事です。P1の段階から始まります。『問題形成』から『問題解決』まで、すべてを任される仕事です。

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◇no16 『管理』レベルのチェック・アクションをしよう
「真の問題解決のためには、『検査』『調整』よりも、『管理』が重要である」
マネジメント・サイクルの『チェック(Check)』と『アクション(Action)」には、三つのやり方があります。

 たとえば、出張から帰ってきて、出張伝票を書き、費用を清算をします。書いた伝票を見直し、金額に誤りがあることに気づいたとします。うっかりミスです。そこで、金額修正し、訂正印を押して、人事部(あるいは経理部)へ渡します。伝票を書き(ドゥ)、見直し(チェック)、訂正(アクション)しました。仕事の結果(伝票)をチェックし、結果(伝票)に不良があったので、結果(伝票)を手直ししました。このようなチェック・アクションのやり方を『検査』といいます。

 また、暖房のために石油ストーブを使うとします。寒い朝、ストーブに火をつけます。やがて、室温があがり、熱くなりますので、今度は火を消します。しばらくすると、寒くなりますから、また火をつけます。これを繰り返して暖房をするわけです。ここでは、室温(結果)をチェックして、暑い、寒いと言う不良があったので、ストーブ(原因)に火をつけたり、消したりのアクションをとっています。このようなチェック・アクションのやり方を「調節」といいます。やり方は仕組みを変えませんから、暑い、寒いと言う不良が再発します。

 石油ストーブでは、暑い、寒いと言う不快感が繰り返し発生しますので、これをなくし快適な冬をすごすために、エアコンを買うことにしました。暑い、寒いと言う不快感(結果)をチェックし、石油ストーブ(原因)をエアコンに変えるというアクションをとりました。結果に不良が発生するとき、原因(系)について振り返り、反省し、不良が再発しないようやり方や仕組みを変更、改善して、不良の再発を防止するアクションをとります。
このようなチェック・アクションのやり方を『管理』と言います。

 この「検査」『調節』『管理』の三つのチェック・アクションのやり方は、問題解決の三つのレベルであると受け止めることも出来ます。真の問題解決のためには、『検査』『調節』だけでなく、『管理』のレベルのチェック・アクションが必要です。

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◇no17 不確実な状況にも対応しよう。
「手探りで問題解決する場合は、あらかじめ対策を考えておこう」

 新規事業、研究開発、革新的プロジェクトなどは、その活動を進めるプロセスにおいては、状況や環境の変化が流動的で、情報が不足しており、先行きの予測が困難な状況にあると言えます。

 思わぬことが起こって、うまく進まないことが往々にしてあります。このようなプロジェクトでは、あらかじめ各ステップで、期待に反することが起こったときにどうするのか考えて、その対策(次の手、奥の手)を考えておきます。

 また、受注活動や労使交渉など特定の相手のある交渉や、市場開発、新規需要の獲得、マーケティングや宣伝キャンペーンなど不特定多数の対象のある場合に、相手の出方や状況を見て一つの手を打ち、それによって状況を変え、また次の対策を決定します。

 このようにして、最終的に計画者の希望が達成できるように逐次的に計画を進める図法として、状況対応意思決定図法(Process Decision Program Chart)があります。

 ①まず、スタート・ポイントの初期状態、現在の状態を記述します。経営計画、事業計画などで示されたポリシー、競合、競争の状況、プロジェクト、開発商品の魅力、セールス・ポイント、新規性、現在の技術開発レベル、経営資源(人材、投資資金、経費予算、設備、資材など)、法律の規制、流通経路、市場状況、なども記述します。

 ②達成すべき目標とする状況、理想の状況を書き出します。何を、いつまでに、どれだけを達成するのかを客観的に評価できるように具体的にします。長期プロジェクトの最終ゴールが、不確定で詳細に記述できない場合は、当面(六ヶ月)の期末目標、年度末目標をまず記述します。最終的に到達したいおよその状況は、初期状況の記述の中に、制約条件の一部として加えます。

 ③スタート・ポイントからはじめて、アクション、対策とその結果などを逐一、書き出していきます。すべてが順調に行けばどうなるかと考え、そのプロセスを楽観ルートとしてゴールまで推測します。その楽観ルートを軸にして、予想される枝分かれの結果、状況を書き出し、それに対するアクション、対策を考えていきます。
 入念に準備すれば、自信を持って計画に取り組めます。

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 問題解決のスキルを磨こう


古人の云く、聞くべし、見るべし、得るべし。
亦云く、得ずんば見るべし、見ずんば聞くべしと、
  懐装「正法眼蔵隋聞記」岩波文庫

◇no18 前向きな姿勢が問題解決の成否をにぎる」
「プラス思考の人間ほど、よき問題解決者として人生を楽しめる」

 心理学者の渋谷昌三氏は、『人間の心理には、新しいことにチャレンジして成功を求めようとする『成功希求動機』と、これに反対に人目を気にして失敗を恐れる『失敗回避動機』が、つねに"綱引き"している』といっています。

 好きな男性の気を引くためなら、周囲を驚かすような大胆な行動をとる人がいます。成功希求動機が強く働くからです。逆に好きな相手の前に出ると、一言も口が聞けなくなる人がいます。これは、失敗回避動機が働いているからです。

 1995年度プロ野球日本一のヤクルト・スワローズの監督、野村克也氏が『大きく分けて人間には、①自信を持って生きている人、②いつも何かにおびえながら生きている人、の二通りのタイプがある』といっています。"おびえ人間"は、『チームに迷惑をかけたらどうしよう』などと、失敗したときのことばかり考えます。迷うだけで開き直れません。
 結局、実力を発揮できず、勝負どころで自滅します。これはビジネスの世界でも同じです。

 昔から『心身一如』といいます。田園都市厚生病院院長、春山重雄氏は、『こころと身体はいつも対話している。そして、"心で考えること"は、物質化されて"身体に作用する"ことがわかってきた』(『脳内革命』サンマーク出版)と述べています。

 人間は、怒ったり緊張すると、脳内にノルアドレナリンが分泌されます。恐怖を感じたときは、アドレナリンです。このため、怒りの情報が脳に伝達されると、ノルアドレナリンが分泌されて、身体は、しゃきっとして、活動的になります。その意味では良いのですが、一方で、これらの物質には毒性もあります。いつも怒ったり、ストレスを感じていると、ノルアドレナリンやアドレナリンの毒のせいで、病気になり、老化がすすむのです。

 一方、いつもニコニコしてプラス思考をしていると、細胞を活性化し、身体を元気付けるホルモンが出てきます。
 ですから、何でもプラス思考する人は病気に強く、マイナス発想する人は、情けないくらい簡単に病気になるといいます。あなたも、積極的なプラス思考で好きな仕事に打ち込み、前向きに問題を解決して、ビジネスに成功し、人生を楽しんでください。

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◇no19 問題が発生したらまず現場に立つ
「問題を机上のデータばかりで考えていないか。有益な情報は現場にある」

 太陽工業の創業会長、能村龍太郎氏は、こういっています。
『われわれの頭脳が、現物、現象を見て感じて考えることが、まことに、シャープに高能率化されるのは、そのときの下界の条件が、一次、二次、三次と、頭の中に正確に飛び込んでくるからなのである。私が日ごろ、問題が発生すれば、必ずその現場に立てというのも、それなのだ。

 現場に立てば、立体的に事態と条件を観察できる。そこに二人もおれば、その眼前の条件を二人で確認し、高速度で二人の頭脳の情報を分析、交換し、解決方法を発見するからである。三人寄れば文殊の知恵ということわざを待つまでもない。頭脳が現場に集まると情報の連絡が大変良くなるのである』(『私の考え方』太陽工業株式会社)。

 能村竜太郎氏が、問題が発生すれば必ずその現場に立て、といってますが、これはQCのファクト・コントロールに通じる考え方です。

 QC は『データでものを言う』ことを強調します。問題が発生したら、事実に基づいて、多角的に問題を分析する必要があります。そのためには、ます、原因と結果の関係をしっかり捉えるために、事実をデータ化して、解析する必要があります。
 しかし、気をつけないといけないのは、『データ作って、現場知らず』という過ちを犯すことです。

 コンピュータ・システムの進歩に伴って、現在では現場のデータがコンピュータ・システムに蓄積されます。これを呼び出して、グラフ化するのも、コンピュータがやってくれます。昔は、現場に入らないと、データが取れませんでした。ですから、データといえば、三次元的な現場の生の情報だったのです。ところが現在は現場に入らなくても、コンピュータの端末に座ればデータがかんたんに入手できます。

 そこで現場に入らず、問題解決を行うとするスタッフが現れます。コンピュータからデータを取り、統計解析さえすれば問題は解決する。というとんでもない勘違いをしている人がいます。
 具体的現象を見ず、現場のメカニズムを把握せずに、真の問題を把握し、因果関係を究明して、解決策を導くことは不可能だといっても良いでしょう。

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◇no20 メモを取ることには三つの効用がある。
「メモを取れば、『集中力』『記憶力』『創造力』がアップする」

 問題を解決するために、メモを取ることが大切です。
 九十五年度プロ野球日本一のヤクルト・スワローズの監督野村克也氏は選手を集めて話しをするとき、聞き手の態度が気になるといいます。「上の空で別のことを考えている』選手もいれば、「何でも摂取してやろうと身を乗り出すようにして貪欲に聞いている」選手もいる――この差はどこから出てくるのでしょうか。

 答えは「当事者意識をもっているかもっていないか」だと言えます。当事者として、つまり責任を持つものとして、目的意識をもって話しを聞き、ものを見る人とそうでない人の差がでてきます。」

 野村氏は選手の当事者意識のあり方を観察しているのでしょう。
この野村氏が、ミーティングでメモを取ることの重要性を強調して,こう言っています。

「なぜメモが大事かと言うと、メモが癖になると、『感じること』も癖になるからだ。人より秀でた存在になる不可欠な条件は、人より余計に感じることである。メモは、感じたことを確認するためにとる。そしてメモを見直すことは、再び新しく感じることに他ならない。ではなぜ『感じること』が大切かと言うと、感じなければ連想力がわかず、連想力がなければ(創造力)がうまれないからである」(「ノムダス 勝者の資格」ニッポン放送プロジェクト)

 メモをとる意味、効用は、三つあります。
 ①メモは集中力を養います。
 人の話を聞くときでも、モノを見るときでも、集中力なしでは、メモを取ることができません。

 ②メモは、記憶力を補います。
 脳は、忘れるようにできています。一時間経過すると半分は忘れてしまい、二十四時間たつと七十パーセントは、忘れると言われます。メモを取っておくと、このメモが手がかりになって、思い出すことができるのです。

 ③メモは発想を促します。
 メモと対話することによって、新たなアイデアを得ることができます。

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◇no21 広い視野が問題発見能力を高める。
「ほとんどの人間は自分の視野の狭さに気づかない。広く情報を集めよう」

「今、あなたが抱えている問題は何ですか」と聞いてみました。
 Aさん「体力的に疲れやすい」「近所付き合いと住宅ローンの返済だ」
 彼は自分自身や家庭のことが気になって、仕事のことまでは、気が回らないようです。

 Bさん「仕事において、人員削減に伴って、自分の仕事の役割分担がはっきりしていない」「上司と部下の板ばさみになっている」。

 Cさん「鉱石に含まれる、泥が多い」「鉄分を含む鉱石の除去がうまくできない」「粉砕設備にトラブルが多い」。

 二人は、家庭ではなく、職場のことが気になっているようですが、それぞれ関心は同じところに向かっているわけではありません。Bさんが社内での人間関係を苦にしているのに対し、Cさんは、仕事の問題に関心があるようです。

 このように、「問題は何か」と聞いてみますと、人によって関心を持っている事柄が違うことがわかります。そして、範囲が非常に限定されていることがわかります。

 管理職研修に、問題発見型のトレーニングがあります。研修参加者は架空の会社の営業部長になり、その会社の営業部門の問題点を見つけ出し、解決策を考えると言うのが研修の課題です。初めに与えられるのはその課題だけです。必要な情報をトレーナーに請求すると、請求したものだけが与えられます。

 この研修をやりますと、受講者の関心の範囲が、ものの見事に浮き彫りにされます。ある受講者は、各部の市場情報に関心があり、その情報ばかり請求します。また、べつの人間は、内部のマネジメントにだけ関心がゆき、市場に目が向きません。
 組織や制度には目が向くが、そこにいる人間には気がつかない者もいます。

 このように、いろいろな癖が出てきます。そして、ほとんどの人間が、自分の視野の狭さに気づきません。それぞれどのような分野の情報を請求したか、を示す資料を研修の最後に渡されてはじめて自分の視野の狭さに気づきます。

 問題を見つけるためには広い視野が必要です。そして、視野を広げるためには、指針となる羅針盤が不可欠です。自分の指針をつくる努力をしましょう。

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◇no22 視野を広げる指針を持とう。
「視野を広げるには「やる気」「安全」「品質」「コスト」「納期」に注目する」

 すぐれた問題解決者は、つねに広い視野でものを見ています。広い視野の必要性は理解できても、現実に視野を広げるのは、結構むずかしいことです。視野を広げるのに役立つのが、船の羅針盤に相当する指針を持つことです。

 102~103ページの図表「現場を見る目」を見てください。このチェックリストを使って、あなたの職場、現場を見渡して見ましょう。

「やる気」「安全」「品質」「コスト」「納期」の五つのモノサシが示してあります。ほとんどの職場で、このモノサシが通用するはずです。

 この本の冒頭で、あなたに記入していただいた「今、なたが抱えている問題は何ですか」というチェックシートに、この五つのモノサシに該当する問題点が、すべて含まれています。「問題がないから、書かなかっただけ」というのは、優れた問題形成者、問題解決者から見ると言い訳に過ぎません「モノサシ」を持っていなかったために見落としていたのです。

「あるべき姿」「理想の姿」「よい状態」「基準」などが、あいまいであるか、レベルが低いため、問題を感じない。または、これらの「基準」は与えられているが、それらを達成する責任感にかけるため、職場、現場をよく見ず、問題を見落としているのです。このように「問題なし」という人の問題点は、いくつかの段階を踏んで指摘できます。「現場を見る目」のチェックリストは、「やる気」「安全」「品質」「コスト」「納期」の五つについて、さらに、六項目ずつのチェックポイントを示しています。

 ですから、このチェックリストを利用すれば、合計三十項目の問題点を摘出できます。ただ、このチェリストが、すべてではないということには注意してください。

 このチェックリストにもれている項目は、いくらでもあります。たとえば、営業、技術、生産、購買、経理、人事、法務、広報、企画、など、職能別に見れば、補うチェックポイントは、いくらでもあります。ただ、無限にあるわけではありません。
 まず、「現場を見る目」のチェックリストをそのまま活用したら、次はこれを補うチェックリストを自分で作ってほしいのです。問題解決には、その能力も求められています。

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◇no23 信頼できるデータで判断しよう。
「データの種類をきちんと把握し、問題に応じて使い分けよう」

 問題を認識し、それを解決するために大切なことは、事実を掴み、それに基づいて考え、判断することです。
 その前提としては、信頼できるデータがなければなりません。データによって判断することが重要なのです。

「データ」といえば、「数値」だと考えている人がいますが、必ずしてもそうとは限りません。「数値」つまり「数値データ」のほかに「言語データ」や「形象データ」もあります。問題形成や問題解決のためには、これらのデータを駆使できることが大切です。

「数量データ」には、「計量値」と「計数値」があります。簡単に言うと、「はかるデータ」と「数えるデータ」です。「計数値」は、分類はできるが、数量化できない特性(たとえば、男性、女性、といった性別の特性など)について、統計的に処理するために、分類した後それらの数を数えたデータです。

「計量値」には、データを取る「モノサシ(尺度)」の違いによって、「順序データ」「間隔データ」「比例データ」の三つの種類があります。

「順序データ」は、100メートル競争などで、一着、二着、三着というように、杣順序を示すますが、一着と二着、二着と三着、それぞれの間は、等間隔ではありません。

「間隔データ」は、たとえば、摂氏温度のようなデータで、等間隔性は保証されていますが、長さの0センチや重さの0グラムといった絶対0点がないのです。温度を示す「0度」というのは、水の融点を0度と決めたので、「0センチ」や「0グラム」とは意味が違います。

「比例データ」は、絶対0点をもつデータで、加減乗除算をはじめいろいろと計算処理が意味を持ちます。

「言語データ」は、事実を言葉で表現しようというものです。言葉は、あいまいさを持ちますので、日常会話で使う言葉とは区別し、厳密に表現しようとするものです。

「形象データ」は、数量や言語では表しにくいイメージをそのまま絵画的に表現しようとするのです。これは、発想を促すものとして有効です。

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◇no24 言語データを使いこなそう。
「数字だけがデータではない。言語情報も論理的に扱えばデータになる」

 事実に基づいて問題を認識し、解決しようとするとき、データが重要な役割を果たします。  データは、数値であるという認識が一般的です。数量化が可能であれば、できるだけ数量データを取り解析するほうが、精密な結果が得られます。

 しかし、ビジネスの問題すべてが数量化可能かというと、決してそうではありません。ビジネスやエンジニアリングの領域には、言語情報が満ちあふれています。これらの言語情報をデータ化して、論理的に処理しようとするのが、言語データの技術です。

(1) 言語データは、短い文(センテンス)で表現します。「Aは、Bである。」

(2) できるだけ具体的に表現します。「単語」や「体言止め」するのは避けます。 「品質クレーム」「故障」「標準化」「合理化」「~すること」などの表現は、避けます。抽象的な表現になりやすいからです。

(3)「抽象のステップ」を自由に昇降できることが大切です。 109ページの図「抽象のステップ」を見てください。ここに「シロ」という名の犬がいます。「シロ」の仲間の動物を「犬」といいます。これに猫や小鳥を加えて「ペット」といいます。牛や馬も加えて「家畜」という概念があります。ここまでは生き物ですが、無生物を加えて「財産」という概念があります。さらに、抽象度を上げると、経済学の教科書に出てくる「富」という概念があります。

 事実を指摘するときにはできるだけ具体的に、そして、それらの事実から問題を指摘するときには、「抽象のステップ」を上がって、抽象的に概念形成します。

(4)「報告」「推論」「断定」の区別をハッキリします。
「報告」は、実証もしくは反証可能なことを述べることです。
「推論」は、知られていることをもとに、知られていないことを述べることです。部分から全体を推定する、将来を予測する、既知の事実を組み合わせて新しいことを発想する。などが「推論」です。

「断定」は、「話し手の意思、主張、好み、賛否などを述べる」ことです。

 このような点に気をつければ、言葉も立派なデータとして扱うことができます。

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◇no25 形象データを使いこなそう。
「"絵"は解決のイメージを鮮明にする。立派なデータとして活用できる」

 本田宗一郎氏はこういっています。「仕事の中でも、エンジンや車体設計、あるいはスタイルを決める造形など、毎日いろんな部門の連中と話しをするとき、私は、自分の考えをぱっぱと絵にして見せることが多かった。絵といっても、ぐいぐいと荒っぽい線を引くもので、私にとっては、スタッフとともにモノを考え追求する上での欠くことのできない表現方法なのであった。図面などたちまち、われわれの"絵"で真っ黒になるということさえあった」(「私の手が語る」講談社文庫)

 本田宗一郎氏の"絵"が、どのようなものかは、この言葉から推察するしかありません。しかし、おそらく本田宗一郎氏は、こうした"絵"を描くことによって、現場の問題を解決する方向をイメージで鮮明にし、自動車の改良を確実に進めて言ったのでしょう。優秀な車で海外を席巻した今日の「世界のホンダ」は、こうした"絵"の積み重ねによって実現したといってもいいかもしれません。

 発明王トーマス・エジソンや自動車王ヘンリー・フォードもノートにたくさんの"絵"をのこしています。また、天才ダ・ヴィンチの遺稿にもたくさんの"絵"が見出せます。

 私たちが思考を始めるとき、まず「言葉」で考えます。そして「言葉」で考えるとき、「話し言葉」で考える場合と「書き言葉」で考える場合があります。「話し言葉」で考えるのは、フリー・トーキングであったり、ディスカッションであったりしますが、「書き言葉」で考えるのは、書きながらメモやノートと対話(自問自答)するのです。

 メモやノートをとりながら考えるとき、言葉ではなく、本田宗一郎氏のいう"絵"を描いたりすることがあります。"絵"は、イメージで考えるものです。本田宗一郎氏の言うような"絵"のことを、「形象データ」といいます。「形象データ」は、問題解決に当たって、解決のイメージをより具体的にするのに大変役に立ちます。

 私たちは、問題解決を進めるとき、「数量データ」「言語データ」とともに、この「形象データ」を使いこなしたいものです。

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◇no26 重要度の高い問題から解決しよう。
「問題にもウエイトづけが必要。小さな問題を解決しても効果が薄い」

 問題意識をもって視野を広げると、多くの問題に気づきます。「問題などない」と言う人は、当事者としての意識がなく、無責任な人間だと言えます。

「いや、俺はすべての問題を解決してしまって、問題がないのだ」と主張する人は (実際そんなことがありえるかと言う疑問がありますが)、守りの問題だけでなく、攻めの問題が存在することに気づいていない人です。

「この仕事をやり遂げたい」と言う目的意識をもち、「私がやらなければ誰がやるのか」と言う当事者意識をもった人であれば、必ず、いくつかの問題をかかえています。問題のストックをもっているのです。この状態が、健全であると言えます。

 ところが、上司からいくつかの問題を与えられ、いくつかの放置しておけない不良・異常に直面すると、「いやぁ、大変だ。問題だらけだ」と、パニック状態になる人がいます。これは、多くの問題の相互のウエイトづけができず、あれもこれもと気になって、収拾のつかない心理状態にはまり込んでいるのです。

 問題がたくさんある場合、すべての問題の重要度が、まったく同じであると言うことは、まずありません。必ず、重要問題から、小さな問題までいろいろあります。ですから、いくつかの問題のストックをもったら、それらの問題のウエイトづけができなければいけません。

 それには、イタリアの経済学者パレートが発見した「パレートの法則」が役に立ちます。たくさんある問題の中から重要なものを選び、その上位二十パーセントを解決すれば、その効果はすべて解決したときの効果の八十パーセントを閉めると言うのです。

 重要でない残りの八十パーセントの問題を解決しても、その効果は全体の二十パーセントに過ぎないと言うのです。

 ある大学の先生の研究によると、ビジネスのおいて、「やり過ごし」と言う現象があるそうです。上司から与えられた課題のいくつかを、部下がそのまま放置する現象を言います。

 いい加減な態度での「やり過ごし」は、ビジネスにとって危険で放置すべきではないのですが、パレートの法則に従った問題のやり過ごしは、合理的で健全な考え方なのです。
あせらず、重要問題から手をつけ、順番に解決しましょう。

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no27 パレート図は重要原因を明らかにする。
「原因にウエイトとづけするのがパレート図。効果的な改善策が打ち出せる」

 前項で紹介したパレート図の法則を手法化したものが、ここで紹介する「パレート図」です。 「パレート図」は、私たちが、不良や欠点、事故やクレームなど多くの問題を認識したときに、それらの問題にウエイト付けをして重要問題を選んだり、また、選択した重要問題の解決のために、原因を究明するとき、多くの原因にウエイトづけをし、寄与率の高い原因を選び出して、重要原因から手を打とうとするものです。

 問題の発生状況を考えて、一週間、一ヶ月間、一年間などに期間を区切り、不良項目別にデータを集めます。不良件数の多い順に項目を並べ換え、不良件数の少ない項目は、まとめて「その他」とし、最後に書きます。各項目の不良件数を順に、累積します。

 集めるデータは、不良件数、欠点数、故障件数、事故件数、手直し件数、返品数などの件数ばかりでなく、損失金額、人件費、製造コスト、売上高などの金額。故障時間、稼働時間、待ち時間などの時間。出勤率、欠勤率、参加率などの比率など、問題解決に適したデータを考えて集めます。

 原因究明の段階でパレート図を描くときは、原材料別、機械別、作業者別、作業方法別、場所別、工程別時間別などに分類したデータを集めるとよいでしょう。

 パレート図を作成したら、その上位の項目一~三項目を選んで、それらの問題項目に対して原因究明をします。そして、多くの原因の中から一~三項目の重要原因を選んで、それらの重要原因に対して改善の手を打ちます。

 改善の効果があったかどうか、改善の手を打った後で再びデータを集め、パレート図を作成します。改善後のパレート図を改善前のパレート図と比較すると、改善の効果が明確になりますし、残された問題点もはっきりします。

 パレート図を描いてみたら、バイタル・フュー(少数の重要項目)とトレビアル・メニー(多数の重要項目)に分かれるはずが、「どんぐりの背比べ」になることもあります。そのときは、いろいろの角度から問題を見つめなおし、他の分類項目を探すとよいでしょう。

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◇no28 複数の代替案からベストなものを選ぶ。
「正解は一つと限らない。多角的に問題を検討しいくつかの代替案を用意する」

 問題を見つけたら、まず、
①応急(緊急)処置をとり、
②原因を究明して、その原因に対して、
③恒久対策としてのアクションをとります。

 問題を探索するとき、視野を広げ、多くの問題を認識した上で、重要問題に絞り込みます。
 原因を究明するときも、抜け落ちのないように、幅広く、突っ込んで原因を探索し、その上で、寄与率の高い原因(要因)を絞り込みます。恒久対策としてのアクションをとるときも、まず、どのような対策が考えられるかを幅広く検討し、複数の対策案を考えることが大切です。

 これらの案を代替案といいます。最初から唯一の案に固執し、これしかないという狭い視野では困ります。ビジネスには、ワン・ベスト・ソリュウションはないのです。いくつかの代替案を考え、それらを多角的に検討し、どれがもっともよいか選択するのです。

 問題探索、原因究明、恒久対策、いずれの段階でも、
 ①広く探索し、
 ②重要なものを絞り込むという二段階法をとっています。

 言い方を換えれば、
 ①発想段階と、
 ②評価の段階の二段階をとっています。

 代替案を発想する段階では、多段階に発想する系統図法が役に立ちます.前ページで紹介してありますので、参照してください。

 解決すべき問題、プロジェクトの代替案を発想するのに二つのアプローチがあります。プロジェクトを達成する代替案をストレートに発想するアプローチと、もう一つはプロジェクトを達成するプロセス機能を考え、そのステップや機能ごとに代替案を発想するアプローチです。

 たとえば、プロジェクトを達成するPDCAのプロセスを考え、そのPDCAのステップごとに代替案を発想します。あるいは、第一プロセス(工程)第二プロセス(工程)第三プロセス(工程)と、プロセス(工程)を考え、各プロセス(工程)ごとに代替案を発想します。

 また、プロジェクトを達成するのにかかわる機能を列挙し、各機能ごとに代替案を発想します。たとえば、まず、研究、市場調査、開発、生産、物流、販売などの諸機能を挙げ、これらの機能ごとに代替案を発想するのです。

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◇no29 人間関係の問題解決には深い知恵が必要である。
「人間関係の問題は論理では解決できない。相手の言い分を聞くことが大切」

 問題の中には、人間関係の問題があります。人間関係の問題には、プライベートな問題もあれば、仕事上でのオフィシャルな問題もあります。

 本書は、仕事の上でのオフィシャルな問題を扱うのが目的ですが、人間関係は、公私の区別がなくなるのが通常です。プライベートな問題には、自分自身の問題、夫婦の問題、親との問題、子供の問題、兄弟との問題、親戚との問題、近所づき合いの問題などがあります。

 これらの問題は、本来プライベートな問題で、オフィシャルや仕事には関係ないはずです。しかし、プライベートとな問題が深刻になると、その問題解決にアタマがいっぱいになり、オフィシャルな仕事が手につかなくなることがあります。こうした場合は、プライベートな問題だからといっても放置できなくなるのです。

 仕事上でのオフィシャルな人間関係の問題には、自分自身が当事者になる問題と自分の周辺の関係者同士の問題があります。顧客との問題、取引先との問題、上司先輩との問題、部下後輩との問題、部門間の問題、仲間同士の問題などがあります。

「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」と言いますが、人間関係は、愛情、好悪の感情がからみ、論理だけで決して解決できるものではありません。

 ユダヤ教の牧師、指導者のことをラビといいます.ラビのところに、トラブルをかかえた夫婦が相談に来ました。ラビは、まず、夫の話しを聞き、彼の言うことにうなずき、彼の言い分に賛成しました。次に、ラビは、その妻の話しを聞きました。忍耐強く聞き、彼女の言い分にも正しいと賛成しました。この一部始終を見守っていたラビの弟子がラビに質問しました。

「私は、納得がいきません。あなたは夫の話しを聞いて、「あなたの言い分は正しい」と言い、妻の話を聞いても「あなたの言い分は正しい」と認めました。二人とも、まったく違う主張をしているのに、どうして二人の言い分が両方とも正しいと言えるのですか」。ラビは、この弟子に対して、静かにこう答えました。「君の言い分が最も正しい」と。この際、重要なことは、両者の熱を冷ましてやることです。

 両者の言い分を認めることより、両者は冷静になり、徐々に和解していくことがあります。だから、この種のトラブルは、まず、相手の言い分を認めることが大切なのです。

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◇no30 未知の領域では不即事態に備える。
「執念を燃やして、徹底的にやるときほど、「思わぬこと」への心構えを怠るな」

 新しいことを始めるときには、「やらねばならぬ動機」があり、「やる」という決心が先にあります。そして、やると決心すれば、ぜひ成功させようという執念がわいてきて、未知の領域に果敢にのめり込んでいきます。

 しかし、これには十分な準備がなければなりません。理学博士で、南極観測の第一次越冬隊隊長として、日本最初の越冬観測を成功させた故西堀栄三郎氏は、「やる」と決心したら「どうすれば成功するか、徹底的に調査せよ。綿密に計画し、十分の準備をセよ」といわれています。

 また、西堀氏は、「思わぬことは起こると思え」ととアドバイスされています。そうすれば、予期しないことが起こったときに慌てることなく、平常心で対処できるというのです。

 計画や準備は論理で考えます。執念を燃やして、徹底的にやっても、なお、そこに限界があるということなのかもしれません。

 また、京セラの創業社長、稲盛和夫氏はこう言ってます。
「創造的な領域では、基準とするものがありません。真っ暗で嵐が吹きすさぶ海原を、羅針盤も持たずに航海していくようなものです。

 私はそのような航海の途上、もだえ苦しみ、灯台の明かりを希求していました。しかし、未踏の海原には灯台はありませんでした。あるのは、自分のこころの中にある灯台だけでした。自らの灯台の明かりをさらに強く燃やし、周囲を照らし、自分のいる位置を定め、行く先を自ら照らし出さなければならなかったのです。

 つまり、他に基準とするものもないならば、自らの心に描く理想にどれだけ近づくかということでしか、未知の領域での航海法はないのです」(「心を高める、経営を伸ばす」PHP研究所)

 新しいこと、つまり未知の領域に私たちが乗り出していくとき、そこで何が待ち受けているのか予測が立てられません。稲盛和夫氏の言われるように、それは、あたかも灯台もない真っ暗な海に船を乗り出していくようなものでしょう。

 こうした航海を確実にしていくのは、自らの理想を熱く追い求めながらも、つねに不即事態への心構えと準備を怠らないことなのです。

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原因究明が解決の決め手

先達の言葉
 どうして君は他人の報告を信じるばかりで
    自分の名゛観察したりみたりしなかったのですか。
        ガリレオ・ガリレイ「天文対話(上)」岩波文庫

◇no31 原因究明ではまず問題点を絞り込もう。
「原因が具体的に特定できなければ、有効な再発防止策は取れない」

 ネガティブな問題の解決に当たってとるアクションに、①対症療法的なアクションと、②根本原因に手を打つアクションがあります。

 緊急応急処置は、急を要するので、とりあえずの即効性が求められます。しかし、緊急処置だけで、根本原因に対して改善の手を打っておかないと、同じ問題が再発する危険があります。そこで、ネガティブな問題解決にあたっては、必ず、その原因を究明し、原因に対して再発防止の手を打っておきます。

 そのために、原因を究明します。問題が発生した原因は何か、原因を確実に捉えようとすると、幅広く、突っ込んで究明する必要があります。そのために役立つ手法に、「特性要因図「と「連関図」があります。

 原因を究明するに当たって、まず、大切なことは、問題点を絞り込むことです。たとえば、「不良が発生する原因は?」と考えますと、不良にもいろいろあることがわかります。機能的な不良もあれば、外観的な不良もあります。

 したがって、単に「不良原因は?」と考えますと、広範囲にわたる様々な原因が考えられるのです。しかし、これでは考えが拡散して薄っぺらになる危険があります。

 そこで、問題が外観的不良であれば、「概観不良が発生する原因は?」と考えます。これでよいかというと、まだ不十分です。外観不良にもキズ不良や汚れ不良などがあり、それらの不良現象によって、原因が異なります。そこで「キズ不良」に絞り込みます。

 キズ不良にもいろいろあります。突きキズ、ひっかきキズ、すりキズなどです。そして、これら現象によって、原因は異なります。そこで、さらに、「ひっかきキズ」に絞込み「ひっかきキズが発生する原因は?」と考えます。単に、「不良の発生する原因は?」と考えるよりよほど、効果的です。

 問題が絞り込まれたら、原因の究明に進みます。この段階でも、深く、突っ込んで考えます。高いQCレベルで知られるT社では、「なぜなぜ問答を五回繰り返せ」がスローガンになっています。

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◇no32 「なぜなぜ問答」を五回繰り返そう。
「系統的に原因追求できるのが特性要因図。これには枝分かれが五段階はほしい」

 原因究明に当たっては、まず「なぜ」と考えます。このときの思考パターンは、自問自答になり、「なぜなぜ問答」を繰り返すことになります。

 抜け落ちなく原因究明を進めるのに都合のよい手法に、特性要因図画あります。これは、魚の骨(フィッシュ・ボーン)とか、樹枝状図(ツリー)と呼ばれるもので、品質管理などに広く用いられています。

T社では、この特性要因図を描くときに、「なぜなぜ問答」を五回繰り返せと指導しています。大枝に小枝、小枝に孫枝、孫枝に曾孫枝、曾孫枝にさらにもう一本の枝をつけよ、ということになります。

 多くの特性要因図を調べてみると、大枝から孫枝まで、「なぜなぜ問答」を三回繰り返しているものは、よく考えているほうで、中には、大枝から小枝が出た程度のススキの穂のような寂しいものもあります。

 なぜなぜ問答は、五回繰り返す努力をしたいものです。
 ことわざに「風が吹けば桶屋が儲かる」というのがあります。風が吹くと、
①砂埃が立ち。砂埃が立つと、

②砂埃が目に入る。

 砂埃が目に入ると、
③目が見えなくなる。目の不自由な人の仕事して、あんま師か、遊芸人になる人が昔は多かった。

 だから、目の不自由な人が増えると、
④遊芸人が増える。遊芸人が増えると、

⑤三味線が売れる。
 三味線には猫の皮が張られているから、三味線が売れると

⑥猫が殺される。猫が少なくなると、

⑦ねずみが殖える。ねずみが殖えると

⑧桶がたくさん齧られる。

 桶がたくさん齧られると、
⑨桶が売れる。桶が売れると、

⑩桶屋が儲かるという話です。
「風が吹くと」から「桶屋が儲かる」まで、一〇段階、「なぜなぜ」を繰り返しています。

 最もこの話しは「風が吹いても、桶屋は儲からない」という教訓も含んでいます。桶屋が儲けるためには、風が吹いても、その寄与率は、きわめて低いのです。

 しかし、この原因追求のプロセスは重要です。定性的に原因を究明するとき、原因仮説を考えるときには、このくらい突っ込んで考えてみる執念は、大切なことでしょう。

 果たして、どのくらいの可能性があるのかは、次の解析の段階で定量的に確かめます。

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◇no33 絡み合った原因は連関図でよくわかる。
「連関図では、問題や原因の表現を具体的にして、原因究明を進める」

 特性要因図が、原因系を系統的に追求するのに対し、互いに絡み合っている原因系を追及するのに用いられるのが、連関図(Relation Diagram)です。

 原因の絡み合いがとくに問題にならなければ、特性要因図(Tree Diagram)を用いればよいのです。特性要因図の枝のあちこちに同じ原因Aが書き込まれているのは、原因Aが、他の複数の原因に影響を与えていることを示しており、原因の絡み合いがあるのです。

 しかし、その絡み合いがとくに問題にならなければ、絡み合いを断ち切って、系統的に展開する特性要因図を利用して差し支えありません。

 特性要因図は、中央に背骨にあたる線を引き、その右端に結果(品質特性)を書きます。
 そして背骨の上下に大骨(大枝)を出し、中骨(中枝)、小骨(小枝)と原因(要因)を書き込んでいきました。これに対し、連関図は、問題(結果)を中央に書き、上下左右に原因の枝を出していきます。

 これは、原因同士の絡み合いの矢線を書くのに都合がよいからです。
 さて、連関図を使って問題の原因を究明するときに、注意すべきことを説明しておきます。問題を取り上げるとき、その表現を抽象的にせず、できるだけ具体的にするのです。原因の表現もできるだけに具体的にすることが大切です。

 149ページの図「ゴルフスコアが伸びない要因追求の連関図」を見てください。

 問題を取り上げるとき、「ゴルフスコアが上達しないのはなぜか」とするより、「ゴルフスコアが100前後で足踏みしそれ以上に伸びないのはなぜか」とするほうが具体的です。

「ゴルフが上達しないのはなぜか」という表現では、初心者でもプロに近いシングル・プレーヤーでも通用するあいまいさがあります。「ゴルフスコアが100前後で足踏みしそれ以上に伸びないのはなぜか」と具体的に表現すると、初心者でもなく、プロの問題でもない。自分の問題だということがあっさりします。

 このようにすることによって、よりいっそう、核心を突いた原因究明ができます。多くの特性要因図や連関図が役に立たないのは、問題や原因の表現が抽象的で、あいまいになっていることに起因します。

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◇no34 本当に"効いている"要因を確かめよう。
「パレート図を用いるほかにも、原因にウエイトづけする方法がある」

 原因は、①幅広く、②抜け落ちなく、③突っ込んで究明します。そのために特性要因図や連関図がもちいられます。この段階では、これまでの経験、理論、技術にもとづいて、原因は何かを考えます。

 ですから、あくまで仮説を立てる段階です。原因仮説といいます。仮説ですから、当たっていることもあれば、外れることもあります。"効き"のていども、大きいものから、小さなものまでいろいろです。ですから、原因究明の第二ステップは、想定した原因、原因の中から、寄与率の高いものを見つけ出すことになります。

 仮説の検証するる段階です。この検証は、データを取って、定量的に進めます。事実にもとづいて、論理的に確かめるのです。手法としては次のようなものがあります。

①パレート図を用いる方法。
②計画的に実験し、得られたデータを分散分析する方法。
③二つの特性値の関係や要因と特性値の関係を調べる相関分析の方法
④計画的に実験し、因子(原因)と特性値の関係が、直線関係かを調べる回帰分析の方法。

 ①=パレート図法を用いる方法は、no27「パレート図は重要原因を明らかにする」を参照してください。

 ③=相関分析の方法は、次の◇no35「原因と結果の関係は散布図でよくわかる」に解説しましたので、使って見てください。

 ②分散分析する方法と④回帰分析の方法は、少し専門的になりますので、興味をもたれた方は、統計的方法や実験計画法の入門書で勉強してください。統計的方法や実験計画法のセミナー(入門コース)を受けてみるのもよいでしょう。

 筆者自身、はじめて統計的なものの見方、考え方に接したとき、これまで知らなかった新しい世界が開けた感動を味わうことができました。ものの見る目が変わるのです。
 問題解決者として、一段高いレベルにあがることができます。

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◇no35 原因と結果の関係は散布図でよくわかる。
「散布図と符号検定表を使えば,対データの因果関係が解明できる」

 二つの特性値(結果と結果)の関係や要因(原因)と特性値(結果)の関係を調べる簡単な方法が「散布図」です。
 製品の二つの特性値(X)と特性値(Y)について、対になったデータを収集し、散布図を描きます。

 要因(x)と特性値(y)について、対になったデータでもよいのです。両者の間に比例関係や逆比例の関係があるのか、ないのか、散布図(157ページ参照)をみればすぐわかります。関係があれば、点(プロット)が、右上がり(比例関係)、あるいは右下がり(逆比例関係)の直線を当てはめてもよい状態にばらつきますし、関係がなければ、点(プロット)が、散布図上に全面的に散らばって、直線を当てはめるのが無理だとわかります。

 直線を当てはめても、その直線がx軸やy軸と並行であれば、やはり両者の間に関係ありません。
 特性値同士の関係を相関関係(比例関係にあれば,正の相関、逆比例関係にあれば、負の相関)、要因と特性値の関係を直線回帰関係といいます。明らかに比例関係や逆比例の関係が見られる場合、逆に、まったく関係がないとみられる場合は問題ありませんが、関係があるのかないのか微妙な場合があります。

 このような場合は、統計的に検定してみると正しい結論が得られます。簡単な符号検定のやり方を紹介します。
(手順1)散布図上の点を左右同数に分ける縦のメジアン線を引きます。散布図上の点を上下同数に分ける横のメジアン線を引きます。

(手順2)メジアン線で区切られた四つの区間に入った点の数を数えます。

(手順3)右上と左下の区間に入った点の数をN=n+nとします。nとnのどちらか小さいほうの数字を符号検定表(次の項を参照)の合計Nの行の数字nと比較します。。

(手順4)n±nならば、負の相関があり、n±nならば正の相関があります。
一見難しく見えますが、、そんなことはありません。次ページに具体例があります難しい計算はなく簡単ですので、ぜひチャレンジして下さい。

*注:数式はソフトの関係で表記不能
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「散布図と符号検定表」


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