ホトトギス考

 
 
 
織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の三人の性格を端的に現した句として広く知れ渡っている「鳴かぬなら〜ホトトギス」
                                                             
実際は三人がそれぞれ自分で詠んだ句ではなく、後世の人が「この人ならこんな性格だろう」と表現して見せた句である事もご存知の事。
                                                             
・・・。
                                                             
と、思ったらそういう訳でも無いらしい。
                                                             
                                                             
私が始めてこの「鳴かぬなら〜ホトトギス」を知ったのは小学生の頃だと思う。
                                                             
学校の先生が授業のネタで用いたのか?級友の誰かが発表したのか?教材や児童向け図書に載っていたのか?
                                                             
今となっては定かではないが、「信長がこねし天下餅」と一緒に見聞きした様な気がする。
                                                             
「天下餅」はともかく、これは信長ら三人詠んだのではなく、三人詠んだと聞かされた。
                                                             
子供ながらに当時も「これはおかしい(信長が詠むはずが無い)」と感じたのを覚えている。
                                                             
                                                             
されど当時はネットも無かった。
                                                             
児童向け図書には詳しい事は書いていない。
                                                             
小学生に学術書は難し過ぎる。
                                                             
                                                             
それに比べて今は便利です。
                                                             
子供でもネットを用いてサッと調べる事が出来る。
                                                             
…ただ。
                                                             
ネットは正誤、混在しているからなぁ…それがネックだ。
                                                             
                                                             
よくよく考えれば川柳なんてものも無い時代。
                                                             
三人が並んで句を詠むのも可笑しなものだが、広く知れわたると、それが本当の事の様に思えてくるらしい。
                                                             
怖いものです。
                                                             
                                                             
                                                             
ちなみに
                                                             
                                                             
「鳴かぬなら〜ホトトギス」の本当の作者はわからない。
                                                             
私が知らないのではなく「読み人知らず」という事で作者不詳で紹介され後世に残ったものなのです。
                                                             
これは松浦静山の『甲子夜話』に記載されていた逸話。
                                                             
  (松浦静山は「まつらせいざん」、甲子夜話は「かっしやわ」と読む。
   詳細は…紙面の都合上、ネットで調べてくださいませ。
                                                             
   一部、「鳴かぬなら〜ホトトギス」は、松浦静山作と出回った情報も出回っているようだが、それは誤り。
                                                             
   何故かネットで調べると松浦静山作と書かれているものが多い。
                                                             
   たぶん、誰かが松浦静山作と勘違いして書いたものが広まってしまったのだろう。
                                                             
   実際に『甲子夜話』を手にとって記事を書けばこの様な間違いは減ったのだろうが…
                                                             
   インターネット上の文献はインターネットから引用されたものが多い。
                                                             
   これは、インターネット検索の落とし穴のひとつです。
                                                             
   皆様も『戦国ごくう』の記事をそのまま鵜呑みにせず、参照文献・引用文献を是非、読んでみてください。
                                                             
   私の記事はあくまでも参考文章と受け止めて、自らの読んだ文献で判断し自分の意見をもつのも大切ですから。
                                                             
    * * *
                                                             
  話がそれました。
                                                             
  松浦静山が世の評判を憚って人から聞いた話だとして作り上げたものであれば、松浦静山作という事もありえるでしょうが…
                                                             
  やはりそれは、あくまでも仮説中の仮説として…まぁ、違うでしょう。。
                                                             
      (↑ 上記2行… 松浦静山が世の評判を憚って人から聞いた話だとして作り上げたものでは  
        ない事がわかりましたので削除。   (巻十 ホトトギス補遺参照
                                                             
                                                             
原文抜粋 ↓
                                                             
 夜話のとき或人の云けるは、人の仮托に出る者ならんが、其人の情実に能く恊へりとなん。 
  郭公を贈り参せし人あり。されども鳴かざりければ、 
                                                             
    なかぬなら殺してしまへ時鳥     織田右府 
    鳴かずともなかして見せふ杜鵑   豊太閤 
    なかぬなら鳴まで待よ郭公     大權現様 
 
                                                             
                                      (以上原文) 
                                                             
                                                             
夜話の時とあるから何かの会合か宴の折にでも出た話題なのだろう。
                                                             
人から聞いた話として紹介されているから、やはり作者不詳なのでしょう。
                                                             
ホトトギスは不如帰・時鳥・杜鵑と様々に表記されますが俳句等の世界では郭公(カッコウ)と書いてもホトトギスと読むらしい。
                                                             
徳川家康のみ「様」付けなのは、やはり畏れ多い方だからであろう。
                                                             
短気・自信・忍耐の三者三様の性格を現しているとされる。
                                                             
                                                             
さて、この『甲子夜話』が書かれた時代は文政年間から。
                                                             
寛政の改革を経て数十年。関東の治安も悪化し取り締まり強化され新たな改革も執行されて…と、まぁ…
                                                             
このころの情勢は詳しくないので、さらりと流す。
                                                             
                                                             
ともかく松浦静山は隠居した殿様。
                                                             
知人友人が集まれば政治談議、経済談議にも華が咲こう。
                                                             
ホトトギスに現した「其人の情実」も単に性格のみの話題ではなかったのだろうと思う。
                                                             
                                                             
                                                             
(まつりごと)ではどうだろう?
                                                             
                                                             
織田信長は自らの家臣を多く切り捨てている。
                                                             
と、言っても「切り捨て」というのは槍刀で斬り殺すという事ではなく…。
                                                             
現代も用いる言葉としての「切り捨て」。つまり、解雇・クビである。
                                                             
 (解雇も「首を切る」っていいますね。)
                                                             
信長の守役として幼少の頃から付けられていた、父の代からの家老格・林秀貞。
                                                             
譜代の重臣・佐久間信盛、信栄父子。
                                                             
同じく織田家譜代の丹羽氏勝。
                                                             
美濃斉藤氏から信長に降り、稲葉城攻略に貢献した安藤守就。
                                                             
彼らは多くの功績を残していたが、追放されるまでの数年は、さしたる成果も示さなかったようだ。
                                                             
いや、高い地位が得られたからこそ、それに勝る業績を信長に求められていたのだが、それに彼は気がつかなかった。
                                                             
最高の重臣となった柴田勝家にも「気を抜くなよ」という意味にもとれる越後国宛条書を出している。
                                                             
今、与えられた地位に見合った成果を上げられない者には過去の実績さえ無きに等しいと信長は考えていた様だ。
                                                             
それが「鳴かないホトトギス」=「成果を挙げない家臣」=「働かない無用者」はクビにするということなのだろう。
                                                             
                                                             
                                                             
豊臣秀吉は「人たらし」と評される様に調略をよく用いる様だ。
                                                             
墨俣築城の折に野武士であった蜂須賀正勝を動員したり、敵方であった竹中半兵衛を軍師としたり…
                                                             
という話は創作・脚色も入り混じり定かではないが、
                                                             
鵜沼城の大沢正秀、浅井家臣の阿閉貞征、織田信雄の三家老、徳川家康の重臣石川数正…
                                                             
秀吉が離反交渉を手懸けたり離反の疑いを掛けさせたりと、敵方の将をも戦略の中に組み込む事に長けていた。
                                                             
それが「鳴かないホトトギス」=「味方として働かない敵将」は、味方に役立つよう働かせてやろうということか。
                                                             
                                                             
                                                             
徳川家康は、敗残の将として今川方に仕え育ち、信長の盟友といいつつも弟分として尽力し、跳ね上がりの秀吉にも随所で刃を向けながらも一応頭を下げた。
                                                             
自分への機運が巡ってくるまでジッと待ち、地盤固めに勤しみ、機を見て立ち上がった。
                                                             
「鳴かないホトトギス」=「自分側に流れない機運」は、自分側に流れるまで待ってやろう。
                                                             
あるいは「味方として働かない豊臣方の将」は、味方として働くまで時期を待つか。
                                                             
                                                             
江戸時代の幕閣・役人にあわせて平たく考えるならば
                                                             
働かない役人は クビにしろ。
                                                             
働かない役人は 働かせてやろう。
                                                             
働かない役人は 自ら働きだすまで待ってやろう。
                                                             
と、なるのだろうか。
                                                             
                                                             
権現様(徳川家康)は忍耐の人。人を上手に使える人。
                                                             
そんな風に煽てている様にも思えるが、なんと言っても徳川の治世。
                                                             
多少のおべっかもあるだろう。                                                              
じっと待つだけの人ではなかろうに… 
                                                             
                                                             
                                                             
                                                             
…さて 
                                                             
少し斜めに読むならば… 
                                                             
「働かない役人を無理やりにでも働かせたり、クビにしたりしないで甘やかすから治安が悪くなったり賄賂が横行したりしたのではないか。
                                                             
結局、その都度、改革が求められているのが現状だ。」と、はっきり非難できないけれど、これに事寄せて言ってしまおう。
                                                             
等と言う意味も含まれているのだろうか?
                                                             
                                                             
さらに… 夜話には続きが有る。
                                                             
                                                             
原文抜粋 ↓
                                                             
 このあとに二首を添ふ。
  これ憚る所あるが上へ、固より仮托のことなれば、作家を記せず。
                                                             
    なかぬなら 鳥屋へやれよ ほとゝぎす 
    なかぬなら 貰て置けよ ほとゝぎす 
                                                             
                                      (以上原文) 
                                                             
                                                             
                                                             
                                                             
鳴かないのであれば、売って金にしてしまえ。 
鳴かなくても良いから、貰えるものは貰っておけ 
                                                             
                                                             
なんとも俗っぽくて欲深い。
                                                             
作者を現す事を憚っているからには、多分、現職か存命の幕閣・役人の中に、こんな俗っぽくて欲深い人があたのだろう。
                                                             
働かない役人は 自ら働きだすまで待ってやろうなどと言う権現様へのパンチがここで効いてくる。(?)
                                                             
                                                             
                                                             
さてさて 
                                                             
時は大きく流れて平成の世。
                                                             
平成の政治家・役人は如何であろう?
                                                             
                                                             
これを記している今日の、国民大衆の最も関心の高い出来事は年金問題であろう。
                                                             
こんな事態になってしまった原因は多々・様々ありましょうが 
                                                             
根本的には該当官庁・役所の杜撰な運営と管理が原因。
                                                             
この処理に掛かる経費も税金を遣うのか?
                                                             
国民から預かった金を無くした・見失った役人も給料・賞与は満額貰って良いのものなか? 
                                                             
毎日の様に新聞・テレビを賑わせております。
                                                             
                                                             
この事態。
                                                             
ホトトギスに例えればなんとなりましょうや?
                                                             
                                                             
 働かない役人は クビにしろ。
                                                             
 働かない役人は 働かせてやろう。
                                                             
 働かない役人は 自ら働きだすまで待ってやろう。
                                                             
                                                             
                                                             
                                                             
                                                             
                                                             
 
 
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