生い立ち
ホンダFTR250は、1986年に「ダートスポーツ」という新しいジャンルを標榜して発売されたオートバイです。
同ジャンルのバイクには、先立つこと4年前に発売された「ホンダFT400/500」がありますが
こちらはダートイメージのロードスポーツバイクというべき存在でした。
いまでこそ「ヤマハTW200」や「カワサキD−Tracker」などがもてはやされていますが、
ダイヤモンド型フレームに、「ホンダXL400/500」系のOHCシングルエンジンを搭載した成り立ちは
レプリカブームが盛り上がりつつあった当時としては特異なものでした。
’82 FT400
FT400/500アスコット
空冷4サイクルOHC単気筒398(497)cc
27(33)ps/6,500rpm、3,2(4,0)kg−
m/5000rpm
軸距1,425(1,435)mm、車両重量158(159)kg
狙った売れ筋は「ヤマハSR400/500」などと同じだったと思われます。
しかし「ケニーロバーツ・レプリカ」的なイメージで売り出したヤマハSRが
そのなりたちのクラシックさ故に、逆に英国風トラッドなイメージでもてはやされたのとは対照的に、
ホンダ的なモダンさが仇となって、無国籍風のなぞバイク的捉え方をされたのかさっぱり売れ行きが伸びず
ホンダ系のディーラーでは、新車のFTが10万円引きくらいで 陳列されてたのは当時は知られた話しでした。
’78 ヤマハSR500
ヤマハSR400/500
空冷4サイクルOHC単気筒399(499)cc
27ps/7,000rpm(32ps/6,500rpm)、3,0kg
−m/6,500rpm(3,7kg−m/5,500rpm)
軸距1,410mm、車両重量158kg
この失敗にこりたのか、あるいは当時ホンダが打ち出していた
”PRO SPEC(プロスペック)”イメージの一環だったのか、
次にホンダが打ち出してきた「ホンダFTR250」は、徹底した競技仕様で「勝てるバイク」にするという
アプローチで仕上げてきました。
しかしこのFTRもやはり売れ行きは芳しくはなかったようで、
当時はあまり街中で見かけるバイクではありませんでした。
値引き販売と、機動力の良さを買われてバイク便専用バイクになっていた感がありました。
※プロスペック
ワークスマシンと市販バイクを同時開発し、最新のメカニズムを提供するこ
とで
あたかも「ワークスマシン」に乗っているか
のような感覚を、ユーザーに与えるというイメージ戦略。
いまでもコアなファンを持つ、「ホンダNSR250R」や「ホンダ
VFR750R(RC30)」などはその典型。
基本的な成り立ちは、同社のオフロードバイク85年型「ホンダXLR250R」の
「 RFVCエンジン」を流用し、新設計の専用車体に乗せるというものです。
コンセプト自体は、「ホンダFT400/500」や「ヤマハSR400/500」となんら変わるものではありませんが、
ここでホンダは、ダートバイクとしての素性を確かにするためにボア×ストロークをFTR専用に変更しました。
ロングストロークにすることで、本来「高回転・高出力」の素性を持つ「RFVCエンジン」を
扱いやすくしようという試みだったと思われます。
ですが、これには腰上のシリンダーヘッドやシリンダー周り、クランクシャフトの新造が必要なわけで、
空前のバイクブームで、出せば売れるという状況があればこそ可能だった贅沢な造りです。
結局、この新エンジンの素性が思いの他よかったということで
同じレイアウトを、本家筋ともいうべきXL/XR系に逆流用した、
「ホンダXLR250R/XR250R」が86年冬に発売となりました。
このタイプのXLR/XRは、改良を重ねながら94年型まで継続販売されることとなります。
XLR250Rのエンジン型式は、なぜかFTRの車台記号と同じ”MD17”となっていますが
これにはそういった裏話があるようです。
’87XR250R
XLR250R(MD20)/XR250R(ME06)
空冷4サイクルOHC4バルブ単気筒249cc
28ps/8、500rpm(30ps/9,000rpm)、2,5kg
−m/7,500rpm(2,5kg−m/7、500rpm)
軸距1,430mm(1,425rpm)、重量111kg(116kg)
RFVCエンジンに組み合わされるキャブレターですが、これも専用設計の新型です。
ホンダと関係の深い京浜精機(現・ケーヒン)の製品で、型式は”KEIHIN PJ52”といいます。
その名から予想されるとおり、市販ロードレーサー「ホンダRS125/250R」や
モトクロッサー「ホンダCR125/250R」などと同様の
フラットな形状のスロットルバルブをもつ、スライドバルブ・キャブレターです。
いわば2スト用キャブの機構を、4ストに転用しているわけで、
アメリカの、ダートトラックの流儀にならったチューンと思われます。
’88 RS250R(NF5)
水冷2サイクル90度V型ニ気筒クランクケースリードバルブ
249cc(54×54,5mm)
圧縮比7,8:1で72ps/12,500rpm、4,3kg−
m/12,000rpm(レースガス仕様時)
軸距1,342mm、半乾燥重量104kg
ロードレーサー用の”KEIHIN PJ38”との大きな違いは、
スロットルワイヤーが、「一本引き」でなく「二本引き」の強制開閉式になっていること。
それから「加速ポンプ」を装備していることなどです。
だれが乗っても扱いやすいよう、市販車なりの面倒見のよさを重視したつくりなんでしょうか?
「ホンダRS600/750D」に標準装備の、”MIKUNI・TM”キャブレターや、
「ヴァイタルファクトリー」の、”KEIHIN PJ”のキットなどは2st用をそのまま使っているようです。
結局、他モデルには採用されなかったPJ52(30φ)の構造図。
強制開閉式のフラットスロットルバルブで加速ポンプ付き。
XLR250R用のPD79(28φ)は円筒型スロットルバルブ。
排気系は、いったん二本出ししてからエキパイ部で集合させる「2in1タイプ」です。
これもXLR250R(MD16)のものより、エキパイ取りつけ部から集合部までの間隔を短くして
中低速トルク重視のセッティングとなっています。
FTRのエキパイの色は、キックモデルとセルモデルで差別化されていました。
セルモデルのみ、サイレンサー部にクロームメッキが施されていました。
わたしのFTRは、キック始動ですがメッキサイレンサーです。
これは交換の際にセルモデル用が送られてきたためで、在庫整理のための品番統合の結果のようです。
工事中
この系統のエンジン(MD17E)で、最初にセルフスターターがついたのがFTRです。
たしかその次が、「ホンダXLR−BAJA」(MD22)だったと思います。
XLR250Rに、デュアルヘッドライトやセルを装備した”BAJA”は
基本性能のよさに、オンロードモデルなみの使い勝手のよさをプラスした点がうけて
ツアラー派のライダーに人気がありました。
FTRのサービスマニュアルには、「バッテリーを電源とする”DC−CDI”を採用」と謳われていますので
フラマグ点火からバッテリー点火に変わったのも、FTRが最初ということかもしれません。
この当時の「MD17E」エンジンのウィークポイントとしては、
オイルポンプの容量が、後のモデルにくらべて小さい為に
カムシャフトと、ロッカーアームの接触部で磨耗が著しいことや、
熱間時の始動性や、アイドリングに若干難があることが挙げられます。
「 信号待ちで勝手にエンストしてしまうことがある」というのは、当時はよく聞いた話しでした。
’91だったか’92だったかのモデルで、このエンジン(MD17E)は
XR250R(ME06E)にかなり近い、実戦的仕様にアップデートされていて
以後のモデルでは、こういったウィークポイントはかなり解消されているようです。
エンジン本体に大幅な改良を受けた後期型XLR250R(MD22)
初期のモデルでも後期モデル用のオイルポンプや、シリンダーヘッドなどの流用は可能ですので
初期モデルのフルオーバーホールをお考えのかた(そんな奇特なひとはいないと思うけど)
には有利な選択肢だと思います。
現行のXR250/BAJAのRFVCエンジンは、同じ型式名(MD17E)ですが
クランクケースにスイングアームのピボットシャフトが通っていたり
外観的にはかなりことなっている印象です。
私は乗ったことありませんが
負圧キャブを採用していることから見てもかなり使い勝手は向上してるんでしょうね。
さて、このRFVCエンジンが搭載される車体は、全くの新設計のもので
ダート仕様を意識したヘビーデューティーなものです。
フレームは、ダブルクレードルにプロリンクサスペンションの組み合わせです。
同社のダートトラックレーサー「ホンダRS600D」と酷似したものです。
最大の特徴は、左右に各50度という異例に大きいハンドル切れ角です。
これこそ、FTRが真のダートトラッカーである証しといえるかもしれません。
アスファルトで乗るには、やや剛性面で弱いような感もありますがダートでのコントロール性は良好らしいです。
(本格的に攻めたことはないのではっきりしたことは言えない(^_^);;)
工事中
プロリンクサスペンションの構造図。
ちなみに「ホンダRS600D」のフレーム(現地製のスペシャルであるの
が通弊)は、
サスユニットが横置きになっていたりして
同じモノショックとはいえ、厳密にいうとホンダ製プロリンクとは違った構
成になっているようです。
ホイールは、F:2,15×19インチ/R:2,50×18インチの組み合わせ。
キャスター角は24,30度。
幅広のチューブ・タイヤと、起きたキャスターという構成なので軽車重の割りには粘るハンドリングです。
軽快ではありませんが、一方でタイヤの品質や路面状況に左右されず
一定のペースで走りつづけることができるメリットはけっこう大きいと個人的には思います。
タイヤは、このバイクのために新開発された
「 ブリジストンG541/542」と「ダンロップK−180F/180」という専用品です。
残念ながら、ブリジストンの方は既に生産中止となってしまいましたが
ダンロップはまだ継続販売されており、つい先だって「ヤマハTW200」用のサイズが追加されたようです。
ダンロップK−180のブロックパターン。(左がR右がF)
オリジナルは、ケニーロバーツがTZ750マイラーに装着した 「グッドイヤー」のレーシングレインだったとか、ないとか?
ちなみに、画像のタイヤでブレーキターンをしてみたらキキキッと鳴りまし
た。
いままではこんなことは無かったので、
もしかしたら「ホンダFTR223」の発売に合わせた構造変更で固めのコンパウンドに変わったのかも…
ブレーキは、前後とも片押し式のツインポッドキャリパーです。
当時の250クラスのオフロード・バイクとしては、過剰装備ではないかというくらいにおごったものでした。
制動力は強力ですが、初期型のデメリットであるのか、経年劣化は早い傾向にあるようです。
フロントのライトやメーター周り、リアのフェンダー周りなどは「アッセンブリー」で簡単に外せるようになっていて
ゼッケンプレートや、ダートラシートへの改造などの
競技への転用作業が、容易なように配慮されています。
工事中
Fまわり
本来は、幅広のスワローハンドル(今風に言うとトラッカーバー?)がついています。
でも街中では、ハンドルが四輪車のミラーにつかえて不便だったりします。
指定フォークオイルは、「ホンダATF」だったりする
面白いことに、スイングアームには
Rブレーキ・キャリパーとマフラーの接触をガードするための「 バンパー」が付いています。
おそらく、ダートトラックが左回りの競技であるため
万が一「ハイサイド」を食らったときに、
「マフラーが入る→キャリパーサポートが割れる→ホイールのスポークがばらばらになる」
といった事態を避ける為の装備だと思われますが、こういったところまで配慮した造りには感心します
車名 | MD17 |
全長 | 2,080m |
全幅 | 0,900m |
全高 | 1,095m |
軸距 | 1,385m |
車両重量 | 127(122)kg カッコ内はキックスターター車 |
最低地上高 | 0,185m |
キャスタ | 24°30′ |
トレール | 78mm |
リアサスペンション | プロリンク |
タイヤ | F:100/90−19 57P / R:120/90− 18 65P |
エンジン形式 | 4サイクルOHC空冷単気筒4バルブ |
総排気量 | 249cc |
ボア×ストローク | 73×59,5mm |
圧縮比 | 9,3 |
最高出力 | 27ps/8,500rpm |
最大トルク | 2,4kgm/7,500rpm |
キャブレター | PJ52 |
ベンチュリ径 | 30mm |
始動方式 | セル(キック) |
変速機 | 常時噛合式6速リターン |
変速比 |
1速2.769/2速1.722/3速1.272/4速1.041/5速
0.884/6速0.785 |
1次減速比 | 3,230 |
’00 FTR
空冷4ストロークOHC単気筒223cc
14kW(19ps)/7000rpm、21N・m(2,1kg)−
m/6000rpm
軸距1,395mm、車両重量126kg
価格339,000円(トリコロール)329,000円(ブラック、ホワ
イト、オレンジ)
’00モデルのFTRです。
レースな人たちのHPを拝見すると、レーサーとしての適性もなかなかのようです。