RFVCエンジンの概略

RFVCエンジンの構造

RFVC(Radial Four Valve Combustion Chamber・放射状4バルブ方式燃焼室)
というのはホンダの空冷4サイクル単気筒エンジンに採用されている技術です。

空冷のOHC4バルブ、またはDOHC4バルブですが、ロッカーアームの取りまわしを工夫して
通常、くさび形に対向するべき4本の吸排気バルブを放射状に配置し、
文字通りの半球形燃焼室を実現しています。
主だった特徴としては、

1.点火プラグは燃焼室の中央に配置するセンタープラグ方式
2.給排気バルブは燃焼室面積をほとんどカバーする大径バルブ
3.熱効率の良さを生かして9,8(XLX250R)という高圧縮比

これらによって燃焼と吸、排気効率を向上させ、燃焼理論の理想を追求しています。
4サイクルの高回転技術にこだわりつづけるホンダらしいメカニズムです。

当初は、ふたつの吸気ポートにそれぞれ独立のキャブレターをもつデュアルキャブを採用して、
高回転指向のハイメカエンジンとされていました。

※デュアルキャブ
全回転域で吸気の状態を最適化するためのいわば可変口径キャブレター。
低開度域ではひとつのみが作動し、バイパスバルブでふたつの吸気ポート間の負圧のバランスをとり
高開度域ではじめてふたつのキャブレターがフルに作動します。
むかしの四輪車用キャブで採用されていた方式と、基本的に同じ考え方です。

その他の主だった特徴としては、カムシャフトの軸受けが
じかにシリンダヘッドにマウントする通常の方式でなく
ボールベアリングを介していることがあげられます。
スペース的には不利な構成ではありますが
オイル下がりなどでエンジンオイルがほとんどなくなっても
抱きつくまでにはほかのエンジンより猶予があるというメリットが確認されています。

キック始動のモデルには
シリンダヘッドに、始動時のみバルブを若干浮かせて圧縮圧力を抜き
キックレバーの踏力を軽減するデコンプ機構を備えています。
これはモデルによって手動デコンプと
キック連動のオートカムデコンプとの二種類を使い分けているようです。

DOHC系は高回転高出力という当初のコンセプトどおり発展していきますが
OHC系はオフロードでの利便性を考慮して様々な曲折を経て現在にいたっています。

いまとなってはカタログスペック的にはおどろくようなものはありませんが、
フラットトルクで、上まで伸びがあり、耐久性も十分というホンダエンジン一連の長所をもちあわせた
定番エンジンです。



生い立ち

RFVCが最初に登場したのは83年のこと

OHCデュアルキャブ、一軸バランサー付きの
海外向けエンデューロモデル、ホンダXR350/500R

’82BAJA(バハ)1000優勝のXR500R
(余談ですがホンダでは、主に北米で使用に供されるエンデューロ用バイクのことを、
一環して”プレイバイク”と称しているようです)

その国内向けスケールダウン版XLX250R

’83 XLX250R(MD08)
空冷4サイクルOHC単気筒
249cc(72、0×61,3mm)
26ps/8,500rpm、2,2kg−m/7,500rpm
軸距1,415mm乾燥重量118kg

DOHCデュアルキャブ、一軸バランサー無しのオンロードモデル、CBX250RSとGB250クラブマン
などがその最初のモデルでした

’83 CBX250RS(MC10)
空冷4サイクルDOHC単気筒
249cc(72,0×61,3mm)
30ps/9,500rpm、2,4kg−m/8,000rpm
軸距1,360mm車両重量129kg

’83 GB250 Clubman(クラブマン) (MC10)
主要諸元はCBX250RSとほぼ同等

こののち、OHCモデルとDOHCモデルはそれぞれ独自の進化をとげることになります

オンロード系のDOHCエンジンの方は、CBX250RSが割りと短命に終り
人気モデルとなったGB250が87年に38φシングルキャブへの変更、などの改良を受けながら
99年まで継続販売されることになります

’90 GB250 Clubman(クラブマン) (MC10)
249cc(72,0×61,3mm)
30ps/9,500rpm、2,5kg−m/7,500rpm
軸距1360mm重量129kg

また84年には当時世界最小のDOHC4バルブエンジンを搭載したRFVCのオンロードバイク
CBX125Fが発売されています

’88 CBX125F(JC11)
空冷4サイクルDOHC単気筒
124cc(58,0×47,0mm)
17ps/11,500rpm、1,1kg−m/9,500rpm
軸距1,280mm重量105kg



軽量クランクケースの開発

オフロード系の250ccOHCエンジンですが
国内向けXLX250Rのエンジンは350/500と共通のクランクケースで不評だったため
84年かぎりで廃止されます。

同時にXR200Rと共通の軽量クランクケースが新開発されて
ショートストローク、デュアルキャブ一軸バランサー付きの84年型XR250Rとなります。
このデュアルキャブXRは、85年に日本でも競技専用車として販売されたようです。

’85 XR250R(ME06)
249cc(75,0×56,5mm)
30ps/9,000rpm、2,5kg−m/7,500rpm

85年にそのシリンダヘッドを28φシングルキャブ仕様にした国内向け公道モデル、XLR250Rが登場。
真紅のエンジンが印象的なモデルでした。

’85 XLR250R(MD16)
249cc(75、0×56,5mm)
28ps/8,500rpm、2、5kg−m/7,500rpm
軸距1,385mm車両重量/乾燥重量123/113kg

また、代りだねとしてCBX125Fと同クラスの車体に
ショートストローク、シングルキャブエンジンを搭載した
オンロードモデルCBX250Sも短期間ですが存在しました。

’85 CBX250S(MC12)
249cc(75,0×56,5mm)
28ps/8,500rpm、2,6kg−m/7,000rpm
軸距1,290mm乾燥重量115kg

次の86年にはショートストローク、シングルキャブ250が
オフロードエンジンとしては高回転に振りすぎたため
トラクションが不足しているとされ、ロングストローク仕様になります。
FTR250がその最初のモデルでした。

85年の第26回東京モーターショーに参考出品されたFTR250のレース仕様。
後方には市販プロトタイプも見えます。
’86 FTR250(MD17)
249cc(73×59,5mm)
27ps/8,500rpm、2,4kg−m/7,500rpm
軸距1,385mm、重量127(122)kg

このロングストローク、シングルキャブ仕様が
86年冬に発売された、XLR250R/XR250Rに採用されるに至って
現在の250ccRFVCエンジンの定型が出来あがったと言えそうです。

’87 XR250R
XLR250R(MD20)(XR250R(ME06))
空冷4サイクルOHC単気筒
249cc(73,0×59,5mm)
28ps/8、500rpm(30ps/9,000rpm)、2,5kg−m/7,500rpm
軸距1,430mm(1,425rpm)、重量111kg(116kg)

上図の’87シングルキャブXRは国内でも販売されたようです。
そういえば、いっときXLRのガソリンタンクをXR用のポリタンクに変える改造が
はやりましたね。

こうして定番となったロングストローク、シングルキャブのRFVCエンジン(MD17E/ME06E)は、
バルブの小径化、オイルポンプの大容量化、ロッカーアームの材質改良、
などの改良を受けながらXLR250R/XLR−BAJA(MD22)/XR250Rに搭載され、
94年型まで継続生産されました。


’88 XLR−BAJA(バハ) (MD22)
空冷4サイクルOHC単気筒
249cc(73×59,5mm)
28ps/8,500rpm、2,5kg−m/7,500rpm
軸距1,430mm重量114kg
XLR250Rにデュアルヘッドライトとセルフスターターを装備した、超人気ツーリングモデル。
87年発売。
一時期は本家XLR250Rより売れてたんじゃないかな?

以上駆け足でたどってきましたが、まったく矢継ぎ早の開発ペースですね。
あんまりややこしすぎて、言ってる本人もこんがらがってきました(^_^);;

さて異例のロングランモデルとなったXLR/XR250Rの直系の子孫として、95年に発売されたのが
現行の”スーパーXR250R”ことXR250RとそのストリートモデルXR250です。

’95 XR250R
XR250(MD30)(XR250R(ME08))
空冷4サイクルOHC単気筒
249cc(73×59,5mm)
28ps/8,000rpm(30ps/8,000rpm)、2,6kg−m/7,000rpm(2,6kg−m/6,500rpm)
軸距1,405(1,400)mm乾燥重量115(104)kg
潤滑系統のドライサンプ化、クランクケースの形状変更によるホイールベースの短縮(XR250/250Rで共通)
キック始動をセルに改めると共にキャブレターを負圧式に変更して
ドライバビリティーを向上(XR250のみ)などが主な変更点のようです。



XR600Rとその後のRFVCエンジン

さて350/500系のOHCですが
XR500Rは85年にはXR600Rとなり、250同様シングルキャブ化されます。

’95 XR600R(PE04)
空冷4ストロークOHC単気筒
591cc(97,0×80,0mm)
最高出力、最大トルクは未発表
軸距1,455mm乾燥重量128kg

XR600Rはパリダカール、ファラオラリーなど、海外のラリーイベントの必須アイテムとして
XR250R同様、異例の長寿モデルとなったようです。
350は250/600に統合されるかたちで廃止。

XR500/600Rには、ストリートモデルのXL600R(PD04)
パリダカイメージのカウル付き重量級オフローダーXL600RファラオやNX650ドミネーター
オンロードのGB400/500、それに輸出専用オンロードXBR500という派生モデルも存在します。
またこのエンジンはダートトラックレーサーのRS600Dのベースともなっています。


’95 NX650 Dominator(ドミネーター)
空冷4サイクルOHC単気筒644cc(100×82mm)
43,5ps/6,000rpm、5,65kg−m/5,000rpm
軸距1,440mm、乾燥重量165kg


’85 GB500TT
GB400/500 Tourist Trophy(ツーリストトロフィー) (NC20(PC16))
空冷4サイクルOHC単気筒399(498)cc(84、0×72,0mm(92,0×75、0mm))
34ps/7、500rpm(40ps/7、000rpm)、3,4kg−m/6,000rpm(4,2kg−m/5,500rpm)
軸距1,400(1,405)mm乾燥重量150(149)kg
知人でGB500に乗っておられるかたがおられましたが、けっこう振動がきつくホンダらしからぬ
硬派なバイクという印象でした。隠れ名車と言ってもよいかもしれません。


’85 XBR500
空冷4サイクルOHC単気筒498cc(92,0×75,0mm)
44ps/7,000rpm、4,4kg−m/6,000rpm
軸距1,400rpm乾燥重量150kg
 

97年に新規発売されたXR400Rや、
CL400のエンジンも基本的に同じRFVCの技術が採用されているようです。

’98 XR400R
空冷4サイクルOHC4バルブ単気筒
397cc(85,0×70,0mm)
40ps/7,500rpm、4,21kg−m/6,000rpm
軸距1,425mm、乾燥重量112kg

97年には「Vigor650(SLR650)」というデュアルパーパスバイクも発売されているようです。

’97 SLR650
空冷4サイクルOHC4バルブ単気筒
644cc
39,4ps/5,750rpm、5,5kg−m/4,500rpm
軸距1,440mm乾燥重量161kg
スペインの工場で生産しているという話しもネットで拝見しました。
 
 

XR600Rはつい先だって水冷の650にとって変わられたようです。
どうやらこのバイクはRFVCではなく、通常の4バルブエンジンのようです。

’00 XR650R
水冷4サイクルOHC4バルブ単気筒
649cc(100×82,6mm)
61,2ps/6,750rpm、6,5kg−m/5,500rpm
軸距1,481mm乾燥重量122kg
 
 

新型の4ストローク・モトクロスマシン「ホンダCRF450R」

’02 CRF450R
水冷4サイクルOHC4バルブ単気筒
449cc(96×62,1mm)
車体は2ストロークの「ホンダCR250R」をリファインしたものということです。
このバイクのエンジンは「ユニカムバルブトレイン」という新技術を採用しているようです。
排気バルブのみローラー付きのロッカーアームで間接駆動しています。
「RFVC」の構造原理を、最新の燃焼理論と合体させて、
フラット形状な燃焼室としたホンダ最新の構造、と解釈できるでしょうか?

他にも電装系を、スロットル開度をモニターする「電子進角CDI式デジタル点火
」としたり、
ニカジル・メッキのシリンダー、2リング・スリッパータイプのピストンなどの最新技術を駆使して
2ストローク250ccに匹敵するコンパクトなボディから
最高出力41,0kW/9,000
rpm (55,7PS相当)
最大トルク49,8N.m/7,000rpm(5,05kg-m相当)

という高出力を発生するというから驚きます。

アメリカでは、CRFエンジン搭載のダート・トラッカーも既に走りはじめているらしいです。
これの250cc判が発売されたら面白いことになりそうです。

 
 

最後に第31回東京モーターショウに出品されたスタディモデル
「スーパーモノ644」と「CL644」の画像を紹介します。
こんなのあったら欲しいですよね。


スーパーモノ644

「NX650ドミネーター」のRFVCエンジンを搭載しています。
XR250Rに似たオイルクーラーがカウルにビルトインされてスタイリングのアクセントになっています。
いかにも走りそうですね。


CL644

やはりNX650ドミネーターのエンジンを搭載しています。
クールという言葉を絵に描いたようなバイクですね。

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