・ごんべの上をいくお人好し・ 菜園のすぐ脇の電柱にカラスが巣を作った。実は同じカラスが最初に巣を作った
のはそこから十数メートル離れた民家のすぐ脇の電柱だったそうだが、そこの住
人がめざとく巣作りを見つけて電力会社に電話連絡をしたので巣は間もなく撤去
された。それにも懲りずカラスは「そこが駄目ならここがあるさ」と言わんばか
りに目と鼻の先の電柱に再度巣作りをトライしたのだった。あああああああああ
ある日の夕方、私が菜園に行くと畑のお仲間がみ〜んなそろって空を見上げてい
た。彼女たちの見上げている方向をたどって少し離れたところから私も見上げて
みると、電柱に妙な物がぶら下がっている。よく見るとそれはクリーニングやさ
んの針金ハンガーである。「?」マークに似た部分が逆さまになって電柱にぶら
下がっている。それもよく見れば1本だけではなく何本も束ねられているではな
いか。「なんですか、あれ」と聞くと集まっていた3人が口々に「カラスが巣を
作ったのよ」と教えてくれた。針金ハンガーだけではなく、小枝等も組み合わさ
れている。簡単に嘴で折ることの出来る柿の木の枝を狙って、ご近所の庭先にカ
ラスが頻繁に出入りしていたらしいのだが、気がついたら物干しに掛けて置いた
針金ハンガーもなくなっていたのだそうだ。カラスの仕業とは思わなかったらし
いが、証拠の品がすぐ近くの電柱で巣材に使われているのを見た持ち主は「うっ
かり出来ないわねぇ」と困った顔をしていた。あああああああああああああああ
そこで、畑の仲間と針金ハンガーを盗まれた住人は電力会社に巣の撤去を依頼し
た。話しによると電力会社の人が電柱に登りはじめると、近隣にいたカラスたち
が同報を受け取ったかのように集まってきたのだそうだ。続々と集まるカラス。
それに対して電柱に登る人間はたった二人。見ていて恐かったと話す人もいた。
一人が布を振り回してカラスを振り払いながら、もう一人が巣を覗き込んだとい
う。ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
しかし、今回はタイミングが悪くて巣は撤去されなかったのだった。三郷市には
「卵を産んでしまったら鳥の巣を撤去することを禁止する」という条例があるか
らである。カラスの巣を撤去させることに失敗した畑の仲間と針金ハンガーを盗
まれた住人ではあったが、それならそれで仕方ないと、どうやらあたたかい目で
見守ることに決めたようだ。畑の仲間の中には「巣を作る場所を奪ったのは人間
なんだから、こっちも我慢した方がいいと思うけど・・・」と電力会社に電話を
することさえ消極的に反対していた人もいた。あああああああああああああああ
さて、私のように畑から少々離れた所に住んでいる者は直接影響はないのだが、
畑の向かいに住んでいる仲間たちは少々閉口しはじめている。「カラスって黒い
から夜の鳥のようなイメージがあったけど、鳥は鳥なのよね。朝が早いのよ。大
きな声で鳴かれるともう大変」なのだそうだ。その話しを聞いてしばらく後、私
もカラスの鳴き声で目が覚めた。通常のカーカーという鳴き声に加えてそれより
も幾分若い声で2羽3羽が重なって鳴くのでやかましいのなんの・・・。布団の
中から目覚まし時計を見ると5時前だった。布団をかぶって眠りの続きをと思っ
ても鳴き声が気になってしばらくは寝付けなかった。これを毎朝聞かされるのは
辛いだろうなぁ、と巣の近隣の住人の気持ちを察した。しかし、眠気が勝って鳴
き声が段々遠のいた頃、私は夢を見た。ああああああああああああああああああ
巣の中で成長した黒いカラスの子が大きな口で「アー、アー」と鳴き叫んで親ガ
ラスを呼ぶ。親ガラスはなかなか巣に戻らない。子に与える餌がなかなか見つか
らない様子だ。このまま鳴かれたら近所の人もたまらないだろうと思って私もカ
ラスの視点で餌を探して歩く。手に棒をもって土をひっくり返して歩く。それら
しき餌が見あたらない。それでも棒で地面をつつきながら歩く。すると土の中か
ら発芽しかけた豆を見つける。ハトが豆をきれいにつついて食べるくらいだから
カラスも食べるだろうと思って「ここに豆があるよー」と教えようと叫ぶところ
で目が覚めた。あああああああああああああああああああああああああああああ
次の瞬間私は跳ね起きてパジャマ姿のままベランダに飛び出した。黒いビニール
のポットに枝豆やインゲンの種を蒔いたばかりだったので、もしや!先ほどのカ
ラスにやられていないだろうかと気になったのだ。夢があまりにもリアルだった
ので何だか妙な気分だった。しかし夢の中の私はなんて寛大だったことだろう。
目覚めた途端に気持ちの狭い人間に戻っていた。あれあれ、である。あああああ
「ごんべが種蒔きゃ、カラスがほじくる」というのを聞いたのはいつのことだっ
たか。そうならないために、我々畑の仲間は「今年は家で豆は種を蒔いた方がい
い」と話あっていた。種蒔きした上に布を被せた程度ではカラスには太刀打ち出
来ないだろうというのだ。そんな会話が妙な夢を見せたのかも知れない。夢の中
で私がごんべさんの上をいくお人好しを演じていたことを畑の仲間には黙ってい
ようとなぜか思った。(1999.4.19)あああああああああああああああああああ
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