・何もかもが臭い臭い・
6月の声を聞いてソワソワしていた。八百屋の店先に立ってラッキョウと梅の品
定めを怠るとあっと言う間に季節が流れてしまい、ラッキョウ漬けも梅酒作りも
梅干し作りもできなくなる。過去2年はなぜか6月に忙しく、わが家の味を楽し
んでいない。そこで、今年こそ!とふんどしを締めなおす気持ちで(あくまでも
気持ちであります)「さあ、6月よ来なさい!」と両手を腰に当てて待ちかまえ
ていたわけである。しかし、待ちかまえていると気分的に切迫してしまい、どっ
しり構えるどころか、つい浮足立ってソワソワしてしまう性分なのであった。
さて、いつもの如く畑で作業をしていると、畑の真ん前に住んでいるBさんが梅
酒用のビンを下げて買い物から帰ってきた。「梅酒でも作るのですか?」と声を
かけるとラッキョウだと言う。ここにもラッキョウ ファンがいたか!と思って
「そういえば先日九州地方のラッキョウが八百屋に出ていたけど、鳥取はまだで
しょうかねぇ」なんて作業の手を休めて聞いてみた。するとBさんも鳥取を待っ
ているという。「やっぱり鳥取ですか!」と私。実は姑がラッキョウは鳥取に限
るという思い入れの人で、それも小さめのラッキョウにこだわって毎年漬け込ん
でいるのだ。それで、私もいつからか洗脳されて「ラッキョウは鳥取。鳥取と言
えばラッキョウ」というほどになっていたのである。ああああああああああああ
そして昨日のこと。そろそろ八百屋に声を掛けておいて、鳥取産のラッキョウが
入ったら連絡をもらおう!と思いつき近所の行きつけの八百屋に出かけてみた。
店先には泥ラッキョウが一山1キロ450円ですでに並んでいた。鳥取産はまだ
なようだ。「お客さん、何?ラッキョウ?」と八百屋の奥さん。「鳥取が欲しい
んだけど、まだかなぁ?」と、私。すると店の奥からダンナが顔を出してついで
に口も挟んだ。「ここんところ、シャキシャキしたラッキョウを食べたかったら
鳥取は薦めてないんだよ」というのだ。「それに高いよ鳥取は。キロ750円か
らだからね」とも。そしてだめ押しに奥さんまでもが「そうそう、お客さんが2
年続けて鳥取産を漬けたけど、柔らかかったって言うんだけど、どうしてかしら
ねぇ?」と首を傾げる。私が2年間サボっているうちに鳥取よいったい何があっ
たのだ!と心配する気持ちの片隅で、それじゃあ、今年は鳥取を辞めてしまった
らどうだろう・・と悪魔がささやく。しばし、悩む私。「これで十分だよ」と夫
婦そろって八百屋が私を見つめている。う〜ん、困った。しかし、決断だけは大
根の発芽の如く早い私(注:大根の発芽は少なくとも三日はかかりますが、他の
野菜に比べたら非常に早いのです)。「それなら、これでいいや。これちょうだ
い」と言っていた。あああああああああああああああああああああああああああ
さて、買い込む量が問題である。すると「すごく簡単な漬け方があるんだけど、
その方法だと、容器の大きさだけ分かっていれば量が決まるよ」と奥さん。その
漬け方とはNHKのとある番組で昨年紹介されたものなのだそうだ。そして、八百
屋の奥さんも実際にやってみたら本当に簡単に美味しくできるので、八百屋であ
りながら(いや、八百屋だからこそと言うべきか)レシピもつけてラッキョウを
売っているとのこと。なんと痒いところに手の届く、商売上手な奥さんであろう
かと感心した。「どれぐらいの容器なの?」と聞かれて「う〜ん、直径がこのぐ
らいで、天地のサイズがこのぐらい」と宙でだいたいのイメージを手を使って表
現すると「そんなにデカイの?それじゃあ10kgはいけるな」とダンナ。「で
も、ラッキョウ剥くの大変じゃない」と心配気な奥さん。そして、またもや即座
に決断する私。「大丈夫、うちの主人ラッキョウ好きだから手伝ってもらうわ。
10キロちょうだい」。あああああああああああああああああああああああああ
さて、堆肥10キロなんて簡単に積み込んで颯爽と三郷を駆け抜ける私なので、
ラッキョウの10kgなんてへのカッパと思っていたのだが、自転車が妙にフラ
フラする。あっ、と気がつけば前輪の空気が思いきり抜けていた。なんとかヨロ
ヨロしながら無事わが家に到着。奥さんに書いてもらったレシピをみると「洗い
ラッキョウ1kgに対して酢2カップ、水2カップ、砂糖2カップを沸騰させ、
容器に入れたラッキョウに沸騰した溶液を一気に入れて、塩大匙3、種抜きの鷹
の爪適量を加えて、ガーゼで表面を覆って3週間漬け込む」とある。ただこれだ
けのことだ。しかし、10kgのラッキョウって剥いたらどのぐらいになるのだ
ろうか?を聞き忘れた。しかたない、適当に酢と砂糖を買って来よう!と再度買
い物に。体に少しでも良ければと思って500ccの純米酢を5本、1kg入り
のザラメを4袋も買い込む。ディスカウントショップで買ったのだが、ほとんど
買い占め状態となった。すまない、今日ラッキョウを漬けようと思っていた近所
の奥様、と心で詫びつつカートでレジに運ぶ。再び空気の抜けた自転車で家に向
かう。自転車に空気ぐらい入れたらいいのにと思われるかも知れないが、実は私
夕方からの取材で松本に行かなければいけない。「あさま」と「しなの」を乗り
継いで行くのだが、本数が少ないので乗り遅れたら大変である。そこで自転車の
空気を入れる暇も無いほど実は時間が迫っていたのである(言い訳させてもらう
とこういうことです)。あああああああああああああああああああああああああ
出張から帰ったのが夜の九時半。主人は早く帰ってハムスターの餌やりと自分の
食事をすませてくつろいでいた。そこへ嵐のように帰ってきた私。着替えと簡単
な食事をとった私は既にやる気満々。「さあラッキョウを剥かなくては!手伝っ
てね」とウムも言わせず「う〜む」という主人を後目にラッキョウを流しに運ん
だ。箱を開けるとラッキョウは待ってました!とばかりに臭いを放つ。洗い場は
主人に任せ、私は洗い上がったラッキョウのお尻と頭を切り落として皮を剥いて
いった。次第に台所と言わず、リビングと言わず、全室がラッキョウの臭いに染
まっていくのにも気がつかず、何かの修行のようにラッキョウ洗い、ラッキョウ
を剥く作業は見事な連携プレーで続けられた。あああああああああああああああ
気がつくと時計の針は午前2時・・。腰が痛い、目が痛い、指を包丁で切ること
2回、さらに臭いが鼻につきすべてがラッキョウの香りとなる。10kgのラッ
キョウは侮れない、と私はサトリを得たのであった。しかし困ったことが一つ。
なんと予定していた容器の倍量のラッキョウがそこに存在していた。しかたがな
いので、残り少ない3年モノの梅酒を別の容器に移しかえた。確認したところわ
が家にあった容器はなんと5リットル用。さして大きくない。私が八百屋の店先
で描いた容器の大きさは、単なる思いこみの大きさだったのだ。あああああああ
無事に2本の容器に収まりスタンバイしているラッキョウの傍らで、今度は漬け
込む溶液を沸騰させる作業に入った。適当に酢を10カップ、水を同量入れてザ
ラメをカップで量り鍋に入れると1kgの袋でだいたい8カップ分もあった。な
んで4袋も買ってしまったのだろう。カルメヤキでも作るしかないなぁ・・と反
省。「そうだ!梅酒もザラメにしよう!」と、転んでもただでは起きない私。
さて、沸騰した液体に塩を適量、鷹の爪適量を入れて軽くかき回して、一気に容
器へ注ぎ込んだ。生のラッキョウは溶液に浮かぶ。そこで、浮いたラッキョウの
頭が乾かないようにガーゼを表面に被せてやるのだということが分かった。ここ
で、フタをしてはいけない。完全に冷めるまでフタをせずにそのまま放置するの
がポイントなのだ。時計の針は3時を示していた・・・。ああああああああああ
翌朝(今朝のことです)、まだビンは冷め切っていなかった。午前10時過ぎに
やっと冷えたのでフタをする。褐色の液体の中で、思い思いの向きに浮かぶラッ
キョウは愛らしく、私にほほみかけているかのよう。かわいいヤツよ。しかしそ
れにしても臭い。いまだにラッキョウの臭いはわが家から去らず、私の鼻の中に
も巣を作っているかのように臭い立つ。どこもかしこも臭い、臭い。あああああ
八百屋には梅も予約してきた。もちろん紀州の南紅梅である(さて、どうなるこ
とやら)。梅酒用に2キロ。梅干し用に10キロ。間もなくわが家は梅の香りに
包まれるはずである。それにしても、やっぱりラッキョウ漬けは夜中にやる作業
ではなかったようである。(1999.6.2)aあああああああああああああああああa
並んで並んで。ハイ、ポーズ!
3週間後には立派なラッキョウ漬けになる予定の皆さん。

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