新宿に一人残されたぼくに、声が語り掛けてきた。
−なんで彼女が帰ってしまったか分かるか? 君に魅力がないからだよ。
違う! だって写真の現像があるって…。
−そんなのをマトモに信じてるのかい? 本当に君はお人好しだな。さもなければ嘘吐きだ。テレクラで知り合ったんだろう? 口説かれに来てるんだよ。なんでちゃんと口説こうとしないんだ。
口説くったって、今会ったばっかりなのに、急にそんなこと…。
−ちょっと待てよ。それがテレコミなんじゃないのか? だから君は所詮「人類学者」なんだよ。
でも、今まで別れた彼のこと、相談に乗ってあげたりしてたのに、急に口説いたりしたら彼女は傷つくかもしれないし…。
−それだ! そこなんだよ、君の一番の問題点は。「彼女が傷つくかもしれない」? 奇麗事ばかり言うな。君は、自分が傷つくのが怖いだけだ。女性たちは、とっくにそんなこと見抜いてるよ。
そ、それは…。そりゃぼくは傷つくのが怖いよ。でも傷つくのは誰だって怖いじゃないか! いいんだこれで。ぼくも傷つかないし、相手も傷つかない。何が悪いんだよ!
−今度は開き直りか。そうやって自分の殻に閉じこもって、一歩も前に踏み出そうとしない。
だって、しょうがないじゃないか! ぼくはぼくだ!
−で、そうやって自分のことを棚に上げて、またいつものように他人の分析をしたり批評をしたりするのか。まったく大したものだ。
分かったよ。じゃあどうすりゃいいのか教えてくれよ!
−教えてくれ? ふざけるな! 少しは自分の頭で考えるんだな。いい大学を出ていることが自慢らしいが、考えることはできないと見える。
自慢なんてそんな、一度もしてないよ!
−自分ではそのつもりかもしれんが、言葉の端々に見えるんだよ。君の、自分は他の人とは違うっていう、消しようのないオーラが。
そんなこと言われても…。
−そんなことも分からないのに、君は得意気にあんな文章を書いているのか。呆れてものも言えないな。
…。
それに呼応するように、いろいろな声が聞えてきた。「お前が人間としてつまらないからモテないのだ!」「自分が恥ずかしい思いをするのが、そんなに嫌? あなたはきっと、自分の立場のためなら、人のことも何とでも言えるんでしょう」「この人は一体、何をしたいんだろう」…。