フィールド・ノート…1998年10月

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10月3日…成果ゼロの日

今週のぼくは、土曜日の初「ゲット」未遂の余韻を引きずったまま過ごしていた。まるで絵に描いたように「うまくいって」いた。最後の最後を除いて。結局、ぼくはそれほどセックスがしたかったわけではなかったのだ。ホテルに行ったのも本当に成り行きだった。その辺の事情は彼女の立場からしても同じだったはずで、最後まで行ったかどうかはそれほど問題ではないようにも思えた。ただ確かなのは、9月26日の彼女が、ぼくの今後の「テレコミ」生活において、一つの「基準」になっていくだろうということだった。

土曜日に渋谷のテレクラに行くのが習慣になってきた。このサイトを始めたことも、その大きな要因になっている。フロントの店員さん(眼鏡をかけた知的なタイプの人)にも名前と顔を覚えられたようだ。ただ彼によれば、今日は鳴りが最悪らしい。

1件目は入ってすぐで、109の近くの公衆電話からかけてきた24歳。挨拶のあと、お決まりの「今日はどうしたの」みたいなことを訊こうと思うと、「みんな同じなのよね。『今日は暇なの?』とか言うけど、暇だからかけてるに決まってるじゃない。わたしもちょっと語学とかやってるし、そういう言語能力のない人って嫌になっちゃう」。嫌になるのはこちらの方だ。「海に行きたい」などと言っていたが、こちらは電車で来ている。車で来てる人を探してもらうことにする。

気分が乗らなかったので切ってしまったが、多少無理しても「アポ」を取るべきだったかもしれない。そのあとから電話は完全に沈黙を守っていた。アダルトビデオをかけながら、「金融渉外技能検査」の勉強などしてみる。「このままだと、今日の日記のネタがないな」そんなことも頭をよぎった。たぶん先週がうまく行き過ぎだったのだ。その反動が出ているのだ。

ぼくは勉強をあきらめ、入店前に買った何冊かの本を読みはじめた。これらの本についてはこのサイトで紹介というか書評を書いてみよう。今日は日記のネタもなさそうだし。そんなことを考えていた。

もうすぐ2時間になる、というギリギリの時間に、2本目の電話が鳴った。ハチ公前からかけてきた「19歳」。今日はどうしたの、と訊いてみると「えー、晩ご飯食べたぁい」とのこと。ぼくのカンではこれはスッポカシだ。19歳というのも怪しく、むしろもっと若いような気がした。まあ丁度出る時間だし、アポを一応取り、待ち合わせ場所に行ったが、やはり来なかった。

今日のことに限らないが、公衆電話からテレクラに電話をかけてアポだけ取り、来ないというスッポカシのスタイルは、どう理解したらいいのだろう。「どんな奴が来るのか見てやろう。ダサイ奴だったら嘲ってやろう」ということか。とりあえず約束しておいて、また別のテレクラにかけていい感じの人を探しているのか。

どちらにせよ、たとえアポは取れなくても、自宅からのコールとじっくり取り組む方がぼくの性には合っているのかな、と思いながら家路についた。

10月4日…20歳、声優志望はちょっと風邪気味

今日は昼間に白金台に用事があり出かける。用事は3時ごろに終わったので、少し迷ったが土日連続で渋谷へ出ることにする。今日は1時間コースで行こう。

入ってすぐに一本目。自称26歳。「ねえあなた、服脱いだらセクシーなからだしてる?」うーむ。どういうんだろうこういうの。頻りに「どんなパンツを穿いているか」「今見ているアダルトビデオには若い男優が出ているか」などの質問を発する。テレホンセックス希望なのかな? 適当に調子を合わせていたつもりだったが、10分くらいで「フロントに戻してくれる?」ときた。なんだかなあ。

2本目。20歳のフリーター。今日は大宮の自宅からかけている。昨晩から風邪を引いて寝込んでおり、今やっと少しだけ気分が良くなってきたところ。「何か寂しくて」。

テレクラには時々かけているようだ。「いつも逢ったりはしないんだけど、この間たまにはいいかと思って逢って晩ご飯を食べたの。そしたら最悪で」。「何かひどいことされたの?」「うん、まぁありがちな話なんだけど、レイプまがいっていうんですか? 無理矢理されそうになっちゃって。最初『お前みたいなガキにそんなことする気ねえよ』とか言ってたから大丈夫かなと思ってたのに。もうぜったい逢ったりするの止めようと思ってるんだ」。

相手は26くらいで、モデル系の男(ただし好みではなかった)。電車がなくなって、彼の家について行ってしまったらしい。結局最後まではされなかったが、「口で出してあげた」んだそうだ。風邪はその男にうつされたらしい。でもついこの間そんな怖い目に遭っていて、性懲りもなくまた電話してくるっていうのは、どういう神経なのだろう。

声は舌足らずで子供っぽい。「(声が)ちびまる子ちゃんとか、クレヨンしんちゃんに似てるって言われる。自分では峰不二子のつもりなんだけど」。実は声優のオーディションも受けたことがあって、養成所に入らないかと声をかけられたが、家が貧乏で(両親はなく、兄と二人暮らしらしい)、学費が工面できそうもないのであきらめた。「でも夢としては、やっぱりそういう勉強してみたい」。

原宿辺りに行くとよくスカウトされるんだそうだ。新宿では風俗で働かないかと声をかけられた。写真指名に使う写真だけ撮らせて2万円貰った。「翌日から指名殺到だったんだって」。

話がここら辺まで進んだところで、「ごめん、なんか熱っぽくなってきた」ということで切られてしまう。声は確かにアニメ声だったので、養成所に誘われた話は満更嘘でもあるまい。でも風俗店に写真を売ってしまった話などを聞いていると、悪い男に騙されなければいいが、と彼女の将来に少々不安を感じた。

10月10日…リベンジ・マッチ

今日の「日記」はいつもと少し趣向が違う。これまでは基本的に、テレクラへ行き、そこで電話が繋がった女性たちとの会話を中心に話を進めてきた。今日は、ぼくはテレクラへ行っていない。9月26日にぼくが「ゲット」し損ねた女子大生との、二度目の「デート」だからだ。

待ち合わせが3時だったので、取りあえずお茶をする。ぼくが学生時代から半年前まで5年半付き合っていた前の彼女と、いつも行っていた喫茶店に向かう。ここの紅茶とケーキも久しぶりだ。…少々話が脇道にそれた。今日の話である。前回は聞いていなかったのだが、彼女は寮住まいであり、無断外泊したことで翌日は管理人さんから2時間説教をされたのだそうだ。悪いことをしたなあと思う。今日は門限(午後10時!)に間に合うように返してあげなければ…。

* * * * *

どんなデートをしたか、ということをここで詳しく述べるつもりはない。ただ今回も「ゲット」はしなかった。それは、(あるとすれば)次回、ということになるだろう。

ぼくの「テレクラ」観は、変わりつつあった。明らかに彼女は普通の女子大生で、別に遊んでる方でもなく、セックス好きでもなく、でもでもなかった。9月12日に話した別の女子大生に聞いた話の通り、テレクラで「出会う」ことは、彼女たちにとって特別なことではない、ということなのだろうか。

当初、ぼくの関心は「なぜ彼女たちはテレクラに電話するのか」ということにあった(と思う)。しかし1ヶ月にわたって通ってみて、そんなことは全く疑問でもなんでもないことが分かってきた。テレクラ(別にツーショットでも伝言でもいいが)は現にそこにあり、それを利用することには何のリスクもない。それはほとんどテレビを見るのと同じようなものである(NHKには受信料があるが、民放を視るのはタダである)。ある番組を見る人もいれば、見ない人もいる。毎週決まってその番組を見ているような人も、たまたまヒマな時にテレビをつけたら面白かったので、見続けているだけかもしれない。もちろん、中にはテレビ番組にのめり込んでしまう人もいるだろう。結局、どの女性がテレクラを利用し、どの女性が利用しないかということは、まさに偶然でしかないのである。

10月18日…33歳、不良ママ、息子は中学1年生

この日はいつもと場所を変え、錦糸町のテレクラへ行く。錦糸町、というところに特に仔細はなく、この日ぼくが受験した「情報処理技術者試験」の会場がここだったからである。渋谷と違い、錦糸町辺りだと普段車を運転していないぼくには多少不利があることは分かっていた。今日も当然電車で出てきている。

試験を早々に切り上げ(分からないものはいつまで考えていても仕方がない)、3時過ぎにはテレクラにいた。大変鳴りが悪い。フロントのお兄さんに後で聞いたところでは、「こんなに鳴りが悪いのは初めて」「こっちの胃が痛くなってくるくらいだった」とのこと。実質的な1本目を取ったのは4時半過ぎであった。

33歳の人妻。ぼくが自分の年齢を言うと、若いので驚いていた。「33歳ですけど、いいんですか?」と頻りに恐縮している。ぼくとしては、このフィールド・ノートに今まで「人妻」の項がなかったので、むしろ大歓迎である。声だけで言えば、なかなか艶があって悪くない。

夫は44歳。付き合いはじめたのは彼女が14歳の頃からだったそうだ。「といっても、今の若い子みたいな付き合いとは違いますけどね」。20歳で結婚し、子供を産んだ。昨年から単身赴任中で、今は13歳の息子と2人暮らしである。「学校出て1年ちょっと会社勤めもしたけど、ずっと自分の親とか、主人がいたから、誰にも怒られずに自分の自由にできる生活って、初めてなんですよ」。ずいぶんと羽を伸ばしているようだ。それはそうだろう。33歳といえば、まだ独身でもそんなに不自然ではない年齢だ。

「こういうところでお話して、ドライブに誘われたりして、家の近くまで来てもらって家を出るときのドキドキする感覚が好き。自分がキレイになれる気がするんですよ。自分より若い男性とお酒を飲んで、敬語でなく『お前、何バカなこと言ってるんだよ』なんて言われてるときの自分がかわいく感じる。ちょっとナル入ってるかもしれないんですけどね。もうこの年だし、気を抜いたらすぐオバサンになっちゃうから、いつも他人の視線を感じていたいんです」。ドライブして、お酒飲んで、その先は? 「それはまあ、フィーリングが合えば、エッチしちゃうこともありますよ。でも、その時はそれがごく自然なことだから」。

ぼくが感心したのは、彼女が自分の行動に完全に自分なりの自信を持ち、疚しさを微塵も感じていない(ように見える)ことだった。ご主人にはバレてませんか? 「バレてない…と思います。でも、向こうも(単身赴任先で)同じようなことをしているでしょうし。でも例えば、その仕返しにこちらも遊んでやれ、というのとは違うんです。そんな気持ちで遊んでも、楽しくないでしょう?」

よく朝帰りをするので、新聞配達のお兄さんとは顔なじみだ。「近所の人たちには良く思われてないみたい。『マンションの風紀を乱す』と注意されたこともありますよ。でも誰に迷惑をかけているわけでもないし、わたしはわたしの生き方を変えたくない」。

食事に誘ってみた。「誘っていただいてありがたいんですけど、食事は今晩は駄目なんです。息子に秋刀魚を焼いてやらないといけないから。秋刀魚は息子の注文なんですよ。カレーなんかだと、作っておいて『じゃママは出かけるから』と言って出てこれるんだけど、焼き魚だとそうも行かないでしょう」。そうだ、彼女には中学生の息子がいるのだ。息子に夜遊びを黙認してもらうためには、家事はサボれない。「やることやらないで遊んでいたんじゃ、息子に何を注意しても説得力なくなっちゃいますから。まあ、こんな不良ママだから、息子もちょっと不良みたいになってますね。まだ中1だから、かわいいもんですけど」。

ぼくには、彼女の息子の心情がどんなものか、想像がつかなかった。彼女は「お酒かドライブなら…」という雰囲気だったが、車もないし、明日は会社なので、今日はこれで帰ることにする。

10月21日…23歳、ヴォーカリストの暇つぶし

この日は夕方から目黒へ出張で、その用事は5時で済んでしまった。普段は9時か10時まで仕事をしているのだが、今から大手町に戻るという気にもなれない。職場には直帰する旨連絡を入れ、渋谷へ。雨が降っており肌寒い。

1件目の援助希望をパスした後取ったのが、今職場にいる、という23歳。職場とはレコーディングスタジオで、昨日からずっと居続けなのだそうだ。職場の人は先ほどから飲みに出かけてしまい、彼女は一人で留守番をしている。今日はJUDY AND MARYのレコーディングがあるのだが、スタジオ入りが遅れていて9時ぐらいになってしまいそうなので、それまで暇である。純粋な暇つぶしコールなのだが、まあ折角なので付き合うことにする。

彼女自身、バンドをやっている。彼女はボーカルで、残りのメンバーは全員男性。コピーは全くやらないバンドで、やる曲はすべてオリジナル。彼女が詞を書き、リーダーでギター担当の男が曲を書いている。詞は小学生くらいの時からずっと書き続けているそうだ。この間スタジオで書きかけの詞をその辺に置いておいたら、その時ちょうどレコーディングに来ていた小室哲哉の目に留まったらしく、彼女が外しているあいだに赤鉛筆で添削されてしまった。「周りの人からは、すごいじゃん、とか言われたけど、勝手に赤鉛筆なんかいれて、失礼だと思わない?」

少しは色っぽい話も聞きたいなと思って少し突っ込みを入れてみる。バンド内で恋愛沙汰とかはないの? 「バンドの中でそういうことがあると、その後うまくやっていくのは至難の業だから。メンバー全員に、そういうことはナシって言ってある。でも昔は、それでやめちゃった男の子もいた」。

ファンもちゃんとついているらしい。「ウチのバンドのメンバーは、絶対ファンの子には手を出さないの。それをやっちゃお終いだから。昔いたメンバーが、ファンの子と相当むちゃくちゃなことをやって、リーダーが『そういうことだったら、お前とは一緒にやって行けねえ』って、やめさせたこともある。そういえばこの間、家を出ようとしたら、ファンの女の子がいて、ついてくるの。怖くなっちゃった」。

デビューとかは? 「ここに勤めてる関係で、レコード会社の人とは知り合いになる機会があるから、演奏を見に来てもらったりとかはあるよ。でもどうかな」。それほど野心はない、ということらしい。

あとは色々な歌手のゴシップなんかで盛り上がったが、誰か帰ってきたかどうかしたらしく、かけ直していいかと訊かれる。今日は1時間で入っていたので、これでバイバイということにした。話は楽しかったのだが、本当に暇つぶしで、先々の展開は見込めそうになかったからだ。

純粋の暇つぶしというのは、時々ある。女性にとっては、特に何も気兼ねせずに他愛もない話をして時間をつぶせるのだから、テレクラは悪くない娯楽だろう。変な人や、合わない人が出たら、切ればいいだけの話なのだから。

10月31日…現在使われておりません

この日は、9月26日の女子大生と3回目のデートをする約束をしていた。約束をしたのが水曜日。待ち合わせ場所を決めるため、金曜の夜に電話をしたが、電源が切れているときのメッセージが流れていた。そこでこの日の朝あらためて電話してみたところ、

お客様のおかけになった電話番号は、現在使われておりません

何回かけても同じだ。ぼくは結構傷ついていた。もう逢いたくないのなら、直接そう言ってくれれば良いのだ。お互いそんな変なヤツではないことは分かっているはずなのだ。それに、ぼくが変なヤツだったとしたら、彼女の個人情報は十分手に入れているのだから、ストーカーに変身することは容易なのだ。いきなり電話番号を変えるよりも、ハッキリ言ってくれた方が、一般的に言って危険は少ないはずなのだ。

そう言えば水曜日辺りに、「ここの携帯使えないから変えようかな」というようなことも言っていたから、会社を変えるときに、そのことをぼくには連絡しなかった、というのが真相に近いだろう。

ぼくはむしろ、このことで傷ついている自分が不思議だった。所詮はテレクラで知り合った女の子ではないか。一体ぼくは、彼女に何を期待していたのか。いろいろな「テレコミサイト」を見ていると、その「マッチョ」なノリに時々ついて行けないこともあるが、大変ためになる格言もよく見つかる。こういうときの格言には、こういうものがある。

次いこ、次

テレコミで負った傷は、テレコミで癒すしかないのだ。ぼくはこの日、テレクラを3軒ハシゴした。そこでの成果は項を改めて述べよう。


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