平成12年(ワ)第348号
原  告 篠 田 通 弘
被  告   財団法人岐阜県文化財保護センター

準備書面(2)

                         平成13年4月10日

                  原告訴訟代理人
弁護士 水  谷  博  昭
同   丸  井  英  弘
同   井  口  浩  治

岐阜地方裁判所 民事2部 合議係 御中


第1 原告と被告との雇用契約について
1 原告と被告との間の雇用契約については、原告準備書面(1)第一で述べたとおりで、その根拠は岐阜県(以下、県という)と被告との間の「職員派遣協定」である。
2 この職員派遣協定に関しては、いみじくも被告が指摘するように、平成7年4月1日締結分以後(乙3号証の3、4)では、派遣職員の給料支給主体が変更された。
平成5、6年の職員派遣協定第3条では、「派遣職員の給料及び手当(超過勤務手当を除く。)は、甲の負担とし、超過勤務手当及び旅費は乙の負担とする。」と規定されていた。
これが平成7年4月1日以後は、第4条で「派遣職員の給料、手当及び旅費は、乙の負担とする。ただし、退職手当及び派遣職員が甲において勤務した日の給料は、甲が負担するものとする。」と変更された。尚、第5条では「派遣職員は事務連絡等のため、毎月1日は甲において執務するものとする。この場合において、当該派遣職員が甲において勤務する日は、甲乙協議して定めるものとする。」との規定が新設された。
このように、平成7年4月1日以後は、原告は毎月の給料として、1日分を県から、その余の分を被告から支給を受けるようになった。
3 被告はこの変更に関し、被告準備書面(1)において「県の職員専念義務を免除されて被告の業務に従事する職員の給料を、県が負担するという取扱いが誤解を招きかねないということから訂正したと考えられる」と述べる。そして、県はこの変更が「若干の変更」であるとして、雇用主が県から被告に移動することはないと強弁する。
4 また、人事考課に関しては、平成5、6年の派遣協定では規定がなかった。強いていえば、第7条において出勤簿を付けるということだけ規定されていた。
これが、平成7年4月1日以後に新設された第9条では「乙の任命権者は、派遣職員の執務について、甲の岐阜県職員勤務評定実施要綱に定めるところにより勤務成績の評定を行い、その評定の結果を甲に報告するものとする」と規定されるようになった。
5 原告が被告に「派遣」されるにあたって、公務員としての職務専念義務を免除されたことには争いがない。職務専念義務が免除されたということは、原告には派遣先である被告の業務に専従することを意味している。この被告での専従という点から、給料、人事考課においては、被告が主体となることは必然であって、この関係を説明するためには原告と被告との間の雇用契約を抜きにしては出来ないのである。
この職務専念義務免除からすれば、派遣職員に対する給料は被告が支給することは当然であって、かえって県が支給することは間違っていたのである。
従って、従前の派遣協定ではこの点の取扱が間違っていたところ、平成7年4月1日になって、県もようやくこの誤りに気が付き、正しく改めたのであった。
以上の通り、この変更は県の主張するような「誤解を招きかねない」ことからの「若干の変更」ではなく、職務専念義務を免除して派遣したという性質から必然的に導かれる規定に訂正されたものである。
6 人事考課の規定についても、派遣職員が職務専念義務を免除されて派遣されたものである性質上、最初から被告が行うものであることは当然であったが、当初県らがこのことを誤解して人事考課の規定を設けていなかったが、この点の誤りにようやく気が付き、平成7年4月1日に被告が派遣職員の人事考課を行う規定を新設したものである。
7 さらに、これらの前提として、平成7年4月1日以後の職員派遣協定では第2条で「派遣職員は、乙の身分を併せて有するものである。」ことも明記された。乙の身分、すなわち被告の職員としての地位を有するということは、被告と原告との間に雇用契約が発生していることを端的に現しているのである。
従前の職員派遣協定では、身分関係は曖昧にされ、単に「派遣職員は…乙の業務に従事する」(旧2条)と規定されていただけであるが、職務専念義務免除の効果として、被告との雇用関係を明確にする必要から上記第2条のように改められたものである。
8 尚、平成7年4月1日以後においても、派遣職員は毎月1日だけ県の執務を行うものと規定されているが、これは被告らが説明するように派遣職員の共済組合上の地位の継続を目的とするものであって、派遣職員と被告との間の雇用契約には何ら影響しないものである。
9 県らは、それでも給料に関して、県が被告に再委託料を支払っているから、これが実質職員の給料になるとの理由から、上記のような変更は「若干の変更」に過ぎないと強弁するが、そもそも法人間での事業費の支払いと法人内部での職員の給料の支払いは全く関係がないことは説明するまでもなく(例えば、職員を派遣していない企業に対しても委託事業があればその委託料を支払うことは当然である)、県らの主張は全く当を得ていない。
10 以上の通り、派遣職員が職務専念義務の免除されて被告に派遣されていることから、被告と派遣職員との間の雇用契約が現に存在していることは明らかである。また、県らも、平成7年4月1日に職員派遣協定を改正するにあたり、そのことを正しく理解しているはずである。
11 このように原告と被告との雇用関係が発生している以上、被告が原告を解雇するためには正当な事由が必要であることは当然であるが、被告による解雇には正当な事由はなかった。
仮に、被告が派遣という形態での雇用の限界として、派遣元である県から帰任命令を出されることに抗しきれなかったとしても、被告が原告の派遣を受け入れた趣旨、すなわち原告をもって徳山ダム水没地区の発掘調査の担当とすること、に鑑みれば、被告の事業遂行を円滑に進めることと共に、原告にも派遣目的である徳山ダム水没地区の発掘調査の作業を確保する義務があり、その義務に基づき、帰任命令を発令しようとしていた県に異議を申し入れる必要があったにもかかわらずこれを怠ったという義務違反が認められるのである。
以 上

 以上の準備書面は被告財団法人岐阜県文化財保護センターに対する訴訟について、岐阜地裁に提出したものです。財団法人岐阜県文化財保護センターと原告の間に雇用関係が存在したことについて、訴状をさらに補強する書面です。被告岐阜県、岐阜県教育委員会にたいする訴訟においても、同日ほぼ同文の準備書面(2)を提出しました。