Search 4 Silver Clokk

〜銀の懐中時計を探して〜

 黄昏の遊園地で語られた物語は幾多もありますが、その中の最近のものからひとつ。twiLiteの地図が利用され、うまく進んだ物語をあげておきましょう。(ついでに言うと、僕のキャストが初めて巻き込まれていますね。) 御参考に、そして思い出にどうぞ。だいたいこんな雰囲気で書き込んでいただけると、主催側の求めるところと一致します。
野望渦巻く大きな城を離れ、息抜きにやってきた女帝がなくしてしまった大切な懐中時計を巡る物語です。時折、そして最後のパレードには、話に加わっている面々以外の人々も登場してきます。

主な登場人物:
“人形遣い”和知 真弓 イワサキ(のちにLU$T広報部課長)
カリスマ◎,ミストレス,エグゼク● 26?/♀ Player: しおざきゆり

“薄汚れた鑑札”沖真海 NIK所属の探偵
フェイト◎,カブト,レッガー● 24/♀ Player: ARU

“雲”斎 孝祐 ケルビム貸与捜査官
フェイト◎,マヤカシ,カリスマ● 2?/♂ Player: Arashi

“朱雀”香取 瞬 フリーのルポライター兼カメラマン
トーキー◎,マヤカシ,バサラ● 23/♂ Player: kei

カレンシア・ブレナン ブリテンの貴族、アンティーク収集家でギャラリーを経営
カリスマ◎,エグゼク,カタナ● 18/♀ Player: いふる

“クリスタル・シンガー”琴音=フェンデル twiLiteの受付嬢
クグツ◎,カブキ,マヤカシ● 22/♀ Player: いわしまん

..... And many, many aktorz and aktressez.

twiLite


Name: “広報部の華”静元 涼子 Player: いわしまん
【30くらいの男女が中央噴水庭園を歩いている】
「うーん、まさに平和な光景よねー」
 悪戯している子供、焼き蕎麦を手に芝生へ入っていくカップルを
見ながら、彼女は言った。
「しかしあの屋台は納豆まで売っているんだな。妙な店だ‥‥」
 彼女の連れ――アレックスは屋台で忙しく手を動かしているひよこの 着ぐるみを見ながら呟いた。何かを観察する時の鋭い視線。仕事中と同じねと彼女は思った。
 その時、午後のニュースだろうか、twiLite南エリアにある巨大ホロスクリーン【ムーンヴェイル】に画像が浮かびあがった。美しくライトアップされた、陸と陸を結ぶ巨大なゲート。ヨコハマLU$Tの名物、新東京港を渡るヨコハマベイブリッジだ。
「欲望の街、ヨコハマLU$T。ウワサのベイブリッジね。ねぇ、今度行ってみない? 弟に写真を撮っといてもらうよう頼んでるのよ」
「そうか、君には弟がいたんだったな。警官だと聞いたが」
「そうなのよ。ハウンドLU$T支部に、用があるからついでに行ってみるって言ってたんだけど」
 バイクにまたがり、N◎VAを後にしていった弟のことを涼子は思い出した。年が離れている彼女から見ると、弟はいつになっても子供のように思える。
 誇り高く、曲ったことを嫌うあの性格。からかうとむきになって見せる
あの表情。あの真摯な瞳。
「星也――事件にでも巻き込まれてないといいけど‥‥」


Name: 和知 真弓
――ゆっくりと散策する
「たまには、こういうのもいいものだよね」
男物のスーツに身を包んだ長髪の男装の麗人は、そうつぶやく。
たまに入った休日だから、ゆっくりしないとね。
とはいっても、本当はぬけだしてきたのだが。
まあ、書類仕事はかたづけたし、後は秘書の仕事で十分だろう。
やっと、来る事ができたのだから、十分楽しんで帰らないと。

“twiLite”一瞬の夢をもたらす遊園地に足を踏み入れたのは、初めてだった。
ウィルス騒ぎやら、まあ、どこかでありそうな大騒ぎやら、どたばたと動き回る同僚を尻目に、こつこつと仕事をこなしていて少々退屈していたのもまた事実。
初めて訪れる“twiLite”に心が踊っていた。
彼女は、ゆっくりと散策をはじめた。

(おや、あちらは千早のエグゼグさんじゃないか‥‥僕と同じく息抜きなのかな?)
(あそこにいる風船を持ったお嬢ちゃん、随分と元気がいいな)
(しかし、RI財団もいい感じにつくったもんだね。これをイワサキの上の方に報告書という形でまとめたら、面白いかもしれないね)
「おっとと、仕事じゃないんだったね」
真弓は自分の考えにそう苦笑すると、再びゆっくりと歩き出す。

(まあ、RI財団のお手並み拝見としゃれこむかな)
楽しそうに笑うと、ただ、当てもなく歩いて行った。

Name: “リリン”璃琳 Player: 斎藤一条
頼んだカクテルのグラスが空になる頃。
視線を感じた。なんだろうと思い振り返る。その先には銀髪の二十代後半ぐらいだろうか、青年が彼女を見ていた。
璃琳が振り返ったのに気がつくと、控えめなーだが、自分の見せ方を十分に心得た笑顔を見せる。
通った鼻梁に理知的な、しかしどこかに野心を秘めていそうな目元。
暗がりでよく見えないが、左右の色が違うらしい。本来、異相といっても良い特徴なのに、逆にそのアンバランスさが月光のような髪とも相まって、彼の整った顔立ちに透明な夜の空にも似た雰囲気を与えている。
(あら‥‥良いタイミングで現れて下さった男性ですこと。素敵な方でなにより‥‥)
心の中で素早く相手の採点をしていることなどおくびにも出さず、微笑みで応える。
緋牡丹にもベルベットローズにも劣らない艶花の微笑み。陽光の中で咲き誇るよりも、月明かり、夜の中でこそ映える月下美人の如き仄かな、だが人目を引きつけて離さない静かな煌めきを纏わせて。
「これ、下げてくださるかしら。次のグラスはカリエンで、向こうに」
バーテンに頼んで、スツールから立ち上がる。すっと背筋を伸ばして歩く姿に、一瞬ここでなにかのショーを催されているかのような錯覚を周囲に与える。
「お隣、よろしくて?」
銀髪の青年、ルース・ブライトンの隣に立ち、璃琳が言う。
店内には静かなピアノの演奏と、人々のさざめきに満ちていた。


Name: ルース・ブライトン Player: 伊林陸
こちらの微笑みに応じて返って来た、あでやかな笑み。
正反対の反応も考えていただけに安堵する。
彼女がスツールから降りてこちらに歩いてくる。姿勢がいい‥‥堂々とした、歩き方。顔の造作や姿の華やかさを、媚びたものではなく‥‥ある種潔いような、そんな印象を与えている。
「お隣、よろしくて?」
「‥‥ええ、どうぞ」
一瞬、目が真正面から向き合う。東洋系の顔立ちながら、サファイアのような青い瞳。
何もかも見透かされるような感じがした。
軽く手で隣を勧めながら、バーテンに声をかける。
「マリア・エレナを。それと‥‥軽いつまみを。チーズでもお願いできますか」
璃琳が隣に座っても、しばらくはこれといった会話はなかった。
まるで以前からの知り合いどうしが共に飲んでいるかのように。
注文したものが目の前に置かれたのをきっかけにルースは口を開いた。
「先ほどはため息をついておられたようですが‥‥・何か心配事でも?」
どういう答えが返ってくるか、ゲームを楽しむかのように楽しんでいる自分を頭の隅で自覚しながら。


Name: “クリスタル・シンガー”琴音=フェンデル
【静かな中央噴水庭園。ある者たちは平和にたこやきをつつきながら談笑し、ある者たちは気配を消して挑発しあっている頃。広場の一角にいるのは、腕に腕章をつけたビジネスジャネットの女性と、制服を着たポニーテールの若い娘だった】
 カメラが用意され、琴音は情報端末の前でやや緊張して待っていた。
何度も経験はあるが、どうもいざとなると身構えてしまう。
「琴音ちゃん、いい?」
「は、はい‥‥」
社の情報サービスで取材に来ているう横の女性――静元涼子が目配せする。
彼女には仕事以外の時に世話になっていたが、手慣れたものだった。
「いくわよ?ではカメラの方、スタート‥‥はい、皆さんお元気ですか?  本日は黄昏の遊園地twiLiteからお送りしております! さてさて、なんでも最近新しい店がオープンしたとか。ここで、事務局受付担当の琴音=フェンデルさんに聞いてみましょう!」
「はい、え、えーと、こちらの情報端末を御覧ください。北西ストリート、【マジシャン・オヴ・ザ・ウェスト】に新しいお店がオープンしました。
その名は《クリムゾン・ヒート》。トマト料理専門のお店です。ドロイドの店員たちが出迎えるこのお洒落なお店、皆さんもお立ちよりくださいね‥‥」


Name: 沖 直海
「あ〜、ここだここだ」
まるで男性のように短く切った黒髪をかきまわし、沖は煙草に火を付けた。
前から来よう来ようと思っていたのだが思うに任せず、今日依頼人にすっぽかされてぽっかり午後が開かなければ、おそらく来る事はなかっただろう。正直、かなりむかついていたはずなのだが。
「はあ‥‥」
空を仰いで、感嘆のため息が唇から漏れる。 N◎VAっこの大多数の例に漏れず、沖も「満天の星空」と言うものにお目にかかった事が無かった。
ついっと一瞬、星の一つが光って流れた。
咥え煙草の短さで、自分で思っていたよりも長い時間、この星空に見入っていた事に気がついた沖は、苦笑してつぶやいた。
「ホログラフだろうけどさ‥‥悪くないよね」
いらいらはきれいに夜空に溶けていた。
‥‥これもパークの魔法の一つ?
思いながら、足早にパーク案内に歩み寄ろうとして‥‥どしん!
誰かにぶつかった?!
「あ‥‥!」


Name: “開店休業” 銀曜日 賢 & “魍魎の仔” 美馬宮 瑞葉 Player: いふる
和服姿の青年が、公園を歩いている。
あっちふらふら、こっちふらふら‥‥何かを探しているようだ。
「どうしたんです?こんなトコで‥‥」
青年は、久方ぶりの聞き覚えのある声に顔を向ける。
そこに立っていたのは、女童とも言えそうな和服姿の少女だった。
「ひょっとして、のぞき?」
そう言う女童の視線の先には、芝生の上でくつろいでいるカップルがいる‥‥。
「見当違いだな、私はネコを探しているのさ。この辺で見掛けたって言う
目撃証言があってな‥‥該当するネコか確かめに来たのさ‥‥。」
「珍しい事もあるんですね。『私は、銀曜日にしか働かない』って、言ってたのに‥‥」
「‥‥そういう瑞葉こそ、屋台に行かないのか?大食いのくせに‥‥」
「もう、行って食べました‥‥」
「‥‥‥‥」


Name: 和知 真弓
――星空の下にて
綺麗な星空をみあげながら、意味もなく散策しているとこの前中華街のバーで出会った少女の姿を見掛けた。
連れ添うように歩いている銀狼が不思議な彼女の雰囲気にあっていて、美しかった。
(グリンダさんじゃないかな?御散歩かな)
声を掛けようとパーク案内から離れて歩き出したその時、どしん!
誰かにぶつかった。
自分と同じように何かに気をとられていたのか、短髪の女性がよろけて、倒れる。
勿論、自分もよろけて倒れた。
「‥‥いたたた、失敗、失敗。こんな姿部下にはみせられないよね」
ぱんぱんと上物の男物のスーツの汚れをはらうと、長髪の男装の麗人は、倒れた女性に向かって手を差し伸べた。
「怪我はなかったかなかな?お嬢さん。僕は大丈夫だね」
人を魅了するにこやかな微笑みとともにそういって和知は女性に話しかけた。


Name: “朱雀”香取 瞬
20代前半の男がバイクを止めるとゲートを潜り、公園に入ってきた。黒い髪、黒い瞳、黄色い肌。割と整った容姿を持つこの男、一見では生粋の日本人に見える。
男はフリーのルポライターをやっている。しかも追っているネタは決まって危険な犯罪。
しかし、今日は仕事でここに来たわけではなかった。ただの休暇という奴だ。

(そうそう、最近ここの公園にトマト料理専門の店があるって聞いたな‥‥話のネタに行ってみるかな)
そう思い、公園を歩いていた青年の目に、男装の麗人と短髪の女性がぶつかって倒れたのが見えた。麗人の方は無事に立ち上がったようだが‥‥。
「おいおい、大丈夫かい‥‥お二人さん?」
彼は思わず二人に声をかけた。ふと、麗人の服の汚れがまだ落ちきっていないことに気づいた。
「そこの人‥‥えっと‥‥服の裾、まだ汚れているぜ」
ハンカチを差し出しながら彼は彼女に小声で指摘した。あまりこんな事を堂々と言うべきじゃなさそうだろうし‥‥


Name: 沖 直海
‥‥お嬢さん?
その台詞が自分に向けられたものか否か一瞬とまどった。
しかし、目の前の麗人の笑顔は確かに自分に向けられている。
>「おいおい、大丈夫かい‥‥お二人さん?」
さらに親切にも通りすがりの男性が声をかけてきた。
「ええ、大丈夫です、ありがとう」
沖にしては珍しく、営業用ではない本物の笑顔を向ける。
同時にほとんど癖になっている相手への詮索の目を素早く走らせた。
(女性の方は企業の重役、何らかの功績ではなく周りから慕われ自然に出世するタイプのようだ。男性の方はメディア関係者。自信と野心が感じられるあたりから推察するにフリー、危険な仕事を追いかけるタイプか?)
男性が女性にハンカチを渡し、何やらささやいた。普通の人間なら聞き逃していたかもしれないが、沖は目も耳もサイバーウエアで強化している。ばっちり聞こえた。
「ごめんなさい、クリーニング代を出させてください?」
いいながら立ち上がりフェイト・コートの裾を払おうとして、足首に激痛が走り、沖は思わず上げかけた悲鳴を飲み込んだ。
声は上げずに済んだがへたり込んでしまう。
どうやら転んだとき、ヒールのせいで足を変にひねったらしい。
‥‥ついてない。


Name: “雲”斎 孝祐
 見た目は20代後半、身長は180cmに少し届かないくらいだろうか。男がトワライトの中にいた。
(‥‥暇だ。)
友人に用事の手伝いを頼まれて休暇をとったまではよかった。
だが、当の本人が入院してしまったのだ。
とりあえず見舞には行ってきた。しかし、それだけで1日を潰せる筈もない。そして病院からの帰り道ちょうどこの公園が眼に入ったのだった。

 特に目的もない男は、その字の如く風に流される雲のように、星空の下をぶらぶらと彷徨っていた。
(さてと、これからどうするかね。向こうのトマト料理店で飯も食ったしなあ、やることがない。)
 そう考えながら歩く男の目に入ったものがある。
何処かで見た顔が、短髪の女性と存在感を感じる男性の3人で居る。
(妙なところで彼女を見かけるな。随分毛色の違う組合せだが、他の二人は彼女の友人かね。邪魔しちゃわるいな。)
 そうして、男はまた何処に行こうか考えることにした。が、
(待てよ。挨拶ぐらいはしておくか。)
 思いなおし、彼女達の方に向かって歩き始めた。


Name: 和知 真弓
――はてさて
短髪の利発そうな女性に手を差し伸べると、自分達がよろけて倒れたのを見ていたのだろうか?黒髪の割と端正な顔をした、男性が自分ににむかって小声で話しかけ、ハンカチを差し出しだ。
その男性にいわれた通りにスーツの裾を確認すると間違いなく汚れていた。
「有難うお兄さん、僕は大丈夫だよね」
ハンカチを受け取りながら、自分を実際の年齢より低く見せると言われる口調と笑みをみせて、男性に言った。
そのまま有り難く、ハンカチで裾を拭わせてもらう。だが汚れは僅かに残ってしまっている。
(この人‥‥確か‥‥)
どこかで見掛けた顔。そうか!確かフリーランスのルポライター。
彼に犯罪を暴露された為に、いなくなった同僚がいたような‥‥最も、和知自身はその同僚になんの感情もいだいていなかったのだが。
「ハンカチをよごしちゃったね」
ただ、申し訳なさそうに、和知はその男性にいった。

倒れた女性がすまなさそうに謝りながら、立ち上がろうとするが、足でもいためたのか、うまく立ち上がれない。
「足首でも痛めたのかな?だとしたら大変だね、僕のスーツなんてどうでもいいから、早く医者に見せないとね」
わたわたと起き上がれない女性に近づいて屈み、足首の様子を見るが、専門の知識のない和知にも明らかに痛めているのが分かった。
(こっちの女の人はフリーランスかな?そういう仕事をしている感じだね‥‥ここであったのが何かの縁だし、こういう事でいい人材と知り合えるなら、そんないい事はないよね)
そんな事を考えながら、あたりを見回すとこちらに向かってくる良く見た顔の男性と目があった。
「あ、斎さん良い所に!よかったらちょっと手をかしてくれないかな?」
しゃがみこんだまま、斎に声を掛ける。
ちょっとした偶然がもたらした出会いから、これからちょっとした事態がおころうとは、まだ誰も思っていなかった。

はてさて、どうなりますことやら。
和知は心の中で、そう考えていた。


Name: “朱雀”香取 瞬
(おや、足を痛めたのか?)
 声は上げずに済んだがへたり込んでしまった女の人の様子を見て、瞬は悟った。どうやら麗人の方もその事に気づいたらしい。素人くさい様子で足首の方を色々見ている。
(‥‥どうするかな‥‥『術』はめったに使うべきではないだろうが‥‥)
 そんな事はどうでもいいのかも知れぬ。
所詮自分は『故郷』から飛び出した異端者なのだから。
(それよりもやっぱりさっきの笑顔は綺麗だったしな‥‥)
 そう思うと瞬は二人に向かってこう告げ、足首に手を触れた。
「あ、俺、ちっとは医者の真似事が出来るんだ。足首の痛みぐらいならすぐ取れると思うよ。ちっと貸してみそ」
(‥‥我を守護する『朱雀』の力よ‥‥!)
 彼の黒い瞳の色に僅かばかりの緋色が差し込む。それは『朱雀』の証。『四神』の一つ。炎と治癒を司る、忌まわしき異端者。

 少し経った後、彼は彼女の足から手を離した。
「これでいいはずだよ。少し動かしてみな?」
 彼はこう告げると薄く笑った。「大人の」笑顔だった。


Name: カレンシア
ドレス姿の女性が、ベンチに腰を掛けて周囲を見渡す。
辺りには人影も無く、動いているのは時計台の時計だけの様だ‥‥
彼女はその事を確認すると、おもむろにミニシンセサイザーを取り出す。
(これなら、誰にも迷惑を掛ける事は無いでしょう‥‥)

彼女が鍵盤を叩き出すと、音が生まれ‥‥それがやがて音楽へと変わりはじめた‥‥。


Name: “朱雀”香取 瞬
(さてと‥‥そろそろ場所を移動しようかな?)
そう思い、瞬は腰を上げた。
彼女の足の具合はどうだが分からないが、多分完治しているはずだろう。手応えはあった。自信は皆無だが。
「それじゃ俺はここで‥‥。これからトマト料理を食べに行くところなんでね‥‥」
そう告げると、彼は彼女らに背中を向けて立ち去ろうとした。


Name: “雲”斎 孝祐
俺は和知のところに向かう。
傍らの短髪の女性がへたり込んだまま立たない。どうやら足を痛めたようだ。
和知は屈み、女性の足の様子を見る。が、手には負えないらしい。
思案するように周りを見まわしている。
 と、彼女の動きが止まる。こちらに気付いたようだ。好いところに来た、といった感じで声を掛けてくる。
 彼女がこちらに注目したとほぼ入替り。傍の男性が女性の足元に屈む。
次の瞬間の男性の行動を俺は見逃さなかった。自らも異能者故に。
(ほう、彼はバサラか。あの女性はもう大丈夫だろう。だが、ここはST☆Rやクリルタイではない。)
思わず不快感が顔に出そうになる。
それを何とか押し留め、和知の呼びかけに応えるころには、男性は女性の足の治療を終え、立ち去ろうとする。
 男性とのすれ違いざまに男性にしか聞こえないような声で言う。
「‥‥不用意だな‥‥。」
 俺は歩みを止めずにそのまま和知に促されて女性の足を見る。予想通りすでに女性の足にはもはや何の支障もない。
 「良かったな、お嬢さん。もう何ともないだろう。」
そして数瞬、こちらの方を向いている男性に眼をやってから、
 「あの兄さんに礼を言うといい。たいした名医のようだからな。」
多少皮肉を含んだ語彙で俺は言った。


Name: 沖 直海
>「動かしてみな?」
そう言われて、沖は恐る恐る傷めた筈の足を動かした。
痛みは、無い。
腕のいいタタラでもない限り瞬時に治る怪我ではなかったのは、その手の方面に疎い沖にも分かる。
(‥‥医術の心得?‥‥いいえ、これは違う‥‥)
目の前のトーキーはタタラではない。これは自信を持って断言できる。
>「あの兄さんに礼を言うといい。たいした名医のようだからな。」
いつの間にやら傍に来ていた、背の高い男性がやや皮肉に言う。
「ええ、そうします」
立ち上がりながら、麗人の知り合いらしき男性を観察する。
(同業者?‥‥NIKでは見た事の無い顔だけれど)
NIKに大して顔を出しているわけではないので、自信はない。
(‥‥!この二人‥‥)
相通じる何かを、この二人に感じる。もしやこれは噂に聞く異能力者か‥‥?
(こういう知り合いを持っておくのもいいかもしれない)
「あの、ありがとうございます‥‥!」
さっさと立ち去りかけたトーキーに声をかけ、名刺を手渡す。
「私、沖直海(おきまさみ)といいます」


Name: “クリスタル・シンガー”琴音=フェンデル
「ばっちりカメラにも収めたし、これでOKね!琴音ちゃんもありがとね。あんまりカメラの前では固くならないほうが可愛く写るわよ」
「そうですね、どうも私慣れなくて‥‥えへへ」
 取材を終えたトーキーの女性――静元涼子と並んで歩いていた琴音は、ふとなにかの気配に気付いた。周囲の人々の雑多な想いの中で一際異質なもの‥‥炎のイメージ。
 人の心を感じる能力に彼女自身が気付いたのは10代になってからだった。母親はその秘密を語る前に死んでしまっていた。
「どうしたの? ああ、あそこのベンチの女の人の演奏? 綺麗ねー。ミニシンセサイザーかしら」
「あ、いえ、そっちじゃなくて‥‥。あのお客さん、大丈夫かな?」
彼女は振り返り、手をかざすと向こうの客たちをもう一度見た。脚を痛めたらしい女性と、その前に屈んでいた若者。
若者の背後に、炎の鳥の幻像が一瞬見えたような気がしたのはホログラフの加減だろうか。
 そして‥‥そこに近づいてきたもう一人の男性にも、琴音は不思議な雰囲気を感じた。


Name: カレンシア
演奏を終えた彼女に、見計らったかのようにポケットロンが鳴る。
駐車場に停めているリムジンの中から、運転手のジェファーソンが連絡をよこしてきた。
「お嬢様、公園内で不穏な動きが感じられますが‥‥?」
「気にする事は無いと思うけど‥‥。一応出せるように待機しておいて」
「かしこまりました‥‥」

「ふぅ‥‥やれやれですわね。」
不機嫌そうな顔で、ミニシンセサイザーをケースにしまう。
ふと、ベンチの下から彼女の瞳に光が飛び込む。
光の主を確かめてみると、そこには年代を感じる懐中時計が転がっていた。
「落とし物‥‥かしら?」
彼女はそれを拾い上げ、落とし主の手がかりになるものがないか確かめはじめた‥‥


Name: 和知 真弓
─ささやかな落とし物と‥‥
端正な顔立ちをした男性が利発そうな女性の足の様子を見ている。
和知の呼びかけに気がついたのか、顔見知りの男─斎がこちらにやって来る。そちらに気を取られている内に、男性が傍らにしゃがみこむ。
本人申告曰く、ちょっとだけ医者の真似事が出来るらしい男性が、立ちあがった。
すでに、女性の足に痛みはないらしい‥‥女性がゆっくりと立ち上がる。
(‥‥よほどの名医でないかぎり、こんな短時間で直せるものじゃない。それに‥‥このお兄さんは僕の知ってる範囲内じゃ、名医じゃないはず、とすると)
皮肉めいた口調で斎が女性に話し掛ける。人をよく「見る」仕事柄だろうか? 和知は、斎の目に僅かに不快感がやどっているのを見つけた。
(‥‥もしかしたら、バサラかマヤカシかな?こういう人達と知り合いになっておくのもあとあといいよね)
「斎さん、急によびとめちゃって御免ね」
様子を見ているのをやめて、和知はちょっとおどけた調子で申し訳なさそうに斎に微笑む。斎の目の中から不快感の光がさっと消える。
そして、立ち去ろうとした男性に声をかけた女性の方に声を掛けようと立ち上がって汚れたスーツの埃をぱんぱんとはたくと、ふと、女性の二人組と目が合った。和知はそのままその二人の女性ににっこりと微笑みかけると、
「情報サービスの収録ごくろうさまです、さっき見かけたんだけど、良い出来だね」
と歩み寄った。こちらを見ていたようなので、そのまま近寄って状況を説明するように他の三人の方に向き直る。
「ころんだ女の人の方はだいじょうぶみたいだね、良かった良かった‥‥あ、お兄さーんちょっとまってね」
にこやかな笑みを絶やさずに、治療をした男性に向かって話し掛けた。
ふと、何かしてない事でも思い出したかのように一瞬眉をくもらせて、
「あ、自己紹介がまだだったね(笑)僕はわち・まゆみといいます」
ふかぶかと一礼しながら、この場にいる人に渡そうと懐からプライベート用の名刺を取り出した時、胸元に違和感を感じた。
「‥‥あれ?」
いつも入ってるはずの年代ものの銀の懐中時計がない。
20歳の誕生日にあまり会う機会がなかった父から譲り受けたもの。
とりあえずそのまましっかりと名刺を渡し、胸元を探してみるが‥‥どうしてもない。
その言葉をききとめたのだろうか、斎がげげんそうな顔でこちらをみる。
「ごめん、ちょっとまってね」
苦笑を浮かべてバックからポケットロンを取り出す。コール先は自分の専属秘書。
「‥‥あ、聖火さんですか?僕です。申し訳ないんだけど、僕のデスクの上に懐中時計がないかどうか見てくれないかな?あ、仕事の件は悪いけど後にしてくれるかな?うん、じゃあついでに僕の部屋も確認してくれる?じゃ、連絡まってます」
ひとしきり話し終えると、困ったように苦笑をうかべながら他の皆さんの方に向き直って、
「ひょっとしたら、僕、ここのなかで落とし物してしまったかも‥‥今、秘書さんに仕事場に忘れてないか確認してもらってるんだけどね」
せっかくのいい人材と知り合って有意義な時間を過ごせる機会なのに‥‥。
和知は自分のしでかしたミスに少しだけ落胆していた。


Name: “朱雀”香取 瞬
麗人の知り合いらしき男が何かを呟いた。
わかっている、不用心なことぐらい。ただ放っておけなかっただけだ。
しかしそのようなことを言ったところで仕方がない。
このような場面、”姉”ならどのように振る舞っただろうか。
(‥‥きっとうまくやったのだろうな。『出来が違う』から‥‥)

足を『治癒』した女の人が名刺を差し出し自己紹介をする。
次いで麗人が二人組の女に声をかけ、周囲に挨拶をする。
今度は瞬の番、というわけか。
「ああ、俺は‥‥香取 瞬(かとり しゅん)っていう。よろしくな」
そのように告げると、トーキーらしき女性――静元涼子――の顔に反応の色が見えた。
(あいたぁ‥‥トーキーが居やがったか。俺の正体、ばれちまったか?)
ミトラス、南米と戦場を駆け巡り、数多の戦争写真を物にしてきた過去。
『バルバロッサの断崖』、『荒野の巡礼』、『最も残酷な者達』‥‥。
トーキーであるなら瞬が自分の命を捨てるような場に遭いながらも、必死で物にした写真の数々をしっていてもおかしくはない。
「昔はヤクザな戦争カメラマンだったけどね。今はフリーの三流ルポライターってわけ」
そこで一旦言葉を切ると、瞬は先ほどの女に向かって、自分のポケットロンのアドレスを渡しつつ、
「あ、そうだ。さっきの足な、痛みを取っただけだから、すぐに病院に行った方がいいと思うぞ」
簡潔に自分の事を語り、足に対する処置を告げた後、瞬は先程感じた“視線”を探そうと一巡り視線を巡らした。
視線がぶつかる。
そこにいたのは制服を着たポニーテールの若い娘――琴音=フェンデル――だった。
「‥‥どうした?何か、『見えた』のかい?」
少し微笑みながら瞬はこう話を切り出した。


Name: 沖 直海
「落とし物ですか?」
名刺を手渡して、沖は振り向いた。
「パークの落とし物保管所に届いているかもしれませんね‥‥」
と、視線を泳がせる。
確か、先ほど
「ぱーくないでおこまりのさいは、おちかくのひよこくん(おなまえぼしゅうちゅう!)におこえをおかけください」
と、でかい札を掲げたひよこが横切っていったような気がしたのだが‥‥今、目の届く範囲にいるひよこはいない。
仕方なく、パーク案内を検索して問い合わせてみた。
「‥‥届いてないみたいです。届いたら連絡してくれるそうですけど」
しばらく後、沖は軽く肩を竦めて麗人に言った。
眉をひそめ、困った顔をしている所を見ると相当に大切にしていたものらしい。
「‥‥」
何とか見つけてあげたいものだが‥‥
パーク案内に「探し物」で検索をかけて見る。
『探し物は何ですか?只今格安サービス中!』
怪しげなネオンサインでごてごてした宣伝文がホログラフで目の前に飛び出してきた。
「‥‥これ、占いのCMみたいですね‥‥物は試しって言いますし、連絡が来るまでにちょっと行って占ってもらいませんか?」
ここからだと、巨大3Dスクリーンの前を抜けていくのが占い小屋への最短距離のようだ。
ここからだと光しか見えないが、それでもにぎやかさは伝わって来る。


Name: カレンシア
‥‥?‥‥ふと、横に気配を感じてそちらを見る。
一分の隙も無くスーツを着ている40代前後の男性。先程連絡をよこしてきたジェファーソンだ。
「紅茶などいかがでしょうか‥‥と、思いまして。」
手には、ポットとティーが注がれたカップを持っている。
「ありがとう、ジェファーソン。この懐中時計を見ながら、頂く事にするわ。」
「それで‥‥何か解りましたか?」
「良く出来たモノね。手間暇をかけて丁寧に作ったものだわ。見掛けはシンプルだけど‥‥」
「蓋の裏に何か書いて?‥‥『我が娘へ、和知 真比人』。誰でしょうね?」
「その人本人は知らないけど、『和知』と言う人物には心当たりがある‥‥顔を知ってるし、私が届けに行きますわ。係員に届けて『はい、さようなら』なんてのは、ちょっとね。」
「もう帰ってるかもしれませんよ。」
「公園内を隈なく探してみていなかったら、係員に任せるわ。まだ園内にいると思うから‥‥」
「なぜですか。その根拠は?」
「すぐに気がつくでしょうから‥‥父親からの贈り物をいつも持ってるなら、無くした時には違和感を感じると思うの。そして、探し始めるでしょうから‥‥私だったら絶対に‥‥‥。そういう訳だから、ケースを持って駐車場で待っててくれる?」
影に溶け込んでいったジェファーソンを見送った後、彼女はベンチに座っていた。
(‥‥もう暫くしても来ないのなら、こちらから探しに出かけるとしますか‥‥)


Name: “クリスタル・シンガー”琴音=フェンデル
 先ほどの様子が気になった琴音たちは、客たちが集まっている場――脚を痛めた女性とそれを直していた若者、懐に手を入れて苦笑していた企業人たちのところへ来ていた。
「あらあら、これはわざわざどうも。香取 瞬さん‥‥。う〜ん何処かで聞いたような名前ですね。確か‥‥南米の取材で賞か何か‥‥?」
 愛想良く若者に答えながらも、静元涼子は探るような目つきで相手をみやると悪戯っぽい微笑みを浮かべていた。同じトーキーということは、何か心当たりでもあるのだろうか。
不思議な雰囲気を漂わす青年だった。それに、なかなかハンサムで‥‥
「‥‥どうした?何か、『見えた』のかい?」
「‥‥え、あ、はい、私ですか?」
 急に話し掛けられた琴音はどぎまぎした。青年の黒い瞳に、一瞬炎が漏れたような気がした。それとも見えたのではなく、彼女の心が感じたのだろうか。
「いえ、そんな‥‥ただ不思議な方たちだなって思って。あ、それより、南エリアの方に行かれるんじゃないですか?」


Name: ぼーいず in Blakk Player: どこかの財団
【植木の陰で2人の黒服の男たちが話をしている】
工作員B「やっとLU$Tから帰還‥‥このパークは順調のようですね。それどころか客足が増えてるようじゃないですか」
工作員A「うむ。園内情報も正常に動作しているようだな。なかなかヨコハマは楽しかったね、君」
工作員B「ええ。情報端末がもっと詳しいと調査しがいがあったんですがね。そういえば僕らがミナトミライで待ってる間、班長はどこ行ってたんですか?」
工作員A「ははは、ちょっと粋なShot Barを見つけてね。一杯引っかけていたのさ。Shoot the Movie。カサブランカはいいね」
工作員B「あー、任務中に飲酒ですか? そりゃ業務規定違反じゃないんすか。僕らにも教えてくださいよう」
工作員A「ふふ力を入れすぎても極秘任務はうまくいかんよ。やるべき時はやって、羽目を外すところではのんびりしておく。仕事の秘訣だね。 さて仕事の時間だ。とりあえず園内をチェックだな。また着ぐるみで偽装して頼むよ」
工作員B「‥‥“おこまりのさいはおちかくのひよこくんに‥‥”‥‥これ担いでやるんですか? またあの格好で‥‥(嘆息)」
工作員A「ははは、焼き蕎麦作るよりはマシだろう。人間若い時に苦労しとくもんだよ、君」
工作員B「若い‥‥と言ったら新人のやる仕事っすね。あ、そういや彼女はどうしたんですか!」
工作員A「あの子はtwiLiteの電脳本部に戻ってもらった。ほら、女の子にやらせる訳にもいかんだろう」
工作員B「‥‥‥‥」
工作員A(ネオンを見上げて)「“探し物は何ですか?”か。そういえば昔そんな歌があったねぇ‥‥」


Name: “朱雀”香取 瞬
ポニーテールの彼女は、いきなり瞬に話し掛けられたせいか、かなり慌てて彼の質問に答えた。
「‥‥うーん‥‥不思議なのかな?俺にはそれほど不思議には感じないけど‥‥」
彼女の戸惑いの色を含んだ言葉に瞬はこう答え、更に言葉を続けた。
「確かに一風変わっているって言われるよ、俺はね」
思わず苦笑いが出た。
『南エリア』という言葉を聞いて、何気なくあたりを見渡す。
『探し物は何ですか?只今格安サービス中!』
するとそこには占いの宣伝文句がつらつら並んでいた。
(‥‥どうすっかな‥‥)
自分ならば『見よう』と思えば、懐中時計の在処を捜す事はたやすい事だ。『糸』を探せばいい。そして、その『糸』の一端は、先ほどの麗人─和知 真弓といった─が持っているのだ。
しかし‥‥。
「‥‥占い小屋は南エリア、だっけ?たまに占ってもらうのも悪くはないかな?」
琴音に向かってそう呟くと、瞬はようやっと彼女がここの職員の格好をしている事に気付いた。
「確か噂では‥‥あそこは『黄昏の公女』という謎の占い師さんのシマだったよな?」
まさか、その人物が今自分と話をしているなどとは全く思っていない瞬であった。
「折角だし物見見物にいってもいいな。ここから一番近いルートはどこかな、職員さん?」


Name: “雲”斎 孝祐
皆が自己紹介を始める。
こういうのは苦手なのだが。いたしかた有るまい、俺だけ名乗らないのもな。
「‥‥俺は、斎 孝祐(いつき こうすけ)という。」
 そうして、この場にいる人間を一通り見まわす。と、ポニーテールの娘が目に入る。
(さっきのはこの子の“眼”か?今日はよく同類に会う日だな)
苦笑しつつ、何気に和知のほうを見やると、様子が変だ。
しばらく何かを探していたが、おもむろにポケットロンを取り出し、何処かにコールする。
どうやら、いつも身につけている懐中時計がないようだ。
父親からもらったものだと言っていたか。
 和知が困ったような顔をしていると、短髪の女性――沖 直海と、名乗った――が、パークに問い合わせる。が、届いていないようだ。
短髪の女性はさらにパーク案内で役に立ちそうなものを探す。
しばらくして彼女から占い小屋に行ってみないかという提案が出される。
一瞬、先程のポニーテールの娘が慌てたように見えたのは気のせいだろうか。
「占いね。仕方あるまい。他に手もないしな。」
いや、ひとつ在った。とりあえずやってみることにする。
俺は、目を閉じる。
瞼の裏にもうひとつモノクロの世界が出来上がる。
(これだけ見通しが良いと力もそれほど使わなくていい。)
周りには、誰もいない。もう少し後か。その世界は奇妙に時間を進める。
今度は、遠くのベンチに和知とおぼしき人影がいる。ここから“見る”としよう。
そして――。

 目を、開ける。周りの人間にしてみればほんの数秒だっただろう。
俺は、先程“見た”ベンチを見る。
そこに座っていると思われたドレス姿の女性はもういなかった。
(少し遅かったか。だが、誰を捜せばいいかは分かったな)
「それじゃ、占い小屋に行ってみるか。」


Name: “クリスタル・シンガー”琴音=フェンデル
「じゃあ琴音ちゃん、私は仕事が残ってるので、これで失礼するわね。じゃ、頑張って!」
 意味ありげな微笑みを残して琴音の肩を叩くと、カメラを抱えた静元涼子は行ってしまった。後に残されたのは――偶然なのか、不思議な力を感じる客たちばかりだ。
「確か噂では‥‥あそこは『黄昏の公女』という謎の占い師さんのシマだったよな?」
 香取 瞬と名乗った若者の問いはごく自然なものだった。“黄昏の公女”の正体などまったく知らないだろう。
「え、ええ。何人かいる占い師の方の中で、そういう名前の人も時々来るそうなんですけど‥‥よく分からなくて、謎なんですよ」
 心の中で、琴音は舌を出して笑いたくなった。“黄昏の公女”というのは、前に見たことのあるトロン用ゲームウェアに出てきた黒衣に仮面の人物から取ってきたのだった。フェニックス・ソフトウェアの出していた架空世界のファンタジーゲームで、琴音は割と気に入っていた。北のある王国の女神だったのだが‥‥
 そんなところから取ってきた人物でも、客には有名らしい。占いが得意な彼女の力もあるのだろうが。
 しかし今の状況では当然、黄昏の公女は不在だ。案内した後どうしよう?
「えーと、そうですね。【メモリー・オヴ・エンプレス】へはこちらの道が一番早いですね。香取さんや斎さんや皆さん、御一緒に案内して差し上げましょうか?」


Name: カレンシア
藍色のサテン・ドレス姿の女性が歩いている。時計台近くのベンチに座っていたカレンシアだった。
もう少しベンチに座って様子を伺おうかと思っていたが、不穏な空気を感じて場所を移そうと思っていた。
「こんな事だったら、リムジンの中で着替えるべきだったわ。アーサー達に付き合ってたばっかりに‥‥」
ほんの僅かだが、ウェールズ訛りの入った英語で呟く。
「これだけは何とか私の手で届けたいし‥‥」
白いハンカチに包れた懐中時計を意識する。確かに好事家の彼女にとっても興味のあるシロモノだったが、それ以上にかき立てるモノがあった。
「我が娘へ‥‥」彼女は無意識の内につぶやく。

暫く歩くと、人がいるところに辿り着いた。
「さて、と‥‥」


Name: 沖 直海
「折角だし物見見物にいってもいいな。ここから一番近いルートはどこかな、職員さん?」
香取と名乗ったトーキーが、いつのまにか傍にきていた女性に話し掛けた。
制服を着ている所を見ると、ここの職員らしい。
「えーと、そうですね。【メモリー・オヴ・エンプレス】へはこちらの道が一番早いですね。香取さんや斎さんや皆さん、御一緒に案内して差し上げましょうか?」
てきぱき、と言うより、焦ったように彼女が言い出した。
「‥‥そうですね、お願いできますか? ここは始めてなので、よく分からないんです」
沖はその態度にやや不信感を感じつつ、とりあえず申し出を受けてみた。
「それじゃ、占い小屋に行ってみるか。」
わずかの間、目を閉じて何事か考えていたようなフェイトの声を合図に、5人組はゆっくりと歩き出す。
職員を先頭にパーク内をゆっくりと歩けば、ちょっとしたツアー気分である。
(斎 孝祐‥‥? どこかで聞いたような‥‥)
最後に名乗ったフェイトの顔をこっそりと見ながら、沖は記憶を探った。確か、『藤崎夫人』から聞いたのだったろうか?
(とするとケルビム関係者か、道理で見ない顔な訳だ)
自分の記憶力が衰えていないのを確認して、ちょっと満足した沖は、何気なく職員の女性に話し掛けた。
「ところで、その『黄昏の公女』の占いって当たるんですか?」
‥‥ポニーテールの職員の背中が一瞬引きつったように見えたのは気のせいだろうか?


Name: “クリスタル・シンガー”琴音=フェンデル
【南東エリア、懐中時計を探す面々の中で】
「ところで、その『黄昏の公女』の占いって当たるんですか?」
 何気なく後ろの女性から掛けられた言葉に、琴音はぎくりとした。
「ど、どうでしょうね‥‥? 黄昏の公女は夜をもたらす女神。きっと当たると思いますよ。占いなんて信じない人もいますし、信じる人もいますし――あ、私はもちろん信じますけどね。あ、あはは‥‥でも、会えるか分かりませんが‥‥」
 しどろもどろなのが自分でも分かる。これでは職員失格だ。
咳払いをすると、彼女は続けた。
「えへん。えーと、ここからですと、南の【ムーンヴェイル】を抜けるのが近いですね。綺麗な最新型3Dホログラフィが見えますよ。今の時間でしたらニュースもやってるでしょう。ヨコハマLU$T辺りが映っているんじゃないでしょうか?」


Name: 和知 真弓
――視線の外(笑)
落とし物をした。
その一言で周囲にいた人達が親切にしてくれている。
自分にあるまじき失態からちょっと落胆していた和知は皆と一緒に歩きながら眉をひそめるのをやめて、にこりと皆に微笑んだ。
自分が"有能"だと感じた人達が自分に親切にしてくれるのがうれしいのだ。
「沖さんがパークに問い合わせても、届けられてない。と、すると僕、さっきまでここの中をぐるぐる物見遊山してたからね」
そういいながら、顎に手を当てて、記憶の糸を巡らす。が、思い当たるふしがない。
と、バックの中のポケットロンがなった。
「‥‥あ、どうでしたか?‥‥そう、やっぱりなかったんだね。分かった、わざわざ手間を掛けさせてしまって申し訳ない」
手短にすませて切ると、皆に向かって苦笑混じりに微笑みかける。
「ここに入った直後に時間を確認するのに懐中時計をだしたから、ここの中で落とした事だけは、確かだね。‥‥もし、迷惑でなければ探すの付き合ってもらえるかな?あの懐中時計は一応僕にとって思い出の品なんだ」
ポケットロンをバックにしまいながら、和知はそういった。
沖の質問に琴音が僅かにひきつったようだ、黄昏の公女?どこかで聞いたような‥‥。トロン用のゲームウェアだったかなあ?
「一応いってみようその公女さんの所に、たいした手がかりもないことだしね」
そのあとしどろもどろになる琴音に助け船を出す様に和知は口を挟む。
琴音の反応を表に出さない様に伺っているあたり、一概に助け船とはいえないのだろうが。
そういえば、さっきから何度も和知の視線からはずれる様にして「おこ
まりのさいはおちかくのひよこくんに‥‥」という看板をもったひよこが通り過ぎているのはきっと気のせいだろう(笑)
「ヨコハマね、なんか最近物騒らしいけどね、綺麗にみえるかな〜」
そういって、和知は歩きながら斎のほうへと歩み寄る。
「さっき目をつぶってたみたいだけど、何かみつかったのかな?」
てくてくと南の【ムーンヴェイル】の方に向かって歩きながら和知は微笑んだ。
困りながらも明らかにいまの事態を楽しんでいるそんな調子で。


Name: カレンシア
(‥‥ここには、いないのかな?‥‥)
彼女はしばらくの間、人の往来を眺めていたが目当ての女性と巡り合う事は出来なかった。
雰囲気が似た女性を見つけたのだが、その女(ひと)はカメラを抱えていて‥‥別人であった。
(‥‥占いでも、してもらおうかしら?もしかして小屋に行くまでに出会えるかもしれない‥‥)
カレンシアは占い小屋のある場所を確かめると、そこに向かうべく歩き出した‥‥


Name: 和知 真弓
――銀のヴェールの向こう側
「銀のヴェールに映し出されるのは、遥か彼方の情景の数々。
霧の中に浮かび上がる月光の魔法を、しばしお楽しみください‥‥」

占い小屋へ向かう一行は、琴音の案内で、ムーンヴェイルを抜けていた。
NCB(ニュー・センチュリー・バイオテック)社の技術提携で作られたホログラフが月光と幻想に包まれた庭園に彩りを添える。
NCB社製の巨大スクリーンは今日のオーサカM●○NやカムイST☆Rが写されたあと、ヨコハマLU$Tのベイブリッジの夜景が美しく描かれていた。
ここは幻想の街─―うたかたの夢が舞い降りる。

何気なく男装の麗人―─和知が足を止めて巨大スクリーンを見やるとニュースタイムに入ったようで、LU$Tの中華街で起きた事件について報道していた。
『‥‥ヨコハマの中華街にて無差別殺人事件が発生した模様です。目撃者の証言によると先立ってブリテンで起きましたテロにて目撃されたカーマイン・ガーベラが目撃されています‥‥なお‥‥では』
(ふうん、いろいろと動いているようだね)
和知は好奇心を動かされながらも、自分の仕事ではないと割り切ってその報道を見上げていた。情報の断片は入ってきてない訳ではないが、今は自分は休暇中であり、そしてもっとさしせまった─しかし何故か楽しい問題が目の前に転がっていた。巨大スクリーンから目をそらすと、皆が急に足を止めた和知を待っていた。
「あ、ごめんごめん、ちょっとベイブリッジが綺麗だったからみとれちゃったね」
ぽりぽりと頭をかきながら和知は皆に軽く謝った。
ふと琴音をみやると苦笑しながらなんだか様子がおかしい。よく「見て」いないとわからない程度の様子のおかしさだが、和知は仕事柄だろうか?さっきから様子がおかしいことに気がついていた。
(‥‥どうしたのかな?何か用事でもあるのかな。でもそれならいっているはずだし、ここにいる誰かにいえない事でもあるのかな?)
あたらずとも遠からず。和知は僅かに思案する。
頭にひらめくものがあった。確か琴音がちょっとだけひきつっていたのは‥‥。
和知は楽しそうに僅かに微笑む─― 一瞬だけの笑み。
そして和知は一芝居打つ事に決めた。

「‥‥あいたたたた」
急にお腹を押さえてうずくまる和知に斎がびっくりしたように止まる。
もちろん、他の皆もだ。
「‥‥ごめん、ちょっとお手洗い」
痛そうに芝居を打ちながら、片目をつぶりって琴音をみやる。
そのまま立ち上がって琴音の腕を取るとトイレがある方向に向かってお腹をおさえながら琴音の腕をひっぱり走っていく。
「‥‥あいたた。ごめん琴音さん案内してくれない?とと、お手洗いまでついてくるなんて野暮な事しないで皆スクリーンの前でまっててね〜」
そういいながら和知はひよこくんにぶつかりそうになりながら琴音をひっぱって走りさっていった。

「‥‥困った事があるんでしょ?ああ、僕仮病。君の力になろうと思ってねここまで結構距離があるから、そうそう皆おいつけないよ。僕の調子が大丈夫だったし、急に静元さんに仕事で呼び出された事にして、いってきたら?」
急に走ったせいか、はあはあと息をつきながら、和知は悪戯っぽく笑う。
「それに、ここは月光に包まれた神秘と幻想の街だよ、何があってもおかしくないんじゃないかな?」
はてさて、皆どう動くかな〜?
なんとなく琴音の困っている理由を推測しながら和知は楽しそうに笑っていた。


Name: “クリスタル・シンガー”琴音=フェンデル
【twiLite南エリア、ムーンヴェイル。巨大ホロスクリーン付近で】
「ヨコハマの次のニュースです。和光技研は話題の新型ウォーカーに関するスペックを一部発表しました。この新型機は、先日大事件の起こったヨコハマLU$Tの展示会場でお目見えした曰くつきの機体で‥‥」
「こちらがホロスクリーンです。NCB社の開発した発光苔利用のメカニズムが全面的に使われているんですよ」
 案内しながら、琴音は内心焦っていた。もうすぐ南西エリアについてしまう。
黄昏の公女は不在のままだ。どうしよう? 彼らもがっかりするだろうが‥‥
「え、えーと、そう、“黄昏の公女”はいつもいつも現れる訳じゃないんですよ。もしかしたら今日はいないかもしれません。その時はしょうがないということで‥‥えへへ」
 一行に話しかけながら、琴音はどうやら探偵らしい沖真海と、和知真弓の視線が気になっていた。なんだか全部見透かされているようだ。
 ここで事務局本部かでもら連絡が入ったことにして、彼らの前から
消えようか?
「黄昏の公女は北の小さな男爵領の守護神。同時に夜の女神でもあるんです。女性を守ってくれるとも言われているんですけど‥‥あ、あ、和知さん、ちょっと大丈夫ですか?!」
* * * * * * *
 手洗いで彼女は和知真弓から話を聞いた。ほとんど見破られていたようだ。
「ごめんなさい! じゃ、私は急に仕事ができたとでも言っておいてください。あと、このことは秘密にお願いしますね」
 息をつきながら悪戯っぽく笑う男装の麗人に頭を下げると、琴音は身を翻した。ポニーテールがふわりと揺れる。
「月光に包まれた街に――夜の魔法が掛かる前に、黄昏の公女は自分の城に戻らないといけないんです」


Name: “リリン”璃琳 Player: 斎藤一条
「‥‥溜息‥‥そうですわね。あなたと同じであろう、女性の扱いに長けた方の事を思っての溜息ですわ」
口の端を少し意地の悪そうな笑みに形作る。それを聞いた月光の銀糸と見まごう髪の青年は楽しそうに低く声を上げて笑う。
「なるほど。あなたのような女性に溜息をつかせるほどの男性と言うわけですか」
「『人』という存在そのものがお好きな方ですからね、気が気ではなくって」
他の男性の前で、至極当然といった感じで別の男性のことを語る。普通なら鼻持ちならない嫌な女で終わるであろう。だが、璃琳からそういう印象は受けない。その男性のことを話すとき、彼女からは献身的とさえ感じられる雰囲気が放たれているのである。相手にとっての自分と、自分にとっての相手。そのことをわきまえた上で語る彼女の愚痴に、湿っぽいところや嫌味なところは微塵もない。
深い赤をした艶花の唇が、漣のような笑い声を漏らす。
「‥‥失礼だったかしら」
「いいえ。それよりもあなたにそこまで言わせる人間に、是非一度お会いしてみたいですよ」
それを聞いて、多少大袈裟な仕草で眉をひそめる。そしてまた、楽しそうに小さく微笑む。
「それは‥‥私がまた気を揉んでしまいますわ」
「え?」
「有能な人間が何よりお好きな方ですの」
あらぬ誤解を主人が受けないように、言葉を補う。ゆったりと足を組んで身をルースの方に乗り出す。どこか硬質で、無機質めいた瞳に、黄昏を写したような、夜に向かう宵闇の深い青があった。
「‥‥もう行きますわ。もう少し、貴方とお話がしたかったのですけど‥‥雪と氷の宮殿へ帰らなくては」
「シンデレラの逆バージョンですか」
璃琳のボーンチャイナにもにたなめらかな肌に、ルースの右手が何気なく触れる。その感触に目を細め、自分の手を重ねる。
「違いますわ。私は王子の迎えを待つ、純情可憐な姫君ではございませんもの。‥‥命こそ狙いませんけど、どちらかといえば灰鴉の女王といったところですわ」
す、と静かな動きで璃琳の唇がルースの頬を掠める。
「では、ごきげんよう。一夜の月光の騎士様」
彼女らしい華やかな笑みを浮かべ、スツールを立ち上がる。そして、あとは振り返りもせず、向かってきたときと同じ様な凛とした振る舞いで去っていく。
‥‥十分すぎるほどのひとときでしたわね。
バーを後にし、高い空を見上げながら、彼女は我知らず満足げな笑みを浮かべていた。

twiLite
 
 

Delirium
RI-Foundation > Delirium(NOVA) > Virtual StarLite > Search for Silver Clokk 1

Up Next