〜銀の懐中時計を探して〜
No.3


Name: “嵐童子”飛星 Player: KID
(中央噴水公園にて)
「って〜‥‥思いきり殴ってくれたなあ」
飛星は頭をさすりながら、ぶつぶつと文句をこぼしていた。ドロイドたちのパレードを邪魔して拳骨だけで済んだのだ。いっそ幸運といえるだろうが。
「ちぇっ、団長もこんな所で公演しなくたっていいじゃんか」
八つ当たりとしか思えない台詞を吐きつつ、それでも足は勝手に進む。
もうすぐ何とか言う大きなパレードがあるらしい。さっきのドロイドたちはその宣伝、といったところか。
「へへへ‥‥でも、このくらいで引き下がる”嵐童子”じゃないぜ」
徐々に集まってくる人だかりに身を潜めつつ、飛星は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
パレード開始まで、あとわずか‥‥。


Name: “疾風の狼”アーレイ・ドレスデン Player: X
3‥‥2‥‥1‥‥そして、タイムアップ。電脳の戦場を満たしていた閃光と爆炎が徐々に晴れつつあった。
そこにあったのは大破した2機のウォーカー。R-dogはレーザーブレードにより両断され、一方のレイヴンはインパクトクローの一撃で完全に沈黙していた。両者ともに戦闘続行は不可能。さらにタイムアップ。結果は‥‥
いうまでもなくドローである。
「やれやれ、またも勝負はつかずか‥‥ま、楽しい闘いだったぜ」
コクピットから降りるアーレイ。あまりのハイレベルな攻防に呆気にとられるギャラリーを尻目に、キリコの所へ向かう。彼女もまたコクピットから降りてきたところだった。
「よう、またドローだな。しかし、相変わらずいい腕してるなあ」
気楽に話し掛ける。激しいバトルが終わった今、アーレイはすっかりくつろいでいた。にんまりと笑いかけて言葉を続ける。
「ここであったのも何かの縁だ。もうすぐパレードが始まるらしいしよ、付き合わねえか?たまにゃあデートとしゃれ込むのも悪かないだろ」


Name: “底(ボトム)”九備 キリコ Player: Yam-3
「くっ‥‥!」
手ごたえは、あった。だが、キリコもまた完全に行動不能。
「やはり、奴には勝てないのか‥‥」彼女はゴーグルを外し、外に出る。
そこには”奴”が立っていた。
「わたしには、”勝つ”意外の結果は”敗北”と同じ意味だ。」
“アラシ”の視線で彼女はアーレイを見つめる。
だが、次に来たアーレイのセリフは意外なものだった。
キリコは困惑した。”敵”としか認識できなかった男に誘われたのだから。
『それも悪くないか‥‥。もうここは戦場ではないんだ‥‥』
「いいだろう、つきあおう 」
彼女の顔に浮かんだ笑みは、幼い少女を思わせた。


Name: カレンシア・ブレナン
パレードがもうすぐ始まる‥‥・そんな中を人の波に逆らうように歩いていた。
パレードには関心も無く、ただこの場所に訪れるであろう人物を探して‥‥
カレンが諦めかけたその時‥‥人ごみの中に目当ての人物が見えた‥‥気がした‥‥
そして、一瞬で広場に集まった人々の中に紛れ込んでしまう。
‥‥今ここで見失ってしまうと、二度と巡り合えないかもしれない‥‥
距離が離れている上に本人かどうかの確認もしていない。
それでもカレンは「力ある言葉」で呼びかける。運命の輪の巡り合わせを信じて‥‥


Name: ぼ〜いず&が〜るず in Blakk Player: どこかの財団
【黒服の男女がアイスと紅茶を手に売店で休んでいる】
工作員C「ふぅ〜。なんとか落ち着きましたねー。あの霧の街に迷い込んだ時はどうしようかと思いましたよ! あ、班長アイスが溶けてたれちゃいそうですよ」
工作員A「おお、すまんね。しかし‥‥どうもあの街のことがよく思い出せんな。頭の中にも霧が掛かっているようだ。うぅむ、なんらかの力が我々にも働いたのかもしれん。こっちの様子はどうだね?」
工作員C「はい。先輩の話では、ヨコハマでは猟奇殺人事件が続いているそうです。あと、電脳諜報部から報告が。財団本部にウェブから侵入の試みがあったので遮断したとか。侵入元アドレスはタタラ街の小さな調査会社Queenz' Heartsだったでしゅ、とのことです。重大事項ではないですね」
工作員A「やれやれだな。しばらくは我々も暇になる。ほら、いよいよパレードが始まるよ。楽隊にひよこドロイドが集結してるじゃないか。どれ、写真でも撮っておくかな‥‥」


twiLite
 
 


Name: ひよこ君@バイト Player: AZ3EL
パレードにて風船を配り歩く。
そばで風船をねだる少女にも順番に配ってゆく。
「(えぇと)ハイ。風船なのだ」
少女の手に風船を手渡す‥‥が、スルっと風船は天に上っていってしまった。
‥‥大失敗(TT)


Name: “ロビンフッド"ジャン・R・シルヴィス Player:
「やばい、遅刻だぁっ!‥‥て、間に合ったのかな?よかった〜」
パレードの開始には間に合ったようなので、ほっと一息。
とりあえず、適当な木陰を選んで準備、準備‥‥と、ふと見上げた先に風船を配るひよこ君とふうせんをねだる女の子。
なんか、絵になる光景だよね、とニコニコしながら見ていたら、隣でパレードの開始を待っているであろうお姉さんに変な目で見られた。
なんだかばつが悪いので、そのお姉さんに愛想笑いを浮かべたら、そっぽを向かれたので、心の中で舌を出してから、また、さっきのひよこ君と女の子方を見てみると、何があったのか、風船は少女の手を離れゆっくり空へと上昇し始めていた。
何やら、その女の子は泣きそうな雰囲気、ひよこ君も困ってる(ように見える)。
幸い、まだ、風船はそんなに高いところには上がっていない。
「神サマ、ちょっとだけ力をお貸しください。」
ちょっとだけ神サマに祈りを捧げると、精神を集中させる。
普段はめったに使わない、僕の秘密の特技。
おばあちゃんは昔、<古い力>とか<血脈の力>とかって言ってたっけ。
とか考えてると、少しだけ風向きが変わって、こっちの方へゆっくりと風船が飛んでくる。
これでここの木に引っかかってくれればいいんだけど、僕じゃあ届かないな。
ジャンプすれば届くのかな。女の子もこっちを見てるし、頑張らないと‥‥。
ちょっと困った。どうしようかな。


Name: “ナックルリポーター”リューゾー Player: グリン
その日の夕方のこと。一仕事終えてきた龍三に、彼の上司は一枚のカードを手渡した。
報道関係者用のプレスカードだ‥‥“twiLite”?“RI財団”??
「これ何スか、デスク」
指につまんだカードをひらひらさせて、龍三は上司に言った。
しかし”デスク”三田茂は、手元の書類に目を落としたままこの遊園地で催されるパレードのことを手短に話すと、
「いいネタだろ、リポートしてこい」
と素っ気なく言った。
「嫌ッス」
龍三も素っ気なかった。はっきり言って、今までの報道経験は人と話すより殴る方が多いという男だ。一応自覚はある。
「他に人がいない。行ってくれ」
「行ったことないんスよねー、ここ」カードを宙にひらひらさせてみる。
「“twiLite”の概要はお前のポケットロンに転送してある!早く行け!2秒で行け!」
そうまで言われてしまったら行くしかない。龍三はしぶしぶ、踵を返した。
ま、これも仕事だ。プロは割り切りが肝心さ。俺は大人だ、そうだろ? ‥‥くそ。
そう自分に言い聞かせながら(?)、“ナックルリポーター”リューゾーは黄昏のN◎VAを駆けていった。
‥‥それが、パレード“infini-Lite”が始まる、ほんの少し前の話。

「えー、ごほん‥‥みなさんこんばんは、マリオン13’リポーター、国見龍三です。今、私はアミューズメントパーク“twiLite”のパレードに来ています‥‥」
‥‥ダメだ、どうも口に合わない。まるで新人だ。いかんせん、口語体で仕事する時間が俺には長すぎた。
やっぱり俺は事件を追ってた方が性に合ってるのかもな(ついでに力づくで解決しちまうのも)。
ま、俺のリポートするのはパレードそのものじゃないんだ。パレードに集まる、人々の姿さ。“デスク”には悪いけど。
それぞれがこのささやかな楽園に持ち寄ってくるであろう、“人生”という名の宝石のかけら。
‥‥例えばほら、あそこの親子。お祭りにはしゃいでいる子供と、微笑で見守る母親風の女性。いい画面(え)だ。
と、子供のうちの男の子の方が駆けてきた。小さな体に勢いがついてて、ちょっとアブない。
案の定、子供がつんのめった。龍三は思わず持っているカメラを放り出し、その体とその手からこぼれ落ちそうになった物を掴んでやる。
「元気がいいなあ、お前。楽しんでるかい?」
後ろで堅い物がひしゃげたような嫌な音が響いたが、この際気にしない。
気にしないってば。


Name: 妙堂院由耶 Player: しんいち
提携先のことを知っておいてもそんはない。というのが建前で。
実は会社をサボってきているのは内緒だから。彼女の頭の中にはすでにばれた時のためのいいわけが、何種類かは出来あがっているのだが。
しけた煙草をくわえながら、彼女はまわりよく観察する。
基本的に、お祭り騒ぎは嫌いではない。むしろ、好きだ。どんどんやってくれと思う。
光の洪水をながめながら、そんなことをぼ〜っとおもいつつ。
(あ〜〜、くそ。なんか足りないと思ったら、“命の水”がないんじゃないか)
こんなお祭りなのに彼女の手には“酒”がない。
なら、どうするべきか! いつものニヤニヤとした笑いを浮かべながら彼女は散策開始。
目当ては、屋台。彼女は、持ち前の勘を生かして歩き回ることにする。
意外な出会いが、待ち構えているかもしれない‥‥。そんな予感を胸に抱いて。


Name: “霞の楯”クララヴェル&“疾風の”ヴィルヘルムント Player: 聖槍帝
(北西ゲート、駐車場にて)
真紅のステッペンウルフが、急スピードでドリフトしながら駐車スペースに滑り込む。
「義姉さん、ついたぜ。げ?! もうこんな時間かよ。悪い、待ち合わせに送れるから、後はひとりで見てくれ!」
「ちょ、ちょっと! 私、ここは始めてなのよー!」
抗議の声もむなしく、彼の義弟はその名のごとく、入場ゲートを駆け抜けていく。
「まったく、もう‥‥」
(さて、どうしようかしら? あの子の彼女を見に行くのも面白そうだけど)
しばし考えて、空しいということに気づく。
(やめやめ。だったらいい男でも探したほうがマシだわ)
入場ゲートをくぐり、とりあえずパレードの行われているらしい方向に向かう。

――人の波。沸き上がる歓声。人々の幸せな顔――
(この街に帰ってきて良かった‥‥)
祭りの雰囲気に浸りながら歩いていると、目の前のひよこにぶつかってしまう。
ひよこが情けない声を上げて転ぶ。
「ご、ごめんなさい‥‥?!」
どこかで聞き覚えのある声。いや、そんなはずはない。
ここのひよこは高性能ドロイドだということを義弟から聞いたことがある。
(?????)
困惑しつつもひよこを助け起こす。
「大丈夫ですか‥‥?」


Name: “快音乱風”来崎翔歌 Player: F.
パレードの光がtwiLiteを覆う。夕焼けを夜の帳が包み込むように。
「綺麗‥‥」
‥‥茫然としてしまう。その美しさに。輝きに。
世界が、輝きに満ちている。
(私も、輝いているんだろうか?)
ふとそんな思いに駆られる。
「‥‥!?」
一瞬、天の川のような光の流れの中に、黒い姿を・・・姉・煉の姿を見つけたような気がしてびくりとしてしまう。
何故だろう? 翔歌の方を見ていたアルレッキーノの視線に気を取られ、意識を戻したときには、その姿はなかった‥‥
(夢? ‥‥幻? ‥‥それとも)
今は考えたくなかった。幸せの中に浸っていたかった。
「‥‥?」
アルレッキーノの視線に向き直る。
「‥‥綺麗ですね‥‥」
その一言に万感の思いを込めて。
翔歌はゆっくりと微笑んだ。


Name: カレンシア・ブレナン
「和知‥‥さん?」
その背中に確認するような声を掛ける。
声に答えるように振り向く和知‥‥カレンを見て彼女は、一瞬で全てを理解した様子だった。
「あの‥‥これを‥‥」
右手で白いハンカチに丁寧に包まれた懐中時計を掴んでいた。
後は和知さんにそれを差し出すだけだった。しかし、そこで手が止まった‥‥
懐中時計を見た時に、彼女の顔が微妙に変化したのを見逃さなかったからだ。
それを見て、時計を渡すのにためらいを感じてしまった。でも、渡さなくてはならない‥‥
「この時計には、‥‥思いが刻まれているのですか?」
静かに問う‥‥


Name: “薄汚れた鑑札”沖直海
死線をさまよわせながら歩いていると、ふと後ろから声をかけられた。
いや、かけられたのは自分ではない。
見れば、何やら小さなハンカチ包みを差し出している女性がいる。
どうやら探し物は見つかったらしい。
沖の位置から、和知の表情の変化は見えない。代わりに見えたのは別のもの。
素人丸出しで、尾行のつもりだろうか、一行の後ろをついて来ているエグゼク風の壮年の男性。
ふっと、沖の口元に悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
パレードが始まって、急に増えた園内の人々に紛れ、背後からその男性に近づくと、とん、と軽く肩をたたいて話し掛けた。
「迷子になったんですか?」


Name: ティズ Player: ぺんぺん
「ちょっと、始まったよ〜!!」
 ゆっくりと風景を楽しんで歩いていた男の腕を強引に引っ張る。
窘めるべきかどうするべきか、伺うように男が女の顔を覗くと、すでに彼女はあちこちで展開されるホログラフに目を奪われていた。
 女性にしては怜悧すぎる細い目が、目一杯開かれ、子供のようにきらきらしている。
 職場で彼女が『真白の鴉』と云われている所以であるが、そんなことを男が知る由もなく、さてどうするかと彼女の視線の方向に目を向ける。
「決めた」
 また唐突に女は男を振り返った。
「パレードの中心部に、行こう!」
 ‥‥イコール 人混みの中心部に行こう。
「ここまできて「メインイベント」を逃す手はないでしょ、ね」
 いつもの「お強請り」する目で彼女は男を見上げた。


Name: 石目 夷吟 Player: 高橋英俊
 後ろから声をかけられ,石目は内心,飛び上がらんばかりに驚いた。
「迷子?いや,喧燥を楽しもうとうろついているだけですよ」
 頭で考えるよりも先に反射的に言葉が出る。
 (心拍数も平常、発汗も正常。‥‥並みの人間には動揺は見破れまい)
 石目は自分の対応にまずまずの点数を付けていた。
 ただ,ささやかなゲームの終了が少し残念だった。  そして、振り返り、ほっと安心する。石目は沖を“知っている”。過去に仕事を依頼したこともある。
(最近,依頼したことといえば‥‥)
 石目は自身の強運に感謝した。
(普段の行いがいいからですな‥‥)
「あなたでしたか。いえ,知っている人に良く似た人を見つけたので‥‥どうです?この間お頼みしたことは?」
 そう,沖がここにいるのは不思議ではない。石目に声をかけることも。
 「見合い」とか「婚約者との話をすすめるため」とか適当な理由を付けていたとはいえ、石目は沖に和知の身辺調査を依頼していたのだから‥‥


Name: 和知 真弓
─―過去と未来の邂逅――
「和知・・・さん?」
不意に掛けられた言葉、そう黄昏の楽園に宿る魔法のように。
和知はゆっくりとスローモーションの様に振り向く。そこに立っていたのは藍色のころもをまとった女性。
─―貴方の過去の手掛かりは、藍の衣の女性が持っています。近く‥‥‥すぐ近くに。
“黄昏の公女”の荘厳な言葉が木霊する―─リフレイン。和知はその女性の姿を見て、和知は一瞬目を丸くするが、状況を理解して優しくうれしそうに微笑む。
「‥‥君が拾ってくれたんだ、カレンシアさん」
カレンシアは右手に大事そうに持っていた白いハンカチにつつまれた懐中時計を渡してくる。
二十歳の時、父がやさしそうに微笑んで渡してくれた懐中時計、唯一の優しい思い出‥‥。
受け取ろうとして、和知の手が止まる。表情が困惑に曇る、自分は本当にこれを貰いたかったのか‥‥。
「この時計には、・・・思いが刻まれているのですか?」
ためらいがちに静かに問われた問いに和知は優しく――本当に優しく微笑むとカレンシアの右手を――ハンカチに包まれた懐中時計を手にとる。
「‥‥そうだね、これは僕の思い出だ、優しい、優しい思い出だよ‥‥」
伏せ目がちに和知はいう。唯一のとはいえなかった、それだけの勇気がなかった。
自分の思い出を汚したくないが為に。
そのまま言の葉を紡ごうと、和知が視線を上げると沖が少し離れたところで悪戯っぽい笑みを浮かべて誰かに話かけていたその壮年の男性は‥‥?
─―貴方の未来には男性が影響します。それは時計を贈った貴方の父親、貴方の新たな城――
欲望の地の城に集う男たち、男の衣を纏った貴方の心‥‥これが成功の助けとなるのか、敗北の原因となるのかはわかりません――再びリフレイン。
‥‥これほどまでに占いが当たってくると、和知も黄昏の楽園に掛けられた魔法を信じたくなってくる。
これほどまでに過去と未来が邂逅するとなれば。
(だけど、さっきベンチに座っていた石目さんがなんで僕達の後ろにいるんだろう??)
そちらに視線を向けたまま和知は首をかしげる。‥‥そして、子供のようにお腹を抱えて笑い出した。
「……いやあ、僕といい、石目さんといい、らしくないことするもんだね〜」
笑いが収まらぬまま、誰にいうでもなくそう言う。そして、悪戯っぽく微笑んだままカレンシアの右腕をとると、
「僕とあの人達と一緒にパレード見ようよ、皆集まったらお礼代わりにその懐中時計の話するからね」
といってカレンシアの腕を引っ張って沖達がいる場所へ向かってたたたと走り出した。
優しい思い出につつまれて過去と未来が邂逅する中、本当に微笑んで楽しく過ごしたいと思いながら。

「‥‥いやあ‥‥どうしたんですか?こんなところで奇遇ですね〜」
急に走ったのでちょっと息を切らせながら和知は微笑んだままそう石目に挨拶をした。
懐中時計を落としたと気がつくまえにころんだためまだ汚れていたスーツをパンパンと叩くと沖に何があったのか聞きたそうな視線を送る。
「こんな夜は皆で楽しく過ごしたい、そう思いませんか?」
子供のような満面の笑み、心からの笑顔で和知は皆にそういった。


Name: ブライト・バートン Player: YONO
 風の匂いが変わる。今までの熱い風ではなくどことなく寂しげな湿り気をおびた風、秋の風に。
傍らにいてくれる自分のパートナーにだけ聞こえるような声で会話をしながら道を歩く。
 見終わったモーターショー。
 始まるパレード。
 祭りの喧噪が二人を包む。
彼女がとまどいの声と共に驚いた表情を形作る。いぶかしげな顔をしながら彼女の見ている方へと自分の視線をむけた‥‥


Name: “破邪の魔人”と“暗影の住人” Player: 九龍
真っ白なコートを羽織った日系のヴィル・ヌーヴ人であろう線の細い美男子。
定番のフォーマルスタイルを少し着崩しているのは、休日の演出だろうか。
南東ゲートをくぐると、真っ直ぐ中央ブロックの噴水庭園に向かう。
その後ろを少し遅れて付いてくる、着慣れないカジュアルファッションの青年。
「マコトさ〜ん、何で、そんなにっ、急ぐんですかー」
早足で歩を進めるコートの美男子――マコト・ベルシュタイン――に慌てて追い付き、眼鏡を直しながら並んで歩きつつ、誤魔化され続けている答えを尋ねる。
「ホントに、ここなんですか?」
「‥‥カレンはここにいる。きっと、和知サンもここにいる」
「‥‥根拠は?」
「妹の直感」
「‥‥へ?」
「ユーキが、そう言ってた」
「‥‥どうして、マコトさんと会っちゃったんだろう‥‥」
上司であるところの和知真弓を迎えに来たはずの青年、羽田恭介としては。不安は増大するばかりだった。


Name: カレンシア・ブレナン Player: いふる
>「‥‥そうだね、これは僕の思い出だ、優しい、優しい思い出だよ‥‥」
その言葉を聞いてカレンは安心した。
私のした事は無駄ではなかったと実感出来た‥‥それだけで十分だった。
そうして帰る為に駐車場の位置を確認していたカレンの目に、よく知っている人物の姿が飛び込んだ。
(あれは、マコト?‥‥ぉぉっとと。)
それを最後まで確認する事は出来なかった。和知がカレンの手を引っ張っていったからだ。
カレンは、初めて見るそんな和知の姿に戸惑いを感じながらも、嬉しさを隠し切れなかった。
和知の導くままにカレンは、まだ知らない皆がいる所に歩き始めた。


Name: “広報部の華”静元涼子 Player: いわしまん
【中央噴水公園、パレードに集まる人々の中で】
(そう‥‥パレード、今夜だったのね)
 仕事と用事を終え、twiLiteに戻ってきた彼女は驚いた。何時の間にか道の中央が開けられ、いつもに増して人が集まっている。
 集まっている中には見知った顔もずいぶん多かった。よく見れば子供に風船を配っている琴音の他にも、別れてきた時の面々が一緒にいた。気付いて会釈をしてくる彼女に、涼子は微笑むと手を振った。
『お次はペットロイドたちの番です。この一糸乱れぬ行進を御覧ください‥‥』
 客には――見知った顔の中にも――二人連れも多かった。思い思いに特別の夜を楽しんでいる。自分もその中の一人のはずだったのに、と思い出すと少しだけ残念だった。
 今夜、待ち合わせるはずだった相手からはまだ連絡がない。ヨコハマLU$Tに行ったままだ。華僑のお偉いさんと令嬢の護衛だとか言っていた。Biz。仕方のないことだ。
 自分からはあまり言わないが、彼の腕が立つのは知っている。自分から口に出すことも約束してくれることもなかったが、彼は今まで何度も彼女を護ってくれた。
今度もきっと帰ってくるだろう。いつものように、普段と変わらない沈着な様子を崩さずに。
 だがそれでも、彼女は少し心配だった。LU$TはN◎VAに増して危険な街だと言われている。会社で見たニュースが脳裏に蘇った。あれは――そう、NCBの系列会社、プラグドNC・ドットコムのウェブエリアのニュースをチェックした時だった。BREMEN-NETからのトピックだ。最近LU$Tで、若い女性を専門とした猟奇殺人が続いているというではないか?
 彼女は自分の仕事や立場に満足していたし、それを楽しんでいた。互いに独立した人間だし、仕事の都合もある。二人とも、そんなことで不満を言い合う子供ではなかった。
『‥‥皆様、頭上を御覧ください。ホログラフのプログラムがただ今から始まります』
 幻の花火が弾け、一万の色の光が夜空で踊り始める。
 それでも、こんな夜――こんな特別な夜は、彼女も二人で空を見上げていたかった。
『“infini-Lite”、いよいよ開催です。今宵、この遊園地は無限の光に包まれます‥‥!』


Name: “デス・ロード”アレックス・タウンゼント Player: いわしまん
【北西ゲート付近で】
 チケットをひよこの着ぐるみに切ってもらうと、アレックスは急いだ。道は中央に仕切り線ができ、パレードは始まっていた。飾られた大きな車が、目の前で出発していく。道の脇では、次に出発すべく、残りの面々が待機している。
「もう始まっているな‥‥」
 煙草に火を点けながら、彼は呟いた。秘められた力を使ってヨコハマから“飛んで”きたが、力にも限界がある。N◎VAの力ある術師たちは知っていたが、この遊園地には本当に結界が張られていた。到着してからは、入場ゲートから普通に入るしかない。
 合図と共に、ドロイドの兵士たちがパレードに出発しようとしていた。率いているのは古めかしい鎧を着た騎士たちだ。よくみると旗には、フィブリルのマークが描かれている。新作コートの宣伝も兼ねているのだろうか。
 それを見ながら、アレックスはふと故郷のことを思い出した。ブリテン。アーサー達のしがみつく土地。かつてアヴァロンの永遠の王を表した言葉は、今はもう違う意味を持つ時代になってしまった。
 離れて久しい故郷。残してきた思い出。軍を除隊後、しばらく向こうでボディガードをしていたあの頃。
 ブリティッシュ・ブロードキャスティング・コープの記者だった彼女のことは、今でも鮮明に覚えていた。振り向いた時のあの快活な微笑み。真実を追い掛け、輝いていた活動的な緑の瞳。そして――その瞳は閉じられてしまった。彼の腕の中で、燃え上がる車の脇で。
 故郷を後にしたのもそれを忘れようとしてだった。今になってみれば馬鹿げていたかもしれない。人の思い出はデータチップよりもはるかに鮮明なのに。今でもあの緑の瞳を、はっきりと思い出すことができた。快活で、優しく、純粋なあの輝き。
 そして――それに重なるように浮かぶ、別の紫色の瞳。ブリテンの大地に眠る彼女の面影を、どこか宿したあの表情――
『次は騎士隊の登場です。フィブリル製の新作サーコートを御覧‥‥』
 アレックスは目を上げた。動き出した馬車の角灯が揺れている。もうすぐ、ホログラフのショーが始まる時間だ。
 まだ間に合うかもしれない。煙草を投げ捨てると、彼は急いだ。


Name: “広報部の華”静元涼子 Player: いわしまん
【中央噴水庭園、人々の列から少し離れたところで】
『“infini-Lite”、いよいよ開催です。今宵、この遊園地は無限の光に包まれます‥‥!』
 一瞬だけ全ての闇が消えた。行進するドロイドと騎士団、踊る雑技団、手をかざして頭上を見上げる人々。全てがあらわになる。
視界の端で、まだ闇が見えた。一面の光の中で一人だけ、夜の力を纏った――
「‥‥あら?」
 彼女は懐かしい顔を見たような気がした。だが人込みに紛れ、彼の姿は再びかき消えていた。
 ――人違いかしら。
彼女は顔を落とすと、自分に言い聞かせた。多くの人々が人体制御システムや色のついた義眼を埋め込むような時代になっても、人間は夢を見、幻を見る。彼女の願望が、幻を呼んだのだろうか。
 ――いい年の女のやることじゃないわね。
 寂しそうに微苦笑してパレードの方に向き直った時、彼女のすぐ後ろから声がした。
「そう、無限の光が満ちる時、闇は退き、世界を譲る」
 聞き慣れた低く深い声。いつもと同じ平静な声。
 彼女は振り向いた。紫色の瞳に映ったものは今度は幻ではなかった。黒っぽいコートに身を包んだ長身の人影。肩に掛けたシールドに、頭上の星が映っていた。
「‥‥アレックス!」
「LU$Tの闇に棲んでいたのは人形使いだった‥‥。随分とてこずってね」
 彼女を腕の中に迎えながら、彼は他人には見せない笑顔を見せた。 「こんな夜は、死神も自分の領地に帰っているさ」


Name: 妙堂院由耶&羽也・バートン Player: しんいち
何とはなしにパレードを眺める由耶。ふと、昔のことなどを思い出しながら。
(昔、こういう遊園地でパレードの中“あのこ”の手を引いて歩いてまわったっけ‥‥。)
などと、今となっては自分よりも背の高くなった姪のことに思いを馳せる。

彼と過ごす穏かな時。ひよことイルミネーションの光と、そして無邪気なる音楽。
(そういえば昔、叔母にこんな風に引っ張ってもらいながら歩きましたね…)
幼き頃の記憶がふと心によぎり、“あの”叔母のことを思い出す。

そして、運命の輪は交錯する。

二人がどちらともなく、視線を合わせる。
声を先にかけたのは叔母の方だった。しかし、照れくさそうに『よぉ』とだけ。にっこり笑って、姪は話を切り出した。『お久しぶりです、お元気ですか?』
「みてわかんないかい? 元気さ、このとおりね。‥‥おや? それはそうと、お前デートかい。ん〜、そりゃ、邪魔したねぇ‥‥」
「いえ、大丈夫ですよね? ブライト?」
羽也は隣の男性に視線を投げかけ彼に向かってにっこりと笑った後、由耶にむきなおる。
「ま、お前さんらが仲良くしてるのはいいことさ。オバサンは邪魔にならないようにさっさと退散するよ」
「あ、でも……」
「いいんだよ、あんた達の顔が見れただけでも今日はついてるんだから」
言い残すやいなや由耶はすでに雑踏の中に踏み出している。羽也が由耶を見失うのに2秒も必要としなかった。
黄昏の遊園地で起こった一時の魔法。それは、二人の出会い‥‥。


Name: “Shield Maiden”レオナ・ソール Player: 九龍
 レオナ・ソールは、光と音の氾濫に身を委ねるように見入っていた。
あの「鉄甲の左腕」を持つ“盾の乙女”とは思えないほど、気の抜けた様子で。

世は全て事も無く、それなりに平和で、それなりに危険なのだろうか。
久し振りにオフが取れた。カブトとしての自分を否定するつもりなど更々無いが、だが、世間一般に言う”年頃の女性”であることを拒んでも仕方ない。
だからこそ、そんな気の抜けた様子でいる。
「たまにはいいよね‥‥もったいないもの」
 そう呟いたレオナの視界の隅、音と光が渦巻く中に混じった一人の騎士。いつか出会った”死の卿”。
あの黒い炎の瞳を覗いた時、ほんの少しだけ、自分の盾を重く感じた。
そして今も。彼とその側に寄り添う女性の背中が、今は持っていないはずの盾を重くした。
二秒だけ、何も考えずに見詰めていた。
「‥‥ヤボな事はしちゃダメよね」
軽く、胸のブローチを握る。心の中がすっきりしない。
どことなくお互いに似たところの有る、あの「成功率三割」の友人を祝ったときも感じた気持ち。
『羨ましいなら羨ましいってはっきり言いなさいよ』
ヴィル・ヌーヴにいた頃の友人に言われた言葉が頭を過ぎる。

巡り巡る思い出を、混ざり合う光と人の中に垣間見ながら、自然に唇が動く。
「‥‥‥‥羨ましいなぁ‥‥‥‥」
音の嵐に紛れて、とてもはっきりとは言えなかった。


Name: “広報部の華”静元涼子 Player: いわしまん
 静元涼子は嘆息していた。せっかく恋人が帰ってきたと思ったら、彼は近いうちにまた行くかもしれないと言っているのだ。あの危険な欲望の街に。
「ほんとに大丈夫なんでしょうね‥‥もう心配してあげないわよ?」
「二度目なら勝手も分かってくるよ」答えるアレックスを彼女は見上げた。
「デス・ロードは死神の使いだ。冥界に送るのは相手の方さ」
 頭上で踊っている光が、二人を照らしている。彼の青い瞳の奥に、黒い炎が燃えているようだった。
(‥‥あら?)
 ふぅ、と苦笑して彼女がパレードの方に目をやった時だった。混ざり合う人と光の中で、一人の娘と一瞬だけ目が合った。いや――それは彼女から見た場合であって若い女性だ。
 大きい上背、濃い色の髪‥‥ふつうのOLがBizの後に、華やいだ格好に着替えて出てきたといったいでたちだ。綺麗だが、どこか寂しそうな‥‥
(‥‥誰かしら?)
 事件を嗅ぎ分けるトーキーの勘ではなく、女の勘が告げていた。彼女が見つめていたのは自分ではない。自分の連れの方だ。
(‥‥‥‥まさか??)
 彼が相手構わず女を追い掛けるような軽薄な男でないことは、自分が一番よく知っている。だが‥‥そう、ボディガードという仕事も、意外と人に会うことが多いのだ。
「ねえアレックス、あそこのひと‥‥知り合い?」
 連れが振り返り、二人が鎧を脱いだ盾の乙女の姿を探した時、人込みが動いた。一段と光が激しく舞い、彼女は見えなくなっていた。
「‥‥どこだい? あー、どこまで話したかな。そう。中華街の名士の御老体と娘さんだ。また、何かあったら頼みたいと言っててね」
「あら。じゃあ、ま〜たチャイナドレスの華僑のお嬢さんの警護に? まったく華やかなお仕事よね!」
「おいおい、今度は爺さんの方だよ‥‥」
 だが、死の卿が次に護るのは紅玉の瞳の戦姫。対するは秘せられた帝国の強兵。まだ二人は、そのようなことは予想だにしなかった。


Name: “ツインテール”有坂 綾 Player: 迷い猫
 だんだんパレードの方に近づいてきたらしく、人が増えてきている。その向こう側は一際明るく輝いているようだ。
ところが、ひよこは人だかりには向かわず、別のほうへと歩いていく。
「ちょっと、どこ行くのよ。」と言いかけたが、ふとひよこの思いやりに気付く。
(そっか、先回りして、わたしにパレードの1番前を見せようとしているのね。)
 ひよこの心づかいに、今まで沈みがちだった気分が軽くなる。どうやらこのひよこを気に入ってしまったらしい。
「ふふっ」
自然と笑顔になる。
と、突然誰かに呼び止められた。振り向いて見ると、見知らぬ女の子が立っていた。怪訝そうな顔をしていると、むこうから自己紹介をしてくれた。知り合いの娘だと聞き、緊張が解ける。
「へぇ、あなたが魅那さんの娘さん? あなたはわたしのこと知ってるみたいだけど、わたしはあなたのことをほとんど知らないのよね。だから一応『はじめまして』かしら。」
 そういって握手を求める。もちろん右手だ。顔には今日で1番の満面の笑みを浮かべて。
「こんなところで出会うなんて奇遇ね。もしかしたらtwiLiteの魔法のせいかもしれないわね。それとも…」
自分を案内してくれているひよこのほうを見る。「ひよこさんのお導きかしら」


Name: ヴィルヘルムント Player: 聖槍帝
 頬を舐められて。しばらく瞬きした後に、顔が火照ってくるのがわかる。ティズの声など、まったく耳に入っていなかった。
ティズに頬を舐められた。その事実が頭の中でぐるぐる回っている。
(が、がきじゃねぇんだから、こんな事で舞い上がってどうする‥‥?!)
傍から見れば十分舞い上がっていると言う事実にも気が付かず、俺はティズを見つめていた。
(ティズは、俺のことをなんて思ってるんだろう?)
付き合い始めて、確かに一緒にいる時間は多くなった。だけど、彼女の都合でキャンセルになったこともしばしば。
(ティズって、もてるだろうしなぁ‥‥俺って、ただの友達?)
止せばいいのに、頭の中でよからぬ(?)想像が始まってしまう。知らず知らずのうちに、ティズの腕を掴んでいた。
「なあ、ティズ。俺のこと‥‥どう思う??」
普段なら絶対に聞かないこと。この場所にかけられた、夜の魔法がそうさせたのか、はたまた自分でも気になっていたのかはわからない。
だけど、俺は聞かずにいられなかった。確か、彼女は男性は苦手だったはずだ。だけど、俺とは一緒にいてくれる。
(なぜ? 何故なんだ‥‥??)
でも、俺ははっきりと口に出した。
「俺は、ティズのこと、大好きだから。愛してるから。迷惑だったら言ってくれ。そのことで、ティズを苦しめたくないから」
言いながらもひどく矛盾した言葉だと思った。
他人を傷つけない愛なんて無い。クララがよく言っていた言葉だ。
だけど、このままあいまいな関係もどうかと思う。俺はあせっているのか‥‥?
言ってしまった言葉。その回答を、パレードの喧騒にまみれながら待っていた。


Name: ティズ Player: ぺんぺん
「‥‥どう、したいわけ?どうなれば満足なわけ?」
 普段は滅多に‥‥例えそれがオフィシャルだろうとプライベートだろうと‥‥見せない、酷薄な笑みを浮かべてティズは尋ねた。
「何を期待しているの?何が望みなの?」
 知らず、無意識にティズはヴィルヘルムントの心に尋ねかける。
 相手の無意識に近い場所に直接語りかける。
 触れられたくない場所に触れられたとき、逆上するよりもまず、心が凍てつく。
 凍てついた心は出口を求めて相手を攻撃する。
 そうやって今まで何人かの人間の、彼らすらみたくない本質をえぐり出し、突きつけた。
 ああ、そういえば、彼らのこと、好きだったな……と、もう1人の自分がふと思った。
「私は何をすればいいの? 私に何を求めているの?」
 ああ、じゃあ私は彼が好きなんだ。と、もう1人の自分が納得をした。
 だから壊さなきゃいけないんだ。
 他の誰もみないように。
 他の何にも心を移さないように。
 私を、あいつみたいに裏切らないように。
 うっとりとティズはヴィルヘルムントを見上げた。

「大嫌い」
 きらきらと星が降る。
 ホロビジョンの妖精達の笑い声が聞こえる。
 さざめく通行人の声、パレードの軽快な音楽が側をすり抜けていく。
 つきあうことくらい簡単だけど、自分を演じることくらい簡単だけど、多分、今、間違いなく自分を変えてくれる優しい人に、ほんの一欠片残っていた良心が、無意識に傷つける言葉を投げかけた。
 甘く囁くように。

 泣いた後みたいな彼女にしてはあまり上手くない笑みを張り付かせたまま、ティズはパレードの喧噪の中にとけ込んでいった。


Name: 私的執行猶予期間中の或る青年 Player: 斎藤一条(キャストは斎篠一)
彼は、ひたすらぼーっとしていた。
”ファウンテンオブスターズ”にある噴水の縁に腰掛けて、目深にかぶったレザーキャップの下から空を眺めつつ。
噴水の中央から少し離れた場所では、パレードを見物する客で混雑しているが、噴水前そのものは逆に人が少ない。祭りの騒ぎも、彼からはほんの少しだけ遠い。
薄手でネイビーブルーのマウンテンパーカーにレザーパンツといった出で立ち。20代前半から半ばくらいの青年であることは見て取れるが、積極的にパレードを見ようとか、誰か人待ち、と言った様子もない。たまたまそこにいて、たまたまパレードがあった、という様子である。傍らに置いたディバックに気を止めることもなく、視線を中空にさまよわせてい る。どこに焦点を合わせることもなく。
つい先刻まで彼は「レポートを仕上げるために奔走する大学生」をやっていた。帰れば「会社のために頑張るクグツ」になる。帰る途中で”2-Lite”でイベントがあるらしかったのでふらっと立ち寄ってみたのだ。本来であればさっさと戻らなければ行けないのであろうが、元が勤勉ではないのでテーマパークの一角で油を売っている、という状態だ。
まだ帰宅途中、忙しい大学生をやめて、真面目で慇懃なクグツに戻るまでの猶予期間。
彼の口元に皮肉気な笑みが上る。
" ... Blood's allow drow and shoot, faster than lova,faster than sorrow... "
 笑みの浮かんだ唇から、我知らずと言った感じで何かの歌を口ずさむ。彼が今よりもずっと低い視点をだった頃に覚えた歌だった。誰が歌っていたのか、どこで覚えたのかもすでに定かではないが、何故かその曲が口をついて出てきた。別段、なにか特別な思い出があったとか、そういうわけではない。今の今まで彼自身忘れていた。思い出したのは、華やかながらどこか郷愁を誘うこの園内の雰囲気のせいか。
空を見上げ、成層圏の内側にある星空を眺めながら、記憶の彼方からやってきた旋律に神経を集中する。
‥‥どうせいまは何者でもない、途中経過にあるもの。悪目立ちも悪くない。
囁くようだった歌声の音量を上げた。そばにいた人々が何事かと驚いてそちらを見るが全く気にせず、逆に楽しそうに歌を続ける。
" Choose route before bewildment catch you
If you stand still a little while, it runs after you
Nobady answer question ... "

 濃い、だが決してぬばたまの漆黒ではない、闇色の空。彼にとっては馴染み深い色だった。見ようによってはアッシュシルバーのような色をした灰色の瞳が、ここにはないなにかに焦点を結んだ。それは遠い過去の映像か、来るかどうかわからない”この次の瞬間”への扉か。
ふと視線を地上に戻す。目前に広がるのは人の波。
不思議なところだと、歌いながら彼は思う。
昔と今と次がこんなに混在する場所も珍しい。そして誰もがその雰囲気を抵抗することなく受け止めている。時間の流れなんか気にする事なんてほとんどない、この自分も含めて。
" Through... close people,had loved people's visage
For clutch the highest star! "

とかなんとか難しいことを考えるのはやめた。懐かしい歌を思い出せた、歌い上げられた、それだけで十分だ。
左手を噴水の中に突っ込む。そしてそのままその手を勢いよく振り上げた。整然とした美しさを作り上げていた水流が一瞬乱れ、辺りに悲鳴とも嬌声とも言えない声がいくつも上がる。
「お祭りの最中だし、多少の悪戯は大目に見てくれよー」
気楽な声でそういいおいて、素早く彼が立ち上がる。その周りには色とりどりのライトを移した水滴の流星雨。
そして、まるでそれが呼び水だったかのように、天空にかかっていたホログラフの星空も数多の光を振りまいて花火の鮮やかすぎる光と混じり合い、煌めきながら地上へと降り注ぐ。
その場にいる、いや、地上にいる人々全ての願いを叶えるかのように。


Name: “ロビンフッド”ジャン・R・シルヴィス Player:
「よし、行こうっ!」
 自分に喝を入れ、僕は例の城型ヴィークルの方へ目線を向ける。彼我の距離は数メートル。
それでも、途中で人垣があったり、城のテラスに上るためには結構な高さの城壁――ていねいに苔まで再現されていた――を乗り越えなければならない。
 こんなところで手間取るわけにはいかないし‥‥、しょうがないか。
目をつぶり、僕は意識を集中させる。僕の周りを空気の流れが取り囲むのがわかる。
そうして、僕は空中を渡る。階段を登るように、ゆっくりと歩いていく。
何人かの人が僕に気づいて、歓声を上げる。指を指してこっちを見ている男の子。父親の手を引いて、今見たものを伝えようとする女の子。
僕はちょっとだけ手を振ったあと、口の前に一指し指を立てて"秘密だよってジェスチャーを送る。
彼らがそれに応えてくれたのを見届けると、僕はそのまま歩を進めた‥‥、瞬間、辺りの光景が一変した。‥‥“魔法”?
 一瞬、辺りが暗くなったかと思うと、今まで満天の星空を描いてた園内のホログラフが、突如、天空を駈ける流星雨に変わった。それはアトラクションの花火と交じり合い、煌く無数の星屑を描き出している。心奪われる、幻想的な光景。
その光景を眺めながら星々の海を渡り、僕は小さな城のテラスに降り立つ。
高いところから見ると、宴の賑わい、人々の思い思いの表情がよく見て取れる。
 ゆっくりと移動するヴィークルの上で、人の賑わいと、ちょっと離れた所を軽快なステップで駆け抜けるフェイシンを確認すると、僕はフェイシンに向かって手を振った。


Name: “嵐童子”飛星 Player: KID
わあ・・・っ!!
その場にーーいや、“twiLite”中にいる多くの人々の歓声と感嘆のため息が混じり合った。
飛星もまた、天空から舞い落ちる星の輝きに目を奪われる。
それは人の手による幻のはずなのに、例えようもないほど綺麗だった。
「‥‥すげえや‥‥」
幼い少年は、そう呟くのが精一杯だったが、はっと気がつくと慌てて“城”へ駆け寄った。幸い、警備員も空を見上げて呆然としている。
既にジャンは”城”のテラスにおり、こちらに手を振っている。
(? 意外と身軽なのかな?)
そう思いながら、“城”の後ろを歩いていた鎧騎士の肩を借り、軽々と城壁に飛びついた。そこから城壁を蹴って、塔の一つに着地する。
「ふぇ〜、いい眺めだなあ」
塔の先端を支えにしながら立ち上がった飛星は、周囲を見渡す。人、人、人の群れーーそろそろ、自分たちに気づいた観衆もいるようだ。
「へへっ、ワクワクしてきたぞ」
飛星は心地よい緊張感を味わいつつ、ジャンに向けてOKのサインを出した。


Name: “ロビンフッド”ジャン・R・シルヴィス Player: KID
 歌いながらバッグの中身を探る。準備はできた、あとはやってみるだけだね。
城壁の影から、僕は帽子屋の扮装をして現れる。
ちょっとだけ風の精霊に頼んで、近くの人達に声を伝えてもらう。
「夢と魔法の楽園へ迷い込まれた皆さん、「おかしなお茶会」にようこそ。今宵は僕、帽子屋と、」
 瞬間、"早変わり"。
「三月兎が案内するよ。」
 瞬時に入れ替わり続けながら、僕は話を進める。

帽子屋「ただいま迷いこんだのは、妖精の森」
三月兎「迷い込んだら抜けられない、迷いの森」

 ちょっとだけ魔法を被せると、ホログラフが僕の言葉に合わせて鬱蒼と茂る夜の森林を描き出す。

帽子屋「ここに住むのは夢見る小さな魔法使い」
三月兎「そして、人を迷わす魔性の妖精」
帽子屋「それでも今夜は魔法の宴」
三月兎「日頃は愛想の悪い妖精も、今夜は陽気に迎えてくれる」

 僕は魔法使いの格好になると、ポケットからストローと小瓶を取り出すと、空に向かって虹色のシャボン玉をゆっくりと飛ばしはじめる。
ゆったりと飛んでいく無数の大きなシャボン玉。
それは次第に空を飛びまわる"妖精"に変わり、宙を踊りだす。
空を彩る無数の光の線――

三月兎「そろそろ宴も終わりに近づき、」
帽子屋「今度は夢の世界からやってきた、多くの精霊達が宴を彩る」
三月兎「そこで語られるのは不思議な話」
帽子屋「不思議の国に迷い込んだ、一人の少女の物語」

 僕はもう一度魔法使いになると、今度は“白兎”、“白の女王”に、“赤の女王”・・・そして、“運命の少女”。
再び多くのシャボン玉を宙に解き放つ。
それぞれの場所で綴られる複数の、そして一つの物語。
語られたのは不思議の国の不思議な話。
僕はそれぞれの場面でいろいろな登場人物に入れ替わりながら、面白おかしく話を進める。
彼らはそれぞれの物語を綴りながら宙を舞い、やがてゆったりと流れる光の川――空中のホログラフ――の中へと消えていく。

全ての話が終わると、僕は再び帽子屋の扮装をして深々と一礼する。
パレードの列の方からいっぱいの拍手。
満面の笑みでそれに応えると、僕はもう一度礼をして、舞台の袖に降りた。


Name: “ナックルリポーター”リューゾー Player: グリン
「このチャンネルの前のみんな、"Hello" or "Nise-2-meet-U"。こちらはマリオン13'(サーティンダッシュ)、“ナックルレポーター”国見龍三だ。
悪いがあんたのお楽しみのドラマ『夏の嵐』、だったかな? そっちは次回にお預けになった。
‥‥おっと、チャンネルはそのままにしておいた方がいいぜ。ドラマなんてのはいつでも見れるが、この番組は今しか拝めないんだからさ。
番組の名前? ではお教えしよう‥‥N◎VAの深夜を熱くする正義の報道、その名も『Fast=Fist=Friday』。今日はここ、アミューズメントパーク“twiLite”からの生中継だ!」

それが、彼のささやかな生放送番組の出だしだった。
淡い光芒の中で、斜め前からやや引いた感じで男の上半身が浮かび上がっている。
彼はパレードを見つめつつ、話しながら時折こちらを向くという画面構成。場所は、もちろん彼と彼の小さな友人が自力で勝ち取ったパレードの最前列だ。
この若いトーキーは、やや乱暴だが極めて落ち着いた調子で言葉をすらすらと紡いでゆく。
「今映しているのは、この黄昏の楽園で今日限り催されるスペシャルパレード“infini-Lite”のメインとなるドロイド達だ。どうだい、まるでお伽話の国に迷い込んだみたいだよな‥‥きっとモニタの前のあんたも、多分俺もね。
オズの魔法使い。不思議の国のアリス。シンデレラに白雪姫。あれは何だろう? ドラゴンと騎士と鳥と‥‥」
おもむろに視点が高くなる。龍三が雄介を肩車し、彼にカメラを持たせているのだった。
「見えたかい? あれは巨人だな」
どこか臆病で、それでいて優しげな姿。その視線の先に、流星雨をバックに咲く大輪の花火。
さっきまでいた蝶達は、それぞれが方々に散っていくところだった。
「このパレードは番組が終わる午前0時まで続く。その間、俺を含む何人かのトーキーがそれぞれのスタイルでこの園内で生中継をすることになる。内容はまあ、見てのお楽しみ‥‥」
言いながら、IANUSに30秒後の中継権の委譲を命令する。最初に渡るのは“Buck Baller”。映像はまかせてくれ、と言ってきた奴だ。そして龍三の読みが正しければ、あの天空の仕掛けを作り出した魔法使いの一人は、彼か彼の仲間(美緒と言ったか)だ。
「それじゃ、俺の出番はここまでだ。番組の最後でまた会おう。‥‥もっとも、俺はずっとここにいる。あんたが今その薄暗い部屋を飛び出して、ついでに彼女を叩き起こしてここまで(できれば2秒で)来れるなら、一緒にこのパレードを見ようぜ!」
カメラが一羽の蝶を映し出す。それが切り替わった時、言葉と映像のリレーが始まった。

「(忘れてた!)‥‥この番組は、“粋な貴方を応援する”RI財団と、アミューズメントパーク“twiLite”の提供でお送りします!」


Name: “ただの”ジャック Player: 若竹屋
 星さえ降ってくるような夜である。
 未熟者のフェイトは毛色の変わったひよこにいつまでも情熱を傾けてはおけなかった。
 感情からだまされてゆく脳を覚醒させようとジャックは煙草に火をつけたが、目は目的もなくさまよっている。
 今や彼は、祭りのざわめきの中に居心地良く呑み込まれつつあった。
 もとより地味な外見の持ち主であるが、こんなところに男一人くたびれた格好で立っているそのズレた姿さえも、「観客の一部」という背景の中に熔けてゆく。

 祭りは眺めているだけで楽しい。
 もともと、こうしてただ眺めているのは好きだ。

 幻想の城を舞台にファンタジックな一幕(プラス「華麗な」アクション)を演じていた役者達が観客の中に消えていくのが見えた。警備員が動いていたということは、飛び入りであろうか。
 こうしてみると、ひよこども以上にさまざまな種類の人物達が、出演しているようだ。
俺がいかれているんでなければ、たしかにトーキーもまじっている。
 これだけの出し物、この街の大陸奥地の夜空の星ほどあるチャンネル数を考えれば当然か。するとたしかに、誰もがこの幻想の出演者というわけだ。
 家に電話を一本入れる。
「父さん?また俺の家に不法侵入して、くつろいでんの?ついでに、twiLiteの“infini”関連番組、録っといてくれないかな。野球中継?うちの皮蛋にでもやらせておいてくれればいいからさ。
‥‥仕事だよ。このステキなひよこの王国の中に隠れてる、ある人物を捜してるんだ」
‥‥仕事に由来する貧乏性というのは、どこまでも追ってくるらしかった。


Name: ヴィルヘルムント Player: 聖槍帝
「ありがと」
 その一言が、何より嬉しかった。顔が思わずほころぶ。
「‥‥ありがとな、俺を選んでくれて」
 ささやくような声で言う。えっ?というような彼女の顔。「ねぇ、何?」
「‥‥なんでもない。特等席、ね。用意させてもらいますよ、お姫様」
 園内移動用のホバーボードが目に留まる。幸い、誰も乗ってない。
ティズを抱きかかえて、足を固定する。抱き上げてからティズは抗議の声を上げっぱなし。
「ちょ、お、下ろしてよー! 往来の真中で、恥ずかしいじゃないー!」
「特等席、欲しいんだろ??」
うるさく抗議するティズの唇を、無理やりキスしてふさぐ。
「‥‥!」
「しっかり掴まって。飛ばすからな」
 その二つ名の通り、青年は、風と化した。あっという間に展望台前に着く。
「さ、着いた着いた。一番、twiLiteで見晴らしのいい場所だろ?」
抱きかかえていたティズを降ろして、顔を覗き込む。意外にも、照れた顔のティズ。
「たまにはそういう顔もしてくれよな。そういう顔見てると、幸せな気分になるからさ」
「‥‥バカ」
「ああそうだ。渡したいものがあったんだ」ぱちんと指を鳴らす。
 ひよこ君が真っ赤なバラの花束を持って現れる。
「預かり物を返すのだ。色男、がんばるのだ」
「サンキュ。請求は出るときにしてくれ」
「まいどありなのだ」
 コミカルな足取りでひよこ君は去っていく。
「‥‥これは?」
「今日、誕生日だろ? だから‥‥その‥‥プレゼント」
「ありがと。でも、これだけじゃ足りないよ〜!」
「判った。じゃあ、とっておきを」
 言うなり、唇をすばやく塞ぐ。
 パレードの喧騒。鮮やかな花火のプリズム。幻想的な世界の中で二人のシルエットが重なっていた。


Name: “Buck Baller”艫明 Player: 露峪 秋
(よっしゃ、俺の番か。美緒、用意はいいな?)
『OK』
ナレーションとしてお互いの通信が入らないように、最後のセッティング。そして画面端のランプが赤く点る。確認と同時に加速カメラ切り替えによる上昇。
 先ほどから既にリューゾーらしき人物を見つけておき、その側に1羽の“蝶”を配置していたため、“画像の切り替わり”は発生しない。それどころか、まるで今まで映像を写していたカメラが、そのまま高速で上空に昇っていくような感覚が表現される。
(「さぁ、“twiLite”の上空だ。放送にたまたまシンクロしちゃってた君、酔ってないだろうな? もし、この放送を見てる奴で直にここの雰囲気を楽しみたい奴がいたら、下に出てるポイントにアクセスしてみてくれ。そ、れ、と、高所恐怖症な奴、心臓の弱い奴、収穫間近な彼女、トイレを極限まで我慢してる奴、そんな君たち用にもちゃ〜んとリアルホログラフ放送が用意されてるから、もし良かったらそっちに切り替えても楽しんでみてくれ。こっからの案内はこの俺“舞踏会のしゃれ男”だちょっとの間、よろしくたのむぜ」)
 ナレーションの間きらびやかな上空の夜景を写していた映像が再び動き出す。
(「実の所、このパレードには、そりゃぁニューロな仕掛けがいっぱいあったんだ。いや〜すごかったぜ〜。あれを見れなかった奴らは可哀想〜。まっ、今後もまだいろいろあるだろうからそっちだけで我慢してくれ‥‥」)
 映像がパレードの周囲を滑らかに旋回する。
(「・・・なんてのは冗談だ。幸い今の所このパレードはちょこっと大人しさを見せてる。サイケデリックよりダウナーが好きな奴にはすまないが、ここは俺の枠っつぅ事で俺好みのダイジェストを放送させてもらう事にする。輝きはいつでも一瞬だ。まばたきする間も惜しむアミューズメントパーク“twiLite”パレード・ダイジェスト。用意は良いかい?じゃぁ良くぜ!」)
 映像は一瞬の内に過去の“全く同じ映像箇所”へと切り替わり、そして‥‥。
(美緒を待ってる間も収めといて正解だな。“二人の魔術師たち”や“本物の花火”なんて、そう見られるもんじゃないからな)
 彼の“最高の仕事”が流れた。


Name: “テスタロッサ”ジェニオ=アルレッキーノ Player: 蝠邑カズヒロ
「綺麗ですね」
 そう言って振り向いた翔歌の瞳が、一瞬翳ったのをアルレッキーノは見逃さなかった。
(パレードに思い人のまぼろしでも見たのか?)そう問いたい気持ちもあった。
「ああ、でもその花火の輝きも瞬く間に消える‥‥君の美しさに恥じ入るように‥‥
もし俺が詩人だったなら、君の光を言い尽くせよう。
もし俺が絵描きだったなら、君の香りを描き尽くせよう。
もし俺があの花火だったなら、一瞬でもその憂いの影を俺の光で照らしかき消すこともできるだろう‥‥でも俺は見つめる事しか出来ない」
 沈痛な瞳を彼女に向ける。

「なんて事をほざいてる野郎が、今夜何人いることやら!」
 おどけるように皆に両手を広げて言う。
「ところで、乾杯がまだだったよな!」


Name: レイチェル Player: あやめ
 パレードが終わろうとしている‥‥。レイチェルは、傍らの女性と一緒に手に風船を持ちながら歩いていた。
「楽しかったですね〜」
彼女の言葉に何も言わず、笑顔で答える女性。レイチェルも女性の笑顔を見て、さらに表情を明るくする。
 ‥‥と、目の前を足取りの危なっかしいひよこが歩いていく。
(‥‥大丈夫かなぁ〜?)
案の定、心配しているレイチェルの視界の端でひよこがよろけ、膝をついてしまった。
「レイチェル?」
 レイチェルは、女性の手を引きながら、ひよこのところにかけより、彼(彼女?)を助け起こしてからハンカチと絆創膏(あるのか?)を手の上に乗せた。
「今日はとっても楽しいことをありがとうです〜」


Name: カレンシア・ブレナン Player: いふる
楽しい一時を共に過ごす‥‥知っている者、初対面の人。そんな些細な事は気にも止めずに。
‥‥しかし何時かは終わる。永遠に続く事は無く‥‥
だからこそソレは、大切な思い出となり色鮮やかな残像として心に留まる。
そしてカレンは最後にひとつだけ願う‥‥
‥‥このパレードが、あの懐中時計にも刻まれてますように‥‥


Name: “ナックルリポーター”リューゾー Player: グリン
小さな友人達に誘われるまま、龍三はあやめの少し後を歩いていった。
カメラを回すのに夢中になっていて足下にはまるで注意を払わなかったが、それで何の不都合もなかった。
子供達の所に着いてみてから、それが彼女の誘導によるものと気付く。
その心遣いが、改めて嬉しかった。
「ねえねえ、あれ映して〜」
そう沙璃菜が指さした先に、かぼちゃの馬車を模したヴィークル。
すると、中に乗っているのは‥‥
と、疑似網膜の隅に、局からのアラートが表示された。
‥‥終了1分前?
光り輝く馬車の中に座る姫君を映しながら、小さく舌打ちする。
(この歳になって、あんたの気持ちがわかるとはな‥‥)
だが自分は家族に虐げられる可哀想な少女ではないし、やがて王子が自分の手がかりにするであろうガラスの靴も持っていない。
第一、あっちから幸福が来るのを待つほどお人好しじゃないしな。
やれることを、やるだけさ。

「それじゃ、この放送もそろそろお開きだ。突然の放送に驚いたと思うけど、その分楽しんでもらえたなら、ぶっつけ本番で放送を始めた俺達としちゃ、充分本望さ。あと少しでパレードは終わるが、来そびれたあんたもがっかりするには及ばない。
twiLiteは黄昏と同時に毎日その門を開く。あんたが望むときに、この星空を眺めに来れるんだ‥‥」
局の方から配信されてきたテロップにトーキー達のプロフィールリンクを追加して画面に配置する。
「‥‥最後に、ありがとうを。俺の無理を聞いてくれたマリオネット、twiLite、RI財団の関係各位。押っ取り刀ですげえ放送をかましてくれた艫明、いや“Buck Baller”。
最後までこの放送を見てくれたアンタと、パレードに駆けつける気になってくれたアンタ。
この黄昏の魔法の中で、共に瞳を輝かせた多くの人々へ。
‥‥それと、俺を夢の世界の住人にしてくれた、素敵な導き手と二人の小さな友人たちに。
あなた達に出会うことがなければ、俺はただのインタヴュアーとして、適当な話を拾ってまた乾いた雑踏へ帰ってしまうところだった‥‥」
まるで目の前の誰かに話しかけるような声色。カメラの端で、誰かが誰かに微笑んでいる。
「‥‥次回の放送は未定だが、どっかのチャンネルで、どっかの時間帯に、俺は必ずカメラの前にいる。いいな? それじゃな!C-U&XYZ!!」

(画面の視界が一瞬乱れ、「おし、終わった終わった!」という声がマイクに入る。
「そうだ、記念撮影しましょうよ、みんなで。おい!そこのひよこ!そう、そこのお前、忙しそうで悪いんだけど、ちょっと写真撮ってくれないか?え?手?…………」
嬌声がブレ続ける映像にダブる中、思い出したように画面が切れる)


Name: “光の弾丸”静元星也 Player: いわしまん
【中央噴水庭園の入口で】
(へえ‥‥いつの間にかパレードなんてやってたのか)
 たこ焼を勧めるひよこくんを辞退し、星也は辺りを見回した。
祭りは終幕間際だった。空にはホログラフの光が踊り、大通りを様々な行列が練り歩いている。群集たちも最後に一際輝くはずの夜空を見上げていた。
 ゼロ巡査部長の命で行ってきたLU$TにもtwiLiteヨコハマがあるが、パレードをやったという話はまだ聞いていない。
 前にLU$Tに行った時もそうだったが、ヨコハマでは一騒動あった。ヨコハマスタジアムでライブ予定の花形アイドルがらみでいろいろあったのだ。
 そう言えば――姉がハマのことを心配していたけど、どうしているだろうか? 心配の種は弟である自分の身だけでなく、自分の知り合いが今度行くからだとかいう話だったが。
「‥‥あれ‥‥?」
 赤道直下からは見ることのできないオーロラが北の空に一際輝いた時、星也は奥の丘の所に姉の姿を見たような気がした。誰かと話しているが‥‥人違いだろうか。なんだか改めて見回してみると、知った顔がずいぶんあちこちにいるような気がする。
「あら、星也巡査さん‥‥ですよね?」
 ポニーテールの娘が星也を見つめていた。琴音=フェンデル。そう――去年のクリスマス、聖夜にやはりここで会ったあの娘だ。あの時も仕事帰りの自分と、勤務時間の彼女だった。
「あ、フェンデル‥‥さんか。またお会いしましたね。ふふ、なんだかいつも、こんな時ですね」
 危険なLU$Tで、スラムの爆破事故現場を調べ、レッガーたちを相手に自称二流のガンスリンガーと共に暴れ回った後では、彼女の笑顔がなんだかまぶしいような気がした。星也は二人で、終盤のパレードを眺めていることにした。


Name: “クリスタル・シンガー”琴音=フェンデル Player: いわしまん
「良かったですね。ちょうどフィナーレのところなんですよ。ほら、こんなに沢山の方が‥‥。お知り合いの方とか、もしかしたらいらっしゃってるかもしれませんよ」
 園内を見回しながら、琴音は言った。空全体が光に包まれていた。パレードは終わるが、twiLiteは閉園しない。きっと、余韻に浸り続ける客も多いだろう。知った顔が何人も見える。彼女と共に、懐中時計を探した面々もこの空を見上げているのだろう。
――黄昏の公女マルーヴァ様、ごめんなさい。和知さんたちは、きっと黄昏の公女の正体が私だと見破っていたと思います。
 琴音は心の中で謝っていた。占いをした時の和知や沖たちのいたずらっぽい微笑みが甦る。きっとそうだ。
 黄昏の公女は北の男爵領の守護神。謙譲の美徳と、女性を護る仮面の夜の女神。四頭建ての馬車に乗って現れる、夜の大公の后。前にやってみたフェニックス・ソフトウェアのファンタジー・シムスティムゲームに出てきたのだった。彼女はあの雰囲気が気に入っていた。
――でも、貴方がこの夜を祝福してくれたお陰で、この遊園地に黄昏の魔法が掛かりました。これだけの人が、心から楽しんでくれました。たとえ幻でも、この暗いニューロエイジにこれだけの光が灯ったんです。そして、皆さんの心の中にも。

「あ、星也巡査さん、そういえばお姉様にお会いしましたよ。お仕事があるって聞きましたけど、もうその辺に来てるんじゃないかな? ほら‥‥あそこのアイスクリーム屋さんの奥の丘のところ」
「えっ? あのひよこが配ってるところですか?」
「やだなあ。そっちはたこ焼き屋さんですよ。あら、お連れさんといるみたいですけど‥‥」

- Elektrikal Parade "Infini-Lite" -
Prezented by RI-Foundation. Thanks 4 Ur Koming.
And, See U Next, Neuro dAanserz ...


twiLite




Name: “薄明の君”アルティシオン
【中央噴水庭園近くに夜の光が集まり、女性が現れる】
 パレードが終わった。リボンや紙吹雪、光の残りが、列の去っていった後の地面を舞っている。まだ、祭りの興奮が冷めずにいる客もいたが、大多数の客たちはそれぞれの帰途についていた。
「ずいぶんと盛況だったようじゃのう」
「あら、これはこれは老師自らの登場とは‥‥今宵は魔法を掛けるに相応しい日だこと。あのお弟子さんはいらっしゃらないの?」
 ぶらりと現れたN◎VA最高の幻術師に、薄明の君は呼びかけた。その髪は白金の風、黄金の瞳の中には太陽の光。あの占いじじいすら一目置く高位の術師。彼女こそこの黄昏の園の主にして、結界を張ったマヤカシだった。
「フォフォフォ、赤の臥龍は金欠気味での。頼まれ事に励んでおったわ。金と言えば‥‥今夜はあの噴水にコインと一緒に願い事をしていった者も多いんじゃろうのう」
「ええ、お陰様で」
 歪んだニューロエイジ、人体と機械が融合したこの時代においても、人々は心を持つ。様々な想い、未だ果たされぬ願い、懐かしい記憶‥‥すべてがこの園に集い、魔法の力となる。
「ハマの姉妹園でも同じようなことをやるそうじゃの。どうやら‥‥一足先にハマに招待されることになる者が何人かいるようじゃ」
「あらあら‥‥老師お得意の占いですか? 何のことやら」
「儂の知り合いの子を一人‥‥呼んでおくか。風の道化師をの‥‥フォフォ」
 謎めいたことばを残し、老人は消えていった。いつものことだった。
 パレードは終わったが、黄昏の遊園地の魔法は解けていない。運命の天輪は霧の中に巡り続ける。様々な人間がここを訪れ、様々な想いが交錯していくことだろう。人々の心に光が灯ってゆくだろう。
 イベント終了を告げるホログラフ――本当は彼女の魔法――が消えていく。薄明の君は満足そうに、夜のtwiLiteを眺め渡していた。

twiLite

... And, The Wheel of Fortune keeps turning on ...
 

Delirium
RI-Foundation > Delirium(NOVA) > Virtual StarLite > Search for Silver Clokk 3
Bakk Up