Prelude::

Winter Komez Around

プレリュード:ウィンター・カムズ・アラウンド

 “災厄”(ハザード)は起こった‥‥聖書の予言通りに。

 傲慢な人類に最後の審判が下されたのか、北方の神話の予言通りに神々の黄昏(ラグナロク)が訪れたのか。
  審 判 の 日 (ジャッジメンド・デイ)に地球の地軸はねじ曲がり、最 終 戦 争(アーマゲドン)が始まった。
 津波と大地震が大地を襲い、バン・アレン帯を失った空を放射線の雨が貫く。気候は大きく変動し、地球の生態系は回復不能の損傷を負った。
 恐怖の大王が地球に舞い降りた。世界規模の災害は各国の対応能力を超えていた。人類の築き上げた文明社会はいとも簡単に崩れ去った。多くの国々が滅び、都市が消失し、人々が死んでいった。被害を免れたのは衛星軌道上に住んでいた特権階級や高官、宇宙に中枢を移していた一部の大企業のみ。
 七日目に地球は新たな地軸に落ち着き、“災厄”は終わった。生存者たちは至福の千年期(ザ・ミレニアム)を待ち焦がれた。

 世界は変容していた。北極点が移動し、アフリカや西、北アジアは極寒の地となった。キリスト教の聖地エルサレムは永久凍土の氷の下に眠った。第五氷河期が到来し、“冬”の衣に多くの大地が覆われていった。
 生存可能な表土は“災厄”前の僅か四割。各地に難民が溢れかえり、赤道直下に移動した陸地だけが常夏の地となった。南北アメリカ、オーストラリア、旧グリーンランド、南極大陸、東南アジア諸国‥‥そして、アジアに地続きとなった極東のある小さな島国。
 世界は慢性的な食糧不足に陥り、難民と先住民との争いが続発した。そんな世界を救った国があった。世界で唯一“災厄”を予知しえた国。世界で最も進んだバイオテクノロジー技術を持っていた東洋のちっぽけな島国‥‥日いずる国、日本。
 最高機密技術を用いた培養の合成食料が海外に輸出され、日系の巨大多国籍企業(メガ・コーポレーション)が各国の復興に力を貸した。

 だが日本政府は、その見返りに奇妙な条件を付けた。

 鎖国。国交断絶。日本国内への一切の入国禁止。侵入者は射殺。海外にいた日本人も同様。入国を許されたのは極々一部の特権階級のみ。
 難民が溢れる大混乱の世界においてこのような措置は考えられない。だが、世界の中心となった日本に文句を挟める国は存在しなかった。各国が復興にかかりきりとなっていた間に、日本は世界最高の技術力を磨いていたのだ。何度かあった紛争でもそれは実証された。世界中の富が日本一国に集中し、日系企業が世界中の権力を手にするようになった。

 それから数十年。北米連合、ヴィル・ヌーヴ(ネオ・ヨーロッパ)、ブリテン連合王国、(シア)南極大陸(ミトラス)など、新たな国家も誕生した。戦争に助けられ、科学技術は飛躍的に進歩。経済も発達し、力を失った国家に代わり企業が世界の支配権を握る。

 ‥‥だが、世界は歪んでいた。

 魂の世紀、ニューロエイジ。企業の目に映るのは利潤のみ。人々の心は病み、地球は狂っていったのだ。
 力と金が全てを動かし、それに疑念を抱く者はいなくなった。
 愛は何処かに忘れられた。信ずべきものは失われた。

 

 ‥‥かつて東京湾と呼ばれた干上がった大地に、窺い知れぬ日本国の唯一の玄関口が建造された。高度な都市工学に基づいて設計された貿易都市。都市機能が地上と地下に分散され、完璧な区画整理の実現された完全なる超巨大複合都市(メガ・プレックス)。退廃した世界の歪んだ繁栄の象徴。
 自由都市であるこの街には戸籍がない。企業の出資により税金制度も存在しない。現在の人口は一億人ほど。世界中から、世界の中心日本国の出島たるこの街に人が集まってくる。

 この街には幾つもの(フェイス)がある――街を支配する巨大企業の完全環境型ビルディング(アーコロジー)の立ち並ぶ清潔な中央区。開発が放棄された小道の入り組むスラム。造られた動物と植物の棲む森林公園。かつての東京を再現したもう一つのアサクサ。ショップの立ち並ぶアンモニア・アベニュー。電脳空間(ウェブ)上に浮かぶもう一つの街並み。
 南には房総南国際空港、遥か遠くには軌道衛星アマテラスから富士山頂にピンクのエネルギー流が降り注ぐ‥‥そして、クリーン・ビジネスの昼と、ダーティ・ワークの夜。

 この街には様々な人間が棲んでいる――最先端の技術が溢れ、人は体に機械を埋め込み、ニューロエイジを生きている。災厄前の時代に何かを置き忘れたまま。

 今宵もまた、運命の舞台で仮面舞踏会が幕を開ける――摩天楼の遥かな高みからは千早のエグゼク達が輝く夜景を見下ろし、軌道より降り立ったハイランダー達がネオンに霞む夜空に想いを馳せる。バサラとマヤカシが闇の中から立ち現れ、《ジャミング・ハウス》に集ったファン達が息を呑む。驚くバンドのミストレスの前に、クリスタルシールドを構えたカブトが笑みを浮かべて立ちはだかり、パンサー付きのカメラガンを持ったマリオネットのトーキー達が、今夜の特ダネを見つけて急行する。
 アサクサのウェンズデイ・マーケットには今夜も人が溢れている‥‥街頭のホログラフの中では真教のカリスマが愛を、新人シンガーのカブキが明日への希望を歌っている。街を照らすネオンの陰には、プラチナム級天才タタラ引き抜きを狙うG.C.I.のクグツとイワサキのカゲが蠢き、ダーマルアーマーと格納武器を埋め込んだカタナ共が獲物を求めて闇をさ迷う。
 ウェットシティで捜査に当たるN.I.K.のフェイトに高級マネキン達が声をかけ、横のチャクラがそれを遮る。
 中華街のビルの一室では三合会のクロマクが陰謀を巡らせ、マフィアのレッガーが通りを見下ろす‥‥その彼らに、遠くからカブトワリが静かにサンダーボルトの照準を合わせている。天才ニューロがM−7でイントロンするとウェブで最初のイワヤト破りに挑戦し、湾岸フリーウェイではカゼ達が、WINDSを入れたアキラのエンジンを震わせている。そして黒い猟犬達がイヌ仕様のステッペンウルフに跨ると、今宵も犯罪者たちを狩り回る――。

 いつもと同じステージ。いつもと同じ、この街の夜。

 この街でなら見せられる。輝きを、情熱を、自分だけのスタイルを。
“運命の輪”は自分で掴み、奴らに見せつけてやるのだ。プロフェッショナルたる自分だけの秘密兵器を。
 もう一つの未来、もう一つの東京。奇跡的繁栄を遂げた常春日本の象徴。鎖国日本の唯一の出島。
 ミートとメタル、ハートとハイテクとが交錯し、達人たちの技が火花を散らす、光と闇のアーバン・テクノ・ワールド。

 別名、“歓喜と災厄の街”――

 そ の 名 は ・ ・ ・

 
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