第16章 フェイド・イントゥ・ライト
20世紀の別の公園を改築した〈新宿エタニティ・パーク〉。広い敷地内に、人の姿は見えなかった。
冷たい地面に横たわるジョゼ・フェルナンデスの回りに、血だまりができていた。もう長くは保たないだろう。携帯電話を掴んでいた左手はフレシェット弾で貫かれていた。
後ろで縛っていた黒髪が乱れている。人種はやはり、かつてのメキシコ人――アズトラン人のようだ。
服の下にフォームフィッティング・ボディアーマーが見える。よく見れば血まみれのチェスターコートも、モーティマー・オヴ・ロンドンの“グレートコート”――完璧に偽装された高級防弾コートだった。
だが、桐原の銃の腕とAPDS弾の前には役に立たなかったようだ。
夜明け前の公園は静かだった。遠くのパレードの明かりが、断続的に一行を照らしていた。
[GM]> 彼はバイオウェアの
「なぜだ‥‥なぜ陽炎は戻ってこん‥‥」と呟いてる。
[ヴィッキー]> その気持ちは分かるわ。彼がいれば余裕だったでしょうね。
[神薙]> 残念だが、あんたの頼みの綱は帰ってこない。絶対にな。
[桐原]> 奴は人間を超えた代償を払ったのさ。
[GM]> 「お前たちが‥‥奴を倒したのか?」
[神薙]> 倒してはいない。あいつはオレ達に勝ったがな。
[GM]> 「奴だけは成功していた‥‥研究者共は何をやっていたのだ‥‥」
[ヴィッキー]> 完全な成功じゃなかったのよ。
話を聞くと、彼は苦しげな息の元にも驚愕の表情を浮かべた。息の根を止める前に聞くことが沢山ある。どうやら観念したらしく、フェルナンデスは自分が新日本帝国に渡ってくる前に行われていた
この第六世界に完全な魔法の素質を持つ者はおよそ100人に1人しかいない。魔法関係では八大企業の中で際立っているとは言え、アズテクノロジー社はまだ魔法使いを必要としていた。
そこで
覚醒により世界に帰ってきたメタヒューマン自体、魔法の力の現れだ。魔法の素質を持つメタヒューマンの子供――身元のない――を拉致し、人体実験が続けられた。そこから、魔法の能力のない者に魔力を付与し、セキュリティや私設軍を強化しようと考えたのだ。計画は人類の新たな段階への昇天――“アセンション”と名づけられた。
だが、成功はしなかった。第六世界の秘密はあまりに深い闇の中にあった。光の元へ引き出すのは無理だったのだ。
[GM]> 「材料は当然死んだ‥‥」彼は無感動に言います。
「生きる価値もないストリートのクズどもだ。我が社の役に立つだけでも幸せというものだ。実際殺すまでは‥‥いい暮らしをさせたらしいからな」
[神薙]> 実験材料が逃げ出したこともあったわけだ。
[GM]> 「ああ‥‥2回機密が漏れたことがあった。51年と54年‥‥保安部隊の指揮もしていた久夜谷は全て消して回ったよ‥‥もう昔の事だ」
[神薙]> そのデータを『テスカトリポカ計画』に応用したのか。 [GM]> 「そうだ。アズテク・アジアは最も成長中の部門だ。日本のアステカ博も成功した。日本支社の地位をこれまで以上に強化するためにな‥‥だが‥‥それも失敗か。私もこれまでか‥‥」 |
[神薙]> 久夜谷という男はまだ生きているのか?
[GM]> 「何故、奴にこだわる?」彼は君たちの方を眺める。「因縁でもあるのか?」
[桐原&神薙]> それが、俺たちのエッジの理由だからだ。
[GM]> 「そうか‥‥フ、フフ‥‥フハハ」苦しみながら、彼は笑い出す。
[桐原&神薙]> ‥‥?
[GM]> 「奴は死んだよ。2054年にな。奴は野心が大きすぎた‥‥全てを自分の道具にしようとしたのさ。バカな男だったよ」
[桐原]> ‥‥!! ‥‥アセンション計画の終わった年か?
[神薙]> 奴の死と同時に計画も終わっていたのか‥‥。
[GM]> 「篠山部長‥‥
信じられないか? フフ、アズトランには、その力があるのだよ‥‥」
[ヴィッキー]> コ、コワい‥‥。で、データチップはアンタたちが手に入れたの?
[GM]> 「今夜の件か‥‥。私がブラック・オプ・チームを指揮し、陽炎を使って動いていた。フフ‥‥本物は何処にもなかったようだな。夜の東京で‥‥我々はみんなシアワセに踊らされていた訳だ。 [神薙]> お前らも同じだろう。 |
[GM]> 「我が社だけが責められる謂れはない‥‥」
[十六夜]> 前に吸血鬼が死ぬ時言ってた“オルド・マキシマス”は関係なさそうね。ポリクラブと手を結んでいたという話は?
[GM]> それにも答えてくれます。アズテクの仕業と思わせないために、手先に一時期雇っていてもう縁は切れているそうです。
「だが‥‥奴らはヒューマニスとは別の‥‥違う組織の一員だった。
初めて聞く名だね。それから小山誠一郎博士を殺したのもアズテクの保安部隊でした。優秀な男で何度も戻ってこいと言っていたんだけど、機密を漏らしそうになったのでついでに消したそうです。
[中]> 消えたランナーのメイジの少年はどうなったんだろう。
[十六夜]> ‥‥さあね。聞かない方がいいわ。
[ヴィッキー]> アズテクの社長とかってどんな人?
[GM]> 「‥‥知らない方がお前らのためだ。私たちの住んでいる世界は、お前らには想像もつかんだろうよ‥‥。
‥‥さぁ、殺すなら好きにしろ‥‥私が死んだところで、アズテクノロジー社は何の損害も受けん‥‥」
[ヴィッキー]> 確かに。静かに死になさい。アンタにはそれだけの罪があるわ。 [GM]> なるほど。では最後に、彼は熱に浮かされるように、こう言い残します。 |
[中]> 肉体も精神もぶち殺すか? 身も心も吹っ飛ばすってこと。
[神薙]> ?? 魔法を使うってことか? そんな必要はない。奴はもう死にかけだ。
[ヴィッキー]> キリーにナギー、アンタ達がご指名よ。
[神薙]> オレは心臓を撃つ。キリー、お前は頭を狙え。
夜明け前の公園に、アレス・プレデターIIとサヴィレット・ガーディアンの乾いた銃声が響いた。血まみれの体が一回だけ震え、ジョゼ・フェルナンデス――アズテクノロジー本社から来たという謎の男は死んだ。
桐原と神薙は脱力感に捕われていた‥‥自分たちが敵と追い求めていた人間は、とうの昔に死んでいたのだ。
二人の脳裏に、かつて出会った“大佐”と、上野のシャーマン“銀の癒し手”の言葉が蘇っていた。
『‥‥復讐‥‥復讐は何も生まない‥‥』
大通りの方を振り返ると、クリスマス前夜のパレードはもう終わりかけていた。街頭の巨大スクリーンの中に、フチ・インダストリアル・エレクトロニクス社の本社ビル――“フチ・スター”が聳え立っている。
【‥‥クリスマス・イブを迎え、各企業のビルが美しくライトアップされて東京を飾っています。レンラク・コンプレックスの次は幕張私有区‥‥】
千葉のレンラク・アーコロジーに続き、ミツハマ・コンピューター・テクノロジーズの東京拠点――幕張スカイフレームの独創的な高層建築が映し出された。
トリデオの画面は次々と変わっていく。アレス・マクロテクノロジー・ファーイーストの重厚な巨大ビル。
そして最後に、一際威容を誇るアステカ風の巨大ピラミッド――レーザー・ライトの飾るアズテクノロジー日本支社が、画面の中に静かに浮かび上がっていた。 |
[GM]> ‥‥そろそろ夜も明ける。全ての闇が明かされることはなかったが、シャドウランの時間はそろそろ終わりだ。 [十六夜]> 「‥‥二人の復讐は終わったみたいね」とぼそっと呟く。 |
[GM]> そうこうしているうちに、夜が明けます。
出羽さんに連絡すると、各勢力とも結局失敗して、手を退いたと伝えてくる。午後五時に例の店で会いましょうということになります。コンタクト等に会いたい人はそれまでにどうぞ。
[ヴィッキー]> ギグをやらなきゃ!
[桐原]> ‥‥俺は脱力感に捕われてるよ。
[中]> 「人は死ぬ。それはまあ仕方ないことだろう。だが、あのようには死にたくないものだな」
[十六夜&神薙]> (‥‥‥‥??)
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