第15章 ブレスレス・ナイト・ストライダー
肉体の枷を抜け出し、アストラル体となって飛んでいた神薙が帰ってきた。敵は精霊を従えていないようだ。《敵探知》の呪文に集中していた十六夜が頷き、巫女風ブランドのジャケットからアレス・ヴァイパーを抜く。中がイングラム・スマートガンを構え、ヴィッキーは静かに輝くディコートTM付きのファインブレード・ナイフの刃を眺めていた。
桐原はウォーリアー-10を手に暗い前方を見遣った。ロー・ライト(低光量)視野が視界の明るさを調節する。
高層建築の陰の暗い街路。不審な灰色のバンが停まっていた。ロールスロイス“プレイリーキャット”の改造型。あの車両には見覚えがある。前に陽炎と会った時にも、あのバンの走り去る所を見ていた。
車両の前に二人。アーマー・ジャケットを着込んだ男に、もう一人はヘルメット付きの物々しいヘビー・アーマーにブルパップ仕様のアサルトライフルで完全武装している。車の陰の、黒髪を後ろで縛ったコート姿はあのジョゼ・フェルナンデスという男だろう。
車の陰に、もう一人――不思議な装飾品を付けたシャーマンらしき人物が見える。四人とも、日本人には見えない‥‥。
[GM]> 視界は『部分光』。距離は20M。こちらも魔法使いが油断していたとは言え、辺りは警戒している。不意打ちテストはお互いに目標値2としようか。
神薙&[桐原]> 7個。 [中]> 6個。 [十六夜]> カルマを使うわ‥‥5個。 [ヴィッキー]> 5個。 [GM]> ‥‥な、なに? シャーマン氏が完全に不意を打たれてしまった! まずい、マジックプールが回復しない! イニシエトだったのに! イニシアチブも目が悪いぞ(笑)! |
反射神経を増強した人間同士の勝負は何分の一秒の差が生死を分ける。堅そうなフル・スーツの男とフェルナンデスの動きはブーストした人間特有のものだった。危険な相手だ!
横で相棒の桐原の手が動いた。スマートリンク・レベルII仕様のSMGから、ヘリカルマガジン式のクリップが独りでに外れる。相棒は頂戴したAPDS弾を込めたクリップを嵌め込み、車の陰のフェルナンデスに狙いを定めていた。
魔法使いの道を外れてまで埋め込んだ強化反射神経が、神薙の思考と行動を加速していた。不気味なレオパルドの紋章の刻まれたヘビー・アーマーの男には、恐らく小火器レベルの銃は通用しないだろう。しかも持っているアサルトライフルは特殊部隊用の、アレス・アルファ・コンバットガンだ。
全身を魔力のエネルギーが駆け巡る。どんなに堅い鎧も、戦闘呪文には関係ない。強力な
バーンナウトの道を歩む代償――強力な呪文詠唱時に特有の激しい苦痛が全身を襲った。唇の端から血が垂れていた。だが痛みを無視し、呪文に集中する。
その横で自分の遮蔽をまったく考えず、桐原がウォーリアー-10を十分に狙ってから速射していた。3発の強力な徹甲弾が、車の陰にいたフェルナンデスの体を見事に撃ち抜く。相手が見慣れないマシン・ピストルを抜こうとした所だった。
二人より増強の度合いの低い中が、数瞬遅れてイングラム・スマートガンを撃った。サムライの相棒と呼ばれるSMG。車の前にいたリガーらしき男が一撃で倒れた。今度はゲル弾を使っていなかったらしい。
二人の感覚からすると大分遅れて――普通の人間の速度で――ヴィッキーがシュリケンを投げた。彼女は銃を使わないことをポリシーとしているのだ。だが、もう少しという所でシュリケンは車の装甲に当たり、火花を散らしてそれていった。
その横で、十六夜がアレス・ヴァイパーを構えていた。ミラーシェードの陰の彼女は無表情だった。無数のフレシェット弾が、凍りついたままのアズトラン人のシャーマンを貫いた。
[GM]> そっちには負傷があったがカルマも全開ですか‥‥。1ターンで全滅‥‥。何もできなかった‥‥(笑)。 [ヴィッキー]> 3秒で全滅ね。 [神薙]> さっき6秒で全滅させられかけた怒りがこもってる訳だな。 [桐原]> 俺は自分の強さを再確認したぜ。 [GM]> 辺りに人の姿はまだない。死体に近づきますか? |
[桐原]> その言葉が毎回怖いが‥‥調べてみよう。
[GM]> フル・スーツの肩にはアズテクノロジーのマークと、その下に豹の紋章が描かれている。[礼儀作法/企業]のテストをしてもらおう。
[中]> 成功。
[GM]> |
[十六夜]> これを撃たれていたら危なかったわ。
[神薙]> 本社‥‥本社から来た男がいたな。
[GM]> シャーマンの男はアステカ風の奇妙な装身具を身に付けていて、銀と黒曜石の刃を持つ儀式用の不気味な剣を持っている。神薙と十六夜は、[魔法理論]で目標値6のテストを。
成功? (絵を見せる)胸にこういうペンダントを付けてる。
[桐原]> 翼の生えた蛇‥‥ケツァコアトルか??
[GM]> アズトランには生け贄の血を使ってドレインテストの成功数を増す、ブラッド・マジックという恐ろしいメタマジックがある。これを使うイニシエトの一派は、このマカウイトルという剣をよく持ってるという話を二人は思い出します。今となっては確かめようがないけどね。
彼は
>>>>>[アズトランにはイグアナ、ジャガー、プーマ、 ――デッカー ネットボーイ |
[GM]> 車の中には監視用機器やコンピューター等諜報関係の設備が揃ってる。ちなみに三人はまだ死んではいない。君たちは顔を見られてるよ。
[中]> 私は手は出さない。
[神薙]> オレが止めを刺そう。ガーディアンで3発。
[ヴィッキー]> 肝心のジョゼは? [GM]> (バイオウェアの |
[十六夜]> ‥‥奴は人間なの?
[桐原]> すぐ追おう。
[GM]> 全員で追うんだね? さて、ここから先はダイスは振らなくていい。
現場を離れ、続いている血痕を追う。もうすぐ夜明けだ。ぐずぐずしてはいられない。
走る一行が路地を曲がった所で、先の地面を数発の銃弾が空しく跳ね回った。見ると、隠れていたフェルナンデスが震える手で見慣れぬ銃を構えているのが見えた。マガジンがグリップと一体化していない珍しい型。ストック付きのセスカ・ブラック・スコーピオン――チェコスロバキア製の、バースト可能なライトピストルだ。
「抵抗はやめなさい!」ヴィッキーは叫んだ。「無駄だ。諦めろ」と横で神薙がガーディアンの狙いを定める。
銃の落ちる音がした。高級コートを翻し、彼は逃げ出していた。実はアーマーを着ていたのだろうか? それに、身のこなしが不自然に速い。
一行は夜明け前の新宿を走った。向こうに、大通りの明かりがが見える。
[GM]> 視界に [ヴィッキー]> はっ! 遮蔽に‥‥ |
ギグの売上げで買った特製サングラスには光量増幅や赤外線探査の機能しかない。驚いたヴィッキーは身を屈めようとして‥‥音が爆竹のものだったことに気が付いた。
パレードは終盤を迎えていた。通りの真ん中では、東洋の龍がゆっくりと踊っていた。花火が鼻先で輝いている。東京スプロールの中華街に住む華僑たちが練り歩いていた。群衆がドラゴンの舞に喝采していた。
十六夜と神薙も驚いて立ち竦んでいた。サイバーの眼が補正したのだろうか――中と桐原は動じる事なく辺りを見渡していた。
光と音の奔流が一行を包み込んだ。ついさっきまでのハードな“仕事”が夢のように感じられる。レーザー・ライトが夜空を照らし、トリデオ広告があちこちで輝いていた。
「一日早いが、メリークリスマスだ!」
酔っているのだろうか、赤ら顔のサンタクロース姿が声を掛けてくる。
【‥‥アーバン・ブロウル決勝戦、いよいよ開始!】
【日本のプロ野球ドリーム・チームとNAL選抜チーム、夢の対決が実現! UCASのパワーか、新日本帝国のサイバー技術が勝つか?】
トロールのヘビーヒッターがバットを担ぎ、画面の中で笑っていた。
「‥‥キレイな姉チャン、仮装パーティかい?」
サンタはふらふらと去っていった。ヴィッキーは慌ててファインブレード・ナイフをジャケットの下に隠した。一行も銃を急いで隠す。幸い、近くにECPはいないようだ。
【‥‥幕張海上コーポレート・タウン、いよいよ実現への一歩! アズテクノロジー社は‥‥】
【アトランティスの栄光を再び! シアトルに本拠を置くアトランティス財団は失われし秘密を‥‥】
ハードロックの激しいリズムが頭上から聞こえてくる。シンセアックスを絶叫させながら、ホロのテディXとシーナMが頭上の立体映像の中から目配せしてきた。
人込みを掻き分けて進む。浮かれた群衆は一行には何の注意も払っていなかった。通りの向こう側で、血の跡が見つかった。
[GM]> パレードを抜けて進むと、誰もいない広い公園がある。フェルナンデスが倒れている回りに血だまりができている。彼は必死に携帯電話か何かのボタンを押そうとしているところだ。
[十六夜]> 無言でフレシェット弾を叩き込む。
[GM]> なるほど。君のミラーシェードに、スマートリンクIIの正確な照準が浮かぶ。
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