Chapter:14 Darkness Unveiled

第14章 ダークネス・アンヴェイルド



 悲鳴が上がっていた。陽炎が異様な痙攣の発作を起こしていた。地面に倒れると、のたうちまわって苦しんでいる。どう見ても普通ではない――もし“普通”の病気があるとしたら。
 意識を取り戻した一行は、目の前の異様な光景に茫然としていた。陽炎の体は独りでに動くように激しく震えていた。四肢がそれぞれ意志を持ったかのように、別々に暴れている。一体どうやったら、このような症状が起こるというのだろうか?



[桐原]> ど‥‥どうしたっ!?

[中]> 力に取り込まれたか。

[十六夜]> 持続時間が過ぎたとか‥‥??

[GM]> 「嘘だ。こんなに早く副作用が起こるとは‥‥!!」と彼は震える手でポーチからドラッグを取り出すと口に含みます。だが‥‥発作は少し収まっただけだ。
「駄目だ‥‥震えが‥‥止まらんッ!!」と彼は転げ回っている。首の後ろには見たこともないサイバーウェアが埋め込まれてるね。そこから血が滴り落ちてる。

[桐原]> お前をそんな風にしたのは何処の誰だ?

[GM]> バイオウェアの痛 覚 操 作 器(ペイン・エディター)が働いて彼は少し落ち着いたようだ。
「遂に‥‥遂にこの時がきちまったか‥‥ッ」と両手で体を押さえてる。

[十六夜]> とどめを刺そうと思ったけど話を聞いたほうがよさそうね‥‥。エッセンスがマイナスになってるかもしれないから、アストラル知覚で見てみるわ。

[GM]> 側にエッセンス0.1の桐原がいるから分かるだろう。陽炎のエッセンスは0.02だ。ボディ・インデックスは4.8 。まさに限界(エッジ)の上だね。
「いつかは‥‥いつかはこうなるって分かってたさ‥‥」と彼は呟いてる。

[桐原]> なぜ? お前は俺たちほどに、何かの為に戦うってことはなかったはずだ?

[GM]> 「俺は力が欲しかったのさ」彼は震えながら凄絶な笑みを浮かべる。「うぅ‥‥奇妙な気分だ。痛みは消してるのにな‥‥」

[桐原]> なぜ俺たちを襲った?

[GM]> 「それがビズだったからさ。今の俺はアズテクの ヤ ミ 仕 事 (ブラック・オペレーション)に雇われてる‥‥」

[神薙]> お前とアズテクの繋がりは何だ? 『テスカトリポカ計画』は一体何だったんだ?

[GM]> 「俺は計画の実験体の‥‥最期の一人なのさ」

Aztlan
While The Earth Sleeps

 サイバーウェアは個人に合わせカスタム化することができる。アルファ、ベータ、そして通常の限界の2倍の量のクロームを人体に埋め込む、究極のデルタ級カスタム化ができる施設もこの第六世界の何処かに幾つかある。アズトランにはその一つがあるという。だが、デルタ・グレードには途方もない金がかかるのだ。
 そこでアズテクノロジー日本支社は考えた。もっと安価に、優秀なサイバー戦士を造れないかと。前に行われた『至天計画』で得られた人体に関するデータを有効活用し、本社からの援助もあって特製のサイバーウェアとバイオウェアが造られた。
 計画はアステカの神の名を取ってつけられ、ある研究所で極秘の内に進められた。五人が訓練を受け、危険な手術を受けた。



[神薙]> お前以外はみな‥‥?

[GM]> 「フフ‥‥一人は手術の負荷に耐えきれずに死んだ。後の二人は気が狂った。成功したのは三人だけだ‥‥俺以外の二人はもう死んでるよ。同じ病気にかかってな‥‥」



 陽炎の体には圧倒的な反射神経を生み出す代わりに、強烈な副作用のある危険なサイバーウェアがベータ・グレードで埋め込まれていた。アズテクノロジーで特別に造られたウェアでもその副作用はどうしても消せず、特注のデザイナー・ドラッグで今まで無理に押さえていたという。



[GM]> [礼儀作法/企業]のある人は知っている。アズテクノロジーはバイオやサイバー関係も得意だが、シアワセやヤマテツには一歩劣っているね。「無理だった‥‥日本支社の力じゃ無理だったのさ‥‥」

[ヴィッキー]> 今夜のビズって、チップの争奪戦なの?

[GM]> 「そうさ。俺はアズテクのヤミ仕事をずっとこなしてきた。沢山のヤツを殺してきたよ‥‥ハハ」

[ヴィッキー]> サムライも?

[GM]> 「ああ。フチのイントセクにレンラクやアレス・アームズ、池袋のヤクザにシャドウランナー共‥‥みんな俺が殺したのさ。
 楽しかったよ‥‥俺には、ヤツらの動きが止まって見えたのさ。ヤツらの驚く顔といったらな‥‥。俺には‥‥俺には世界中が止まって見えてたのさ‥‥」と凄絶に笑っている。

[中]> しかし計画も頓挫か。

[神薙]> 五人のうち一人。しかも副作用を消す薬を造れなかったんじゃリスクが大きすぎるな‥‥。

[中]> お前を雇ったのは誰なんだ?

[GM]> 「ジョゼ・フェルナンデス‥‥アズトランから来た男さ。お前達もさっき会っただろう」

[神薙]> あいつが特務部長だったのか!? そうか‥‥そうだったのか‥‥。

[ヴィッキー]> どおりであっさり引き下がったわけね。こんな隠し玉があったのか。

[GM]> 彼の 彩 色 適 応 (カラレーション・アダプテーション)付きの改良型皮膚装甲は、君たちの見ている前で自在に色を変えていく。

[十六夜]> ‥‥熱光学迷彩みたいのだったの?

[GM]> そう。ついでに言うとサイバーイヤーもある。盗聴じゃなく、ヒアリング・アンプリフィケーション(聴覚増強)で君たちの話し声を聞いて近くに潜んでいたのさ。こちらは[隠密]も[運動]技能も12あるからね。
 近くの壁にもたれて、彼は荒い息をついている。
「ヤツのことはよくは知らんよ‥‥。ビッグAの中での地位はさして高くないらしい。今頃、俺の帰りを新宿の南の方で待ってることだろう。油断してるかもな‥‥。
 フフ、ヤツには何の恩義もないさ。あんなヤツには、ストリートの人間の気持ちなんぞ分からんだろうよ‥‥」

[十六夜]> あのエルフの女の子のことも、知ってるとは思えない。私は聞くことはないわ。神薙に桐原、とどめを刺してやるっていう義理はないの?

[GM]> 彼の生命のオーラは徐々に消えていこうとしている。
「‥‥桐原‥‥お前がサムライになってたなんて奇遇だよな‥‥。俺は、変わり過ぎちまった」

[桐原]> ‥‥俺はまだ人間だ。

[神薙]> 心は人間だ。例え体に機械を埋め込んでいてもな。

[GM]> 「お前ら二人が率いてたのは‥‥池袋のガーディアン・ギャングだったか? フフ、あの頃が懐かしいな」

[桐原]> 俺たちは復讐のために変わった。あの頃にはもう戻れないさ。

Aztechnology

[ヴィッキー]> おおー。熱血カードあげる!

[GM]> 「信ずるものがあっただけ、お前らの方がマシか‥‥俺には信ずるものも、護るものも何もなかった。
 池袋のストリートのゴミ溜めを覚えているか? 食うモノもなく、絶望の中で死んでくヤツがいた‥‥冬になりゃあ、凍え死ぬヤツだって出るだろうよ。電脳麻薬でイッちまうヤツもいる。俺は戻りたくなかった。力が欲しかったのさ。
 アズテクはその力をくれたよ‥‥楽しかった‥‥世界が‥‥時間が止まって見えるんだからな‥‥」

[桐原]> 生まれ変わったら、もっと人間らしく生きな。

[GM]> 「早く‥‥殺せよ。どうせ俺は死ぬんだ。この発作は普通の病院じゃ治療できん。もう手遅れなのさ‥‥ハ、ハハハ」

[桐原]> じゃあ、ハンド・レイザーで‥‥?

[GM]> もう銃ぐらい拾ってていいぞ!

[十六夜]> ‥‥近接戦用の武器はヤメなさい。

[中]> 拾って渡してやってもいい。ちなみにマックスパワーは弾は通常弾。

[十六夜]> ちなみにバーストで撃つのもダメよ。

[桐原]> じゃあ‥‥プレデターIIを拾って狙いを定めよう。

[GM]> そうですか。では、彼は最期にこう言い残す。
「だがな桐原、お前もサムライなら、限界までサイバーを埋め込んでるはずだ。お前もいつかはエッジを踏み越える。俺みたいに‥‥エッジのこっち側に来ちまうのさ。エッジのこっち側から‥‥待っててやるよ‥‥ウ、ウアアァッ」と、激しい痙攣が始まる。

[桐原]> 額に照準を定めて零距離射撃。

[GM]> テスカトリポカ計画の実験体の最期の一人は死にます。しかし! 彼の体は何かに操られるように、まだ痙攣を続けている。

[桐原]> なにっ!? ちょっとあとずさってしまうぞ。

[ヴィッキー]> 頭の後ろに珍しいサイバーウェアがあるって。壊すか取っちゃえば‥‥?

[神薙]> 撃て、キリー。

[桐原]> じゃあ、撃ち抜こう。

[GM]> ‥‥スマートリンク・レベルIIの正確な照準が狙いを定める。首筋のサイバーウェアが破壊されると、ようやく痙攣は収まり、彼の顔に安らかな表情が浮かんだような気がする。
 さて、[サイバー技術]はなし‥‥中がスキルソフトを入れてから[自然科学]で目標値6のテストを。

[中]> 1個成功。

[GM]> 圧倒的な反射神経の代わりに強烈な副作用を生み出すサイバーウェアの噂を、君たちは思い出す。専門家に聞けば詳しく分かるだろう。

[ヴィッキー]> って言うか目の前で見ちゃったわね。

[桐原]> モノソードを地面につき刺そう。墓標代わりだ。

[GM]> なるほど。そこで君たちは思い出す。テスカトリポカは春と復活の神‥‥そして運命の神だ。

[一同]> ‥‥‥‥。

Aztlan
While The Earth Sleeps

 中の応急処置と、神薙の《負傷治療》が始まる。
 陽炎の体には、謎の反射神経強化を始め、レベルIIのスマートリンク、改良型皮膚装甲や格納型のハンド・ブレードやアイライト・システム付きのサイバーアイと、全身にかなりのサイバーウェアが埋め込まれていた。 強力な筋肉増強以外は見た目では分からないが、今の信じられないような戦い振りから言って、バイオウェアも恐らくはかなりインプラントされているのだろう。
 全身が武器庫のような殺し屋だった。だが、彼はその代償を払ったのだ。人を超えた代償を。
 例の薬のほかに、細胞の再生速度を高める珍しいドラッグも持っていた。傷の重い桐原と、ヴィッキーが試しに使ってみる。やがて、出羽弥生から連絡が入った。



[GM]> 『悪い知らせよ。貴方が手に入れたのも‥‥ダミーだったようね。でも今のところ、本物をどこかの勢力が入手してはいないようだわ』

[十六夜]> 「ということは‥‥本物は大阪の本社に?」

[桐原]> これだけ探して全部偽物か!

[神薙]> と言うより最初から本物は存在しなかったのかも知れないぞ。

[十六夜]> 「引き続き、一応調査は続行します。こちらの被害もばかにならないのですが」

[GM]> 『そうね‥‥。もう手を退いた勢力もあるようだわ。アレスとレンラクはもう撤退したみたい』

[神薙]> 「それよりお宅のタカ派はどうした?」とイントセクの事を聞いてみる。

Ares Macrotechnology

[GM]> 『それは‥‥電話では詳しく話せないわ』と電話の向こうで言ってる。で電話は切れる。
 傷の治療はおしまい? ちなみにまだ夜は終わっていないよ。1時間もあるなら‥‥そのうち桐原のリストホンにマウザーから連絡が入る。
『ホイ、チャマー。生きてるよな、キリー? さっきはあの後どうしたんだ?』

[桐原]> かなり死にそうになったよ。

[GM]> 『とっておきのインフォだ。アレスにレンラク、それからミツハマも今夜の事件からは本当に手を退いたそうだ。どいつも本物は入手できなかったみたいだな。
 ついでに公共の道路交通グリッドに潜り込んで遊んでた知り合いが面白いことを教えてくれたぜ。怪しいバンが路地裏を選んで南の方に走っていったそうだ。キリーのいる辺りでな。まさか‥‥?』
 住所は今で言う信濃町の方です。ついでにヴィッキーがフェルナンデスらしき男に会った時、車が消えていったのもそっちの方角だ。

Virtual Realities 2.0

[十六夜]> さっき気絶して都市精霊は消えてしまったから‥‥また呼んで、《 捜 索 》(サーチ)のパワーは使える?

[GM]> ヴィッキーによく人相を聞けばたぶん大丈夫だろう。入り組んだストリートは都市精霊の領域だからね。えーとエッセンスの4の2倍でこちらの知力と対抗テスト‥‥駄目だ。では、マウザーに聞いたのと同じ方角で見つけたと精霊は帰ってきます。



While The Earth Sleeps

 十六夜の呼び出した都市精霊が帰ってきた。戻ってきたということは‥‥相手側の魔法使いが油断して気付かなかったか、それとも待ち構えているかだ。
 負傷が消えていなかったが、仕方がない。マウザーに聞いた方向に、闇に紛れて進む。東京スプロールの夜は明るいが――光の狭間に、影は息づいている。
 西新宿の人目につかない路地裏を選んで進んだ。吐く息が白い。クリスマス前夜のパレードはまだ続いているのだろうか? 夜明けまで十分な時間があるだろうか?

 桐原はサイバーアイのオプションのレティナル・クロックを呼び出した。視界の右下に現れた文字は03:28:23JST。

 明けていない夜が一行の味方をしてくれた。まだ、“シャドウラン”の時間は終わってはいない。

Shadowrun Second Edition
line - While The Earth Sleeps
Previous Page Back to Index Next Page