第18章 ホワイル・ジ・アース・スリープス
渋谷の低治安エリアは物騒な場所だ。だが、今夜ばかりはギャング達も騒ぎを起こしていないようだった。
街頭のトリデオスクリーンの中で、アイドル歌手が生放送のインタビューを受けていた。
【‥‥昨日まで、一生懸命、ずっと練習してきました。皆さん、私の新曲、どうか聞いて下さい!】
アレス・グローバル・エンターテイメントと契約を結んでいる人気アイドル歌手、沙奈絵・ミラーズ。髪の毛も短く切って、イメージチェンジしている。
[十六夜]> そんなのもいたわね。昨夜といっても何だか遠い昔のような気がするけど(笑)。
[GM]> 精一杯ぶりっ子してインタビューに答えています。
[ヴィッキー]> 怒って石を投げつけよう(笑)。
[GM]> ところでヴィッキーと十六夜、昨日の深夜出くわした時は髪の毛は長かったぞ! しかも泥酔していたはずなのに全然そんな様子は見えないね。
[桐原]> 別人とか?
[十六夜]> 映像は生なの? ディジタルとか?
[神薙]> 録画じゃないのか?
[ヴィッキー]> 「よけいブスになったわ」と批評します。(笑)
[GM]> 誰も聞いてませんが(笑)。
ちなみにヴィッキー、君は知っている。コンピューターによる合成映像や口パクをうまく使える、SONG-O-MATSTMシステムなんて方法も世の中にはある。大手メディア企業は大衆の求めるものしか生み出さない。利益が第一なのさ。でも君は違う。君は本物のロッカーなんだ!
[ヴィッキー]> アタシは感情を大事にするのよ。
[GM]> サンタ風の衣装に身を包み、彼女は新曲の『TOKYO PHANTASIA』とかいう歌を歌ってる。画像は一応本物には見えるけどね。
〈シェイQダウン〉に集合する。小さめのこのナイトクラブはそれほど有名ではないが、真に自由な魂を持つストリートの住人達で賑わっていた。ここにはストリートの伝説と、本物のエッジがあるのだ。
安っぽいネオンの看板を抜け、室内に入る。天井でミラーボールが輝いていた。
「ヘイ、
データジャックからコードを垂らしたまま、メタリック・ヘアーの陽気なエルフが声を掛けてくる。桐原の友人のデッカー、マウザーだ。彼も昨夜はマトリックスのデータラインをあちこち駆け巡っていたのだろう。
ヴィッキーが舞台に立ち、愛用のキーボードの調子を確かめる。20世紀にはMIDIと呼ばれていたシステムの改良型――
既に室内には客が溢れていた。DJの黒人、テクノ-Zが雰囲気を盛り上げている。よく見ると、ヴィッキーの知り合いの宮ノ下巡査もいる。
大音量のスピーカーを積み込んだ改造車に乗って、神薙の知り合いのロック好きのギャング、“オーキッズ”の連中もやってきた。
[GM]>
ヴィッキーを初めて見たメンバーが「あれがオサムのダチの“ヴァニシング・ヴィッキー”か! おおおー、クールだぜ〜」とか言ってる。
[ヴィッキー]> 相変わらずウルサイわねー。邪魔しないでね。
[GM]> DJ曰く「MMでも有名なミュージシャンが集まってギグをやるらしいが、“Q”は負けない。ウチにはメディアの操り人形はいない。そしてユー達も、真にフリーダムな魂を持っているはずだ。
今夜は聖なるクリスマス・イブ。合言葉は“シェイク・ユー・ダウン”。盛り上がろうぜベイビー! ヴィッキー、ユーの番だ!」
[ヴィッキー]> 腕と頭に包帯を巻いて登場します。 [一同]> いぇ〜い! |
[ヴィッキー]> 「待っててくれた?」
[GM]> 「待ってたゼ〜!!」と返ってくるよ。
[ヴィッキー]> 「今から行くよー」と言って演奏スタート。
[中]> レッツゴー。
[十六夜]> チーム・カルマが多い方がいいわね。もうキャンペーンも終わりらしいし、自分のカルマ・プールから1点供出しましょう。
[神薙]> オレもだ。
[ヴィッキー]> みんなの熱い戦いを思い出しながら、パワーが出てくるのね。
[GM]> では[楽器演奏(キーボード)/シンセサイザー]でインパクト・テストと行こう。カルマ2点毎に振れるダイスが1個増える。修正はリハーサルをやってなかったから‥‥
[神薙]> いや、今回はやってたはずだ! リハーサルの後一晩空いただけで‥‥。
[GM]> さいですか。では気合いで10以上でも出してちょうだい!
ヴィッキーの思考がマシーンと結ばれた。演奏が始まる。瞬間、ナイトクラブの中で光と音が爆発した。
[ヴィッキー]> ‥‥目が悪い! [GM]> 残念ですねー。ここは天からのクリスマス・プレゼントということで振り直してみましょうか? [十六夜]> ちょっと「プゥ〜」とか音が鳴っちゃったわけね。 [ヴィッキー]> 「腕の傷が〜!」と言って振り直し。でも最高の目は7。ダメだ〜。 |
[GM]> 修正で9。魅力を掛けて9×6=54。パフォーマンス・レーティング・テーブルによると
[ヴィッキー]> リハーサルをやると調子が悪いのよねー。
[GM]> さて、ここで選択ルールがある。今の54に所定の数字を掛けた新円を貰えるんだけど‥‥これをマネー・ポイントとメッセージ・ポイントに分割できるんだ。その分収入は減るが、観客にメッセージを伝えることができる。真に偉大なロッカー達は、こうやって世界を動かしてきたんだ。
[神薙]>
>>>>>[YEAH! アティテュードが全てだ! 世界を動かすのはガンだけじゃない。“サイバーパンク”の魂をいつでも忘れるな!]<<<<<
――伝説のロッカーボーイ ジョニーS
[十六夜]> クリスマスだし、全部注ぎ込まない? とさりげなく主張する(笑)。
[ヴィッキー]> じゃあ‥‥全部メッセージ・ポイント!
[GM]> 30でどうにか人々にロッカーのメッセージを聞かせることができる。60で辛うじて望んだ結果を達成。90で完璧に達成。120は余分の利益を伴って達成できる。54だから‥‥なんとか大丈夫じゃないかな?
〈シェイQダウン〉に集まった人々には全員、分かって貰えるでしょう。何を訴えましょう?
[ヴィッキー]> 歌にメッセージを載せます。「みんな一生懸命、明るく生きていこう!」と手堅く。
[GM]> おおー。では割れるような拍手が巻き起こります。ギャングの“オーキッズ”の人々も「スゲーぜオサム!」と感動してます。
[神薙]> ‥‥だからオレじゃねェよ。
[GM]> DJのテクノ-Zは「最高だぜヴィッキー。ユーは怪我しながらも時間通りちゃんと来てくれた。それだけで十分だぜ〜」と涙を流している。
[十六夜]> それが本音なのね。
[中]> 苦笑い。そろそろあの二人の子供が出てくるのでは?
[GM]> 残念でした。で、ヴィッキーの知り合いのECPの宮ノ下巡査は今日は非番らしく、モヒカンの頭でうんうんと頷いています。
[ヴィッキー]> 「ライトが眩しい〜」と握手しに行きます。
[GM]> 「良かったぜヴィッキー。このプラチナチケットのお陰だぜ」と例の紙切れを見せる。
[ヴィッキー]> 一生とっときなさ〜い。
[GM]> 「昨日もあちこちでギャングが騒いで大変だった。なぁ、この東京スプロールはワル共で溢れかえってて、クズ共が毎晩毎晩あちこちで転げ回ってるよ。だけどなヴィッキー、俺はこの街が好きだ」
[ヴィッキー]> アタシもそうよ。
[GM]> 「そうだよなヴィッキー、こういう風景は大事にしなきゃあな」と珍しくしみじみしています。
[十六夜]> ところで、オークの悠とエルフの遥ちゃんは?
[GM]> クラブの中には見当たりませんね。
[桐原]> おかしいな? 花束でも持って出てくるのかと思ってたんだが。
[中]> 私もそう思ってた。
〈シェイQダウン〉の中はいつまでも盛り上がっていた。外の空気を吸おうと一行が入口に向かった時。エンターテイメント・システムズの“パプース”という安価なバイクが外に停まっていた。あれには見覚えがある。シャーマンの老婆の依頼でクリッター退治に行った時の‥‥。
「はあ、はあ‥‥兄ちゃんたち、遅れてごめん」
オークの大柄な少年とエルフの少女が目の前に現れた。ストリートの孤児の二人組。前に知り合った悠と遥だ。
「大変なんだ。遥の、遥の記憶が‥‥少しだけ戻ったんだ‥‥」
[GM]> 街頭のトリデオであの各企業のビルが映し出され、アズテクノロジーの巨大ピラミッドとマークが出た時、急に少しだけ思い出したそうです。 [十六夜]> 遥ちゃんに聞いてみる。「何を思い出したの?」 |
[GM]> 「うん」と言って遥はうつむきながら話し出す。
「‥‥研究室。白衣を着た人がいっぱいいた。メタヒューマンの子の悲鳴が聞こえたの。そこに、お姉ちゃんたちみたいに銃を持った人たちがやってきたの。銃の音が響いて、何かが爆発して、すごい音がした。
私、必死に逃げたの。どこをどう走ったか覚えてない。‥‥気がついたら、雨の中に一人で立ってた。怖くて泣いてたら‥‥そしたら、ユウお兄ちゃんがきてくれたの‥‥」
[十六夜]> ‥‥そう。‥‥ヴィッキー、この子たちのクリスマスプレゼントに、一曲歌ってあげたら?
[ヴィッキー]> じゃあ戻って演奏を!
[GM]> 「おー、ヴィッキーが帰ってきた。アンコール!」とか中の群衆はまだ盛り上がっています。
[神薙]> ついでに二人もステージに乗せてしまおう。
[ヴィッキー]> 「テレるなー」と言って引きずり上げます。
[GM]> なにー! オークは筋力が高いので抵抗してしまうのですが(笑)。お金はもう貰えないが演奏するのはもちろん自由だ。ではインパクト・テストを!
[十六夜]> (GMに)‥‥場面変わってないの?
[GM]> カルマ・プールが使いたいっスか。じゃあ‥‥ばびっと変わっていることにしよう!
[ヴィッキー]> (コロコロ)最高は9。+2で11! ガキんちょが来てパワーが増したわ!
[GM]> 11×6でパフォーマンス・レーティングは66‥‥おお、
おー、ではユーロビート風の素晴らしいクリスマス・ソングが流れ、またクラブの中は盛り上がります。
[十六夜]> 特別ゲスト付きよ。
[神薙]> 本番が終わってから実力が出る所がお姫様らしいな(笑)。
ひとしきり盛り上がった後、ギグは終わった。まだ中で飲んでいる人々を後に、一行は外へ出た。渋谷の街はクリスマス・イブに浮かれていた。遠くで立体映像のサンタが手を振っている。
「そうだ! お姉ちゃんたちにも、プレゼント持ってきたの。車の事故で玩具が散らばってた時に、見つけたんだ。クマさんにつけようかと思ったけど、せっかく、ふたつあるんだもんね。きれいでしょ?」
エルフの少女はポケットから、対になった二つのペンダントを取り出した。銀色の鎖の先に水晶かクリスタルガラスらしきものが嵌め込まれている。街に輝くネオンの光を吸い込み、きらきらと光っている。
御徒町の事故現場から紛失したチップを巡って、一行以外にも夜の東京スプロールを、オモチャを巡って駆けずり回った人間はいたに違いない。だが、このペンダントは、ずっとこの少女の元にあったのだ‥‥。
服の裾で目の端をぬぐうと、彼女は気丈に笑みを浮かべた。
「お姉ちゃんたちに、あげる。‥‥私、泣かないことにしたの。今日は、クリスマスだもんね。ヴィッキーお姉ちゃんが、あんなにすてきな歌を歌ってくれたんだもんね。泣いてたら、世界中が、暗くなっちゃうもんね。だから、だから泣かないことにしたんだ。ね? メリー・クリスマス!」
[ヴィッキー]> 「ありがとう!」と言って受け取ろう。
[十六夜]> 私も礼を言うわ。
[桐原]> まさか‥‥チップが?とか思ってしまうぜ。
[GM]> 水晶かクリスタルガラスか、どっちにしろ透明なペンダントにデータソフトを隠すのは無理ではないかな。
さて‥‥神薙はミラーシェードを掛けてるのかな?
[神薙]> ああ。黙って見てるよ。
[GM]> ではペンダントに赤外線の反応がある。調べると二つのペンダントの内部には顕微鏡を見る時に使うプレパラートみたいな透明な板が一つずつ入ってる。そこだけ取り外せるね。赤外線視野で見ると、電子回路の網の目のような模様が走っている。それが二つ。
[桐原]> まさか‥‥!?
[中]> 当たりですか?
[神薙]> 組み合わせると一つになるのか?
[GM]> (絵を描く)組み合わせると一枚の極薄の板になる。切れ目はちょうど“Z”の形にも見えるね。
[中]> ‥‥『Z-file』?
[GM]> チュンは[電子機器]のスキルソフトがあったか。では入れて3/25ターン後に分かる。何らかのデータをこのような形に偽装することも、もしかしたら不可能ではないかも知れない。だが、君のデータジャックやチップジャック、ポケット・セクレタリーではアクセスする手段がないし、確かめる術がない。
[中]> インターフェースもかなり特殊なものだろうしな。
[十六夜]> (考えている)こっちから遥ちゃんにお返しにプレゼントできるものが‥‥ない(笑)!
[ヴィッキー]> アタシはサインをあげようかな。
[GM]> さて、ペンダント自体からは完全に切り離せる。どうする? これだけ様々な勢力が探し回って手に入れることができなかったんだから、本物では? という気もしなくはない。
[ヴィッキー]> ペンダントは宝物にしとこう。
[神薙]> このガラス片は壊したほうがいい。
[十六夜]> ペンダントはもちろん身に付けておくけど。フチの出羽さんにこの話を蒸し返すのもやめときたいわ。
[GM]> レンラクのミスター・ヤマダに売りつけるという手もあるし、ストリートで故買人を探すという手もある。うまくやれば数十万新円にはなるだろう。
ただ、このせいで君たちは命を狙われるかも知れないし、これを巡ってまた激しい争いが始まるかも知れない。それに君たちはシアワセ・バイオテクがこのデータの元となった寿命延長の研究を進めるために、一体どんなことをしていたのかも知らない。さて、いかがしますか?
[桐原]> うーむ‥‥。
[十六夜]> 「ありがとう」と言って首飾りは貰っておくわ。「素晴らしいプレゼントね」と珍しくにっこり笑顔を見せる。
[神薙]> “クールでチルな姉ちゃん”のお嬢がついに笑ったか‥‥。
[中]> メモリーチップは‥‥預かっておきますか?
[十六夜]> そのままペンダントにしまって持ち歩いてても分からないんじゃない?
[神薙]> いや、オレは壊したほうがいいと思う。
[中]> 樹脂で固めて壊して‥‥
[GM]> ‥‥ナゼ樹脂が出てくるんスか?
[ヴィッキー]> アタシはお礼にマイクを一つあげとこう。
[GM]> 二人組は「いやー、オレたち音楽を聞くのは好きだけど歌うのはな〜」「ヴィッキーお姉ちゃんには、かなわないよ」とか言ってますが。
[ヴィッキー]> いや、無理やり渡しちゃいます。「これがニホンのカラオケよー」
[十六夜]> (考えている)私も何かお返しをしないと‥‥。
[ヴィッキー]> バイクをあげちゃいなさい。
[GM]> あれはスズキ“オーロラ”ですよ?
[十六夜]> それはちょっと‥‥私巫女なんだから装身具とか付けてないのかな‥‥ないか。後でなんか贈ろう。
[GM]> さて。メモリーチップと推定されるこのガラス板はどうしましょう。
[中]> 壊せ。
[神薙]> 壊すに一票。
[十六夜]> 同じく一票。
[ヴィッキー]> やっぱり壊そう。
[桐原]> じゃあサムライの俺が壊すか。パチッと折って‥‥?
[十六夜]> その辺のゴミ箱に放り込むのが格好いいわ。
[桐原]> 再生できないようにゴリゴリ切り刻むか?
[十六夜]> ‥‥それはやらなくていいわ。
[GM]> ‥‥そうですか。桐原が過去と決別するために壊すと。では数十万新円をムダにするんですね? [中]> 要りませんね。 [神薙]> いらん。 [十六夜]> これでいいのよ。 |
[GM]> そうですか‥‥。それでこそ、“サイバーパンク”ですね。ではそろそろエンディングへ。
これでキャンペーンはひとまず終わります。カルマは最後だから景気よく10点あげよう。
[一同]> パチパチパチ!
[十六夜]> グレード0のイニシエトになるにはカルマ15点か18点‥‥じゃあ、私はとっとくわ。
[GM]> おお、遂にイニシエーションを受けるんですか。
[十六夜]> その割に呪文は3つしか知らないけどね。
[中]> 私は魅力を4、筋力を4(5)に上げる。これで人並みだ。
[十六夜]> フチのお兄さん‥‥タチバナさんに負けたのがそんなに悔しいの?
[中]> 修理中のウェストウィンドは‥‥たった1マスしか直らない‥‥。
[桐原]> [小火器]を上げたいと思うが‥‥しかし俺はしばらく、ちょっと脱力感に捕われてるよ。
[神薙]> 筋力を2に、後は精霊召喚用に魅力を2から4に上げる。‥‥サイバーの道もけっこう厳しいな。という事でオレは魔法も使わないと、と思ってる。
[十六夜]> と言うか今回サイバーに対するアンチテーゼみたいなのがけっこう出てきたからね。
[GM]> アズテクに復讐を誓った二人組に関する物語はここで終わりだ。全ての謎は明かされなかったが、ひとまず冒険はここで終わる。それも、混沌とした第六世界に相応しいと僕は思うんですけどね。種明かしは全部この次にしよう。 [ヴィッキー]> おー、X-ファイル風ねー。(笑) [GM]> なにー!!(笑) |
RI-Foundation > Shadowrun > "While The Earth Sleeps" > Chapter:18 |
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