Chapter:2 Fly Me  to the Moon

第2章 フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン


 入居者の素姓を問わない池尻の中流マンション街。地位の低いウェイジ・スレイヴ達が住んでいる、画一的で狭苦しい集合住宅よりも快適な暮らしをしたがる者は少なくない。企業世界の住人にも、影の世界の住人にも。

 一人の女性が新品のバイクを眺めていた。スズキ“オーロラ”。コンピュータグライドTMで操縦性と性能を高めた、ヤマハ“レイピア”の対抗バイク。
 ダークブラウンの瞳をした妙齢のエルフ。上背は人間の男性と同じくらいある。だが、耳を整形している彼女は、ちょっと見には日本人の無愛想な美人にしか見えなかった。
 細身の体には巫女の衣装風にアレンジされたデザイナー・ブランド――50年冬から人気を博しているセキュアテック・アーマージャケットのライン――に黒のパンツ。隠蔽型ホルスターには主に暗殺用の、フレシェット弾専用のアレス・ヴァイパー・スリヴァーガン。
 エルフと分かった時の無用の騒ぎを避けるためのミラーシェードには、最新型のレベルIIスマートゴーグルの機能が内蔵してある。
 彼女の名は“十六夜”(いざよい)。十六夜の月の輝く夜に拾われた月の子供。古代日本の八百万の神々の一柱――スサノオを祭る浜松氷川(ひかわ)神社で巫女として育った彼女は、風の神の加護を受けたストリート・シャーマンとなった。
 本名は長門 美月(ながと・みづき)。だが、その名はあの嵐の夜に、システム照合番号と共に捨てた。


>>>>>[わァ、巫女のシャーマンのお姉さんだって! 呪文も使えて、自然精霊にお願いしていろんなことができるんでしょ? しかもエルフ! 第六世界って、いろんな人がいるのね!]<<<<<

――ハーフエルフの冒険者 エリーシャ・フィオレット

Awakening

>>>>>[第六世界のシャーマンには、ドルイドやヴードゥーからパス・マジック、タトゥー・マジック、果ては陰陽五行の道に従う連中までいる。
 新日本帝国には独自の神のトーテムの道を歩む巫女がいてもおかしくはない。ケッ、ここはアメリカじゃないんだからな。この御仁は、神社に仕える普通の巫女とはまた違うタイプのようだが]<<<<<

――マヤカシ “求天”


[十六夜]> 新品のバイクは買ったけどまだ寒いのか‥‥という訳で、ツーリングはもっと暖かくなってからにしてバイクをいじってる。

[GM]> くしくもスズキ“オーロラ”ですね。街にはニュースが流れてます。【千葉のレンラク・アーコロジー近くで爆破事件。死傷者多数。環境テロリストの仕業との見方が‥‥】とか。

[十六夜]> 「きっとヴィッキーの知り合いのカレね‥‥」と思ってる(笑)。
(注:ヴィッキーのコンタクトの一人、マクファーレンはアイルランドから来たテロリストなのだ(笑)!)

[神薙]> レンラクのミスター・ヤマダも死んでしまったんじゃ‥‥? ヴィッキーのコンタクトのテロリストは環境テロだったのか? それとも企業テロ?

[GM]> いや、一応何でもやる汎用テロリストなんですが。さて、十六夜は何かしますか?

[十六夜]> でも情報収集の必要もないし。話があれば向こうから連絡があるでしょう。連絡‥‥レンラク(笑)。


>>>>>[レンラク・コンピューター・システムズはチバ・シティに本拠を持つ八大企業の一つ。公共サービスや情報処理に強いな。評判もまあいい方だ。シアトルやチバのレンラク・アーコロジーは、人工知能(AI)がマトリックスを守ってるってウワサがあるぜ]<<<<<

――エルフ・デッカー メタリック・マウザー

>>>>>[おい、レンラクは日本語じゃあ会社の名前にしてはヘンだって本当か? 俺は英語とストリート・スラングしか分からねえんだ]<<<<<

――ストリート・サムライ レイザーエッジ


[十六夜]> じゃあとりあえず暇なので〈クリスタル・ヴィジョン〉に行ってみる。

[GM]> と、君の振動型の携帯電話が震える。知り合いのフチの秘書、出羽弥生(わ・やよい)さんからだ。「もしもし。今、手は空いてる?」

[十六夜]> 「ええ、暇ですが」

[GM]> 「仕事の話‥‥かなり大きなビズよ。いつもの店で、貴方の仲間も集めてちょうだい」

[十六夜]> 「分かりました。ところで‥‥」

[GM]> ところで?

Corporate Shadowfiles

[十六夜]> お歳暮は届きましたか?」

[GM]> なにー! 「ああ、届いてたわ。ありがとうありがとう」

[神薙]> お嬢、贈収賄か‥‥?

[十六夜]> いや、お世話になった人に贈り物を贈るのは日本古来からの風習よ。確かカニを。

[ヴィッキー]> 合成カニ(笑)?

[桐原]> やはり大豆製のカニか(笑)?

[GM]> ‥‥それはいくらなんでも無理があります。う〜ん、この時代の海は汚染されてるかもしれんなあ。天然は‥‥まあ、でもきっと養殖されてるでしょう。


>>>>>[この第六世界でも食料事情はだいぶ変わってるみたいね。生活レベルの低い人たちは合成の大豆食料(ニュートリソイ)が主食になってるわ。一応、いろんな風に味付けできるらしいんだけど]<<<<<

――NCB広報部 “広報部の華”静元涼子


[ヴィッキー]> 大豆サンデー(ソイ・サンデー)を贈ればいいじゃん。

[GM]> それはフチ日本に喧嘩を売ってるようなものです(笑)。では、バイクで風を切って渋谷の方へ。

[十六夜]> じゃあ、途中で〈シェイQダウン〉に寄ってヴィッキーも拾っていきましょう。もうリハーサルは終わったんでしょ?

Neo Anarchists' The Guide to Real Life

[ヴィッキー]> 『Q』のサインを立ててリハーサルは終わりにするよ。

[GM]> 後ろからDJが「Hey 、ヘィヘィヘィヴィッキー! ホゥ、ホールドオン! Wait! ウェイト! ヘイ、チャマー〜!」と悲鳴を上げてますが。

[ヴィッキー]> 完璧よー」といって去ります(笑)。

[十六夜]> 「ヴィッキー、仕事の依頼があるみたいなんだけど」

[ヴィッキー]> なるほど。今年の締めとして大掃除をするつもりでやりましょう。

[神薙]> 悪党をばっさばっさと倒して掃除するんだな。

[GM]> ‥‥そうですか。それは楽しみですね。

[ヴィッキー]> しかも前回拾ったディコートTMのシュリケンで(笑)。

Fashion Slave




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