Pilot: The Awakening

序章 ジ・アウェイクニング

 世界は変容した。ある者は“覚醒”と呼んだ。
2010年、ウィルス性有毒性アレルギー症候群(VITAS)の伝染で世界人口が激減。翌年、原因不明の遺伝子発現により人間から取り替え子(チェンジリング)が出生。日本の富士山ではグレート・ドラゴンが出現した。
 マヤ族の予言する“第六世界”(ザ・シックスス・ワールド)の到来の時――2011年12月24日、世界は覚醒の時を迎えた。
 精霊から交霊の舞い(ゴースト・ダンス)を学んだ偉大なるシャーマンに率いられ、インディアン達が強制収容所を脱出。合衆国軍は復活した魔法の力に立ち向かうことができなかった。インディアン達は、白人から祖先の土地を奪い返した。

 そして2021年4月30日、世界中でゴブリン化現象(ゴブリナイゼーション)が起こった。世界人口の10%が突然変異し、新たな種族――メタヒューマンが誕生した。動物たちもまた変異した。
 世界に伝説が蘇ったのだ。ドラゴンが、ユニコーンが、精霊達が地球に帰ってきた。“覚醒種”が混沌の大地を歩む時代がやってきたのだ。

Paranormal Animals
Virtual Realities 2.0

 一方、科学技術も飛躍的に進歩。疑似感覚(シムセンス)技術、人間の思考をコンピューターに送り込むサイバーターミナルや、人体と機械を繋ぐサイバーウェア技術が格段の進化を遂げた。
 未知のウィルス・プログラムにより世界中がコンピューター・クラッシュに見舞われた後、新たなコンピューター・ネットワーク――マトリックスが電脳世界を一つに結んだ。

 この激動の時代に列強は耐え切ることができなかった。かつて栄華を誇った国家の多くが砕け散った。強国アメリカはアメリカ南部連邦(CAS)カナダ・アメリカ合衆国(UCAS)に分離。ネイティヴ・インディアンの住むアメリカ先住部族諸国(NAN)に続き、エルフの王国ティル・タンジェルも成立。瓦解したメキシコは、巨大企業アズテクノロジーの統べるアズトランへ。帝国海軍の援助を受けカリフォルニア自由州(CFS)も独立。戦火に揺れるヨーロッパでアイルランド独立共和国(ティル・ナ・ノーグ)も成立、ドイツは再統一へ。

Tir Tairngile


 では――アジアの端にある、あの小さな島国はどうなったのだろうか? 真の侍の子孫の住む、東洋の神秘と伝統を伝える不滅のライジング・サンは。
 新 日 本 帝 国 (ニュー・ジャパニーズ・インペリアル・ステート)は巨大太陽エネルギー衛星を打ち上げて資源依存国から脱出し、世界経済の中心となっていた。VITASもコンピュータ・クラッシュも、日出ずる国を滅ぼすことはなかった。

 吸収合併を繰り返し、強大なる勢力となった日本の巨大企業群は、世界中にその手を伸ばした。フチ・インダストリアル・エレクトロニクス、ミツハマ・コンピューター・テクノロジーズ、レンラク・コンピューター・システムズ、シアワセ・コーポレーション、ヤマテツ・コーポレーション‥‥世界の頂点に君臨する八大企業(ビッグ・エイト)の、実に五つ。
 企業の統べる大都市は拡大と発展を続けた。有力企業は各地方へ分散し、東京は中立地域となった。華やかな繁栄の陰で、熾烈な企業間闘争は今も裏で繰り広げられている。海外からの人口流入、巨大な製品市場として、この街は今までにまして繁栄を続けている。

Renraku Computer Systems
Sprawl Map

 トーキョー・スプロール、2050年代。この巨大都市(メガ・プレックス)も、第六世界の他の都市とさして変わらない。世界を動かすのはニューイェン(新円)。企業の求めるものは利潤。人の心には混乱。何もかもが、変わってしまった。
 西には広大なフチの私有区。幕張臨海区には海外の八大企業――アレス・マクロテクノロジー、ザーデル・クルップ、そしてアズテクノロジーの支社。東都警備(ECP)やドク・ワゴンTMのヘリが轟音を立てて飛びかい、高層交通で結ばれた高層ビルが不夜城の如く輝く多層都市。


 摩天楼の要塞からは世界を動かす重役たちが汚れた街路を見下ろし、ストリートの片隅には不法居住者(スクワッター)や神経を焼き切ったBTL電脳麻薬中毒者(チップヘッド)が。ヤクザやマフィア、ギャング達は果てなき抗争を続けている。
 元素精霊を従えたメイジ達が魔法の神秘を振るい、ドラゴンが企業を動かし、サイバーで体を強化したトロールの戦士やオークのシャーマン、エルフのデッカー達が街を闊歩する時代。闇の中には、覇権を取り戻さんとする国家が、人間至上を唱えるヒューマニス・ポリクラブが、企業の工作員が、そして吸血鬼やグールまでもが、あらゆる影が蠢いている。
 クロームとネオンとプラスチック、けばけばしいイルミネーションに彩られた街に集う人々は様々だ。番号で管理された登録市民――“ 罪 人 ”(S I N - N E R)たち。企業の家畜となった俸給奴隷(ウェイジ・スレイヴ)。シムセンスの産む偽りの世界に浸るデッキヘッド達。人種や国籍はおろか、種族までばらばらの雑多な人々が溢れている。

 愛は忘れられ、正義という言葉の意味は失われて久しい。科学と魔法、危険と神秘、気高さと裏切り、光と影の同居するこの混迷の第六世界で、迷宮の如き巨大都市で、人は一体何を信じてゆけばよいのだろうか?
 きらめくネオンの輝きは、この第六世界から夜を打ち払ったようにも見える。だが、摩天楼の影はあまりに深いのだ‥‥。

 世界覚醒から数十年。世界的暴動“激怒の夜”(ナイト・オヴ・レイジ)で種族差別はピークに達したが、人間とメタヒューマン間の憎しみは徐々に収まっている。我々の世界は覚醒の試練に何とか耐え抜き、新たな世界が再構築された。
 だが、世界はあまりに変わってしまった。この混乱と激動の時代を予想できた者などいない。この迷走の歴史の中で、不変のものなどありはしなかったのだ。


 摩天楼の高みから世界を操る巨大企業は、自らの手を汚したがらない。極秘の“影の仕事”(シャドウラン)を実行するため、彼らは一群の外部のプロフェッショナルを雇った。

Shadowrun 3rd

 ‥‥ある者は自らの肉体に鋼を埋め込み、最強のサイバネティクス戦士として蘇った。
 ‥‥ある者は自らの真なる力に目覚め、復活した魔法の力を自在に振るった。
 ‥‥ある者は自らの頭脳を愛車と繋ぎ、我が身の延長であるかのように車両を操った。
 ‥‥ある者は自らの精神を電脳空間に繋げ、輝くグリッドを光の速度で疾走した。
 システム照合番号(SIN)を持たぬ彼らはいかなるデータベース上にも存在せず、公式には実在しない。“仕事”を仕掛ける時、彼らは疾走する。摩天楼の影を、大都会の夜を。
 贖罪の第六世界を駆ける最後の罪 な き(SIN-LESS)個人。覚醒世界の夜の真の支配者たち。激動と混迷のこの世界で、彼らは自らの存在を賭けて生きる‥‥。



‥‥彼らは、“シャドウランナー”と呼ばれた。


Shadowrun Second Edition

line - While The Earth Sleeps
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