一章
妖怪たちの午後
ある十一月の日曜日。神奈川県のはずれ、小田急相模大野駅前の<月の雫>。休日の午後の一時を過ごす客達に混じって、三人の男女が隅のテーブルに陣取っていた。
GM:(一応)それでは皆さん、闇の世界へようこそ。
今日は休日ということにしといて下さい。皆さんが喫茶店にいる所から始まります。関係については顔見知りということにしといて下さい。
向島教授:JTBに電話しよう。
鏡:JTB? 何で?
向島教授:中国に旅行するから。遺跡だよ。
鏡:(シートを見る)<中国語>もできないのに?
向島教授:文献は見ないんだ。自分の目で見たことしか信じない。
鏡:どんな考古学者なのよ! この人は‥‥(笑)。
GM:じゃあ回りくどいんで自己紹介して下さい。
鏡:えーと、妖怪古眼鏡の
飛丸:GURPSだ‥‥ガープスなキャラクターだなぁ‥‥。
鏡:ええ、ガープスなんですよ。えー、特殊能力は、遠くが見えます。それに重くできます。
向島教授:
GM:八王子から来るのはかなり辛いですよ。ああ、走ってくるんですね。
向島教授:承知の上! なんちって。
飛丸&鏡:何者だ‥‥こいつ‥‥(笑)。
向島教授:大学はその辺の‥‥妖怪大学と言っておこう。
GM:ほんとですか? ‥‥はい、あなたは風を操るんですね。その[かまいたち]は[風撃]を「切り」ダメージに「増強」してあるやつです。
飛丸:
向島教授:トビーと呼んであげよう。トビー君。
飛丸:ト、トビーですか? 普段はえーとね、フジヤマ書房というナゾの出版社に勤めてることにしよう(笑)。
妖術は[破壊光線]や[精神操作]があります。夜歩きする癖があって、昔の怪談とB級ホラーが好きです。Zippoのライターオイルを舐めるのが好き(ろくろっ首の影響)でタバコ中毒です。
GM:じゃあ今もスパスパやってる訳ですね。でも、そうするとそのうちオイルがなくなっちゃいますよ。
飛丸:いや、香りと味が違うんだ。
GM:なるほど分かりました。
鏡:私は窓辺のひなたに座ってコーヒーでも飲んでいよう。
GM:するとね、
鏡:(断言)ブレンド!
GM:「はいはい、金がないんだねえ(笑)」
向島教授:私は教授らしくブルーマウンテンを飲もう。
飛丸:‥‥ど、どこが教授らしいんスか?
GM:出たコーヒーは普通の味です。妖怪某君が今日はいないんです。(この店にいるコーヒーミルの妖怪、レオ=マクニールのこと。)
一息ついていると、「お休みの所を申しわけないけど、休暇をかねて旅行にいく気はない?」と言ってくる。
鏡:温泉?
向島教授:スキーやんの?
GM:といって一枚の手紙を渡します。
御島龍之介が三人に見せた手紙は、筆で丁寧に書いてあった。差出人は「白城美鈴(しらき・みすず)」。宛先は行方知れずになって久しいこのネットワークの創始者、「望月覚夜(もちづき・かぐや)」となっていた。
女性らしい繊細な字でまず突然の手紙を詫びた後、彼女は助けを求めている旨を述べていた。彼女の守護している土地に妖怪が出たらしい。襲われて突如視界を真っ暗にされ、重傷を負った村の人々が出たそうだ。
手紙は簡潔なものだったが、この女性が切羽詰まった様子で<月の雫>を頼ってきたことは明らかだった。
飛丸:(手紙を読んでいる)ほう。三点リーダを使っているね。
鏡:筆先が乱れているから、心理状態があまりよくないということを勝手に読み取る。
GM:さて。君たちも知っての通り、望月覚夜はここの先代の元締めだ。もういない人に助けを求めてきてるんだ。何年か前に当時の最強メンバーとある妖怪を倒しに出かけたまま、帰ってきていない。
この手紙を出した人は――白蛇の妖怪だけど――今みたいにネットワークがドライになる前のことしか知らないんだ。だからこんな手紙を出してきたんだね。
鏡:(覚夜は)洗脳されて敵になったとかじゃないの?
向島教授:ヘッ○ギアをつけて‥‥
鏡:‥‥そのネタはやめよう。
GM:で、今ここにいるネットのメンバーというと、君たち三人、後はいつもいるメンバーしかいないんだ。
鏡&向島教授:なるほど。
飛丸:いつもいるメンバーというと?
GM:あ、えーとね、バイトのウェイトレスがいるよ。(メンバーの妖怪の一人、
で龍之介君が「コーヒーのお代りどうですか〜」
飛丸:ああ、灰皿変えて下さい。
GM:「はい、どうぞ」
鏡:古本屋を休ませてもらうか‥‥でも職がなくなったらやだな。
GM:あなたの店はあなたがいなくなると後釜がいないような所です。
ああそうそう、「人間に対する態度が中立」のお二人(教授と飛丸。鏡は「友好」)には、別の手紙で報酬を多少渡すと彼女は言っているらしいよ。金額は書いてないけど。
●『妖魔夜行』のPCは、人間に対する態度にCPを消費しなくちゃならない。態度は「善良」「友好」「中立」「独立」「獲物」「邪悪」があって、後の二つは普通は選べないんだ。
これで、人間に対してどんな風に接するのかが基本的に決まってくるんだね。ちなみにナイスなオレはもちろん「善良」だ。気分がいいし、30CPも貰えるぞ。
GM:この手紙の差し出し場所は岐阜県の
そこで龍之介がある雑誌を開くんだけど――それは『サーズデイ」っていう二流週刊誌なんだけど(笑)――そこにばっと“平間村に隠れ里”っていう記事が載ってるの。“人跡未到の秘境を探る!!”とかね。大したことは載ってないけど。
人口は五百人くらい。村には衛星放送のテレビが一つあるきりで電気も通ってない。一月に一度物資の搬入があるくらいで、外界との接触はほとんどない村だそうだ。
鏡:すごい‥‥。
飛丸:すげー。♪はぁテレビもねぇ、ラジオもねぇ‥‥って感じだな。
向島教授:そこはひょっとして、日本円は通用するんですか? 報酬は野菜とかだったりして‥‥。
GM:村で買い物をするのは難しいでしょうね。この美鈴って人は神社の神主のところにいるの。村で医者の次に偉いって言うか、先生格っていう感じだね。なんで別ルートでお金を貯めることはできたらしい。
で、村には電車が通ってない。車で行くしかないんだ。
飛丸:車、車‥‥<運転>技能があるぞ。
GM:技能があるなら持ってるとみなしていいでしょう。
飛丸:いやー、これで原稿取りに行くんですよ(笑)。
向島教授:東京だったらバイク便の方が早いんじゃないですか。
飛丸:そうですね。いやー、夏はでっかいイベントも色々あって、ウチの会社もようやく仕事が一段落したところですね(笑)。
向島教授:はあ、そうなんスか。
GM:あう〜。さて。もう平間村に行きますか。地図は同封されてますが。ちなみに今は十一月です。向こうで何かを揃えるっていうのは難しいということは言っておきますが。
●出発の前にできるだけでも情報を集めておこうと思っ た三人は、一応あちこちを巡ることにした。
鏡:図書館で村についてのデータを、コンピューターで検索するよ。
GM:分かりました。<コンピュータ>技能で判定して下さい。
●ガープスの行為判定は、3D6で技能レベル以下を出せば成功だ。(6面3個ってのはけっこう珍しいよな。)
技能を持っていない場合は、能力値−Xが目標値。極端な目を出せばクリティカル、あまりに高い目はファンブルだ。
それから、同じ成功でもより低い目で成功したほうが(=成功度が高い)、成功の度合いは高くなる。技能レベルは高いにこしたことはないね。
鏡:チェスト〜! 成功だ。えーと、このゲームは「−2成功」でいいの?
GM:はい。なら「NO DATA」と出ます。
鏡:ふん、所詮腐れオーロラシステムでは駄目ね。
GM:いや別にオーロラシステムと決まった訳では‥‥。
(↑青山学院大学の大学図書館にある本の検索システム)
鏡:じゃあ視界を真っ暗にする妖怪がいないか、図書館で探す。
GM:そういうのは妖怪ネットワークに聞いた方が早いですね。そういうのに詳しいのは<月の雫>のレオ君ですね。でも、何も分かりません。
●今度は本屋に行った飛丸先生だ。
飛丸:どうやるんですか? 「知力−何点」とか?
GM:う〜ん、知力−3で。
飛丸:きっかり成功。
GM:なら、地図には載ってます。但し、人口とかのデータはまったく載ってません。はい。
飛丸:う〜ん、じゃあ雑誌とかをペラペラめくって、最近の世の中で変わったことがないか調べるぞ。
GM:そうですね。妖怪のあなたから見るとこれは妖怪の仕業では‥‥という怪奇現象がオカルト雑誌に載ってたりするくらいで、今回の事件に関係ありそうなものはないですね。
ああ、そういえば、平間村の近くに、今度スカイラインが通る予定みたいですね。
向島教授:ビーナスライン?
GM:いやそういう名前じゃないんですが。
鏡:それに反対する一派がやらかしたんじゃないだろうか。
飛丸:きっと怒って大魔神が蘇ったんだ(笑)!
GM:本屋ではそんな所ぐらいですね。
●最後は向島教授。週間サーズデイを出している出版社に行くけど‥‥。
向島教授:その、取材した記者に会いたいと言って。
GM:じゃあですね、受付嬢みたいな人が出てきます。「えー、アポイントメントなしではちょっと‥‥」
向島教授:じゃあ今します。(←何だそれはっ!)
飛丸:おおぉー、さすが教授だぁ(笑)。
GM:「じゃあ少々お待ち下さい」と言って、「ああ、担当の者は現地に向かってしまったそうです」と言って来る。現地から記事をFAXで送ってきたらしいね。
担当は「村上」という男だそうですね。
●結局収穫もなし。三人は合流して、計画を話し合った。
GM:どうもテレビがつくんだから村には電気は通ってるらしいね。記事にはないと書いてあったけど。もしくは自家発電か何かか。
飛丸:おおー、原子力だ。
向島教授:プルトニウム‥‥凄いッスねー。(←キャラメイクの時の原子力にまだこだわっている) で、コンビニとかはあるんですか?
GM:あればデータが出るはずです。ないですね。
鏡:懐中電灯はいらないから(←彼女は妖力で[
GM:するとですね、「しょうがないなぁ」と言って有給休暇をくれます。
向島教授:あ、大学の方に電話します。「ちょっと中国のことで調べたいことがあるんスけど」
GM:「ああ、はい、どうぞどうぞ(←強調)」
向島教授:なんか見捨てられてるなぁ(笑)。
GM:「いやとんでもない。教授は非常勤ですからどうぞご自由に」
向島教授:ひどいっスよ〜。クビにしないで下さい〜。
鏡:帰ってくると籍がなくなってるんでしょ(笑)。
GM:で、出版社の方は?
飛丸:編集長に電話します。「あ、編集長、ちょっと休ませて下さい。旅行で地方の村まで行ってきます」
GM:「(悲鳴)えぇー」
飛丸:「あ、僕、ホラー関係好きですから、ついでに取材もしてきますよ。先月あんなに働いたじゃないですか」
GM:「ああそうか、君の担当のはもう終わったんだな。じゃあ次のローテーションが来るまでまあいいだろう」
鏡:じゃあ今月はいつもは遅筆の作家が早く上がったんですね(笑)。
GM:じゃあそういうことで。三人を乗せた車で出発します。道路をブォーッと走って行きます。
荷物をトランクに詰め、向島教授と九十九鏡を乗せると、九尾飛丸は愛用している乗用車を走らせた。ハンドルを握る青年に眼鏡をかけた二十歳の女性、謎の教授と、深夜のドライブにしては妙な組合せだったが、三人の正体に気付く者はいなかった‥‥彼らの眷属達を除けば。
『‥‥RI財団は、粋な貴方を応援します‥‥。このたび電脳空間にて‥‥』
遠くでどこかの広告のネオンサインが霞んでいた。十一月の凍れる夜空には冬の星座が瞬き、ハイウェイの灯りが光の帯となって背後に行き過ぎていく。
やがて車は公道を離れ、林道に入っていった。あまり整備されていない路面からの振動が伝わってくる。回りは深い森に囲まれ、ヘッドライトの灯りだけが行く手の闇を照らしていた。対向車にも一回も会っていない。
カーステレオから流れる深夜のJ−WAVEだけが、三人と外界を結びつける唯一の源だった。人跡未踏というのもあながち嘘ではないような気がしてくる。
ガソリンが十分残っているのを確認すると、飛丸は眉をひそめた。車の調子がおかしいのに気付いたのだ。
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