三章
死霊の都
車から降りると、三人は神社へと向かった。僅か人口五百人の平間村の夜はしんと静まり返り、微かな虫の音しか聞こえない。人間世界の喧噪が嘘のようだった。まだ日本にも、こんな場所が残っていたのだ‥‥昔、妖怪たちの存在が信じられていた頃と同じように。
街灯のない真っ暗な夜。人間たちがあれほど恐れる暗闇も、鏡や飛丸には関係ない。
住人も寝静まってしまったのか、神社からも物音は聞こえなかった。表札には『玉静(ぎょくせい)神社』とある。
鏡:“たましず”神社じゃないのね。
GM:‥‥ええ。
向島教授:賽銭を投げて起こしてやろう。
飛丸:「たのもう〜、たのもう〜、開門〜」
GM:たのもうは違〜う。すると中がばたばたして、お爺さんと女の子が出てきます。
「遠くからご足労いただきましてすみません。話は伺っております。ささ」
飛丸:あ、どうも。
向島教授:腹減ったぞ〜!
GM:精進料理しかありませんよ。
鏡:神社はあんまり関係ないんじゃないの?
GM:ていうか、二人しかいないからあんまり食べないんだ。
向島教授:肉出せ肉〜! 客が来たんだ、出せ〜!
飛丸:向島教授ぅ‥‥それはあまりにも「向こう見ず」ですよ(笑)!
GM:はう〜! 「すいませんねえ」と女の子がぱたぱたと一軒だけある雑貨屋に買いにいくことにします。
向島教授:言い方変えます。「えー、ないのぉ?」あ、そこまでしなくてもいいです。
GM:もう行っちゃったよ。「今、美鈴がついでに村長さんを呼んできますから、そこで話を聞いて下さい」と言ってる。しばらくすると小野上(おのがみ)さんというちょっと小太りの村長がやってきます。
「おお、あなた方が都会から来られたムニャムニャな方ですか。これは頼もしい」
村長と神主は普通の人間だった。妖怪なのは後ろにいる十代半ばに見える少女――白蛇の白城美鈴(しらき・みすず)だけだった。
二ヵ月程前から謎の妖怪が現れるようになったという。横にいた向島教授と飛丸は、そう話す村長の様子がおかしいのに気付いた。どうもうろたえているようだ。尋ねてみても、彼は何でもないと言い張るだけだった。
大きな道路が通るための建設が始まったのも、やはり二ヵ月前らしい。これで村も繁栄し、村人たちももっとよい暮らしができますと彼は付け加えた。
GM:「は、これは出過ぎたことを」と彼は言う。
鏡:ふむふむ。‥‥むう。
GM:ああそう、さっきの妖怪白蛇に関して、[妖怪知識]がなくても、知力−5で判定していいよ。成功?
各地の神社を守護する妖怪で、日本全国に一族をなす程多くいる。それで、人間の姿は死ぬんだ。老化して、妖怪としては例外的にね。で、死んでもすぐ蘇って、別の人間の姿になって帰って来る。だから彼女も十数年前までは神主か連れ合いか何か別の姿で、この神社を守ってきたわけ。もうかなりの年のはずだね。
向島教授:何回目ですかって聞いてみよう。
鏡:きょ、教授ぅ‥‥!
飛丸:で、彼女は部分変身したりするのかな? 首から上だけが蛇になるとか。
GM:部分変身? ああ、いやいやしないしない。(注:本当は妖力の[人間変身]で可能です)
鏡:そ、それは‥‥クリスタニアじゃないですか〜(笑)。
飛丸:いや、復活を繰り返すというと、結界の神獣王に従うだけあって周期を繰り返しているなあと‥‥(笑)。
●『漂流伝説クリスタニア』の十年前、禁断の大地クリスタニアに初めて登った六人の冒険者たちを描いた『はじまりの冒険者たち 〜レジェンド・オブ・クリスタニア〜』の映画が、この頃公開されてたんだよな。キャラクターイラストの人が違うのでちょっと違和感があるけど、意外とよかったみたいだ。
飛丸先生の話だと、ラストシーンは日本全国の“清く正しい”ロードスファンの皆様なら感動してしまうこと請合いだったそうだよ。ホントかな?
しかしオープニングで流れた電撃TRPG冒険者大会の映像が‥‥かなり恥ずかしげだったらしい‥‥。
飛丸:最初のとこでさ、衣装を着た人たちがテーブルを囲むシーンがあるんだよ。そこでバルバスの格好をしてた人の顔が‥‥麻●尊師にスゲー似てるんだよな(笑)。
(↑やっぱりそっちに行ってしまうあの頃だった)
GM:彼女の妖力は[再生]ぐらいで戦闘的能力はない。あと、回りの人に[幸運をもたらす]があるけど、それは敵にも効くのでよろしく。
ああ、あと、今まで被害にあったのは十人くらい。最初は暗くされて躓いたくらいだったけど、最近はトラックでやられて横転して大怪我した人もいるそうだ。
飛丸:やられた人に規則性は?
向島教授:昼にやられたの? あ、夜でもいきなりやられたら怖いか。
GM:規則性はないですね。夜の方が多いですが、昼もいます。
鏡:今の段階ではそんなところかな。
●平間村には宿がなくて、三人はお堂で寝泊まりすることになった。寝る前に、外を出歩くけど‥‥
向島教授:車の助手席で寝てたから眠くないんスよ。
飛丸:あ、僕も「夜に出歩く」癖があるんで一緒に行きます。
GM:村はさほど大きくありません。人口五百人相応の所です。
あなた(鏡)は呼び止められます。美鈴さんですね。鏡:‥‥何でしょう?
GM:ちょんちょん(とつついて袖を引く)つつー、
「覚夜(かぐや)さんはどうしたんでしょう?」と消え入りそうな声で。
鏡:「行方不明なんです」と言っちゃあまずいか‥‥
「色々事情があって来れないんです」と言っておこう。
GM:「そうなんですか‥‥相変わらずお忙しい人なんですね‥‥。どうもすみません」と言ってすすーっと引っ込みます。
鏡は村の外を調べに行った。工事中の道路は二キロ先で止まっており、この村まではまだ届いていなかった。
鏡:明日にして今日は寝るか。
GM:はい。飛丸さんたちはさっき見た大きめの建物に来ました。
人の声が「いでーよいでーよぉ」「麓の病院に行かせろ〜」みたいな感じで聞こえてきます。『長島治療院』と書いてありますね。
向島教授:入ってみよう。
GM:中では長い髭のおじいさんが詰め寄られて困っています。「そう言われてものう。運ぶ車がないのじゃ‥‥おや、そちらの方は。怪我人には見えませんが」
言われるままに二人は怪我人を押さえるのを手伝った。怪我人は十五人ほどいる。トラックの運転手風の男に、向島教授たちは話を聞いた。
オーロラプランニングなる会社に頼まれて資材を載せ、トラックでこの村の近くまで来た途端、突然視界が真っ暗になり、夢中でハンドルを切ったら木に激突したという。その時助手席にいた相棒も、やはり目が見えなくなったという。
横転したトラックから這い出して調べてみても、車のライトは壊れていなかったそうだ。
鏡:急激なGで血が足の方に集まってブラックアウトしたんじゃないの? 目が見えなくなってハンドルを切るというその根性がよくないのよ。
向島教授:そこを調べて、二つのストップウォッチで時間を計ろう。カチッ‥‥あ、違う(笑)。
飛丸:第三種接近遭遇だ! 時間消失だ! Xスプレーを!(笑)。
向島教授:(患者に)君たちももう寝たほうがいいよ。
GM:「寝れるもんならとっくに寝てるわい」
飛丸:ところで積み荷は本当に資材なのか? 一番奥には謎の研究室みたいのがあったりしないか?
向島教授:生命維持装置が隠されていたりして(笑)。
飛丸:そこにE.B.E.(地球外生物学的存在)がいるんだろう。
鏡:積載量一トンオーバーとか(笑)。
GM:「確かにうちの会社にせっつかれて大分無理はしてたけどよお。いつもやってる仕事だぜ。会社の方からは急げ急げって指示が出てるから、トラックももっと来るはずだ」
●何だかさっきから脱線しまくりだけど、向島教授たちが盛り上がってるのは、全米でカルト的人気を博した、あの『X−ファイル』の事だね。
セッションの頃はレンタルビデオでファーストシーズンが公開されて静かな人気を呼んでた頃だったけど、今じゃみんな知ってるんじゃないかな。オレもテレビで見たよ。
ちなみに『妖魔夜行』の世界だと、エイリアンも空飛ぶ円盤も全部、人間の恐れと期待が生み出した妖怪だってことになってるんだ。メン・イン・ブラックも妖怪だよ。
だから超常現象を解明したいという人々の願いから、ヒマワリの好きなフォックス・モルダー妖怪を造っても別に悪くはないんだよな。でもダークスカイ妖怪とかミレニアム妖怪とかにはあんまり会いたくないよな(笑)。
で、治療院を出た三人は調査は明日にして休むことにするけど‥‥。
GM:美鈴さんがすまなさそうに言います。
「あの、実はお部屋が足りないので、男性のお二人はこのお堂で寝てもらうことになるんですが‥‥」
向島教授:なに〜! こんな薄気味悪い所で寝るのか!
鏡:ほんとにそう思ってる(笑)? ほんとに妖怪なの? 壁の隅から何か光るものが出てきそうだとか思ってるわけね。
GM:あの天井の染みはまさか霊〜! とか(←注:分かっていない)。
向島教授:ダニが出てきそうで怖いよ。あ〜、隙間がある〜! とか。(←注:まだ言っている)
飛丸:落ち着くんだスカリー捜査官。灯りの側なら大丈夫のはずだ。 (←注:まだ言っている)
GM:後は神主のおじいさんの部屋しかありませんね。鏡さんは美鈴さんと同じ部屋です。
向島教授:ジジイと一緒は嫌だなぁ。
飛丸:後はこっちで適当に飲んで寝ますからもう大丈夫です。
GM:「それではお休みなさい」と美鈴さんは引っ込みます。
飛丸:教授、酒を飲むついでにカードゲームやりましょうよ。
向島教授:オッケイ。
飛丸:いやー、ウチの会社のゲーム担当の奴が全員ハマってるんですよ。ギャズって言うんですけどギャズ。英語読めますか?
GM:‥‥あ、あう〜!
夜が明けた。平間村には薄靄が立ちこめ、早朝の寒い空気が隙間から神社にも流れ込んでくる。
九十九鏡は早朝五時頃、部屋を出ていく美鈴に気がついた。が、朝の勤めがあるのだろうとぼんやりした頭で考えた彼女は、そのまま再び浅い眠りに落ちていった。睡眠が足りないと頭が働かないと彼女はいつも思っているのだ。
一方、九尾飛丸と向島教授が寝ている部屋にも、早朝から起き出してきた神主が入ってきた‥‥。
向島教授:知力判定? 失敗だ。
飛丸:‥‥17? 大失敗だ! これってファンブル?
GM:ああえーと、目標値が15以下ならファンブルです。じゃあですね、二人は起きたおじいさんに気付きませんでしたが、足でおもいっきり踏まれました。
飛丸:なにー!
向島教授:ぐ、ぐおぉ!
GM:「おおすまんすまん。起こしてしもうたのお」
向島教授:て、てめー! わざとじゃないだろうな!
GM:「朝の仕事があるんでのお。ではもう少しお休み下され」
●午前八時過ぎ。三人はようやく起き出して、朝御飯を食べると表に出た。
向島教授:まだ起こさないで下さい‥‥むにゃむにゃ。
GM:考古学者って朝は早いんじゃないの?
鏡:あんまり関係ないと思うよ。
飛丸:僕は神社の裏に行ってみるぞ。
GM:するとぱたぱたと美鈴さんが掃除をしています。「あら、おはようございます」ここで視覚判定‥‥知力判定をして下さい。
飛丸:マイナス1成功。
GM:裏からは山裾が見えて綺麗ですね。今までは木に隠れて見えませんでしたが、山を少し登った所に、この神社のような建物がもう一つ見えますね。
飛丸:美鈴さん、あれは何ですか?
GM:村人もあまり知らないようですが、もう一つ同じような神社があるらしいですね。
鏡:御飯を食べ終わってふと思った。ここの神社は何を祭ってるの?
GM:それはえーと‥‥。
向島教授:お稲荷さん。狛犬。
飛丸:不動明王。
向島教授:羅刹。
飛丸:修羅とか(笑)。
GM:はっきり言ってよく分かりませんね。村人の魂を静めたり。「実はわしもよく分からんのじゃ。ははは」と神主のおじいさんは言ってる。
向島教授:毎日住んでるのに‥‥。
鏡:どんな神主だ‥‥?
GM:あ、でも、お堂の奥には一枚の絵がかかってます。 白い蛇が首をもたげていて、その上に鏡を足で持った烏がいて、それに対峙するように、鎧武者のようなものが書いてあります。何だかよく分かりません。
鏡:や〜たがらす〜。
GM:「わしもよく分からんがこの鎧武者がこの烏と白蛇を倒したという逸話ではなかろうか」
向島教授:毘沙門天かな。
飛丸:キミたちの好きなシルバーサムライかもしれないぞ(←X−MENに出てくる敵役)。
GM:どっちかいうとビシャモンな感じだね(←格ゲーのバンパイア・シリーズ)。
「まあ小さい村じゃ、こんな神社の一つもなければ村人を弔うこともできんわけじゃ」とおじいさんは言ってる。
ところでお堂の裏の人‥‥飛丸さんは?
鏡:あ、飛丸さんの姿が見えませんねえ。
飛丸:じゃあ僕もそっちの絵のほうに行ってみよう。
鏡:かくかくしかじか。
飛丸:僕も変な建物を見つけたんですよ。かくかくしかじか。
向島教授:この神社に文献とかはないの?
GM:知力判定だね。16? じゃあ分かりません。鏡さんはマイナス9成功? ‥‥じゃあ、ここのそれに関する文献が不自然な程少ないのに気付きます。
鏡:誰かが処分したか上の建物にあるのかも知れない。じゃあ上の方に行ってみませんか? と言う。
向島教授:大変そうだなぁ。マスター、[超跳躍]で一回で行けませんか?
GM:いけねえよ。キロ単位で離れてるんだ。飛丸さんは飛べるから([飛行]の妖力を取っている)楽ですね。だから実体を現して、鏡さんが[分身]を消して本体の眼鏡をくわえてもらって飛べばいい。
●PCになる大抵の妖怪は[人間変身]の妖力を持ってる(持ってないとシナリオ中で困るからね)。自力で動けない妖怪は[分身]で人間の姿を造り出して、本体を運んでもらったりいろんな行動を行ったりすることができるんだ。
あの有名な<うさぎの穴>の面々で言うと、館輝之介氏が本体は五代目妖刀村正で若武者が分身、てことになってる。
向島教授:いいなぁ。乗せてくださいよ。(←おい韋駄天なんだから走れよ)
鏡:気色悪いから歩いて登る。
GM:はい。じゃあかなり時間がかかって着きます。お堂はかなり荒れてて人が住んでないように見えますね。
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