U.AN/USM118Bの修理レポート


ここからは、購入したテスタの修理リポートです。いつものように、123A,Rの時に入手していた資料を参照しながらトラブルシューティングを進めました。

まずは、前オーナがオークション出展時に説明として記載されていた、「電源が入らない」というところから調べることにしました。もちろん最初に真空管は別の真空管テスタでチェックしました。また欠品していた真空管も追加しています。その後、まず、ヒューズのチェックからです。ヒューズホルダーが5箇所あります。内2箇所は電源ライン用で4A×2DCフィラメント用の1A、陽極用が1/4A、バイアス用が1/8Aです。陽極用のみがファーストブロータイプでその他はスローブロータイプです。調べたところ、陽極用の1/4Aのヒューズがブローしていましたので新しいものを取り付けました。

そして、スライダックでAC100V115Vに昇圧し、本機に供給します。そして電源用のモーメンタリスイッチをON側にクリックします。一瞬、パイロットランプは点灯しますが、すぐに電源がOFFされてしまいます。2,3回試してみましたが、同じです。説明されていたとおりですの症状です。ここからは、本体をケースから外して、回路図をみながら進めるしかないようです。まず電源が入らないのは、電源の自己保持回路が働かないていないのか、あるいはメータ保護回路が最初から働きっぱなしになっているのか、あるいは過負荷なのかです。

まず、裏を向けた状態で、同じことを繰り返しました。自己保持回路のリレーがモーメンタリスイッチのONにあわせて“カチ”と音がするかどうかを確認しました。何回かONをしても音がしません。どうも、リレーかその周辺が原因のようです。回路図をみながらテスタの抵抗レンジでリレーのコイル両端の抵抗値を測定してみましたが抵抗値はちゃんと導通していることを示しています。あとは、その周辺回路です。更に調べてみると、どうも電源ON時にリレーに電源が供給されていませんでした。回路図をみながら電源ラインから調べて行きました。電源のAC10Vは問題なし。,次にSi整流器は?とみていたところ、あれ! 「Siダイオードが配線から外されている」さらにリレーにつながるところのトランジスタの電極が外されているのに気づきました。原因判明です。手持ちのSiダイオードを早速、取り付け、ついでにトランジスタの同通チェックも行なってから再配線しました。

欠品していたダイオードを取り付けた後

なぜ、ここがパーツが外されたままなのか疑問が残ります。自己保持回路、保護回路に問題があって、そのトラブルシューティング途中でパーツを一時外したのか、それとも不良品を交換しようとして外したままになったのか、いろいろ考えてみましたがこれ以上考えてもしょうがないので、先に進めることにしました。

再度配線チェックをして、再び電源ONしてみました。今度は、リレーがカチと音をたてて自己保持回路が働き、電源はONしたままです。そしてしばらくして、“プス”と音がして1/4Aの陽極用のヒューズがブローしました。ブローしたことを示すネオンランプが点灯しました。

1/4Aのフューズがブローしてネオンランプが点灯したところ

すぐに電源をOFFしました。真空管が温まって動作状態になったところで陽極用の1/4Aヒューズが飛んだようです。ヒューズを入れ替え、すべての真空管を抜いて再度トライです。このときはヒューズはブローしませんでした。真空管が温まり陽極電源が動作するようになったタイミングで保護回路よりも先に陽極電流の過電流でヒューズがブローしたようです。回路図から調べていろいろ追いかけて見ましたが、まだプログラムカードを挿入していない状態(Reject状態)で陽極の過電流でヒューズがブローしたのが不思議です。ひょっとしてカードリーダのピンスイッチ(123Aのコーナーでカードリーダの構造を詳しく説明していますので、そちらを参照してください)の不良(全ピンオープンの状態になっていない)か?と疑いました。カードリーダーのカバーを外して動作を調べて見ることにしました。

ソネロイドをはじいてカードリーダを手動でアクチベートできる

電源を入れないでカードリーダのピンをアクテブ状態にするには、カードリーダに駆動トリガをかけているソネロイドを手でアクチベート方向にはじいてやることでできます。
開放状態(Reject 状態)に戻すには、黒いノブを押します。何回か空動かしをしてみましたが、どうもアクティブ状態にしたときの“ガツン”という音に元気がありません。少し鈍い音です。

また、開放状態にするときもカードリーダのスタッド(黒いベークライトでできた186個のピンをサポートしている板)の上下ストロークも少なくその動きもなんとなくメリハリのないものでした。見るからに油切れのような感じです。電気系はともかく、機械系は何年も動かさない状態で放置されたらこんな状態になるんだろうなと思いました。
カードリーダを開放状態にして、各ピンがOFF状態になっているかテスタで導通をチェックしてみました。やはりです、開放状態のはずが、ON状態になっているものがあります。
本来陽極(プレート電極)に接続するピンは1個所だけがONでその他はOFFで無ければなりません。それなのにいくつかのピンが並列してつながっていると、その並列したパスを通して陽極が別の電極やGNDとショートしてしまいます。おそらくこれが原因で陽極の電流が過電流となりヒューズがブローしたと考えられます。

カードリーダのカバーを外したところ

さあ、カードリーダのスイッチピンを含めたしゅう動部をどうやって潤滑にするかです。ピン以外の上下機構の部分は通常のCRC556で古いグリスを洗ってその後通常のグリスアップでいけそうです。問題はスイッチピンです。電極ですので、腐食性のないもので長持ちするものが望まれます。またウェットなベトツキを嫌う箇所でもあるのでグリスの選定が重要です。こういう用途に、バイクや自動車で耐久性のあるグリスとしてモリブデングリスやリチウムグリスがあるのを思いだし、早速近所の自動車パーツ店へ買いにいきました。自動車パーツ店にはあると思ったんですが、残念ならが置いてなくて、結局ホームセンタで購入しました。そこではリチウムグリスが安価で売られていましたので早速、買って帰りました。

買ってきたリチウムグリス

ここからカードリーダ部のオーバーホール方法を説明します。

まずカードリーダのスタッドを止めているナットを外して、まず最上部を外します。そして次に2段目を外します。ここで、ピンスイッチのオス部の頭部分が出てきます。

ナットを回して最上部のスタッドを外したところ

2段目をはずしたところ(スイッチピンの頭部分がでてくる)

すべてのピンを抜き取ります。そして一本一本リチウムグリスをつけて、ウェスでこすりつけて万遍なくクリーニングと同時にグリスを表面塗布します。あとはペーストが残らないようにきちんとふき取ります。前後を写真で示しますが、結構黒くなったピンがピカピカになります。186ピンもあるとその作業も大変です。肉体的にも疲れました。

ピンを抜いてリチウムグリスをつけてクリーニングする

きれいになったピンをちょっと横において、次にスタッドの原点調整をしました。

いろいろ試行錯誤の結果、実はスタッドのあがった位置(ピンスイッチを開放状態にしている位置、ノブを押した時の状態)が、正常な位置より低くなっていることがわかりました。

多分、前のオーナがこの辺をいじったんでしょう。開放状態でカードを挿入しようとしたときにピンの頭が若干、上に出っぱっていて、それにカードが引っかかって挿入がうまくいかない状態になっていました。それで前オーナはピンの頭を少し押して、カード挿入時にぶつからないようにしたんだと思います。そのせいで、ピンが開放状態にもかかわらず、メス側と接(スイッチはON状態となる)して、先ほどのショートを起こしていたことが、ばらしてみて初めてわかりました。

まず、スタッドの正しい高さ位置を、写真に示します。最下段のスタッドのみで、ピンスイッチ開放状態にしておきます。ピンの針側(オス)を下のスタッド側に試しに刺してみます。軽く頭をおしながら刺していくと、最初に「かくっとロックされるところ」があります。その位置が開放状態の原点です。その状態で針のハット部(帽子のつばのような部分)が下のスタッドすれすれの位置になるように4箇所のナットで調整します。

四隅で高さ合わせをする

この調整はスタッドの四隅で行ないます。きちんと4つのナットの高さ位置がバランスされていないと、その上のスタッドががたつきます。このがたつきが無いようにナットを調整します。

これを何回か繰り返して開放状態の位置で、すべてのピンのハットがスタッドすれすれになるように根気良く調整します。この作業も結構疲れました。

スタッドの水平出しができたら、試しに刺したピンをいったん外します。そして2段目のスタッドを3段目のスタッドの上にはめます。最下段のスタッドと隙間が無いようにきちんとあわせます。そしてグリスアップしたピンを2段目のスタッドに空けられたピンマトリックスの穴に差し込んでいきます。その際、指先でピンの頭を軽く押して、ピンが軽くロックされる位置で止めます。もし押し過ぎたら、そのピンを抜いてもう一度やり直します。これを繰り返して、全てのピンを刺し込みます。全部刺し終わったら、最上段のスタッドをゆっくりはめます。その際も下段との隙間が無いようにきちんとはめ込みます。そして最後に、4箇所のナットを取り付けて、少しづつバランスよくしめていきます。このときの注意点は、一時に一箇所を締め付けてしまわないことです。スイッチピンのハット部がスタッドの隙間に挟まることがあります。そうならないように少しづつ4箇所を締めていくのがコツです。私もやってはうまくいかず、何回もやり直した結果わかったことです。

高さ合わせが完了して、2段目のスタッドをセットしたところ

ピンを指で軽く押して孔にさしているところ

ほぼピンを挿入し終わるところ

全てのピンを挿入して、最上段のスタッドを取り付けたところ

以上のような方法で、カードリーダ部のオーバーホールをしました。上下駆動をしているシリンダ部などのメカ部はCRC556でスプレーシ、古いオイルや汚れをウェスでふき取ります、その後リチウムグリスを塗布しました。その結果、カードリーダの動作は元気良く“ガツン”といってうまく動作するようになりました。


追記
当サイトをごらんになられた方より、メールをいただきました。KICKOK社もグリスアップは問題があるらしく、製品の再終期では取りやめたそうです。
 Tks. jd1aie

頂いたご指摘のように、グリスのべとつきが決して残らないようにきちんとふき取って装着しなおしました。

AN/USM118Bテスタに戻る