T.本テスタの詳細説明ならびに修理レポート


図1に、このテスタの簡単な構成を示します。

123Aの内部

@陽極電源部

250VAC5U4GBで全波整流し6DQ6GA6AU8による定電圧制御電源で50V,100,150Vを発生しています。電圧の切り替えはプログラムカードで行います。

A固定バイアス電源部

200VAC6X4で全波整流し、0A2(VR150MT)で安定化し、その後ブリーダ抵抗で目的の電圧を作成します。このブリーダ抵抗値はプログラムカードで選択します。

Bヒータ(フィラメント)電源部

0V0.9V 0.1Vステップ、0V9V 1Vステップ、0V110V 10Vステップの3巻線をもったトランスで0V119.9Vまで0.1Vステップで任意に設定できるようになっています。

各電圧タップの選択はプログラムカードで行います。

CGm用入力信号部

豆球を用いた、安定化AC信号源。1次電圧の変動影響を受けないように豆球をブリッジ接続した回路になっています。信号電圧は半固定抵抗で0.22Vrmsに調整できるようになっています。

DGm測定ブリッジ部

ダイオードを用いたブリッジ回路。Gm測定時には、陽極側に挿入されるようになり、被測定管で増幅された信号を検出します。

Eカードリーダ部

11列×17行のマトリックス状に設置されたピンスイッチ群。プログラムカードの穴部(ホール)では、ピンが穴を抜けるためOFFとなります。一方穴が無い(ノンホール)場合はピンが押さえられてONとなります。

このピンのマトリックスは、プログラムカードが挿入されるとマイクロスイッチがONになりその結果ソネロイドが働き、ガツンとピンスイッチを有効にします。図2参照。

F測定用真空管ソケット部

一般的な真空管のソケットがついています。UX,UY,UZ,UT,US,ロクタル、7ピンMT9ピンMT、サブミニチュアなどです。CPTや大型のマグノーバル管には対応しませんが、外付けのアダプタを作れば可能です。

G操作・表示部

大型のメータでGm(%表示),Ib(%表示)のほかにヒータ・カソードリーク(%表示)、ガステスト(%表示)を読み取ります。また電極間ショートは、ネオン管による表示で5個のネオン管で判定します。フルスケール時のリーク電流値や、Gm値、Ib値はプログラムカードで設定します(メータのシャント抵抗を選定しています)。

以上この真空管テスタの機能を説明しましたが、この真空管テスタでは、一般によく知られているTV-7のような真空管テスタに比べて、プログラムカードさえあれば精密な測定ができます。

ここからは、購入したテスタの修理リポートです。いつものように、最初に関係資料をWebで探しました。インターネットがあたりまえになった昨今、実に便利になったものです。大体のものはWebから見つけ出せます。案の定、123Aに関しての有益なWebも見つけることができました。操作説明書やサービスマニュアルだけでなく、プログラムカードのコピーまで掲載されています。すべてダウンロードして必要なものはハードコピーしました。

まず、操作説明書を見ながら、ついてきたカードの中から手持ちの適当な真空管を選んで測定してみました。たまたま身近に転がっていた6K6を使いました。電源をONにして、カードを挿入します。このとき、カードをカードリーダの奥まで挿入するとソレノイドが働きガツンという音を立て、11列×17行に配列されたピンスイッチがカードのノンホール、ホールに対応してON,OFFします。先ほどの図2を参照してください。結構大きな音がするので、最初は驚きました(隣で昼寝していたランディがびっくりして起きあがり、吠え出しました)。

それから、測定したい真空管をソケットに挿入します。

しばらく真空管のヒータが温まるのを待つこと約1分。Gm測定用のプッシュスイッチ2を押します。しかしメータは触れません。どこかが壊れているようです。さあこれからが修理本番です。

ダウンロードした資料をもとに、故障個所の同定です。

最初は、使われている真空管を手持ちの別の真空管テスタ(KS-15750)で測定しました。一応問題なしです。次に真空管をもとに戻し、電源系統から調べました。購入した時に前のオーナさんから「電源電圧が正常にでない」と伺っておりましたので、回路図をもとに不良個所の見当をつけます。陽極電圧を50,100,150Vにそれぞれ設定するTESTCARDがあります。これを逐次挿入して電圧を測定しても、正常値を示しません。電圧調整用の半固定抵抗をまわしても、値が大きく変化しません。

TESTCARD2,3,4でDC50V,100V,150Vを調整するときはPin3,6間のDCVを測定します

TESTCARD4を挿入              TESTCARD4で出力電圧を測定(正常値は150V)

調整用VRパネル

再度、回路図とにらめっこです。さらに勘を働かせ、電圧制御部のコンデンサのリーク、あるいは抵抗の劣化を疑って、不良個所を突き止めました。古くなって値が大きく変化した抵抗、絶縁リークしたオイルコンを交換しました。再度TESTCARDを挿入して、それぞれの電圧(50,100,150V)用の半固定抵抗を調整して目的の電圧に設定できました。

黄色いフィルムコンと青色の抵抗が交換したところ

電源が治ったところで再度、先ほどの手持ちの6K6を測定しました。やっぱりメータは全く触れません。今度はダウンロードしたサービスマニュアルをもう一度読み直しました。

Gm測定用に0.22Vrmsの信号源がありますが、それの調整方法が記載されていました。早速調べてみました。サービスマニュアルに従いコントロールグリッドとカソード間にAC電圧計をあてて0.22Vrmsが出ているか測定しました。その結果、多少の誤差はあるものの、ほぼ0.22Vrmsが出ていました(きっちり合わせるのは、調整用の半固定抵抗をいじるのですが、今はそのままにしておきます)。入力信号は正しく加えられているので、この次に疑うのはGm検出部(陽極側)です。Gm測定用にダイオードと抵抗をブリッジ接続したGmブリッジなるものがあります。それが正しく動作しているか調べてみました。ダイオードの導通をテスタで調べてみるとダイオードの不良であることがわかりました。ずいぶん古いSiダイオードですので、おそらく経時劣化したんでしょう。手持ちのSiダイドードと交換しました。計測のためのブリッジに使うダイオードなので手持ちの中から特性のそろったものを選びました。交換して、再度先ほどの6CL6を測定しました。その結果一応、メータの針は動きました。後はサービスマニュアルにしたがって各部の調整を行いました。

新しいSiダイオードに交換                    交換したパーツ

電源電圧、バイアス電圧、Gm測定用信号とバランス調整、Gm測定ブリッジのバランス調整、過電流遮断機能の調整などを行いました。

TESTCARDを挿入してメータがセンターを支持するように半固定抵抗を調整する

Gm信号振幅を調整するときは"6L6"のカードを挿入してPin5,8間のACVを測定します

Gm測定用入力信号振幅を調整

以上で動作良好になりました。ついでに以前e-bayで落札しておいた123Rの修理も試みました。詳細は省略しますが、こちらの真空管テスタの故障原因は定電圧電源部に使われている6AU8の劣化でした。早速新品と交換し、123Aと同様サービスマニュアルにしたがって調整を行いました。

これら2台のCARDMATIC TUBE TESTRで手持ちのいくつかの真空管を測定して、その測定値の機差を調べてみました。Gm測定では、これら2台の機差は1%以内でした。Gm信号源もきちんと0.22Vrmsに設定しているので再現性よく測定できております。あとメータの電流シャント抵抗の計時ばらつきも無いようです。改めて精密な測定ができるテスタであることを実感しました。

123Aで6K6を測定                         123Rで6K6を測定

いくつか手持ちの真空管を測定してみましたが、TV-7などと比べるとはるかにメーカのデータシートに近い値で測定できています。実動作での測定ですから、当然といえば当然でしょう。これならばメーカのデータシートを基にプログラムカードを準備すれば、どんな真空管でも測定できることを確信しました。HICKOK社の説明書を見ると、当時は、穴のあいていないブランクカードとパンチ(その昔、駅の改札で駅員さんがはさみのようなもの切符を切っていた時代がありました。そのはさみのようなパンチです)がセットで販売されていたようです。


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