このアンプは、前述の6CA7シングルアンプと一緒に使うプリアンプとして製作しました。このアンプも子供たちがお世話になっています美術教室の先生とそのご主人からの依頼で、「先日のパワーアンプで、LPレコードを聞きたい」という要望にお応えするために製作したプリアンプ(イコライザー部のみ)です。また、LPをMDに録音して、且つ再生が出来るようにとの希望もありました。使用されているカートリッジがMMタイプなので、一般的なイコライザーアンプ(EQアンプ)です。
さて、回路構成ですが、今回は、マランツタイプのEQアンプとしました。
いろんな方式がありますが、個人的にマランツタイプが気にいっているので迷わず決めました。以前にも製作したことがあったので、回路は昔の回路をそのまま流用しました。 回路図はこちら
MDのREC OUTとPLAY端子を付け加えてあります
今回は、プリント基板式としました。EQアンプでは微小信号を扱うため、S/N(シグナル・ノイズ比)向上に気を配る必要があります。設置の環境にもよりますが、電源ハム以外にもハウリングやマイクロフォニックノイズに対しての対策が必要です。オリジナルのマランツ#7では、真空管をゴム(インシュレータ)で浮かして振動防止を行なっていたりします。そこで今回は、プリント基板ごと、ゴムで浮かして対策が取れるようにしました。
そのため、今回新たに、プリント基板のアートワークから作成しました。私はプリント基板のアートワークは、Windosに付属のペイント(お絵かきソフト)を使って作成しております。回路図をもとにアートワークを作るのも楽しい作業です。仕様部品が比較的大きいので片面基板でもジャンパ配線なしで仕上がりました。電源回路も併せて基板化しました。 イコライザーアンプ基板、電源部基板のパータン図はこちら。
ここでいつものように、秋葉原へ部品の買出しです。アートワークで作成した基板サイズをもとにケースの選定からそれぞれのパーツまですべてを求めてきました。ケースは前回製作したパワーアンプにマッチする色や、形を探しました。電源トランスを内蔵するためにも多少大き目を選びました。パワートランスは、ノグチトランスのプリアンプ用トランスPMC-35Eを選びました。このトランスは、漏れ磁束を軽減するためのショートリング、磁気シールドなどの対策が施されています。値段も手ごろで文句なしです。CR類もラジオデパート2Fの海神無線で求めました。ここはオーディオ用の抵抗、コンデンサ類が多数そろえられており、重宝なお店です。真空管はロシア製ですが、ローノイズタイプのセレクト品を求めました。
プリント基板は、マルカ(ラジオデパート1F)でガラスエポキシの生基板を購入しました。それにスプレータイプのレジストを併せて購入しました。レジスト塗布から行なうのが面倒な場合はサンハヤトのレジスト付の感光基板でもOKでしょう。私はいつも自分でレジスト塗布から行なっています。現像材はサンハヤトの物が利用できます。
下表に購入した部品の概算を示します。3万円弱で部品類は集めることが出来ました。
他にプリント基板製作に必要なエッチング液や、フラックスなどは手持ちがありましたので、購入していません。
品名 価格 備考 真空管12AX7 3900 ローノイズ品3本 ケース 6500 電源トランス 3000 PMC-35E スイッチ類 800 端子類 1400 RCA ソケット(MT9、AC) 1400 MT9はプリント基板用 半導体 700 Si整流器、12Vレギュレータ ガラスエポキシ基板 1200 レジスト、現像液 1800 C,R類、配線材他 7000 合計 27700
さあ、これから製作です。まずはプリント基板の作成からです。
ペイントで作成したパターンを、インクジェットプリンタ用OHPシートに原寸で印刷します。サンハヤトから専用のフィルムシートが売られていますが、OAショップで売られているもので十分です。こちらの方が値段も安く出来ます。
OHPシートにパターンを印刷したところ
マスクが印刷し終わったら、十分乾燥させます。半日ぐらい自然乾燥させます。乾燥がいいかげんですと、インクが基板にくっついたりします。。
これと平行して、生基板にレジストを塗布して感光基板を作成します。この作業は紫外線のないところで作業する必要があるので私は、夜、家族の者が寝静まってから行なっています。
生基板を、目的の大きさに切断します。カッターナイフで両面に傷をつけて疲労切断します。のこぎりで切るよりも綺麗に出来ます。ただ、ガラスエポキシ基板は硬いので、何回も傷をなずっておかないとうまく割れません。
次に銅箔面の洗浄です。私は、まず金属磨き(脱脂綿にピカールを染み込ませたもの)で
ピカピカになるまで磨きます。その後、クレンザーで再度磨き洗いをします。そして水洗いを行い、ウエスで水分をふき取ります。そしてドライヤーで熱風乾燥(5分くらい)します。乾燥がいい加減だとレジストの接着性が悪くなります。
基板を磨いたところ
次にレジストを塗布します。部屋の明かりを消して豆電球だけにして行ないます。塗布は、基板を古新聞などの上に水平において、30cmくらいの距離からまんべんなくスプレーします。言葉で表現が難しいのですが、一面に塗布できるようにすばやくスキャンしながら行ないます。塗布した直後は、銅箔面にまだらな模様が出来ますが、しばらくすると自然に均一になります。そのまま15分くらい自然乾燥します。この時ごみがレジスト塗布面に付着しないように注意が必要です。引出しの中で乾燥させたりするのも有効です。
一度も掃除をしたことの無い机の引出しでは疑問です。埃の溜まり場はNG。
自然乾燥の後は、ヘヤードライヤーで熱風乾燥します。10分くらい行ないます。レジストに含まれる有機溶剤の臭いがしなくなるまで乾燥させます。乾燥し終わったら、暗所で保管しておきます。私の場合は、お菓子の缶にいれて保管しています。
スプレー式レジストを塗布する前
次は感光です。感光に使用する光源は、ケミカルランプを3本並べた作った自作の露光器を使っています。
ケミカルランプは大きな電気店で、補虫用ランプとして売られているものです。15Wの物で一本800くらいで購入できます。
レジストを塗布した基板に、マスク(OHPフィルムシートにパターンを印刷したもの)を重ねて、ガラス板で押さえます。私はサンハヤトのPKクランプを使用しています。
重ねかたは、マスクのインク面が銅箔面と接触するようにします。
そして光源からの距離が3cmから5cmくらいのところで5分感光します。昔の日光写真を思い出しますね。
ケミカルランプおよび、マスクと基板をクランプしたところ
感光しているところ
感光が終わったら、現像です。現像液は、サンハヤトの現像材を200ccの水に溶かしたものを用意しておきます。この現像液は何回か使用できるのでポリ容器にいれて残しています。現像の温度は約30℃です。これくらいの温度がうまくいきます。ポリのバットを2重にして湯せんで30℃を作ります。先ほどの感光した基板を銅箔面を上にして現像液に浸します。そして常に揺さぶりながら約2分現像します。徐々にパターンが浮かんできます。ある程度パターンがくっきりとなったら、水洗いをして定着します。約5分くらい流水洗浄します。この段階から光にあててもOKです。ウェスで水滴を軽くふき取って、ドライヤーを弱にして5分間程度温風乾燥します。
乾燥後、パターンのまだらなところや、ショート断線している部分がないか点検します。断線や、パターンの薄くなっている部分はレジストペンまたはペイントペンで補強します。またレジスト残りの部分は、ナイフで削って除去します。
現像しているところ
現像後の基板
次はエッチングです。私はサンハヤトの噴流式エッチング槽を使っています。エッチング温度は約45℃で行ないます。基板を槽にいれて約15分くらいでエッチングか完了します。エッチング途中、パターンのきれを確認しながら、ジャストエッチ+1分くらいのオーバエッチを加えます。エッチング後、十分水洗いをします。そして水切り、乾燥をします。
エッチング槽、基板はチタンワイヤーをかけておく
エッチング直後のEQ基板
乾いたら、レジストをアルコールで除去します。アルコールは、薬局で購入できます。
レジストを除去したEQ基板
フラックスを塗布して乾燥させているところ
乾いたら、仕上げのフラックスを塗布します。そして半日くらい自然乾燥します。その後穴あけです。ミニドリルでパッド部に所望の穴を空けます。穴空けが完了したらバリ、削りくずを取り除き、完成です。ハトメを入出力部や電源端子に取り付けます。
完成したEQ基板と電源基板
ここまでくると、工程の約半分が済んだくらいでしょう。
いよいよ、基板に部品の取り付けです
部品の取り付けが完了したEQ基板
次に、ケース加工に入ります。端子やスイッチ類の穴あけが中心です。トランスとイコライザ基板の配置は、トランスの漏れ磁束の影響を極力避けるべくもっとも離れた配置とします。穴があいたら、部品の取り付けです。前後のパネル、ケースボディ部へそれぞれの部品を取り付けます。プリント基板は、スペーサーで浮かす際に、ゴムブッシングをはさんでインシュレータ代わりにします。振動からくるハウリング対策です。
次に配線です。配線が終わったら、配線ミスがないかチェックします。
EQ基板をゴムで浮かしている
完成したEQアンプの内部
完成したEQアンプのリアパネル
チェックがOKなら、通電テストです。真空管は抜いた状態で電源の各部電圧チェックをします。
+B電圧、ヒーター電圧をチェックします。OKならいったん電源をOFFして、真空管12AX7を挿します。再度ON,しばらくして各部の電圧チェックをします。回路図に記載の電圧が出ていればOKです。
全てOKなら、パワーアンプにつないでみます。ハムの程度、ノイズはでていないか確認します。
完成したEQアンプのフロントビュー
本イコライザアンプの特性を測定した結果を示します。特性図はこちら。
1KHzでの出力クリッピング電圧も約30Vあります。十分すぎるほどのダイナミックレンジがあります。残留雑音はL-R共、0.9mVと申し分ない値です。
完成したアンプを早速、ご依頼主のお宅へ持ち込んで、ヒアリングテストを行ないました。
先日の6CA7シングルパワーアンプに接続し、LPでテストしました。クラシック、シャンソン等いくつかを演奏してみました。落ち着いた気品のある音質で、お茶の飲みながらのBGMにはぴったりでした。。