電子工作のコーナー


真空管テスタ用ソリッドステート83の製作 Feb.06.2006

以前から気になっていたんですが、HICKOK社の真空管テスタに使われている水銀整流管をSiなどで固体化したソリッドステート83(以下SS83と称します)なるものが売られております。E-bayYahooオークションでも見かけることができます。特に83をSi整流器に置き換えることのメリットはAlan Douglas 'Tube Testers and Classic Electronic Test Gear'でも謳われております。83そのもののフィラメント電力(5VAで約15W)がセーブでき、その結果トランスの負荷が軽減されヒューズランプ切れなどのトラブルも少なくなることや、真空管の発熱量も無くなり他の部品への影響を少なくできるなどです。


最もポピュラーな真空管テスタ TV−7シリーズ

その他、83は結構人気があり、現在中国やロシアで製造されていないためにその価格が高騰しています。Si化することで半永久的に使用でき、スペアの心配をしなくてよいのも理由のひとつです。しかし同著にも記載されていますが、Si化することで、被測定管のプレート電圧が上昇し、測定値そのものの確度が変わってしまいます。ここでは、できるだけ忠実に83と置換えできるSS83を紹介します。また手持ちのTV-7D/U真空管テスタで水銀整流管83と自作したSS83とを比較評価した結果について報告します。

まず、水銀整流管83は他の整流管にくらべ、整流時のドロップ電圧が小さくなっています。規格表で見る限り約15V程度です。一般的な整流管に比べるとかなり小さい値ですが、Si整流器と比べると1桁大きい値です。したがって単純にSi整流器に置き換えた場合は、被測定管のプレート電圧が約15V程度高くなってしまいます。TV-7の場合、このプレート電圧は約150Vです。したがって単純にSiに置き換えたら、165Vに上昇してしまい、約10%の増加となります。プレート電圧が10%も増加したら、プレート電流もそれに伴い増加し、Gm値にも影響を与えます。こうなればメータが示す値そのものの確度に影響が出てきます。
そこで、この整流時のドロップ電圧を、確保することが必要になります。しかし被測定管のプレート電流の大小に影響を受けないようにするためには、シリースに抵抗を挿入するだけでは達成できません。これを解決する手段として、定電圧ダイオードをシリーズに挿入しドロップ電圧15Vを確保する方法が一般的です。また水銀整流管83のドロップ電圧も負荷電流に全く依存しないわけでもありません。規格表で見る限り、約5〜10Ωの抵抗に相当する電圧降下分もあります。
これらを考慮して、に示す回路のSS83を作ってみました。

ここで使った部品ですが、Si整流器は一般的な1000V1A程度のどこでも入手できるものです。抵抗も1W型のものです。特殊なのは1S265のツェナーダイオードです。これは7.5V10Wと損失の大きなものです。これを2個直列にして15Vを得ています。たまたま手持ちにあったので使いましたが、被測定管のプレート電流として200mA程度は見ておく必要があります。つまり15V×0.2A=3Wの損失を持ったツェナーダイオードが必要です。余裕を見て15V5W程度は必要でしょう。損失がぎりぎりだと、電流に余裕が取れないので、いったん過負荷になったら一発でダイオードを壊してしまいます。ある程度余裕をもったものが必要です。小さいWのツェナーダイオードとトランジスタを組み合わせて、等価的に大きな損失のツェナーダイオードを実現する方法もありますが、手持ちがあったので簡単に済ませました。

できあがったSS83を写真に示します。UXのベースは、真空管ショップで購入したものです。部品の中でこれがもっとも高かったです。不良の真空管のベースを活用するのがもっとも安上がりでしょう。

製作したソリッドステート83

早速出来上がったので、常用のTV-7D/Uで評価しました。評価は、TV-7D/Uをサービスマニュアルにしたがって調整した時の83を基準として、予備の83、今回製作したSS83でツェナーダイオードをバイパスした場合とバイパスしない場合の4条件で行ないました。また被測定サンプルとして、手持ちの3極管、5極管を選びました。Gm値や、Ibの大小を考慮してそれぞれ4サンプルの合計8サンプルとしました。なお、TV−7D/Uでは整流管はAC35V印加時のエミッション電流を測定する方式なので(83整流管は使われていない方式)サンプルから外しました。

TV−7に差し替えて評価



水銀整流管83で6J5を測定しているところ

ソリッドステート83で6J5を測定しているところ

評価結果を下表に示します。
区分 サンプル真空管    真空管83  ソリッドステート
基準(調整済83)   別の83   Si+Zenor   Siのみ   
3極管 6SF5 44 44 44 46
6J5 92 91 92 99
6AH4 62 61 61 76
6B4G 83 83 82 90
5極管 6SK7 78 78 78 79
6K6 89 87 88 89
6L6 59 58 58 60
6CD6 76 74 76 83
SS83(ツェナーダイオードあり)とSS83(ツェナーダイオードなし)と比べると、特に3極管サンプルの場合、プレート電流の大きいまたは、Gm値の大きい真空管ほどメータ指示値の差が大きくなりました。6AH4や6B4Gでは、約10%大きな値を示しています。5極管の場合は、3極管ほどの差はありませんが、SS83(ツェナーダイオードなし)の方が大きくなり同様な傾向を示しました。今回の評価の本題である、基準の調整済みの水銀整流管83とSS83(ツェナーダイオードあり)との比較では、ほとんど計測誤差と思われる範囲で一致しました。手持ちの別の83を差し替えて使った結果も併記していますが、SS83(ツェナーダイオードあり)の差は、この程度の差であれば83個体の差と同程度またはそれ以下であると考えられます。以上の結果から、今回製作した、SS83は水銀整流管83と差し替えても、問題なく使えると確信しました。さらに精密さを要求するなら、SS83を搭載して、サービスマニュアルにしたがってTV-7を調整すれば確実です。
以上、TV-7愛好の皆さんの参考にされば幸いです。

ソリッドステート83の製作についてのご質問やTV−7の調整方法についてお問い合わせを頂きました。TV−7にSS83を搭載して再調整をしました。その手順を下記に示します。TV−7の調整の参考にしてください。水銀整流管83を使っている場合も、同じですのでご参考ください

TV−7D/Uの調整方法

Mar.04.2006Update

注)ここで報告した内容はe-bayyahooオークションで販売されているソリッドステート83を評価した結果ではありません。また販売されているソリッドステート83が今回試作した回路のようにツェナーダイオードのような素子を使ってドロップ電圧を補正しているかどうかも分りませんので、この記事を参考にして、購入されても、その動作を当方が保証するものではありません。ご注意ください。購入されるときに売主に確認されることをお勧めします。


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