ウィンドウで寝そべっていた猫

寺町通りは、
谷崎潤一郎の『鍵』を読んでから、歩くようになりました。
主人公の郁子が、寺町通りにある紙屋さんで買い物をし、
自分用の日記帳を和綴じで作る、という箇所に気を引かれたことが
きっかけだったでしょうか。

おそらくその紙屋さんは「紙司 柿本」さんだと思うのですが、
(文中には店名は明記されていないのです)
近くにはお茶の老舗「一保堂」さんや、
昔ながらの佇まいがそのままの洋菓子の「村上開新堂菓舗」さんや、
梶井基次郎が『檸檬』で書いた、
丸善の美術書コーナーに仕掛ける「レモン爆弾」を買った
果物屋さん「八百卯」さんがあったり、
最近では、フレンチバールの「パスティス」さんも軒を並べられて、
古道具屋さんや、三月書房さんに立ち寄ったりと、
ぶらぶらするのに楽しい通りなのです。

先日寺町通りに寄った時、
化粧品店のウインドウで長々と寝そべっている猫を発見しました。
猫がそれだけくつろげるウインドウなのですから、
そののどかさのほどが、いかほどのものか
ご想像には難くないでしょう。ネ!

御池から上がったあたりの寺町通りは、
老舗が軒を並べていても、この寝そべり猫のように、のどかなのどかな通りです。
おそらく谷崎が『鍵』を書いたころからと
町並もさほど変化していないのでしょう。
それでも世代がかわり、こののどかな化粧品屋さんもビルに立て替えられたりする時も
やがてはやってくるのでしょうか。
まあ、その時はその時のこと。
私の記憶のなかには、寝そべり猫がいたのどかな通りの気配が、
残されたのですから。

24.may.1999
(フレンンチバール「パスティス」さんは経営者が変わられたようです。2/juin/2000)


●ろおじをぬけて……へ 

●次へ ●Homeへ