らいぶらりぃ
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大阪第一合唱団創立40周年記念演奏会

●日 時2003年7月20日(日)17時開演
●会 場シンフォニーホール
●出 演阪哲朗指揮関西フィルハーモニー管弦楽団&大阪第一合唱団
ソプラノ:老田裕子
バリトン:河野知久
オルガン:追中宏美
●曲 目ブラームス/ドイツ・レクイエム

 阪さんの指揮で「ドイツ・レクイエム」を聴けると聞いて、これは、と思い、聴いてきました。久しぶりに阪さんの指揮姿を拝見できて、いやぁ、よかったです。

 阪さんの指揮、久しぶりに見たせいか、とっても流暢で滑らかな指揮なんだなということを改めて実感しました。特に今日は、指揮者の姿を後ろからではなくて、斜め前から見ることのできるような席だったので、余計にです。全く無駄な動きがなくて、音楽の流れのままに極めて自然に流れる指揮、そこから繰り出される指示も実に細かく、かつ的確なものばかりで、非常に理性的でありながら、その中にブラームスの思いというものを最大限に表現していこうという、はっきりとした意思が組み取れます。思わずため息が出てしまうほどの素敵な指揮には、ほんと、改めて惚れてしまいます。

 1楽章は静かに始まっていきます。オルガンの低音がごぉっと鳴っているのが、また印象的です。今日の席からはオルガン奏者の姿もよく見えたのですが、この曲、オルガンもとっても活躍しているんですね。主には足ペダルを使っての演奏が多いような感じですが、間近に見てみて、こんなふうに演奏してるんだぁ、と何か感心してしまいます。ついつい、オルガンの方ばかり見てしまいます。(別に、オルガンのお姉さんが綺麗だったから、ということではないのですが… ちなみに、追中さんは、神戸の元町ミュージック・ウィークにも出演されるのだとか。今年も機会があったら行ってみよう。)そして、合唱。出だしはまぁ、いい感じです。「Selig」と静かに入ってくるこの楽章の静けさをよく現しているようです。けど、やはりブラームスですね。息の長いフレーズが続き、しっかりした支えが要求されます。まだ、最初ですから、しっかりと持続してはいましたけど、後半、疲れそうですね…

 そして、2楽章。葬送行進曲ですね。ここで印象的なのは、途中、ティンパニが連打してクレッシェンドしてきて、強音になる部分。じわじわっと非常に息の長いクレッシェンドを、阪さんはかけているのです。それに合せて、オルガンもごぉっと響いてきて、そして、オルガンの両手の鍵盤も加わって、1つのクライマックスへ、非常にドラマティックになっていたと思います。欲を言えば、合唱ももっとメリハリをつけてほしかたかなと。強音になるからというて、ただ力で押し出せばいいというものでもありますまい。死者を送る側の悲しみの極みとでもいうべき部分でしょう。だったら、ただ叫べばいいというものではないはず。ちょっと思慮の欲しかった部分です。そして、後半はフーガ風のコーダが始まります。ここ、気持ちは分かるんですけど、やっぱり走ってしまいがちになるんですよね。それに音がややばらけているような部分も見えます。特にテナーが単独で高音域に出てくる部分が目立ちますね。もうちょっと支えをもって音を集めてくれれば、と思います。それでも、そこは阪さん、しっかりと聴いてはるようで、合唱が走らないよう、また支えを失わないよう、そういう指示を左手で出してはるのです。これによって、それ以上に音楽の流れが損なわれないようになっているのですね。さすがは阪さんです。でも、何も合唱に限らずで、オケの方もどこか気が抜けてしまうような部分があるようで、たまに音がぶれたりするのですね。自分達の定期じゃないからって気を抜くな、と言いたくもなるのですが、例えば、この2楽章の最後の和音を伸ばす部分でも管楽器にやや音のぶれが見えたのです。もうちょっと丁寧に演奏してほしかったかも、です。

 3楽章はバリトン・ソロの入った、この曲全体の1つの核を成す楽章ですね。ここで入ってくるのが河野さんのバリトン。彼の声は始めて聴いたのですが、とっても素敵な響きをしていますね。いきなりのバリトン・ソロで始まるわけですが、これだけ聴いただけで、何かごっつい感動してしまいます。響きが凛としていて、すっとした芯があるように思うのです。バリトンもいろいろあるとは思うのですが、彼の声は、ただ単に響かせようと作られたものではなくて、中に芯がしっかりとあって、それを軸にして声がすぅっと飛んでいくような感じなのです。変に力が入ったりしてないから、とっても純粋な響きがするんです。これがすぅっとホール中に響き渡っていくのは、実に素敵です。久しぶりに、こんな芯のあるバリトンを聴いたという感じがします。これだけの力を持ってはるのって、私の好きな井原秀人さんに次ぐくらいのものじゃないかしらん、そんなふうにも思ってしまいます。いや、今後のご活躍が期待されてなりません。彼の声を聴けただけでも、今日の演奏会の収穫があったというものです。そして、後半のフーガ、やはり、そろそろ疲れが見えてきますね。走ろうとするのを阪さんが必死に食い止めようとしてはるのが、よく分かります。だけど、この辺の盛り上がりも、力で押すだけでなくて、河野さんのバリトンのようにもっと内容のある響きを作り出してほしかったと思うんです。音楽的には文句はないのですけど、やはり、聴く側の欲ということで、そう思ってしまいます。

 4楽章は愛らしい楽章ですね。合唱にとっては、気持ちよく歌える部分ではないでしょうか。(って、それでもかなりしんどいのかもしれませんが。)そして、その雰囲気を引き継いで5楽章。待ってました、ソプラノの老田さんの登場です。ここのソプラノの独唱って、どっちかというと、どこかシューマンのリートの雰囲気に似て、静々としながら神を讃える喜びを内に秘めるように歌うような部分だと思うのです。決して、オペラアリアのように朗々と歌うというものではないと思うのですね。で、老田さんのソロは、今までこういう大きな舞台では割と朗々と歌ってはるという印象があったのですが、それではなくて、歌曲を歌う時のようにしっかりと声を変えて、そういうこの曲の雰囲気に合った歌い方をしてはるのですね。つい、彼女のイメージからすると、ちょっと物足りないかなという感じもするのです。でも、この曲はやはりこうでないと。北欧ものの歌曲を歌ってはる時もそうでしたが、こういう歌い分けをしっかりとできるのが彼女の強みですね。むしろ控えめでありながら、それでもしっかりと声はすぅっと響き渡らせる、実に素敵でした。

 6楽章はもう1つの核と言うてもいい楽章。前半でもかなり盛り上がりますね。この部分、オルガンもごぉって鳴って、全体がとっても強音になっているし、音域も高いし、それにスタッカートもついているから、ついつい走りがちになってしまいそうですね。阪さんの左手がそれを制するように指示しているのが、何か印象的だったりします。この部分の盛り上がりからすぅっと後半のフーガへ、この辺、とってもドラマティックだと思うんです。合唱にとっても最後のふんばりどころですね。焦る気持ちを抑えながら、よく歌いこなせていたと思います。そして、最後の7楽章は再び静かに終わっていきます。ここに至るまでの多くのドラマを振り返るかのように、阪さんの指揮棒は静かに降りていき、じぃっとその余韻を味わってはります。こういう瞬間がとっても好きですね。この余韻によって、聴く側も曲全体の味わいを更に味わい直すことができるというものです。そして、拍手。

 いやぁ、実に素敵な演奏でした。合唱も細かな部分での問題はあるものの、概ね好演だったと言うていいでしょう。阪さんの指揮に、ソリスト陣も素晴らしく、最高級の演奏だったと思います。まだ明けない梅雨のうっとうしさを晴らすかのような素晴らしい演奏に、気分もすっとして帰途につくのでした。