準備書面四の一 1992年4月23日


被告準備書面(三)に対する反論

一 都市計画法六一条所定の「法令」に条例が含まれることについて

1 都市計画法(以下、単に「法」という)六一条は、法五九条に定める都市計画事業の認可、承認を求める手続が「法令」に違反してはならないことを定めているが、前回の原告準備書面で主張したように、、都市計画事業の認可、承認処分を争う際に、都市計画決定手続の違法性についてもこれを争いうる以上、法六一条の「法令」に条例が含まれるか否かということ自体はさして重要でないと思われる。しかし、解釈上十分に原告らの主張に合理性があり、かつ被告の議論が余りに強引になされており看過しがたいのであえて触れることとする。  

2 法六一条の「法令」に条例が含まれること

@ 法は、条文の表現上、「法律」、「政令」、「建設省令」という言葉と、「条例」(一六条二項、五八条、七七条三項、七八条八項、九七条)とを使い分けている。これに対して、法文上、「法令」という言葉を用いているのは、法六一条一項のみである。

 このような対比をみると、立法者は「法令」という言葉を「法律」、「政令」、「建設省令」、「条例」など法規全体を総称する意味において用いているとみるのが自然な文理解釈である。もし、「条例」を明示的に除外するのであれば、立法者は、法六一条一項においても、「法律、政令」と表現したであろう。   A とりわけ、法七七条三項において都市計画地方審議会の組織及び運営に関し、法が条例に委任していることは重要である。なぜなら、同審議会は、都市計画決定の際、知事に対して建議を行なうことができる(一八条、一九条)のであって、同審議会が条例に定められた組織運営に反していればその建議が違法無効になるのであるから、都市計画決定手続において法律上、条例を遵守すべきことが予定されている典型的な現れといえるからである。ここにおいて実質的にも法六一条にいう「法令」に条例が含まれていることが明らかに示されている。  

3 公害防止計画と環境影響評価条例との関係

 @ 被告は、「公害防止計画と環境影響評価条例(以下、「本条例」という)とは、基礎となる法体系を異にし、その性格も異なる法規範であって、これが目標と手段の関係にある」ということはできず、「都市計画事業が公害防止計画に適合したものであるか否かを環境影響評価条例の手続の履践によって決せられるというものでもない」とする。   

A いうまでもなく、条例は、法律の趣旨、目的、内容に反しない限りにおいて制定することのできる地方自治体の自主立法である。

 本条例は、「環境影響評価・・の手続に関し必要な事項を定めることにより、事業の実施に際し、公害の防止、自然環境・・等について適正な配慮がなされることを期し、もって都民の健康で快適な生活の確保に資することを目的」(本条例一条)としている。そして、公害対策基本法は、「国民の健康で文化的な生活を確保するうえにおいて公害の防止がきわめて重要であることに鑑み・・公害対策の総合的推進を図り、もって国民の健康を保護するとともに、生活環境を保全することを目的」(同法一条)としている。

 この両者の目的が実質的に共通していることは明白であり、公害防止という趣旨において同一の法体系に属することは多言を要せず、公害防止計画と本条例とが基礎となる法体系を異にするという批判は失当である。新潟空港事件における最高裁判決(平成元年二月一七日)も、法体系について「当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系」と述べているところである。

 その内容においても、公害対策基本法は、二条以下において環境基準の設定を政府に義務づけ、さらに一八条において、地方公共団体に対して公害防止のための施策の推進、さらには一九条、二〇条において特定地域に対して公害防止計画の策定を義務づけ(一九条)、さらにその達成に必要な措置を講じるよう要請している(二〇条)のである。

 環境に影響を及ぼすと考えられる事業について環境影響評価を行うという本条例の内容はまさに、地方公共団体における公害防止のための施策の一環であり、公害対策基本法一八、二〇条の趣旨を現実化したものである。

 実質的にも、公害防止計画は、環境基準の達成をその目標としており、本条例に基づく環境影響評価も環境基準の数値を予測評価の基準にしている。本件地下道路事業についての環境影響評価(以下、「アセス」という)も例外ではない。

 すなわち、公害防止計画もアセスも環境基準を共通の基準とすることにより、公害防止を実現せんとするものなのである。   

B 都市計画は、当該都市について公害防止計画が定められているとき

は、当該公害防止計画に適合したものでなければならない(法一三条一項)。

 当該都市計画が公害防止計画に適合するか否かについて、判断しようとする場合当該都市計画の環境に対する影響を予測評価することでしか判断しえないのは当然である。まさに、原告らが公害防止計画と本条例が目標と手段の関係にあると主張したのはこのような意味においてであり、より正確にいうならば、本条例に基づくアセスは、当該都市計画が公害防止計画に適合するか否かの判断の前提を与えるものなのである。 C このようなものとして本条例がある以上、当該都市計画事業の遂行に際し、本条例に違反してアセスが不存在の場合には、法六一条の「法令」に違反している、ないしは端的に都市計画決定手続に違反するといわなければならないのである。  

4 都市計画事業が事業地及び周辺地域のみに重大な影響を与える特質を有していることと法六一条との関係  @ 被告は、法六一条の「法令」に条例が含まれることになると、立法者の関知しないものによって認可の基 準が設定されることになり、それは法の予定するところではない、とする。   

A しかし、先に述べたように、法自体、都市計画決定手続において条例に委任している部分を含み、「法 令」という言葉の使い方が法規性を有するものの総称として用いられている以上、立法者は、少なくとも都市計画決定手続が条例により規定される場合があることを予想しているというべきである。

 これはまさに都市計画がその事業地及び周辺地域に特に重大な影響を与えることを考慮したものであり妥当な解釈である。   

B 実質的にも、都市計画の決定権者は、条例を遵守すべき都道府県知事であるのだから、当然都市計画の決定手続において条例に違反してはならないのである。  

5 法六一条一号の事業内容の都市計画適合性判断(実質要件)について

@ 被告は、建設大臣が都市計画事業の認可ないし承認処分をなす際に、判断しなければならない事業内容の都市計画適合性については何ら反論を加えていない。   

A 原告準備書面二で論じたように、都市計画が公害防止計画に反してはならない以上(法一三条)、建設大臣は認可、承認の際に当該都市計画事業が公害防止計画に反していないかを実質的に判断する必要があるのであり、その判断の前提としてアセスの存在は不可欠である。

 しかるに、それが不存在ないしは後述するように誤謬・偽瞞にみちたアセスしか存在しない本件両事業においては、都市計画適合性判断の前提を欠くにもかかわらず認可、承認処分をなしたものとして違法である。 B このように、建設大臣の認可・承認処分の際に実質的な判断が必要であることについては、昭和六〇年六月六日建設省都計発第三四号通達「都市計画における環境影響評価の実施について」二(一〇)の中で、「法第五九条に規定する都市計画事業の認可又は承認(かっこ内略)に際し、当該事業の内容が都市計画に適合するものであるか否かを審査するに当たっては、評価書(環境影響評価書のこと)に配慮するとともに、・により環境庁長官の意見が述べられた場合には、法の規定に反しない限りにおいて、その意見に配慮するものとする。」とあり、被告自らが認めているところである。

 なお、本件事業が公害防止計画に反するものであることについては、第二において詳細に論じる。

 以上、検討してきたように被告の主張は、本件各事業の決定手続における条例違反という瑕疵を隠ぺいしようとするものであり、失当である。

 

二 本件拡幅事業に環境影響評価条例の適用があること

1 被告は、本条例付則三項にいう「都市計画の決定がなされた対象事業」とは、昭和二五年(一九五〇年)三月二日に都市計画の変更が決定された「東京都市計画幹線街路環状六号線建設計画」の内容となっているところの環状六号線全体の整備(以下、「環六整備事業」という)であり、本件認可処分の対象となっている本件拡幅事業ではないと主張する。その理由としては、本条例施行の際、すでに旧都市計画法によって都市計画決定がなされている場合には、事後になって本条例を遡及させて新たな手続規制を課することにすると、都市計画決定によって確立した法的秩序を崩すことになるため、これを防止するために付則三項が設けられており、本件拡幅事業を「都市計画の決定がなされた対象事業」だとすると、この趣旨が全うできないという点を挙げている。  

2 付則三項の「都市計画の決定がなされた対象事業」を被告主張のように、旧都市計画法下で決定された都市計画の内容全体とすると根本的に本条例が「対象事業」(二条三項)として予定している事業とは大きくかけ離れたものになってしまうことになる。

 本件拡幅事業が本条例のいうところの対象事業に該当するのは、本条例二条三項、同条例施行規則三条の定める別表一の「一道路の新設または改築、(四)その他の道路の改築」の下欄に定める「四車線以上(改築の結果四車線以上になるものを含む)で、かつ、改築する区間の長さが一キロメートル以上のもの」に該当するからであった。

 この要件に見るように、本条例がアセスの対象事業とするための要件は、かなり小規模の事業でも周辺環境の保全の見地から対象事業とする趣旨であることが明らかである。

 さらに、被告のように「都市計画の決定がなされた対象事業」を旧法下で決定された都市計画全体であるとすると、その事業は、通常個別独立して、数次にわたって長期間かけて行われるものである以上、ある都市計画道路のごく一部のみに着手され、それ以降数一〇年間放置され(本件拡幅事業のように)、その間の社会状況の変化できわめて当該地域の環境が悪化している場合でも、数一〇年ぶりにアセス抜きで事業を行なったとしても法的には何の問題もないことになり、きわめて不当な結果となる。

 数一〇年間放置して形骸化した法的秩序なるものと、そのことによって失なわれる周辺住民の数一〇年間培ってきた利益と、どちらを重視すべきかは余りに明らかである。

 本件拡幅事業のように、計画決定後、四〇年間以上放置されている状態は、すでに道路拡幅がないという事実的関係が定着し、これが法的関係にまで高められたものとして地域に成立しており、被告の言うところの、「都市計画決定によって確立した法的秩序」等架空のものにすぎず、何等本条例の適用除外になる根拠となるものではない。

 以上からしても、付則三項の「対象事業」を都市計画の内容全体とする被告の解釈はとりえない。  

3 また、前述したように、本条例を適用すべき「対象事業」の規模がそれほど大きいものを予定していない以上、付則三項により、適用対象除外となるものは、まさに、本条例が施行された昭和五六年当時の時点で具体的に法五九条の事業認可がなされ、工事に着手しているもののみであり、それ以外で事業認可を受ける予定の条例上の「対象事業」で着手のないものはすべて届出の対象とすべきものである。届出をしても、アセスを行なうか否かは、都知事との協議によるのであるから、即、法的秩序が破壊されるということはありえない。かかる解釈が本条例の趣旨に合致する合理的な解釈である。  

4 このような解釈は、旧法下における都市計画と新法下における都市計画の政策上の位置づけの違いからも導きだし得る。

 すなわち、新法下では、内閣総理大臣が策定する首都圏整備計画(首都圏整備法昭和三一年法律八三号)の中で大枠の道路網の整備が図られ、都市計画はこの計画に沿った形で都道府県知事が決定する仕組になっている。

 本件についても、遅くとも一九八六年の同整備計画の中には、中央環状線の建設が予定されている。そして、この中央環状線計画の一部として、一九九〇年八月一三日に本件地下道路事業である中央環状新宿線の都市計画決定が都知事によってなされたのである。

 なお、同整備計画には、本件拡幅事業は整備対象に含まれておらず、当面拡幅の予定はなかったものであった。これが、中央環状新宿線が都市計画決定された翌年の九一年九月に初めて整備対象として登場しているのである。

 これに対し、環状六号線の都市計画決定が最初になされた旧法下の一九四六(昭和二一年)年には首都圏整備計画のようなものは存在していない。即ち、旧法下においては、都市計画自体が現在の整備計画のような役割を担っていたのである。

 旧法下では都市計画の決定権者が主務大臣である(旧法第二条)のに対し、新法下では都道府県知事であることに加えて、旧法下での都市計画は本件のように環状線全体について策定していたのに対し、新法下では、整備計画に基づく一部について都市計画決定がなされている(中央環状線全体の中の中央環状新宿線のみという形)。すなわち、旧法下での都市計画決定の内容は、新法下での都市計画決定の内容よりはるかに広いのであり、本件についていえば本件拡幅事業、すなわち旧法下で都市計画決定された環状六号線整備事業全体の内、事業認可を受けた部分が本件地下道路事業、すなわち新法下で決定された都市計画(中央環状線の一部としての中央環状新宿線)の規模に相当するのであって、旧法下と新法下では、明らかにその位置づけが異なる。

 このような都市計画自体の位置づけの違いを見るならば、付則三項の「対象事業」は、旧法下における都市計画全体の事業をいうのではなく本件拡幅事業そのものを指すことは明らかである。  

5 環状八号線板橋区若木町から練馬区北町間との比較

 一九八一年(昭和五六年)、本条例の施行の際、付則三項に基づき、届出を要する対象事業の一つとして、環状八号線板橋区若木町三丁目から練馬区北町一丁目間(延長一・八キロメートル)の整備事業が東京都知事に届出られている。

 右事業にかかる都市計画は、一九四六年(昭和二一年)三月二六日に都市計画決定された環状八号線大田区羽田空港二丁目先埋立地から北区岩渕町一丁目までの延長四四・二二キロメートル(戦災復興院告示第三号)に基づくものであった。

 被告の主張でいえば、一九八一年(昭和五六年)当時、すでに環状八号線自体は供用されていたのであるから、付則三項にいう「都市計画決定がなされた対象事業」(環状八号線全体の整備事業)ですでに着手(供用)がなされていたことになり、届出は必要のないものとなる。

 結局、事業者である東京都自身、付則三項のいう「対象事業」は被告のいうようなものとして考えているわけでないことが明らかである。  

6 「着手=供用」論のごまかし

 本件拡幅事業において着手がいつなされたかという点について、被告は、特定はできないが、供用がなされていることは明らかなので、着手はあったとする。

 しかし、本件拡幅事業の予定区域を含む環状六号線の区域は、一九二七年(昭和二年)にすでに幅員二二メートルの道路として都市計画決定がなされており、おそくとも一九四一年(昭和一六年)頃には、幅員二二メートルの軍用道路として供用されていたものである。

 したがって、都市計画決定がなされる前にすでに道路として供用されていた以上、供用をもって着手の根拠とはできず、そもそも、一九五〇年(昭和二五年)の都市計画決定自体が、道路の改築事業としてなされているのである。

 また、被告は本件拡幅事業の予定区域内に過去、事業認可の告示を受け、工事を完了した部分が含まれているので本件拡幅事業に着手があったとも主張しているようである。しかし、最も最近のものは、昭和三七年六月一九日の建設省告示に基づくもので、完了後すでに三〇年以上経過したものであり、右告示に基づいた計画事業として完結しているのである。そもそも、同部分は工事が着手されていない区域について、事業認可がなされるのであるから、事業認可がされていないのに着手がありうるはずがない。したがって、右の理由をもって着手あり、とするのはあまりに暴論であって、新規の道路改築としての本件拡幅事業(付則三項の対象事業)についての着手はないことは明らかである。  

7 よって、本件拡幅事業は着手のない対象事業としてアセスが必要である。しかるに、本件拡幅事業についてはこれが存在しないので本条例に違反し、結局、都市計画決定手続に重大な違法があることは明らかである。

 

三 環境影響評価条例九条二項の解釈

1 本条例九条二項は、「知事は、一又は二以上の事業者が相互に関連する二以上の対象事業を実施しようとするときは、これらの事業者に、これらの対象事業を合わせて前項の規定により調査等を行い、評価書案等を作成し、及び提出するよう求めるものとする。」と規定する。

 これまで述べてきたとおり、本件拡幅事業はアセスが必要な対象事業であるから、同事業が本件地下道路事業と相互に関連するものである限り、知事はこれらを合わせた評価書案等を作成提出するようこれらの事業者に求めなければならない。

 そこでまず、本件両事業が「相互に関連する」ものであることを詳細に論証する。   

@ 本件拡幅事業は、旧都市計画法下の一九五〇年(昭和二五年)に都市計画変更決定がなされてから現在に至るまで四〇年以上も事業認可がなされず放置されていたにもかかわらず、一九九〇年(平成二年)八月一三日に地下道路事業の都市計画決定がなされるや、翌九一年(平成三年)三月八日に突然、右地下道路事業予定区域についてのみ都市計画法五九条二項に基づき事業認可処分が行なわれた。さらに、その三日後の同月一一日に同条三項に基づく地下道路事業の事業承認処分が行なわれている。すなわち、本件地下道路事業が現実化し、これを完成させるためには、不可避的に地上部分の拡幅が必要あることから、本件拡幅事業の認可処分が急虚行われたのである。この一連の経過をみても、事業主体たる都(拡幅事業)、首都高速道路公団(地下道路事業)が、この両事業を「相互に関連する」一体のものとして認識していることが強く窺われるのである。   

A さらに、本件地下道路事業(中央環状新宿線)は、前述したように首都圏整備計画の一環として位置づけられている中央環状線の一部として遂行されるものであるが、同整備計画は、遅くとも一九八六年(昭和六一年)の時点ですでに予定されていたのである。そして、この予定時点においては、同整備計画には他の環状線(三号、五号等)は整備推進対象として記載があるにもかかわらず、環状六号線については記載されていない。ところが、本件地下道路事業の都市計画決定がなされた直後である一九九一年九月に発表された同整備計画に初めて環状六号線が整備推進対象として登場するのである。

 このように首都圏整備計画という国の根幹的な施策の推移から検討しても、本件各事業の関連性が明らかに示されているのである。   

B 右のことは、予算措置の法的構造からも裏付けられている。

 本件拡幅事業においては、法的事業主体たる都は、予算の三分の一しか負担せず、残りの三分の二は、地下道路事業の事業主体たる公団及び国が負担する構造になっているのである。この法的根拠となる法令の一部を見ると、「公団は、第二十九条第一項第一号の自動車専用道路(本件地下道路事業)の新設又は改築に伴い必要を生じた他の道路の新設又は改築に要する費用については、政令で定めるところにより、その一部を負担しなければならない。」(首都高速道路公団法第四〇条)、「公団は、公団が行う法第二十九条第一項第一号の自動車専用道路の新設又は改築に伴い必要を生じた他の道路の新設又は改築に要する費用については、当該自動車専用道路を当該他の道路の区域内において、高架で、又は地下に新設し、又は改築する場合にあっては、その費用の三分の一を負担し・・・」(首都高速道路公団法施行令第六条)、「法附則第七条第一項の政令で定める道路の新設又は改築は、次に掲げるものとする。一〜四略、五 首都高速道路又は阪神高速道路の新設又は改築のうち当該新設又は改築と密接な関連を有する道路(建設大臣が定める基準に該当するものに限る)の整備を伴うもので他の首都高速道路又は阪神高速道路の円滑な交通を確保するため緊急に実施する必要があると認められるもの」(道路整備特別措置法施行令附則五項)というように、まさしく本件拡幅事業が本件地下道路事業と密接に関連しており、両者一体となっていることが看て取れるのである。   

C 本件地下道路事業の建設方法も、地下を堀り進むいわゆるシールド工法でなく、地上から掘削して構造物を築造してゆく開削方式を採用しており、幅四〇メートルにわたる構造物を埋め込む本件地下道路事業にあっては、どうしても地上部分の拡幅が必要なのである。このように本件各事業は、一方の事業の存続が他の事業の存続を前提としているのであって、相互に関連していることは明白である。   

D また、事業主体、事業目的とも実質的には同一である。

 本件拡幅事業の事業主体においては、首都高速道路公団法二九条一項三号に基づく業務委託のため、東京都に代わって本件地下道路事業の事業主体たる首都高速道路公団が行なうものであり、事業目的も「多心型都市構造の形成のため新宿、渋谷、池袋の三副都心を結ぶもの」である点で共通していることは、被告自ら認めているところである。   

E 以上のとおり、本件両事業が「相互に関連」していることは明白である。

2 かかる場合、本条例九条二項により、知事はこれらの事業者にこれらの事業を合わせたアセスを実施するように求めなければならない。しかるに都知事はこのような要請をなした形跡はない。

 したがって、本件両事業について同条例九条二項違反に基づく都市計画決定手続違反があり、本件処分は取消を免れない。 

 

四 法六一条一項における申請手続の違法

1 被告は、その平成四年四月二三日付準備書面の中で、本件拡幅事業の予定区域の中にはすでに渋谷区代々木山谷町から同区代々木新町までの延長一一メートル、幅員四〇メートルの区間において、一九六二年(昭和三七年)六月一九日に事業認可の告示が行なわれ、同六四年度末には完成していると主張する。  

2 この事実は、本件認可処分にとって重大な意味を持つ。すなわち、右区域については、全く同じ規模(幅員四〇メートル)の事業について重複して事業認可という行政処分が行なわれていることになり、六四年度末にすでに工事が完了している以上、先行する行政処分に基づく事実行為が行なわれているのであるから、この区間について再度行なわれた後行する本件認可処分は、少なくとも右区間に関する限り当然無効である。  

3 右のように無効の区間を含む本件事業認可の申請手続は、当然違法の瑕疵を帯びるものであり、仮に、法六一条一項の「法令」が申請手続に関する事項のみを意味するものであったとしても、やはり本件認可処分の取消は免れない。

 なお、右区間についてのみ本件認可処分の無効確認を求めるべきとの考え方も有り得るが、この無効が本件認可処分全体の違法を基礎づけるものであるので請求の趣旨の変更の必要性はない。 

 

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