準備書面七 1993年6月18日


東京オリンピックの年に最初の首都高速道路が開通して以来,次々と新たな路線を作り続けて来た結果,渋滞時間は増加の一途をたどっています.渋滞緩和のためという名目がいかに欺瞞に満ちたものであるか,検証しました.


 準備書面六において中央環状新宿線が完成し、都心環状線の交通流が多少円滑化したとしても、道路建設がもたらす交通量増加はNOX総量の増加につながることから、本件事業が公害防止計画に適合しないものであることを述べた。ここでは、中央環状新宿線の完成が都心環状線など首都高速道路の交通円滑化には寄与せず、むしろ新たな渋滞を生じさせるだけであることを述べる。

 

第一 中央環状新宿線建設の事業目的は達成できない

 中央環状新宿線の目的は交通流の円滑化である(都市計画決定)。特に都心環状線の渋滞緩和が期待されている。しかし、これまでの首都高速道路建設の歴史を振返ってみてみると、常に道路を建設し続けているにもかかわらず、それが渋滞解消につながったことなど全くなかったことが分かる。このことを、本件事業と同様、都心環状線のバイパス的役割を果たす、中央環状葛飾江戸川線および葛飾川口線(中央環状線東側区間)、高速湾岸線建設の効果を検証することで示す。

一 環状線利用台数は過去十数年間変化していない

 図一に一九七六年度から一九九〇年度までの間に行なわれた計八回の「第二〇回首都高速道路交通起点終点調査(平日編)」(首都高速道路公団)一六頁、による交通量の変化を示す。これによれば、首都高速道路の交通量は、年度を追うに従って順調に伸びている。しかし、都心環状線を利用する台数は、一日約四〇万台でほとんど変化していない。また、都心環状線利用交通を、放射線から環状線に入り放射線に出ていく、いわゆる通過交通の台数と、環状線に起点・終点をもつ車両(環状線に用事がある車両)とに分けてみると、その両者の関係はほぼ一定であり、環状線の利用形態もここ十数年間変化していないことが示されている。図二に首都高の総延長が年々伸び続けている様子を示したが、環状線の完成は一九六七年であり、その後の首都高の総延長の伸びはすべて環状線を除いた部分である。その道路延長の伸びに従って交通量が伸びているのである。

二 湾岸線、中央環状線東側区間開通でも都心環状線利用台数の変化はない

 湾岸線は一九八四年一二月一二日に江東区青梅〜有明が開通し、一号線を介してではあるが千葉から横浜まで都心環状線を経由することなく結ばれることになった。しかも湾岸線は片側三車線、設計速度八〇kmと都心環状線に比べ高規格なので、都心環状線の通過交通排除効果は極めて大きいはずである。

 実際には環状線の交通量は、開通前の八三年に比べて八五年の方がわずかではあるが増加している。通過交通についても若干増加しており、湾岸線開通の効果は全く認められない。

 中央環状線東側区間は、中央環状葛飾江戸川線および葛飾川口線が小菅〜堀切間で六号線と重複利用する形で成り立っているが、これらが全線開通したのは一九八七年九月九日である。この開通で、千葉方面、常磐方面、東北方面の車両が都心環状線を経ずに互いに接続することとなった。

 被告は準備書面・、および乙二二号証の二で、この道路開通後の一九八八年には開通以前の一九八五年に比べて都心環状線利用台数が減少していることを取り上げ、環状道路建設の交通流円滑化効果を主張している。確かに図一を見るとわずかではあるが、そうした変化が見られる。しかしこれでは一九八五年には湾岸線が開通したにもかかわらず都心環状線の交通量が増加し、一九八八年には中央環状線東側区間が開通したから都心環状線の交通量が減少した、という相反する効果が生じたことになる。

 これらの交通量の数値は全数調査ではなく、一回わずか二日間のOD表調査(アンケートによる調査)からの推計値である。しかも一九九〇年の例をとれば、調査票の有効回収率はたかだか一二・九%に過ぎない。したがって、これらのわずかな変動は推計誤差を考えると全く意味のないものである。さらに交通の形態は他の一般道路の状態、社会・経済状態の変化などと密接にからんでおり、図一のように年度毎の多少の変動があるのは当然であって、これらの変化が湾岸線や、中央環状線整備に起因すると断ずることはできない。すなわち、湾岸線や中央環状線東側区間による都心環状線の通過交通排除効果は全くなかったと解すべきである。

三 湾岸線、中央環状線東側区間開通でも都心環状線渋滞時間の減少はない

 図三に、ここで問題にしている各路線について、警視庁が調査した一日当りの渋滞時間の経年変化を示す(毎年の交通年鑑による)。都心環状線の渋滞時間は、八〇〜八三年に一時的な減少があった後、増加して、八五年以降ほぼ一定の値となっている。交通量は年度で渋滞時間は年であるがほぼ同じとみなして,都心環状線の交通量と渋滞時間との関係をグラフにすると(図四〜六)、この間の都心環状線交通量が、通過交通、起終点をもつ交通とも変化がほとんどないにもかかわらず渋滞時間が変動していることが分かる。むしろ、都心環状線以外の交通量との間に相関関係が認められるのである(図七)。なお、一九八五年以降の渋滞時間は、内回り約二一時間、外回り約一七時間と、ほぼ限界に達している。

 湾岸線は八四年一二月に開通しているが、八五年には都心環状線の渋滞時間が飛躍的に増加しており、湾岸線のバイパス効果は全く認められない(図三)。中央環状線東側区間についても、八七年に開通した後、八八年には渋滞時間が増加している(図三)。なお、八七年には八六年より渋滞が減少しているが、九月に開通した当該路線により年平均値がそれだけ下がったとは考えられず、他の要因を考えるべきであろう。

 このように、これらのバイパス道路建設は都心環状線の渋滞解消には全く結びつかなかったのである。

 

四 中央環状新宿線は都心環状線交通流円滑化に寄与しない

 以上見てきたように、都心環状線のバイパス的役割を果たしてきた高速湾岸線、中央環状線東側区間の建設は、都心環状線の交通流円滑化とは全く結びつかなかった。これらの道路により通過交通が排除されたとしても、道路の潜在需要が大きいため、直ちに別の車両が流入してしまい、結局何を造っても都心環状線の交通量は慢性的な渋滞をもたらすまでのレベルに戻ってしまうのである。渋滞状況は変らないのである。中央環状新宿線は例外である、とする根拠がない以上、道路建設による都心環状線の交通流円滑化という事業目的達成は全く期待できない。

 

第二 中央環状新宿線は新たな渋滞を引き起こす

一 首都高建設と渋滞時間距離との関係

 首都高速道路公団では渋滞を単に路線毎に渋滞時間を調べるのではなく、渋滞の長さも加味した形で調査している。渋滞の基準は、走行速度二〇km/時以下、渋滞長一・五km以上の状態が三〇分以上続いた場合である。図八に、乙二一号証に基づき総延長と渋滞時間距離との関係を示す。若干の変動はあるものの総延長が伸びれば渋滞が増えている。すなわち、首都高は造れば造るほど渋滞が増えるのである。

二 環状線利用台数と首都高全体の渋滞時間距離とは関係がない

 環状線利用台数と環状線の渋滞時間が無関係であることはすでに指摘したが、環状線を利用する台数と首都高全体の渋滞時間距離との関係をみると、図九に示すように明確な関係は認められない。このことは、通過交通量(図一〇)、環状線に起終点をもつ、つまり環状線に用事のある車両の交通量(図一一)と、渋滞時間距離との関係においても同様である。環状線の利用台数とは無関係に首都高の渋滞時間距離は一方的に伸びているのである。

三 首都高全体の渋滞時間距離は都心環状線以外の利用台数と相関する

 図一二に都心環状線を利用しない交通量と、渋滞時間距離との関係を示す。都心環状線を利用する車両の場合とは逆に、交通量と渋滞時間距離との間にきれいな相関関係が認められる。

四 中央環状新宿線も渋滞道路となる

 以上のデータが示すところは、都心環状線の利用形態は周辺道路の整備がいかに進もうとも一定で、慢性的な渋滞が続いている一方、周辺道路は造れば造るほど新たな渋滞箇所を生んでいる、というものである。このことは、放射道路建設の場合だけではなく、湾岸線、中央環状線東側区間の場合のような、環状道路建設の場合についても当てはまるのである。図三に示すように、湾岸線、中央環状線東側区間、どちらも完成直後(湾岸東行きのみ数年後)から渋滞し始めているのである。首都高建設は交通円滑化ではなく、渋滞が発生し慢性化するまでの新たな交通需要を喚起するだけなのである。

 中央環状新宿線ができ、首都高速道路の総延長が伸びれば、新たな需要が喚起され、交通量が増加し、渋滞も発生することは、以上より明らかである。しかも、この道路は準備書面五で指摘したように構造的にも渋滞を起こす欠陥道路なのである。

 いま、中央環状新宿線周辺地域を含む都心部では、大気汚染の環境基準達成が最優先すべき課題であり、そのために交通量削減に最大限の努力を払わなければならない状態なのである。なんらの公共の利益ももたらさず、他方で交通量の増加、大気汚染悪化という極めて大きな公共の不利益をもたらす本件事業は取り消さなければならない。

 

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