訴状


事業の認可・承認処分の取り消しを求めて,東京都条令に基づくアセス手続きの関係地域内に住むもの,勤務するもの430名が行政訴訟を提起しました.行政訴訟の提起は,処分(1991年3月8日および11日)から3ヵ月以内とされているため,1991年6月8日まで3回に分けて起こしました.この内,3件目の提訴は地権者によるもので,以下の道路周辺住民によるものとは訴状が若干異なります.


都市計画事業認可処分等取消請求事件

1991年5月28日

東京地方裁判所御中

 

請 求 の 趣 旨

 

一、被告が東京都に対して一九九一年三月八日になした建設省告示第四八六号にかかる都市計画事業の認可処分は、これを取消す。

二、被告が首都高速道路公団に対して一九九一年三月一一日になした建設省告示第五〇三号にかかる都市計画事業の承認処分は、これを取消す。

三、訴訟費用は、被告の負担とする。

 との判決を求める。

 

請 求 の 原 因

一、本件処分

1 本件処分にかかる都市計画事業は、東京都による地上道路拡幅整備事業以下「本件拡幅事業」という)、及び首都高速道路公団による都市高速道路中央環状新宿線建設事業以下「本件地下道路事業」という)の二つである。この二つの事業は、同一土地(山手通り)の地上と地下において同時に実施されるものであって、不可分的に一体をなすものである。この二つの事業(以下、二つの事業を合わせて「本件事業」という)について、本件処分に至る経緯は次のとおりである。

2 本件拡幅事業については、旧都市計画法(大正八年四月五日法律第三六号)第三条一項の規定により、一九四六年三月二六日内閣総理大臣による都市計画決定(戦災復興院告示第三号、幅員八〇メートル)の後、一九五〇年三月二日建設大臣により都市計画変更決定(建設省告示第一一二号、幅員四〇メートルに縮小)がなされ、一九九一年三月八日都市計画法(昭和四三年六月一五日法律第一〇〇号)第五九条二項に基づく建設大臣の東京都に対する認可処分(建設省告示第四八六号)が行なわれた。

3 本件地下道路事業については、都市計画法第一八条一項の規定に基づき、一九九〇年八月一三日東京都知事により、都市計画決定され(東京都告示第九三四号)、一九九一年三月一一日都市計画法第五九条三項に基づく建設大臣の首都高速道路公団に対する承認処分(建設省告示第五〇三号)が行なわれた。

 

二、本件事業の概要(添付図面1、2@・A参照)

1 本件拡幅事業

@施行者の名称・・東京都

A都市計画事業の種類及び名称 東京都市計画道路事業幹線街路環状第六号線及び補助線街路第五十四号線       

B事業施行期間・・ 自平成三年三月八日至平成八年三月三十一日

C事業地・・・・・・・・

【収用の部分】 東京都渋谷区松涛二丁目、神山町、富ヶ谷一丁目、富ヶ谷二丁目、上原一丁目、元代々木町、代々木四丁目、代々木五丁目、初台一丁目、初台二丁目及び本町三丁目並びに新宿区西新宿三丁目、西新宿四丁目、上落合二丁目、上落合三丁目、中井一丁目、中井二丁目、中落合一丁目、中落合二丁目及び中落合三丁目並びに中野区弥生町一丁目、本町一丁目、本町二丁目、中央一丁目、中央二丁目、東中野一丁目、東中野二丁目、東中野三丁目及び東中野四丁目並びに豊島区南長崎一丁目、目白五丁目、西池袋四丁目及び長崎一丁目地内

Dその他の概要・・

 イ.事業区間・・ 起点 東京都渋谷区松涛二丁目

         終点 東京都豊島区長崎一丁目

 ロ.通過地域・・ 渋谷区、新宿区、中野区、豊島区

 ハ.延  長・・ 約八・二キロメートル

 ニ.道路区分・・ 第四種 第一級

 ホ.車線数・・・・ 往復六車線(幅員四〇メートル)

 従来往復四車線(道路の幅員は約二二メートル)であったものが、六車線に拡幅されることで、原則として両側九メートルずつ、総面積にして約一四七、六〇〇平方メートル(約四四、七二七坪)もの都心の土地が収用されることになる事業である。

2 本件地下道路事業

@施行者の名称・・ 首都高速道路公団

A都市計画事業の種類及び名称・・ 東京都市計画道路事業都市高速道路中央環状新宿線

         

B事業施行期間・・ 自平成三年三月十一日至平成八年三月三十一日

C事業地・・・・・・・・

【収用の部分】 東京都目黒区大橋一丁目及び大橋二丁目、渋谷区松涛二丁目、神山町、富ヶ谷一丁目、富ヶ谷二丁目、元代々木町、代々木五丁目、初台一丁目、初台二丁目、本町一丁目及び本町三丁目、新宿区西新宿三丁目、西新宿四丁目、上落合二丁目及び中落合三丁目、中野区弥生町一丁目、本町二丁目及び東中野二丁目並びに豊島区目白五丁目、南長崎一丁目、西池袋四丁目及び長崎一丁目地内

【使用の部分】 東京都目黒区青葉台四丁目、大橋二丁目、駒場一丁目及び駒場三丁目、渋谷区神泉町、松涛二丁目、神山町、富ヶ谷一丁目、富ヶ谷二丁目、上原一丁目、元代々木町、代々木四丁目、代々木五目、初台一丁目、初台二丁目及び本町三丁目、新宿区西新宿三丁目、西新宿四丁目、上落合二丁目、上落合三丁目、中井一丁目、中井二丁目、中落合一丁目、中落合二丁目及び中落合三丁目、中野区弥生町一丁目、本町一丁目、本町二丁目、中央一丁目、中央二丁目、東中野一丁目、東中野二丁目、東中野三丁目及び東中野四丁目並びに豊島区目白五丁目及び南長崎一丁目地内

Dその他の概要・・

 イ.事業区間・・ 起点 東京都目黒区青葉台四丁目

         終点 東京都豊島区南長崎一丁目

 ロ.通過地域・・ 目黒区、渋谷区、新宿区、中野区、豊島区

 ハ.延  長・・ 約八・七キロメートル

 ニ.道路区分・・ 第二種 第二級

 ホ.車線数・・・・ 往復四車線

 ヘ.構造形式・・ トンネル(本線部)

 拡幅される山手通りの地下と、目黒区駒場から大橋インターチェンジの間は東大駒場校舎や住宅過密地帯の地下を通る、少なくも約三六〇万立方メートルに及ぶ土砂排出を伴う、わが国でも先例を見ない大規模な地下トンネル自動車専用有料高速道路の新設事業である。

 

三、原告

 原告らは、本件地下道路事業についての環境影響評価手続において、東京都環境影響評価条例(昭和五五年一〇月二〇日東京都条例第九六号、以下、単に「条例」ともいう)第一三条一項に基づき定められた関係地域内に居住している者、または同地域内に勤務もしくは通学し、旧公害健康被害補償法施行令第二条に定められた公害健康被害認定の滞在要件に該当する者であって、本件処分に基づく事業から生じる大気汚染等によって、健康被害等を被る蓋然性が高いと認められる者である。

 

四、本件処分の手続的違法性

1 東京都において本件事業の如き都市計画事業を行なうためには、右条例第九条、第二三条等に基づく環境影響評価手続が必要であり、その評価の概要は、当該都市計画の計画書(都市計画法第一四条一項)中に附記すべきものとされている(昭和六〇年六月六日建設省都計発第三四号建設省都市局長通達)。したがって、本件拡幅事業を行なうにあたり、事業者たる東京都は、同条例第九条、第二三条等に則って環境影響評価手続を行ない、環境影響評価書等を作成しなければならないものである。しかるに、本件拡幅事業においては、環境影響評価手続がまったくなされておらず、都市計画法第一四条一項の計画書中に附記すべき環境影響評価の概要も存在していない。したがって、本件拡幅事業認可処分は、それに至る手続において、都市計画法第一四条一項に違反している。本件拡幅事業認可処分は、かかる法定手続に違反してなされたものであって、取消を免れない。

2(一) 本件地下道路事業については、同事業についての環境影響評価手続しかなされていない。同事業と本件拡幅事業とは不可分的に一体をなすものである以上、本件事業は、東京都環境影響評価条例第九条第二項の「二以上の事業者が相互に関連する二以上の対象事業を実施しようとするとき」に該当する。したがって、知事は、これらの事業者に、これらの対象事業を合わせて同条第一項の規定により調査等を行い評価書案を作成し、提出するよう求めなければならない(同条第二項)。しかるに、同条例第九条二項に基づく、これら二つの事業を合わせた環境影響評価手続はまったく行われていない。したがって、本件地下道路事業についても、法定の環境影響評価手続がなされておらず、都市計画法第一四条一項に違反している。

(二) 加えて、現に行なわれた環境影響評価手続は、東京都の定める環境影響評価技術指針及び同技術指針関係資料によって、予測、評価すべきとされ、かつ予測手法が示されている浮遊粒子状物質(発ガン性が高い)等についての予測、評価を行っていない。この点においても、本件地下道路事業における環境影響評価手続には不備があり、都市計画法第一四条一項に違反している。

(三) よって、本件地下道路事業承認処分においても、それに至る手続において法定手続に違反してなされたものであって、取消を免れない。

 

五、本件処分の実体的違法性

1 本件事業は、都市計画法第一条の「公共の福祉の増進」に寄与しない。

(一) 本件事業の目的は、「都心の渋滞の解消と交通流の円滑化」にあるとされている。しかしながら、まず、「都心」の定義があいまいである。次いで、流入車両数を制限する総量規制等の方策が講じられていない以上、車線数が現状(四車線)の二・五倍(地上六車線、地下四車線、計一〇車線)になったとしても、それに応じた車両数が流入することは経験則上明らかであって、結局交通渋滞は解消せず交通流の円滑化は実現できない。事業の目的を実現できない以上、本件処分は違法というべきである。

(二) 仮に、前記・の目的が実現できるとしても、本件事業利益に比し、事業損失がより巨大である。本件事業利益としては、前記(一)の目的が実現されることによる一般公衆が受ける利益のほか、道路建設業者、自動車製造販売業者、石油燃料製造販売業者等の個別企業が受ける利益があろう。しかし他方、本件道路の建造および車両の増加によって原告らはもちろん、その他の地域住民が被る被害は、大気汚染による呼吸器疾患、肺ガン等の生命、身体の被害、振動、騒音、酸性雨等の発生による環境破壊、あるいは地下工事がもたらす地盤沈下等、深刻かつ重大なものがある。つまり、巨大な事業損失が発生する。経済活動が何物にもまして優先視された高度経済成長期が終焉を迎えた現在、本件事業利益よりも本件事業損失の方がより大きいと評価すべきである。事業損失の方がより大きい以上、本件事業は「公共の福祉の増進」に反するというべきである。

(三) 次いで、仮に、本件事業利益が事業損失より大きいとしても、本件事業損失防止対策が講じられていない以上、やはり本件処分は違法というべきである。前記(二)のとおり、本件事業により巨大な事業損失が発生する。そうであるにもかかわらず、本件事業は、街路緑化施設、大気汚染防止施設、騒音防止施設等の損失防止対策がまったく講じられていない。本件事業損失の巨大さに鑑れば、なんらの損失防止対策が講じられていない本件処分は、やはり「公共の福祉の増進」に反するものとして、違法というべきである。

2 本件事業は、都市環境を悪化させるものであって、都市計画法第一条、第二条、第一三条に規定する環境配慮義務に違反する違法がある。

(一) 都市計画法第一条は、都市計画施設の整備に関する事業等の都市計画事業に関し、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図」ることを目的とすると明記しており、さらに第二条において、「都市計画は、・・・・・健康で文化的な都市生活・・・・・を確保すべきこと・・・・・を基本理念として定めるものとする。」としている。これらは、都市計画を実施するにあたり、従来より良好な都市環境を保持すべきことが法的に義務付けられていること(環境配慮義務)を示している。そして、同法第一三条第一項はこれを受けて、「・・・・・当該都市について公害防止計画が定められているときは、都市計画は、当該公害防止計画に適合したものでなければならない。」と規定する。ここにおいて、同法の環境配慮義務が具体化されており、都市計画が当該公害防止計画に適合しない場合は、その都市計画は環境配慮義務違反として実施できないのであり、このような場合には同法第五九条二項・三項に規定する認可または承認もすることはできないことになる。

(二) 本件事業は、東京都の公害防止計画に適合していない。

(1) 知事は、公害対策基本法第一九条に基づき東京地域公害防止計画を一九八八年三月に策定し、その中で大気汚染に関しては、環境基準値の達成を、同計画の目標としている。したがって、本件事業について実施される環境影響評価において、環境基準が達成される見込みがなければ、公害防止計画に適合しないものとして、事業の実施はできないことになる。

(2) 環境影響評価書としては本件地下道路事業についてのものしか存在しないうえ、同評価書が、「本件事業の環境に与える影響は極めて小さく、本件事業の完成時には環境基準は達成される。」としているその結論は、客観的予測に著しく反している。東京都が本件事業とは別にまとめた「東京集中問題調査報告書」(一九九〇年三月)では、現状の大気汚染状況は、二酸化硫黄、一酸化炭素を除く物質については環境基準を大幅に超えており、二酸化窒素を例にとれば一九八九年一二月に示された中央公害審査会の自動車排出ガス規制の効果が順調に実現された場合であっても、大気中における二酸化窒素の濃度は二〇一〇年の段階で、やっと、環境基準が達成されると予測している。本件事業の完成年度である一九九五年では環境基準の達成は不可能であることが明らかとなっている。本評価書は、大気汚染の将来予測の基準値を現状よりはるかに低く設定する等の方法を用いて、無理やり右のような結論を導いているにすぎない。本評価書の虚偽性は明白である。

(3) 右のとおり、本件事業が完成された場合、大気汚染等についての環境基準が達成される見込みはなく、本件事業が公害防止計画に反していることは明白であり、従って都市計画法第一条、第二条、第一三条の環境配慮義務に違反するものである。

3 本件事業は、都市計画法第二条の「土地の合理的利用」に反する。

 仮に、「都心の渋滞の解消と交通流の円滑化」のため、都市計画事業による道路の建造が必要不可欠であるとしても、当該事業は「土地の合理的利用」に適合するものでなければならない。当該都市計画事業が「土地の合理的利用」に適合しているといいうるためには、当該都市計画事業を当該事業地に施行する場合と当該事業地以外の代替土地に施行した場合とにおける社会的、文化的、経済的影響の外、当該事業によって権利収用等を余儀なくされる土地所有者及び関係者の数の多寡、発生すべき公害被害の規模及び公害被害者の範囲、並びに費用対効果をふくめ事業利益と事業不利益を総合的に考慮して比較した結果、当該都市計画事業を当該事業地に施行することが最良であるといえなければならない。しかるに、本件都市計画事業には、環状六号線(山手通り)より、はるかに事業利益が大きく、事業不利益が小さい代替土地が都内に現存している。そうである以上、本件事業は「土地の合理的利用」を図っているということはできず、都市計画法第二条に違反する。

 

六、以上から、本件各処分は、都市計画法第一条、第二条、第一三条一項、第一四条一項に違反する違法な処分であって、いずれもその取消を免れない。

 

七、原告らは、本件各処分に基づき遂行される本件事業から生じる大気汚染等によって、良好な環境を享受することができなくなり、さらには急性及び慢性呼吸器疾患、肺ガン等、生命、身体に重大な侵害を被り、人間として最低限度の生活すら奪われる蓋然性が極めて高い。本件各処分によって生じるかかる事態は、原告らの幸福追求権及び人格権に対する重大な侵害に他ならない。

 

八、よって、請求の趣旨記載の各処分の取消しを求めて本訴に及んだ次第である。

 

以 上

 

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