控訴審での意見陳述 1994年12月13日
控訴審の第1回法廷で,原告を代表して環六高速道路に反対する会の代表が意見を陳述しました.
原告のSでございます。控訴審の開始に当たり,原告187名の願いを高等裁判所にご理解いただきたくお話し申し上げます。
私の住む家から70メートル位のところにある環状6号線・いわゆる山手通りが拡幅され,その地下に高速道路が作られるという計画が公表されたのは今から6年前でした。大気汚染,前例のない巨大な地下工事のもたらす地盤への影響,工事に伴う振動,騒音など,周辺の住民はみな不安にかき立てられました。私たちは行政に対し様々な形で,この道路ができることへの不安を訴えてきましたが,全くきいてももらえないまま事業認可・承認という段階まで来てしまいました。そして,最後の望みをかけて3年半前に提訴いたしました。裁判所なら,私たちの主張を公平に聞き入れて下さると思ったのです。
審理の過程で一審裁判所は「本件事業の適法性に関する主張立証責任は被告国側にある」としました。しかし国側はほとんど何も立証しようとしませんでした。にもかかわらず,一審の判決は全面的な国側の勝訴でした。私たち道路周辺の住民はそもそも訴えを起こす資格すらない,と追い払われたのです。
東京のすさまじい大気汚染により,ぜん息などの病気が年々増えています。そこに道路ができ,車が増えれば,病気の人が増え,病状も悪化して,さらに命に関わることにもなりかねません。それでも裁判を起こす権利さえ認めていただけないのでしょうか。
東京都はこの深刻な大気汚染を改善するために公害防止計画を定めています。都市計画はその範囲内で作られていかなければならないはずです。しかし判決では公害防止計画に道路網の整備があげられているから,この道路が公害防止計画にかなっているのだといいます。東京の大気汚染をますます悪い方向に向わせるこの道路が,どうして公害防止に役立つ道路だと言えるのでしょうか。
脱硝装置を付けてほしい,地下に道路を作るのだからせめて地上は車線を増やさずに歩道を広くしてほしい,そして大気汚染物質を吸収する植物をたくさん植えてほしい。こうした声はあちこちで起こっています。それなのに周辺の環境に配慮しない道路をそのまま強引につくろうとしているのです。そんな道路作りが公害防止計画に適合しているはずがありません。
この道路を作らなければならない必然性はどこにあるのでしょうか。道路をつくってもすぐに車で一杯になってしまい,また新たな道路が必要になるでしょう。東京はなんとかして車を抑制しなければならない段階に来ています。なんとかして車社会から脱却しなければならない,という時代なのです。もうこれ以上東京には道路はいりません。
どうぞ行政に加担しない,公正な判断をお願いいたします。