ひとり by はなぶさ
スピーカが私に話し掛けた。誰もいない部屋でベッドに横たわり
耳を傾ける。電波により伝達されるその声を聞いていると、しば
らくは時間を忘れた。しばらくすると、その話し声までも、私の
存在をかき消すためにあるように思えて、立ち上がりながらラジ
オを消した。窓から夜の町を見下ろした。
私の住んでいるマンションはこの付近では一番高い建物で、見晴
らしが良い。近所の人から違法建築だから高いらしいことを聞い
たが、私が悪いわけじゃない。そういう訳で私の部屋からの眺め
は良い。ここにいる自分の存在も、そう捨てたもんじゃないなと
思えた。遠くの星が私を見守るような気がしてきた。町の灯に温
かさを感じた。
しかし、私は柵を越え、空中へ身を投げ出した。何故かは分から
ない。ただ、こんな平和な気持ちの時に、最後を迎えたかったの
かも知れない。
(つづく)
(02月05日(木)23時52分04秒)