『テーマ館』 第15回テーマ「しかし・・・」



 ひとり   by はなぶさ


      スピーカが私に話し掛けた。誰もいない部屋でベッドに横たわり
      耳を傾ける。電波により伝達されるその声を聞いていると、しば
      らくは時間を忘れた。しばらくすると、その話し声までも、私の
      存在をかき消すためにあるように思えて、立ち上がりながらラジ
      オを消した。窓から夜の町を見下ろした。

      私の住んでいるマンションはこの付近では一番高い建物で、見晴
      らしが良い。近所の人から違法建築だから高いらしいことを聞い
      たが、私が悪いわけじゃない。そういう訳で私の部屋からの眺め
      は良い。ここにいる自分の存在も、そう捨てたもんじゃないなと
      思えた。遠くの星が私を見守るような気がしてきた。町の灯に温
      かさを感じた。

      しかし、私は柵を越え、空中へ身を投げ出した。何故かは分から
      ない。ただ、こんな平和な気持ちの時に、最後を迎えたかったの
      かも知れない。

                              (つづく)

(02月05日(木)23時52分04秒)