『テーマ館』 第15回テーマ「しかし・・・」
語られなかった物語 <浄化の理由> by ひふみ
先日(正確には昨日)、"しかしだらけの事件簿"という作品を投稿しました。
しかし、重要な要因であったはずの、"犯罪組織"の記述において、分かりにくい上に
多くの矛盾点を含み、あげくの果てには、"これは俺の妄想といってもいい。なんの証
拠もないものだ(文中)"の一言で強引に結論づけておしまいという、多少、心残りな
結果としてしまいました(これらのことは投稿したあとに気づいた)。
だから、ここにもう一つの物語を投稿しようと思います。
"しかしだらけの事件簿"の犯罪組織の話です。
「傷口を広げるだけ」、「恥の上塗り」といった言葉もありますが、とりあえず、自分
で納得するためだけの、自慰的なものなので、「あんまりテーマにそってないじゃ
ないか」なんてことは気にしないでもらえると幸いです。
うだうだ言わずに簡単にいってしまえば、「納得できなかった!!だから
書くっっ!!」って一言ですむんですけどね・・・・・
ひふみ しごろう
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語られなかった物語 <浄化の理由> "しかしだらけの事件簿"外伝
『彼』が『男』に拾われたのは、1月の終わりくらいだったと記憶している。
通りは雪が降っていて、とても寒いときだった。大人達があふれる夜の街を歩きな
がら、いつもどうりにその日の寝床を探していたとき・・・・
『彼』は『男』に拾われたのだ。
『男』はある犯罪組織のボスだった。
『ザ・トランプ』という名のその犯罪集団は、『ゴッド』と自ら名乗るその『男』を
筆頭に『スペード』『ハート』『クローバー』『ダイヤ』という4人の高級幹部を
据えて、そのそれぞれに『キング』『クイーン』『ジャック』という中級幹部、
実行部隊としての『ナンバーズ』と呼ばれる構成員によって組織される、プロの
犯罪者たちの集まりであった。
そんな中、『彼』もすぐに組織に入れられ訓練を積まされる。数年後、訓練を終えた
『彼』に与えられた任務は、組織の裏切り者、邪魔者を排除するという、浄化の役目。
・・・・そして、『彼』はいつしか『joker(ジョーカー)』と呼ばれるようになった。
「ハートを殺せ。」
ゴッドの部屋に呼ばれて開口一番放たれた言葉はそれであった。
「他に何もしなくていい。後の処理はハートのキングに任せてある、詳しいことは
この資料を読んでおけ。」
ハートのキング。ジョーカーは、気色の悪い笑い声をあげる先代ハートの顔を思い
出した。現ハートと交代する一年前まであの屋敷の主だった剥製好きの狂った老人、
たしか今では、ハートの執事としてあの屋敷にいつづけている。結局はハートの
見張り役だったということなのだろうか。ジョーカーはそんなことを考えながら
資料を受け取った。
「ジョーカー、最初の浄化を覚えているか?」
部屋を出るとき、ふいにゴッドが尋ねてきた。ジョーカーは無言で頷く。
「ハートは、あの娘の父親だそうだ。」
そういうとゴッドは声をあげて笑う。・・・・・気持ち悪い。その声を聞きながら
ジョーカーが抱いたのは、嫌悪感だけだった・・・・
近くの店で買ったツナマヨネーズ饅頭を頬張りながら、ジョーカーは丘の上の洋館
を見上げる。高級幹部たちに一軒づつ与えられる、そのザ・トランプ支部を眺め
ながら、彼は、はじめての浄化のことを思い出していた。
・・・ゴッドの側にいつもいた女、そんなに歳が離れていなかったせいもあって、
ジョーカーともよく話をした。形は違えど、ゴッドに拾われたという似たような境遇
が何故かジョーカーを安心させ、彼がいつも持っていた、他人に対する警戒心という
ものをぬぐい去ってしまうのだった。
・・・・しかし、その女の裏切り。
ゴッドから初めての浄化を言い渡されたとき、彼はなにも感じなかった。
そのあまりの平常心をしめす自分の心に対し、彼自身自分らしい、と思うと同時に
そんな自分に対する怒りで、身を引き裂かれるような思いを感じたことを今でも
覚えている。
・・・・結局、彼はその女を殺した。ゆっくりと崩れ落ちる女の最後のつぶやきを聞き
ながら、そのとき初めて自分が涙を流していることに気づき、声をあげて泣こう
としたが、小さく開いただけのその扉は、意識すればするほど、ただ虚しくなる
だけだった。
ジョーカーがその部屋に入ったとき、目の前にハートが立っていた。
「もう少しなんだ・・・・こんなところでしくじるわけにはいかない。」
若いころは精悍だったろうその男は、ジョーカーに銃口を静かにむける。
「・・・・・・・・・・・・・・」
ジョーカーはなにも答えない。まるで、辺りに佇む物言わぬ剥製達と同じように、ヒト
の剥製となったかのごとくただじっと立っているだけだ。
そして無言の時がすぎ、ハートが引きがねに力を入れる瞬間、ジョーカーが口を
開いた。それは浄化の言葉なのか・・・・・
「お前の娘を殺したのは、俺だ・・・」
辺りに広がる血の海の真ん中で、ハートだった男の傍らに立ちジョーカーは静かに
涙を流していた。あの頃のままに流れる涙を意識しながら、彼の心はゆっくりと
一つの考えに向かい収斂していく。
それはすぐに見つけ出すことができた。ハートの遺産、たった二枚のデイスク。中を
調べてみるとザ・トランプのこれまでの事が事細かく記されており。最後は
ザ・トランプの重要機密でしめられていた。日付を見ると昨日のことになっている。
おそらく、あとは警察に届けるだけだったのだろう。しかし、ジョーカーに殺されて
しまった。ゴッドが言っていたハートのキングに任せた任務の中にも、このデイスク
の処理は含まれていたに違いない。
ジョーカーは、そのデイスクをある場所に隠すと、"しかし"と真っ白な紙に書いて
血の海の中に落とす。
紙がゆっくりと血の赤に染まっていくのを見ながら、彼はゲームの始まりを感じて
いた。ジョーカーとザ・トランプのゲーム。暗号は後手にまわるザ・トランプへの
ハンデ、そして彼の別れのあいさつ。
どちらにせよ、ジョーカーにとって、これが最後の浄化になるのは間違いないよう
だった。
ザ・トランプが崩壊するのが先か・・・・
それとも、ジョーカーが死ぬのが先か・・・・・
外から聞こえるパトカーのサイレンを聞きながら、『彼』は自分がゲームに勝った
事を知った。結局、ハートのキングは『彼』の暗号に気づく事は出来ず、『彼』は
浄化されることなくザ・トランプの心臓に到達した。
足元に転がるゴッドだったものの屍を見下ろしながら、『彼』はゆっくりと自分の
こめかみに銃口を押しつける。
・・・・・それは最後の浄化・・・・・・・・
<おわり>
(02月10日(火)15時50分16秒)