『テーマ館』 第15回テーマ「しかし・・・」
逆接殺人月間? "しかし"だらけの事件簿 by ひふみ
「ところで、小噺君。今日、誰か倒れたって話、聞いてないかしら?」
署の休憩所で考え事をしてた時、会うなりいきなり放たれた言葉はそんな言葉
だった。
轟時子警部補。署内に本人非公認のファンクラブもある類稀な美貌を持つその女性
は、いきなりの言葉に返事を返せずにいる僕にかまわず、あたりをきょろきょろと
見回すと続けざまに尋ねてくる。
「今日は、タケチは一緒じゃないのね?」
その独特の発音で呼ばれる僕の上司は、この警部補と学生時代からの友人だそうだが
未だそこのところを詳しく二人に聞いたことはない。ただ、二人が警察に入った時、
最強のデコボココンビ(もちろん警部がボコ)として、とても目立つ存在であった
というのを、以前、人づてに聞いたことがあった。しかし、それは当然だろう。片や、
絶世の美女に、片や、年齢不相応の外見を持った人間(?)なのだ。さながら、美女と
珍獣といったところだったろうと思う。
「ええ、今ちょっと・・・」
僕が返すと、ゆっくりと一つため息をついて警部補は向かいに腰をおろす。
「どうしたんですか?なんか慌ててるみたいだけど。」
今度はこっちが尋ねると、「うーーーん」と困ったように唸っていたが、しばらくして
意を決したみたいに改まった様子になるとゆっくりと話しはじめた。
「小噺君。ツナマヨネーズ大福って知ってるかしら?」
たしかに知っている。隣の市で新しく市長になった人が、記念ということでその市の
名物として売り出したものだ。なんでもツナマヨネーズが大好物ということらしい
が、ツナマヨネーズ饅頭、ツナマヨネーズカステラと出現する中、さすがにツナマヨ
ネーズシェイクなるものの発売を耳にするにいたっては、僕としては、苦笑するしか
なかった。
「私の友達にね、最近変なので悩まされてるのがいるのよ。いたずら電話とか
不幸の手紙とか」
「そりゃまた古風な・・・・」
「でね、今度彼女の家に、差出人不明のおかしな小包が届いたってわけよ。」
「なるほど、それがツナマヨネーズ大福。」
「そう、それで、もしかしたらってんで私のところに持ってきたわけなんだけど・・・」
おいおいおいおい!!
「・・・机の上に置いといたら、どっかいっちゃった。」
そういうとペロッと舌を出す。思わず許したくなる自分が憎い。
「しかしそれって、ひょっとするとかなりヤバいんじゃないですか?」
「ひょっとしなくても、かなりやばい。」
今度は威張って答える。うう、僕の周りはこんなのばっかりか。
「そういうわけで、小噺君にも手伝ってもらいたいんだけど・・・・・」
しかし、僕が答える前に、一人の闖入者がやってきた。珍獣・・・もとい、武智虎次郎
警部だ。
「解けた解けた解けた!!解けたぞ、小噺君!!って、あれ?ときっち。」
"ときっち"(たまごっちとかけて最近そういうふうに呼びはじめた。警部は結構気に
入ってるらしい)なる緊張感のかけらもない呼び方をされた轟時子警部補は、一瞬い
やそうな表情を見せたが、すぐに諦めたらしく、僕に尋ねる。
「何なの、解けたって。」
「そ、それは今僕等がかかえてる事件のことですが・・・そ、そんなことより、本当なん
ですか?警部。」
僕等が今抱えてる事件。それはとある富豪が自宅で殺されていた事件である。剥製を
集めることが趣味だったその富豪は、その自慢の剥製たちに囲まれて、一人血の池の
中に横たわっていた。しかし、注目すべき点は、死体の脇に"しかし”と書かれた紙
が残されていたのである。
しかも、もう一つ注目すべき点は、その富豪は、とある犯罪組織のキーパーソンとして
我々、警察にマークされていたのである。ひょっとしたら、この事件からそちらの方の
尻尾も捕らえられるかもしれない。僕等がいつも以上に力が入るのも仕方のないこと
だった。
「その家なら聞いたことがあるわ、すごい種類の剥製を集めてるんでしょう。」
僕が説明をすると、轟警部補は鼻の頭をつまんで呟きはじめた。これは警部補の考え
るときの癖である。
「ええ、トナカイとか、ペンギンとか、アザラシとか、蛇とか、かなりの数の剥製があの
屋敷には置かれてたんですよ。しかし、警部、あの謎が解けたって言うのは・・・・」
僕が勢い込んで尋ねると、警部はにっこりと微笑んで答えた。
「まあ、犯人が分かったってのとはちょっと違うけど、少なくとも、あの"しかし”の
暗号の答えは間違ってないと思う。
(読者に挑戦・・・・暗号の意味を解け)
「解決偏の前に、小噺君の間違いをただそうと思うけど、あそこにあった剥製、さっき
トナカイと言っていたけど、あれは鹿だよ。それと、アザラシもアシカだ。しっかり
資料を読んでなかったな。」
警部にそのことを指摘され、僕は素直に謝る。続けて脱線しようとするそぶりをみ
せた警部だったが、轟警部補のほうが速かった。
「そんなことよりタケチ、暗号の意味は?」
一瞬さみしそうな表情を見せた警部(おそらく脱線したかったのだろう)だったが、
すぐに威厳を正すと(ちょっぴり滑稽である)ゆっくりと話しはじめた。
「注目すべきは、"しかし"と書かれた紙だ。あれは血の色に染まって真っ赤だった。
赤のなかにしかし。そういうふうに見てみると、自ずと答えはみえてくるだろ?」
「あ・・・」
轟警部補が驚きの声を上げる、しかし、僕はまだ分からない。なんか悔しい・・・
「小噺君、まだ分からない?"あか"のなかに"しかし”を入れてみるんだぜ。」
「・・・・・!!!!!」
あ しかし か ーーーー> あしか / しか
「おそらく、その二つの剥製のなかに何らかの鍵が隠されているだろう。被害者は犯人
の名ではなく、なにか大事なものの場所をあれで示したのだと思う。」
しかし、そんな警部の言葉に轟警部補はクギを差す。
「でも、伝える対象はだれだったの?」
「たしか、第一発見者の執事が、やけに剥製のことを慎重に扱わせようとしていた。
事実、俺たちもそのことがあって剥製にはあまり手をつけてない。犯人は、執事に
その大切なものを処分させたかったのではないかな。」
「何故、犯人が?」
「被害者が言うかな?同じ家にすんでたんだ、わざわざ死ぬときになってそのことを
伝える必要もないだろ。」
「第一発見者なら、そのメモを処分する暇があったはず。」
「いや、執事はそのメモに気づいてなかったんだ、だから、メモが見つかったとき
やけに驚いていた。しかも、剥製のことで騒ぎだしたのは、その後だったと思う。」
たしかに警部のいうとうりだ。
「何故、犯人がアシカとシカを探さなかったの?」
「あの富豪はあの日、スケジュールがびっちりだった。そんな時に時間におくれたりし
たら、ひょんなことから(屋敷に電話しても誰も出ない為)警察に連絡がいくかもしれ
ない。そんな危険をおかすより、仲間である執事に任せたほうが無難だ。」
「しかし、執事がヘマをしたわけね。」
「そのとうり、ただ、これは俺の妄想といってもいい。なんの証拠もないものだ、
でも・・・・」
「でも、アシカとシカの剥製にはなんらかの鍵が隠されているはずってわけね。」
美女と珍獣はにっこりと微笑みあった。しかし、後日、この妄想はあらかた正しかった
ことが証明され、犯罪組織も検挙される。
「それにしても、あなた達、この間も"しかし”のダイイングメッセージの事件扱って
なかった?」
その日の夜。僕と警部は轟警部補のマンションに招待された、轟警部補のお手製の
料理を頬張りながら警部はひとりごちる。
「案外、犯罪にもなんとか月間とかのキャンペーンとかあるのかもしれない。さしづめ
逆接(しかし)犯罪月間とかいうふうに。まあ、俺の超絶的な推理力によって解決でき
たんだから、とりあえず、俺って偉い!! しかししかししかし だなっ」
いきなり呟いた警部の言葉に僕と轟警部補は怪訝な顔をする。
「ちょっと、タケチ、今、なんて言ったの?」
「え?・・・・・しかししかししかしだけど・・・・・」
それでも、さっぱり分からない。そんな僕等を見ながら、自信をもってきっぱりと
警部は続ける。
「だからっ!!しかしを三回で自画自賛(しかしさん)・・・・なんちゃって・・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
あたりを静寂が支配する。しかし、その静寂を破ったのも警部だった。
「いててて・・・・腹が痛い。すごく痛い。ときっち、悪いけどトイレ貸して。」
轟警部補は呆れた様に首をすくめると「部屋を出て右」と言った。ところが、警部は
立ち上がって振り向くと、とんでもないことを口走った。
・ ・ ・ ・
「しっかし、名物に旨いものなしって本当だね、腹壊しちゃった。」
僕と轟警部補はお互い顔を合わせると、ゆっくりと呟く。そして、それは絶妙なタイ
ミングでハモった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「「 ツナマヨネーズの大福。 」」
次の日、轟警部補に付き添われて、警部は病院にいった。致死量の倍以上を飲んだ
患者がピンピンしているのを見て、医者の目が妖しく光ったとか光らなかったとか。
とりあえず,警部は二日後に元気に帰ってきた(何故、二日後!?)
<おわり>
(02月09日(月)15時31分07秒)
迷警部 武智虎次郎 登場
語られなかった物語 <浄化の理由>