『テーマ館』 第26回テーマ「さよなら/微笑み」


現実逃避デカの事件簿A 投稿者:ゆびきゅ  投稿日:04月03日(土)00時33分57秒


      「容疑者を連れて参りました、警部」
        耳障りな音を立てるドアの向こうに警部がいる...はずだった。薄暗い室内を見回すと、
      ブラインドから刺す淡い光も届かないスミの方で、何やらうごめくものがある。
      「け、警部? どうなさいました?」
        突然闇の中から私のふくらはぎほどもあろうかという太い腕が飛び出し、私の胸ぐらを掴んだ。
      「きっと助けに来てくれると信じてたぞ。ヤツラはあっちだ!早く追うんだ!」
        切迫した様子に押され、私の頬をかすめた警部の人差し指の先を追うと...
      「何やってんすか?」
        容疑者3人が、ドアのこちらで呆然としている。すでに警部は立ち上がり、ブラインドの向こう
      を眩しそうに覗いている。
      「す、すまん。さ、入ってくれ」こわばった笑みを何とか顔に貼り付け、私は3人を手招いた。
      「これが証拠だぁぁぁああ!」
        3人が椅子に座る間もなく、警部が叫び声とともにデスクに右のこぶしを叩き付けた。ヒィッ
      と怯える容疑者たち。振り上げた警部のこぶしの下には...何もない。
      「あ、あの、警部...」
      「これを見ろ」私の言葉も聞かず、警部は窓の方に歩み寄り、肩口から私に声をかけた。彼が
      指差すのは、白いブラインドの透間にたまった埃だ。
      「このブラインドを開けずに外に出ることは不可能だ。したがってこの部屋は密室。密室殺人
      なのだよ」歪めた口元が自信に満ちている。
      「あの、現場はここじゃないんですけど...」
        容疑者3人が立ち上がり始めている。「ちょ、ちょっと待って」
      制止する私の背後から、薄気味悪い笑い声がしたかと思うと、
      「その懐の拳銃を出す時間は貴様には残されてないぞ」という警部の声。
      慌てて振り返ると、そこには逆光を浴びた警部の大きなシルエットがピストルを構えている。
      「け、警部!やめてください!」黒い凶器を掴もうとした私の手はあっさりと宙を舞い、体勢
      を崩した私の耳元で銃声が...

      今日も私は警部を待っている。彼は敏腕で知られる刑事だ。

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