『テーマ館』 第29回テーマ「死にたくない」


自室と階段
夢と夕日 投稿者:はなぶさ  投稿日:09月11日(土)01時06分21秒 夜も更けてきたので、私は日課のように電話をかける。友達では なく、全く逆の人間に電話をかけることになっている。それは私 が存在し続ける限り続けられるだろう。 私は金銭に困ることがない。それは報酬でもあるし、賠償金でも あるし、浄財でもある。私は時間をかけて人のことを調べ尽くす。 ほとんどの人には粗があるものだ。私にだってもちろんある。 先週の夜に死んだ男は諦めのいい奴だった。連勝してきた男は弱 くなってしまうのだという。挫折を知らない奴が些細な事に挫折 するだけで心が跪いたり、自暴自棄になってしまうもんだ。現代 の奴等は多くが弱い。子供のころから茶番で勝ってきたような奴 等だからだ。勝たせてもらっているから悲しんでいるという奴等 は、いつも負けたいと願っていたりする。面白いものだ。負ける ための素養は培われているわけだ。 夜の勤めが終われば、朝から眠る毎日だ。私の悩みはこの朝から 始まる。何とも思っていないのに、白々とした中で眠っていると 色々な奴等が夢の中で泣いているからだ。知らない奴等が私の中 に入ってきて泣いている。私の心も自発的な死を願っているらし い。昼過ぎに起きたら汗びっしょりだった。 だが私は死ねない。まだまだ多くの奴等を跪かせ、諦めさせ、死 の味を口に含ませなければいけない。まだだ。私は対消滅を望ん でいるのだ。だからまだ、死にたくはない。自室の窓から夕日を 眺めそう思う。