第87回テーマ館「携帯」
時間差SOS (2/2) 夢水龍乃空 [2015/07/02 17:41:51]
「というわけなの」
「まるで怪奇現象ですね」
「ほんとよ」
女子寮のロビーで、小松怜未(れみ)は後輩の井倉美和(みか)を待ち伏せて、最近起きた奇妙
な事件の話をしていた。
小松は坂元の死体の発見者だ。
「おまけに坂元って身辺がキレイで、とても人に恨まれたり憎まれるようなタイプじゃないの
よね」
「被疑者不明ですか」
「大下さん困っちゃって。それで美和ちゃんに相談してるわけ」
「あ、謎は解けてなかったんですか」
「あらら、やっぱり美和ちゃんには簡単すぎたかな?」
「いえ、なかなか手が込んでいるというか、発想が異常というか」
大下警部は真面目な性格で知られたベテラン刑事だ。地道な捜査は得意なのだが、今回は苦
戦していたので、小松がこっそり井倉に助言を求めたのだった。
「まず、現場を誤認していますね」
「坂元の部屋じゃないのね」
「犯人の部屋でしょう」
「電話の聞き違いってこと」
「はい。当然、電話の直後に坂元さんの部屋は何事もありません」
小松は頷きながら聞いていた。
「坂元さんの部屋を偽装したのは、アリバイ工作です」
「じゃあ犯人は身近な人物?」
「すぐに捜査の手が及ぶ範囲だと、犯人は自分で考えたはずです。でも、被疑者が浮かばない
ということは、思い込みでしょうね」
「どういこと?」
「この犯人は、自分が思っているほど、坂もさんと親しくはないということです」
「それって、ストーカー?」
「かもしれませんし、よく行く店の店員とか、それだけかもしれません。とにかく、自分はと
ても親しいと思っていて、坂元さんも特に警戒する相手とは思っていなかった。その程度の関
わりはあったはずです」
「犯人の部屋に行ったのは?」
「適当な理由で、例えば新商品を試してほしいとか言って、近くまで誘い出したんでしょう。
最後は強引に連れ込んだ可能性もあります」
「だから警戒心は無かったと考えるわけね」
「はい」
そこまで聞けば、小松にも真相が見えた。
「坂元がよく立ち寄った場所にいて、その近くに住んでいる、電話の時間にアリバイがある男
を調べればいいのね」
「そういうことです。犯人は電話の内容で具体的な場所を言っていないことに気づき、アリバ
イに利用できると考える程度に知能のある人間です。注意してください」
「了解」
完
時間差SOS (1/2)
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