水に入る　投稿者：はなぶさ 　投稿日：08月02日(月)00時11分46秒


      あのトンネルを抜ければ緑の森が待っている。そう教えてくれた。
      森を抜ければ白い砂浜が待っている。それは、私も分かっていた。
      トンネルのひんやりとした空気を暑い風が細く流れて、私を誘う。

      私は一人だった。汗が私の体中を流れ落ちるのを感じても、何処
      か冷えている心を、太陽で焼き尽くすためにここに来た。Ｔシャ
      ツを脱ぎ捨てて、焼けた砂浜に座り込む。楽しそうな人が周りに
      いるけれど、そんなに多くない。ここはあまり知られていない所
      だから。だから私はここに来て、ここに座って海を見る。

      全身の毛穴から流れる汗は止まることを知らない。もしこれが血
      液だったら、もうとっくに出血多量だろう。

      空が赤くなる頃、周りの人たちが帰っていく。私のことを不思議
      そうな目で眺めて通り過ぎる。海が光って、まるで私を迎えに来
      たように誘う。光る海の裏側に、私の欲しかったものがありそう
      で、胸が焦がれる。私は立ち上がり、欲しいものを掴むため、海
      へ向かって歩みを進める。

      腰まで浸かって誰かに抱かれているような錯覚を覚えて、そのま
      ま私は進み続ける。

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