『テーマ館』 第28回テーマ「森/海」
「水の途中」へ
水の底、あるいは茂み 投稿者:はなぶさ 投稿日:08月25日(水)10時22分48秒
息苦しさが通り過ぎた頃、私は森の中に立っていた。目の前に広
がる茂みが私を優しく迎えてくれているようだ。髪の毛に触れた
ら滴り落ちる程に濡れていた。既に暗くなりはじめていた森を私
は焦りを感じずに、ただ立ち尽くしている。
ふと後ろから、あの老人が近づいてくる。ここはやっぱり未知の
森の近くの森なのだと理解して、老人に向かって話し掛けた。老
人は私が濡れ鼠であることに驚いたが、それには触れずに付いて
来くるよう目で促した。私は素直に付いて行き、たどり着いたの
は老人の住まいらしき小屋だった。二人とも何も言わず中に入っ
たら、彼女が寝ていた。
話を聞くと未知の森から逃げてきたのだそうだ。私は彼女が逃げ
られない理由を知っていた。それに、私は闘ったはずだ。それが
どうして簡単に。そう思っていると、彼女は目覚めて私と老人を
交互に眺める。そして、彼女の目に涙が流れ、それと同時に老人
も涙を流した。二人はじっと私を見て泣いていた。
次の瞬間私は未だ水の中にいることに気が付いた。彼女たちの姿
は水の向こうの幻影となって遠ざかる。消えかかった彼女は私に
向かってありがとうと叫ぶ。
私はそういうことかと納得しながら沈み行く。