『聴覚障害』誌 2005年7月号 掲載
国立特殊教育総合研究所
企画部総括主任研究官
藤本 裕人
聾学校や難聴学級の授業では、常に国語辞典を机の横など手の届くところに置いて、教科の学習や生活の中で分からないことばが出てきたときには、すぐに辞書を引いて、意味や使い方を身につけるということが行われてきました。このことは学校だけでなく、家庭訪問をしたときにも見受けられる光景です。テレビの横に国語辞典が置いてあり、生徒が文字放送などの中で、知らないことばを目にすると、辞書を引いてことばの意味を確認することが行われます。調べたいと思うとき、いつでも辞典があるという環境づくりの大切さを、痛感します。
今回の『新・手話辞典第2版』は、全日本聾唖連盟の『わたしたちの手話』や栃木県立聾学校・栃木県ろうあ協会の『手指法辞典』などを参考として登場した初版から10年を経る中で、
(1)新たな語句が追加されたこと、
(2)辞典のCD-ROM化が行われたこと
が大きな改訂のポイントとなります。語句が充実したこととCD-ROM化は、コンピューターを日常の道具として使う今日、「検索」作業に大きなメリットを生み出しました。
私もさっそく、CD-ROMを起動してパソコンにインストールを行い、CD-ROM化の威力を実感したしだいです。コンピューターの中に手話の語句のデータがインストールされ、いつでも手話の単語表現を調べることが可能な状況が生まれました。
ワープロソフトで文章を作成している途中であっても、『新・手話辞典』を小さめの画面で起動して手話の語句が確認できるのです。講義や講演の中で使う手話の単語表現を、原稿作成の段階ですぐに確認できるという簡便さが生まれました。調べたい手話の単語をすぐに視覚的に確認できる、ことばの習得の近道を手にしたような気持ちになりました。
活字の辞典は、ことばの成り立ちや動きが丁寧に解説されており、じっくりと手話の単語の学習ができます。
聴覚に障害のある児童生徒たちが、国語辞典で日本語の単語の意味を確認しコミュニケーションの力を広げていくことと同じように、手話の単語を身につけようとする人々にとっては、この手話辞典(CD-ROM)を使うことは瞬時に手話の単語表現を確認する手だてを得たと言えるでしょう。
昨今、聾学校に勤務する教職員の手話活用能力の向上が、課題となってきています。手話には、脈々と受け継がれてきた日本の伝統的な手話をはじめとして、日本語に対応した表現など、幅広い歴史と広がりがありますが、まずは手話にアプローチしていく一つのツールとして、この CD-ROM化された「新・手話辞典第2版」が威力を発揮できるものと期待しています。