横山知弘 平美穂子 竹村 茂
The Effect of Reading Ability and Vocabulary on Social Study Achievment in Deaf Students
T.Yokoyama, M.Taira, S.Takemura
筑波大学附属聾学校紀要 第14巻 1992(平成4年)3月 75ページ〜82ページ
2005/08/04〜
1.はじめに
都築・竹村は昭和61年度に「聾学校生徒の社会科アチーブに及ぼす読解力と語彙力の影響」(筑波大学附属聾学校紀要第9巻)について検討した。前回の研究は昭和61年度の在学生を対象にしており、すでに5年が経過し生徒も全員入れ替わったので、研究の妥当性を検証するために、同じ調査をもう一度試みることにした。
なお、この間都築は筑波技術短期大学に異動し、社会科の担当者も3名に増えたが、都築と連絡をとりあってできるだけ前回と同じ条件になるように条件を統制して行った。
2.高等部の社会科
筑波大学附属聾学校高等部普通科は、中学部の教育を基礎とし、普通高校の教育に対応した教育をめざしている。
本校高等部各学年は、校内進学者約20名と、外部から入学試験の選抜をへて入って来る外部進学者約10名という割合で構成される。本校においては、中学部以前の段階でも各部でそれぞれ選抜試験を受けているので、他の聾学校に比べて、生徒が精選されているという現実は否定しえない面がある。しかしながら、社会科に関する学力は、聾学校または普通校等の各校から生徒が入学してくるために著しく異なり、また学年が進むにつれ、その歪みはますます顕著に表れてくる。そこで、平成元年度より学年進行で社会科も習熟度に応じた学習になっている。
学科編成と使用教科書は表1・2の通りである。
表1に示されるとおり、「現代社会」が必修科目のため1年次で4時間行なわれている。2年次においては、世界史2時間、地理3時間の計5時間、3年次においては、日本史が4時間、世界史が2時間行なわれている。地理は、標準単位数が4単位であるが、本校では全体の学科編成上3単位となっている。
表1 学科編成
科目 | 標準 単位数 |
1年 | 2年 | 3年 |
現代社会 | 4 | 4 | ||
日本史 | 4 | 4 | ||
世界史 | 4 | 2 | 2 | |
地理 | 4 | 3 | ||
文系社会 | 3 |
表2 使用教科書(平成3年度)
1年 | 2年 | 3年 |
新 現代社会 (一橋) |
新訂地理 (東京書籍) 新高等地図 (東京書籍) 世界史 (東京書籍) |
世界史 (東京書籍) 高等学校 日本史 (学校図書) |
*昭和61年度は世界史は山川出版の『詳説世界史』 地理は二宮書店の『高校新地理』『高等地図帳』
「政治・経済」と「倫理」は「現代社会」でカバーできる面があるので、選択からはずし、他の科目は全科目を履修させている。社会科に関してはすべての科目の基本的な知識を身につけさせてから社会に出したいという考えである。
授業の進め方は普通高校と同じく、教科書を中心にしたものである。そのため、教師の側からは「教科書」の扱いが、生徒の側からは「教科書」が読めるということが問題になる。したがって、教師が生徒に学習内容をどの様に理解させるか、生徒はそれをどの程度受け入れる素地を持っているかという両者の関係が重要なこととなる。
我々が感じている社会科教育上の問題点は次の通りである。
「言語力」の問題が絶えず教科指導にまとわりついているが、社会に巣立って行く時期が近づいている高等部段階の生徒に対して、「言語指導」そのもののみに終始することはできない。
教科に出て来る一つ一つの用語を詳しく指導すれば、1時間の授業の中で消化できるのは、数語程度である。そのペースで行なえば、教科書1ページを終えるのに1カ月かかってしまう。こうした指導は、本質的には大変重要な側面を持っているが、現実に学習を進めなければならないので、語句の学習は自宅学習で行なわせたり、プリントを用いるなどの手立てをしている。
聴覚障害児の社会科の学習を規定する要因は数多く考えられる。例えば、
(1)言語力
(2)知的好奇心
(3)学習態度
などがあげられる。日々の経験からすれば、決定的な要因が一つあると考えるよりも、複合的な要因によるものと考えた方が実際に即している。
そこで、社会科指導における言語力の影響を明らかにするための基礎的な作業として、社会科のアチーブに及ぼす読解力と語彙力の影響を検討した。社会科のアチーブを見るためには標準学力検査を使用するという方法が考えられるが、現在高等学校用の標準化された学力検査がないので、定期テストの成績を用いた。
読解力は中学校用に標準化された読書力検査の下位項目を使用した。
語彙力検査は一般的な語彙というよりも「社会科」に関連した教科語彙的な面から独自のものを作成した。
3 方法
(1) 対象
本校高等部本科に在籍する生徒1年生32名、2年生33名、3年31名を対象とした。病気・クラブ活動等で欠席した生徒は検討の対象から外した。
(2) 検査材料
今回は、読解力を見るために教研式読書力検査(中学校1から3年用)の下位検査である「読解力」を用いた。この検査は練習課題を行なった後に本課題を17分で行うものである。
表3に示されるようにこの読解検査は、250字程度の文章について「主題」「文脈」「要点」の3つの下位領域から各々の問題が構成されている
基礎語彙力調査は、昭和61年の調査の時に作成したものをそのまま用いた。社会科全般の基礎的な語彙力を見るために、語句の正しい意味を選択肢法で問うものである。基礎語彙調査作成にあたっては、『角川類語新辞典』(浜西正人・大野普)を利用した。この辞典はあらゆる語を10進法で体系的に意味分類して配列したものである。まず全体を
0.自然
1.性状
2.変動
3.行動
4.心情
5.人物
6.性向
7.社会
8.学芸
9.物品
に分類している。その中の社会では
70.地域
71.集団
72.施設
73.統治
74.取引
75.報道
76.風俗
77.処世
78.社交
79.人倫
の10の領域に下位分類している。各々の領域に分類されている語は、数は異なるが、10の各領域からランダムに10個取り出し、計100語選択した。
表4には「地域」の領域の問題例が示されている。いずれも4選択肢の中から正しい意味のものを1つ選ぶものである。
社会科のアチーブは、1学期の中間・期末の定期テストの平均得点とした。定期テストは習熟度別の学習グループの学習内容に即した形で、平均点60点になるように作成されている。
表3 教研式読書力検査
第3部(読解力)
れんしゅう(正しいものの記号を解答欄に書きいれる)
おもちのかびの中で、青と赤は無害です。でも黒かびはとてもきけんです。黒いこなが散って耳へでもはいると、耳がきこえなくなります。こんなのはやきすてるにかぎります。
かびをふせぐには、しょうちゅうでおもちの表面をふいてビニールでつつみ、冷蔵庫に入れておけばだいじょうぶです。
[A]どんなことについて書いてありますか。
ア かびのふせぎかた
イ かび
ロ 黒かび
ハ おもち
答〔 〕
[B]「こんなのは」は、なにをさしますか。
ア 赤いかび
イ 黒いかび
ロ 青いかび
ハ ビニール
答〔 〕
(C)かびがはえないように冷蔵庫に入れるまえにはどうしますか。
ア しょうちゅうにつける
イ 黒い部分をやきすてる
ロ ビニールでおもちの表面をふく
ハ しょうちゅうでふきビニールでつつむ
答〔 〕
*原文は縦書き、すべての漢字にふりがながついている。
表4 社会科基礎語彙調査の問題例
問 次の語の意味として正しいものを1〜4から選び、番号で解答欄に記入しなさい。
700 職域
1.仕事のできる範囲。
2.職場のある地域。
3.職場と地域の関係。
4.職業生活のできる年齢。
701 遺跡
1.遺言状。
2.過去に戦争や建造物のあった場所。
3.船の通った跡。
4.遺伝子のこと。
702 出所
1.出口。
2.出口から出てきた所。
3.出てきたその元の場所。
4.台所。
703 未開地
1.まだお店の開いていない商店街。
2.まだ開拓されていない土地。
3.新しく開墾された土地。
4.新しく開発された商店街。
704 領土
1.王様の一番の家来
2.土地をたくさん持っている人
3.お金を出して買った土地
4.ある国が支配している土地
705 無医村
1.医者が嫌いな村
2.医者がいない村
3.医者がいらない村
4.大きな病院の無い村
(3) 手続き
読解力検査は、制限時間を17分とし、基礎語彙調査は約30分とし、各々の社会科の時間を利用して各学習グループ別に行った。授業の都合等で一斉に調査を行うことができなかったので、一つでも検査を受けなかった生徒については、統計処理の対象から外した。
(4) 結果の処理法
本研究は、社会科アチーブに及ぼす読解力と語彙力の影響を検討することを主眼としているので、独立変数を中間・期末テストの平均得点とし、従属変数を読解力の得点と社会科基礎語彙の得点とした。そして、両者の相関係数を算出することで、それらの相対的関係を検討した。特にその関係が、社会科の科目別によってどの様に異なるかを見ることにより、科目に及ぼす言語力の影響を考察し、今後の社会科指導の一つの指針を得たいと考えた。データはパソコンに入力し、統計分析ソフトを使用した。
4 結果
(1) 読解力について
今回は、教研式読書力検査の下位検査である「読解」を用いた。この下位検査は「主題」「文脈」「要点」の3つの領域からなる。
この読解力は、主題・文脈・要点の合計点であり、各8点、計24点である。表5に読書力検査の結果を得点で学年別に示す。( )の中は標準偏差を示している。
合計点からみると、本検査(中学校用)の65%は達成されている。表5−1に示されるように、昭和61年度の検査では1年生が15.7、2年生が15.8、3年生が15.1で学年間に有意差がみられなかった。しかし、表5−2に示されるように平成3年度の検査では3年生がやや落ち込んでいる。他の教科でも平常の学習指導の中で3年生の落ち込みは指摘されている。
次に、各々の学年において「主題」「文脈」「要点」「全体(読解力=3つの全体得点)」の相関関係を見てみる。表6にその結果を示す。
− 昭和61年度の検査 −
主題と文脈の関係では1年生に相関が認められた。3年生において主題と要点、文脈と要点との間の関係は認められない。主題と全体、文脈と全体においては、各学年とも高い相関が認められる。要点と全体では1・2年生に相関が認められた。この結果に示されるように、3年生において「要点」が「主題」「文脈」とは独立した側面を持っていることが推察される。
− 平成3年度の検査 −
主題と文脈の関係では1年生に相関が認められた。これは昭和61年の検査と同じである。学年が進行するにつれて主題と文脈の関係がなくなるということはありえないから、これは偶然の一致であろう。
高等部の生徒の学力は学年による差が大きい。地域に根ざした学校ではなく、全国から選抜しているということが学年による学力差の原因であろう。ここ十年来の高等部の入試の状況をみても、外部からの志願者がおおく競争率の厳しい年と、そうでない年と波がみられる。この学年による学力差は必ずしも高等部段階で生じるものではない。幼稚部の入試、あるいは小学部に進学する段階でのインテグレーションで生じることもあるようである。
主題と全体、文脈と全体が各学年とも高い相関を示しているのは昭和61年の検査と同じである。また、3年生において「要点」が「主題」「文脈」とは独立した側面を持っていることも昭和61年の検査と同じである。
表5−1 読解力の学年別結果
(昭和61年度)
1年 | 2年 | 3年 | |
主題 | 4.5(2.13) | 4.6(2.13) | 4.5(1.98) |
文脈 | 4.8(1.91) | 4.9(1.95) | 4.4(1.51) |
要点 | 6.4(2.05) | 6.3(1.88) | 6.2(1.08) |
読解力 | 15.7(5.27) | 15.8(5.05) | 15.1(4.19) |
表5−2 読解力の学年別結果
(平成3年度)
1年 | 2年 | 3年 | |
主題 | 5.0(2.02) | 5.4(1.82) | 4.6(1.55) |
文脈 | 5.0(1.63) | 5.3(1.53) | 4.5(1.27) |
要点 | 6.9(0.94) | 6.4(1.34) | 6.3(1.01) |
読解力 | 16.9(3.89) | 17.0(3.86) | 15.4(3.10) |
*主題が 8点 文脈が 8点 要点が 8点 合計24点
*( )の中は標準偏差
表6−1 「主題」「文脈」「要点」の相対的関係(昭和61年度)
1年 | 2年 | 去年 | |
主題×文脈 | 0.632 | 0.414 | 0.397 |
主題×要点 | 0.416 | 0.579 | 0.199 |
主賓×全体 | 0.878 | 0.859 | 0.819 |
文脈×要点 | 0.416 | 0.339 | 0.179 |
文脈×全体 | 0.825 | 0.740 | 0.705 |
要点×全体 | 0.762 | 0.777 | 0.582 |
表6−2 「主題」「文脈」「要点」の相対的関係(平成3年度)
1年 | 2年 | 去年 | |
主題×文脈 | 0.642 | 0.459 | 0.485 |
主題×要点 | 0.528 | 0.649 | 0.513 |
主賓×全体 | 0.916 | 0.877 | 0.866 |
文脈×要点 | 0.412 | 0.438 | 0.413 |
文脈×全体 | 0.854 | 0.763 | 0.787 |
要点×全体 | 0.691 | 0.825 | 0.751 |
(2) 社会科基礎語彙力について
@全体得点における学年変化
社会科基礎語彙力検査は、100点満点であり、全体の平均正答率は昭和61年は59.3%、平成3年度は66.5%であった。この値から見れば、天井効果を示しておらず、ほぼ妥当な問題であると言えよう。表7に学年別に平均正答率を示している。
学年間の差を検定したところ、昭和61年度では1年生と3年生との間に有意差がみられた。1年生と3年生とでは、学習経験年数に差がみられることから、一応、学習効果がみとめられると言えよう。ところが、平成3年度については、逆に1年生の成績がよくなっている。統計的に有意ではなかったが、これは前述したように学年による波のもたらすものであろう。なお、平成3年度の3年生は特に小学部時代より学習の困難な学年といわれている。
Aジャンル別の比較
今回の基礎語彙力調査は、10の領域から、各々10個ずつランダムに選んで作成した。表7はジャンル別の平均正答数も示している。
1年生と3年生とで正答数に約10点の差がみられるが、昭和61年度と平成3年度とでは意味が逆である。通常ならば昭和61年度のように学年の進行に従って語彙力は増加していくものであろうが、平成3年度の3年生は特異な学年なのでこれはあてはまらない。
昭和61年度の学年の場合、学年と領域の相互関係をみた場合、極端な差はみられず、すべての領域で3年生が1年生を上回っている。平成3年度の場合、逆にほとんどの領域で1年生が2年生を上回っている。
いずれの検査のどの学年でも「施設・処世・地域・集団」が得点がとりやすい傾向にある。学力の低い学年の場合(昭和61年度の1年生・平成3年度の3年生)「社交・人倫・取引」といった領域の語彙が他の領域の語彙よりも得点が低い傾向にある。
具体的な物を指し示す語彙は理解しやすく、抽象な語彙が理解しにくいということであろうか。ただし、各領域10個の語彙しか検査していないので、断定的なことはいえない。
B社会科基礎語彙力と読解力との関係
読解力は「読書力」の一部であり、「語彙力」も読書力の一部である。したがって、読書力が高ければ、そこに含まれる「読解力」「語彙力」も高いことが予想される。
今回扱った「語彙力」は、「社会科」に関するものを取り上げたので、社会科基礎語彙力と読解力がどの様な関係にあるのかを検討してみた。その結果を表8に示す。
− 昭和61年度の検査 −
1年生においては、基礎語彙力と主題、基礎語彙力と読解力(全体)、2年生においては、基礎語彙力と読解力(全体)との間に相関がみられた。3年生においては基礎語彙力と文脈・要点との関係は、他の学年に比べて低かった。
− 平成3年度の検査 −
どの学年においても、基礎語彙力と主題、基礎語彙力と読解力(全体)との相関が基礎語彙力と文脈、基礎語彙力と要点との相関よりも高かった。
表7−1 社会科基礎語彙調査の
学年別結果(昭和61年度)
1年 (N=30) |
2年 (N=30) |
3年 (N=28) |
|
70. 地域 |
5.6(1.85) | 5.9(1.41) | 6.3(1.09) |
71. 集団 |
5.1(2.90) | 5.7(1.98) | 6.4(4.81) |
72. 施設 |
7.1(2.07) | 7.3(1.78) | 7.8(1.66) |
73. 統治 |
5.3(2.65) | 5.7(2.04) | 6.2(1.95) |
74. 取引 |
4.6(2.18) | 5.3(1.94) | 5.5(2.15) |
75. 報道 |
5.4(1.92) | 6.2(1.91) | 6.7(1.70) |
76. 習俗 |
5.8(2.01) | 6.6(1.79) | 6.3(1.55) |
77. 処世 |
6.0(2.66) | 6.9(2.13) | 7.7(1.25) |
78. 社交 |
4.4(2.36) | 5.1(1.97) | 5.8(1.44) |
79. 人倫 |
4.8(2.58) | 5.6(1.59) | 6.7(1.44) |
全 体 | 54.1 (21.42) |
60.0 (17.98) |
65.5 (16.85) |
*( )は標準偏差
表7−2 社会科基礎語彙調査の
学年別結果(平成3年度)
1年 (N=30) |
2年 (N=30) |
3年 (N=30) |
|
70. 地域 |
7.9(1.30) | 6.9(1.37) | 6.9(1.63) |
71. 集団 |
7.1(2.02) | 5.9(2.05) | 6.0(2.32) |
72. 施設 |
8.2(1.86) | 7.6(1.43) | 7.4(3.59) |
73. 統治 |
6.7(1.78) | 6.2(2.45) | 6.1(2.02) |
74. 取引 |
6.3(2.09) | 5.4(2.36) | 5.5(2.29) |
75. 報道 |
6.9(1.81) | 6.5(1.75) | 6.0(2.16) |
76. 習俗 |
7.4(1.90) | 7.0(1.83) | 6.5(1.94) |
77. 処世 |
7.9(2.01) | 7.7(1.78) | 7.0(2.37) |
78. 社交 |
6.3(2.41) | 6.4(2.08) | 5.6(2.31) |
79. 人倫 |
6.7(2.07) | 5.7(1.97) | 6.0(1.92) |
全 体 | 71.2 (15.59) |
65.3 (13.97) |
62.9 (17.85) |
*( )は標準偏差
表8−1 基礎語彙力と読解力
との関係(昭和61年度)
1年 基礎語彙 |
2年 基礎語彙 |
3年 基礎語彙 |
|
主題 | 0.821 | 0.602 | 0.707 |
文脈 | 0.586 | 0.554 | 0.169 |
要点 | 0.657 | 0.630 | 0.380 |
読解 | 0.842 | 0.747 | 0.633 |
表8−2 基礎語彙力と読解力
との関係(平成3年度)
1年 基礎語彙 |
2年 基礎語彙 |
3年 基礎語彙 |
|
主題 | 0.781 | 0.798 | 0.617 |
文脈 | 0.627 | 0.565 | 0.598 |
要点 | 0.420 | 0.704 | 0.512 |
読解 | 0.770 | 0.842 | 0.720 |
C科目の成績と読解力・基礎語彙力との関係
次に本稿の主題である科目の成績と読解力・基礎語彙力との関係をみる。
ここでは、各科目と読解力の各下位検査(主題・文脈・要点)の得点、及び読解力(全体得点)と社会科基礎語彙力との相関関係を検討する。その結果を表9に示す。
─ 昭和61年度の検査 ─
1年生の「現代社会」では「主題」「読解力」「基礎語彙力」との間に高い相関がみられた。
2年生の「地理」及び「世界史」では、顕著な関係は認められなかった。
3年生の「日本史」「世界史」ともに顕著な関係は認められなかった。「世界史」「日本史」において、文脈との間に負の相関がみられるのが目立つ。
─ 平成3年度の検査 ─
前述のように平成3年度から全学年・全教科習熟度別学習になっている。従って、定期テストの問題は学習グループの習熟度に応じて平均60点になるように作成されているので、読解力・語彙力との相関は当然低くなる。昭和61年度の検査との純粋な意味での比較はむずかしい。相関をみる意味も自ずと違ってくる。
1年生の「現代社会」では「主題」「基礎語彙力」との間にやや相関がみられた。
2年生では「地理」に負の相関がみられるのが目立つ。2年生の「世界史」では「主題」「読解力」「基礎語彙力」との間にやや相関がみられた。
3年生の「日本史」では「主題」「読解力」「基礎語彙力」との間にやや相関がみられた。「世界史」では相関は認められなかった。
表9−1 社会科の各科目の成績と
読解力・語彙力の相関係数表
(昭和61年度)
現代 社会 |
地理 | 世界史 | 日本史 | 世界史 | |
(1年) | (2年) | (2年) | (3年) | (3年) | |
主題 | 0.775 | 0.190 | 0.410 | 0.421 | 0.482 |
文脈 | 0.400 | 0.189 | 0.518 | -0.052 | -0.211 |
要点 | 0.660 | 0.323 | 0.437 | 0.159 | 0.182 |
読解 | 0.782 | 0.286 | 0.570 | 0.288 | 0.345 |
語彙 | 0.902 | 0.479 | 0.597 | 0.532 | 0.612 |
表9−2 社会科の各科目の成績と
読解力・語彙力の相関係数表
(平成3年度)
現代 社会 |
地理 | 世界史 | 日本史 | 世界史 | |
(1年) | (2年) | (2年) | (3年) | (3年) | |
主題 | 0.560 | -0.328 | 0.479 | 0.617 | 0.252 |
文脈 | 0.116 | -0.146 | 0.388 | 0.588 | 0.316 |
要点 | 0.372 | -0.381 | 0.397 | 0.395 | 0.032 |
読解 | 0.479 | -0.344 | 0.516 | 0.678 | 0.266 |
語彙 | 0.581 | -0.279 | 0.503 | 0.780 | 0.501 |
5 考察
前回及び今回の調査では、科目の成績と読解力・基礎語彙力との関係を探ろうとした。
2度の調査から得られた一番大きな結果は、学年による力の差が予想以上に大きいということであった。学習を重ねていけば力が向上すると思われる語彙力で、平成3年度の調査では、統計的に有意とはいえないが、1年生の方が3年生より成績がよかった。
このような学年による学力の差をもたらす理由は慎重に考える必要がある。
「地理」は、昭和61年度の調査でも平成3年度の調査でも全体に読解力・語彙力との相関が低かった。「地理」の場合、語彙力よりも視覚的理解が成績に大きく関与していることが考えられる。平常の授業中の様子をみていると、読解力・語彙力がなくても授業態度がまじめで学習に熱心な生徒はよい成績をとっている。これらのことから地理の場合は学習内容が比較的読解力・語彙力に依存せず学習態度が成績に直結していると思われる。
一方、現代社会や世界史・日本史の場合は教科内容の理解にまず読解力・語彙力が必要とされるので、読解力・語彙力のある生徒は努力しなくてもある程度の点はとれてしまうという面があるのではないかと思われる。
試みに習熟度別学習が行われている平成3年度の現代社会について、「イ」「ロ」「ハ」別に読解力・社会科基礎語彙力との相関をとってみた。(習熟度が高い順に「イ」「ロ」「ハ」と学習グループを分けている。)
表10 読解力・社会科基礎
語彙力と現代社会との相関
(平成3年度)
イ | ロ | ハ | |
読解力 | 0.285 | -0.222 | 0.473 |
基礎語彙力 | -0.155 | -0.487 | 0.873 |
「ハ」グループの場合、学力そのものがかなり低いので、読解力・社会科基礎語彙力がそのまま成績に結びついていると思われる。
一方、「イ」や「ロ」のグループの場合、読解力・社会科基礎語彙力との関係よりも、学習態度の方が成績と関連が高いと考えられる。
6 今後の課題
今回は1学期の中間・期末テストのデータのみを参照したが、社会科のアチーブの妥当性を高めるために、年間5回(1・2学期の中間・期末、3学期の期末)のテストの成績でもう一度検討してみたい。
また、学習態度が大きな要因になると予想されるので、学習態度の評価を行い、その結果と社会科のアチーブとの関連性を検討することも一つの課題と考えている。