▼Dominator act.1 |
「なんでアンタがそこに居るのよ……」 早朝の閑散とした街路を駆け抜けるルノーの助手席で、アスカが低く呟いた。 「ん? どうかした?」 運転に忙しいミサトが聞き返す。 「何でもないわ」 そう言い返して、アスカは再び窓の外に流れる朝の街並みを眺める。 狭い脇道の路肩に寄せて停まっていたロータス。 一瞬視界を横切っただけの小さなオープンカーを見つけたのは、鍛え抜かれたアスカの動体視力の成せる業と言って良いだろう。前を向いて運転していたミサトは、そこに車が停まっていた事にも気付いていない。 しかしアスカの目は、そこに乗っている人物の姿まではっきりと捉えた。 あの車は、加持が乗っていたのと同じ形、同じ色。 運転席には髪を後ろで結んだ頭しか見えなかったが、アスカの目は絶対に加持を見間違えたりはしない。 問題は、助手席に座っていてこちらを振り返った人影。 その横顔も、アスカが良く知る人物。 そこに居るはずの無い、少年……。 |
「あーやっと寝られるわ。シャワー先に使って良い?」 「良いわよ。本部で浴びてきたから、そのまま寝る」 「そう。ありがと」 マンション脇の狭い通路に勢い良く突っ込んで、そのまま駐車スペースめがけてフルブレーキを踏んだ車体は、派手なスキール音と共にスピンターンを決めて停まった。 「お疲れさん♪」 機嫌良く車を降りて、ミサトが先に立って部屋へ戻る。 その間も、アスカは先程目撃した光景をどう考えれば良いのか、ずっと思いあぐねていた。 「ただいま……っと、シンちゃんまだ寝てるわね」 起きるにはまだ時間が早い。そんな時間に帰ってくる二人を出迎える者が居ないのは当然だ。 薄暗いままのダイニングで、ミサトは思い出したように小声になった。 「そうだ、なんか食べる?」 「いらない。食欲なんて無いわよ」 「そう」 元々深夜までかかる予定だったシンクロテストの再試験は、わずかな休憩を挟んで明け方まで続いた。 終わらなかった原因は、テストを受けるアスカ自身が安定しないせいだった。 朝まで付き合わされたミサトもたまらないだろうが、アスカはそれ以上に心身ともに疲れ果てていて、今すぐベッドに倒れ込みたい気分だった。 「ぷはーーっ」 辿り着くが早いか冷蔵庫から缶ビールを取り出したミサトは、たて続けに二本飲み干して風呂場へ向かった。 物音に目を覚ましたのか、専用の冷蔵庫からペンペンが姿を現す。 腹が減っているらしく、普段はたいして懐かないアスカの周りをしきりと歩き回って鳴く。 アスカはキッチンでペンペンの為の餌を用意してやりながら、流しや食器棚を確認する――が、間違いなく何処も使った形跡が無い。 出された餌をガツガツ平らげるペンペンの様子も、一食抜かれたものと思えば合点がいく。 風呂場に流れるシャワーの音を聞きながら、アスカはゆっくり足音を忍ばせてシンジの部屋に向かった。 扉の前で聞き耳を立てるが、人の気配がしない。 もしシンジが居たとしても、起こしに来たと言えば良いだろうと考えて、思い切ってドアを開けた。 「……やっぱり、居ない」 やはり先程の光景は見間違いではなく、昨日は一人で先に家に帰ったはずのシンジがここに居ない。 シャワーの音が止まった。 アスカはミサトにはシンジの不在を告げず、そのまま自分の部屋に戻った。 |
アスカは自室の扉を背に座り込んだまま、シンジを待っていた。 ラフな部屋着に着替え、クッションを膝に抱えて頭を引き戸に押し付ける。ベッドに横になって耳を澄ませていたら、とも思ったが、寝てしまいそうなので座って待つ事にしたのだ。 しかし、薄い引き戸に背をもたせたままでも、うつらうつらと睡魔と闘う羽目になる。 なかなか進まない時計の秒針を睨み付けるように目を見開いているのだが、気が付くと視界が暗くなる。 何度首が折れただろう。 もしかしたら、シンジはこのまま帰ってこないで学校へ向かう気かもしれない……サードチルドレンの不在に気付いているのは自分だけだろうか? ミサトが気付いていないのはともかく、ガードの方ではロストしたと報告が有っても良さそうなものだ。 そこまで考えて、やはり加持がカギなのだと気付く。 あの夜自分にそうさせたように、チルドレンの警護の目を誤魔化して空白の時間を作る事など、加持にとっては容易い事だろう。だとすれば、加持が望んでシンジと二人で居ると言う事になる。 あの、加持が。 「どういう事よ……」 考えている内に目が冴えてくる。 それは最悪の想像であると同時に、アスカ自身、奇妙な興奮を覚えずには居られない妖しい妄想だった。 |
三十分ほどして、ようやく玄関の自動ドアの微かな作動音が聞こえた。 「やっと帰ってきた……」 普段なら、学校へ行く準備の為に起き出すような時間だ。 足音を忍ばせて、部屋に戻ろうと廊下を歩く音を背中ごしに聞く。音を立てないようにゆっくりと戸を開け、そして閉める、微かな音が続いた。 アスカは立ち上がった。 しかし、自分は何を確かめようとしているのだろう? 何を確かめれば納得するのだろう?……と、引き戸に掛けた手が止まった。 昨日、シンクロテストが終わったシンジを加持が迎えに来た。それはアスカも目にしている。 普段なら仕事を終えるミサトと共に車で帰宅するところだが、アスカに付き合ってミサトも残業だったから、ちょうど仕事を終えた加持が呼ばれたのだ。 そのまま家に送り届けるのが加持の役割。ただそれだけ……だった筈だ。 しかしアスカは今朝見た光景から、全く別の結論を導き出していた。 加持の隣りに誰かが立つ場所が有るとするならば、そこは自分が占める筈の場所なのだ。 無意識に、下腹部を手で覆う。 あの日の痛みと、焼け付くような熱さが甦る。 「アンタがそこに居る資格なんて、無いわ」 加持を独占しようと思った事は、無い。 そんな事が出来るとも思っていなかった。 しかしミサトを始め他の誰か――オトナのオンナ――がその場所を一時的に占める事は許せても、シンジがそこに居る事など考えたくも無い。 アスカはそっと戸を開け、リビングの向こうのミサトの部屋を伺う。徹夜の残業明けで今日は午後出勤となったミサトは、もはや深い眠りの底だろう。 向かいのシンジの部屋からも、物音はしない。 狭い廊下を横切り、横開きの戸に手を掛ける。 それでもまだ、アスカは迷って居た。 自分は何を確かめる気なのか? 本当にそれが知りたいのか? 知ってどうすると言うのだ……その時、シンジの部屋から聞き慣れた目覚ましの音が聞こえた。 頭に血が上り、一気に戸を開け放つ。 「目覚ましが鳴った瞬間にもう着替えてるって、なんかおかしくない?」 枕元の目覚ましを手に凍り付いたように振り返ったシンジの顔は、一瞬で青白く血の気が引いていた。 それを見下ろすアスカの冷たい視線。 アスカが投げかけた声は小声だったが、そこに込められた厳しい追及の音色は鋭くシンジの耳を突いた。 「か……帰ってたんだ、おはよう」 取り繕うような笑顔を浮かべるシンジの目が、泳ぐ。 アスカは廊下に首を突き出して再びリビングの向こうを伺った。今の物音にミサトが目覚めた気配は無い。 ゆっくりと、シンジの部屋の戸を閉める。 四畳半にも満たない部屋は、元は納戸として用意されたスペース。窓も無いような狭苦しい部屋だ。 アスカの放つ殺気にも似た怒りの色に、シンジは気圧されたように一歩下がるが、それ以上距離が取れる間取りでは無かった。 「チルドレンが朝帰りとは大胆よね。どこ行ってたのよ」 「……どこって」 シンジが一つ、息を呑むように喉を鳴らす。 「い……今、起きたとこだよ」 平静なまま嘘を吐ける性格では無いのだ。 「はんっ」 シンジの首元、薄い制服の襟をアスカが掴んだ。 そのまま力一杯引き寄せる。ボタンがちぎれ、乱暴なその勢いにシンジの膝が砕けそうになる。 アスカは体勢を崩したシンジを半ば持ち上げるように襟を掴み直し、泳ぐシンジの目を覗き込む。 「相変わらず、ウソが下手ね」 噛み付くようなアスカの勢いに、シンジは精一杯首を竦めて身を縮めた。 揺さぶられたシンジの髪が放つ、匂い。 トニックシャンプーの芳香と、微かな煙草の匂い。 そして、雨に濡れた夜明けの木々が放つであろう香り――加持の匂いだ――とアスカは確信した。 一瞬で昨夜のシンジが辿ったストーリーを思い描く。 「どこ行ったのよ……ホテル? 加持さんち? それとも車の中かしら」 想像されたその光景は、苦い。 自分にだけ許された特別な筈の一夜の記憶。 その断片をシンジが得たという可能性は、とうてい許せるモノでは無い……しかし男同士の加持とシンジの間でそんな事が起きる可能性がどれだけ有るのか? アスカは確かめる方法を思い付いた。 「な……なに言ってるのか、わかんないよ」 その言葉が終わる前に、アスカはドンと胸を突き飛ばした。容赦無い一押しにシンジはベッドの上にしりもちをつく。 シンジの顔を見下ろしながらアスカが言い放つ。 「首に痕が付いてる」 はっとしてシンジが目を見開く。そして慌てて首筋に手を当てた瞬間、アスカの顔が歪んだ。 「ウソつく時に目が揺れる癖、直した方が良いかもね」 「くっ……」 騙された、罠に嵌まったと理解したシンジの顔が、見る見る赤くなる。 「アスカには関係無いだろっ」 ようやくシンジが開き直った。関係無い……そう断じるシンジの不貞腐れたような顔。 そして一息の間を置いて、下から睨み返すような目付き。 「関係無いですって?」 込み上げる怒りに目が熱くなる。視界が微かに揺れるのも血圧が上がったせいに違いない。 眼底が痛む程に興奮しているのに、思考は静かに張り詰めた。エヴァの搭乗者としての訓練は、狂おしい程の闘争心と冷静な判断力を同時に持ち合わせる事を要求していた。 だから今も、慎重に間合いを計るアスカの頭脳は、至って醒めている。 冷たい眼光で見下ろすアスカに対して、意を決したようにシンジが立ち上がる。 アスカがシンジに再び掴み掛かろうとした刹那、ダイニングに置かれた電話が鳴った。 一瞬動きを止める、二人。 先に動いたのはシンジだった。 「逃げる気?」 短く叫んだアスカを残して、シンジは廊下へ走った。 |
シンジの危地を救ったかに見えた一本の電話は、その実、新たな窮地の始まりに過ぎなかった。 電話が呼んだのはもちろんシンジではなく、ミサトだ。 シンジはダイニングで電話を取り、そのまま子機を持ってミサトの寝室を伺う。 アスカもシンジを追ってリビングに出る。 寝惚けた声で電話に応対するミサトの声が聞こえた。 それを心配そうに覗き込むシンジが、ふと振りかえる。 腰に手をあてたアスカは、依然厳しい目でシンジを睨み付けたまま視線を離さない。 「あーあ、ついて無いったらありゃしない」 濡れたまま眠ったせいでぐしゃぐしゃに乱れた髪を掻きながら、ミサトが部屋から出てシンジに電話を返す。 冷蔵庫を開いてミネラルウォーターを飲むと、シンジとアスカに向き直って告げた。 「悪いけど今から待機になるわ。私は本部へ行くけど二人はここに居て」 「ここって……家で待機なんですか?」 ごく簡単なミサトの説明によれば、戦闘待機のアラート(警戒体制)では無く、政治的な意味合いのコーション(注意喚起)だと言う。 諜報や警護といった部署に動員が掛かり、外部への警報発令は無いが作戦課も待機となった。 「多分何も無いと思うけどね〜、なんか有ったら車回すわ。だからシンちゃん今日は学校休んでね。アスカは寝てても良いけど、連絡入ったら五分で家を出られるようにしといて」 そう言い残し慌ただしく着替えを済ませると、ミサトは再び本部へ戻った。 取り残された二人……制服姿のシンジと、ラフな格好のアスカ。その対比自体は珍しいモノでは無い。 この時間ならいつも、先に起きたシンジが家事をしながらミサトやアスカを起こすのだから。 しかし、二人の間の空気は張り詰めていた。 一度は顔を出したペンペンも不穏な空気を読み取ったのか、再び巣箱になっている冷蔵庫へと閉じこもる。 ダイニングではコーヒーサーバだけが、平穏な朝と同じようにセットされた時刻通りにコーヒーを淹れ始める。 先に口を開いたのは、アスカだった。 「何でアンタが」 「アスカには関係無いだろっ」 間髪入れずシンジが言い返す。 まるで問い詰められる事を予期していたような口振りだった。 思いがけない語気の強さに一瞬アスカが二の句を次げないで居ると、シンジはさっさと踵を返した。 「どこ行くのよ」 「自分の部屋」 背中に≠アれ以上関わり合いたく無いと言う無言のアピールを示しつつ、足音も荒く自室へ向かいピシャリと扉を閉める。 普段なら、そんな態度は他人の干渉を嫌うアスカが示す行動そのものだった。 「ふん。開き直ったってみっともないだけよ」 そう一人言ちると、アスカはシンジの後を追う。 ピシャリと閉じられた引き戸。納戸だったシンジの部屋には外からカギが掛かるが中からは掛からない。 元々カギの無い扉に無理矢理カギを付けたアスカの部屋とは反対だった。 押し入ろうと思えば簡単にできる。 だが、アスカは外からカギを閉めた。 不貞腐れたシンジが逃げ出さない為に。 |
自分の部屋に戻ったアスカは、そのまま寝てしまった。 どうシンジを問い詰めようとか、どうすれば何が有ったか確かめられるか等と考えながら落ちた眠りは、ひたすら不快だった。 悪い想像を上回るような悪夢に苛まれたのだ。 これは夢だ、悪い夢だと半ば自覚しながら、目を覚ます事が出来ずに長い時間苦しんだ気がする。 そんなアスカが不快なだけの眠りの底から目覚める事が出来たのは、皮肉にもシンジが自室の扉を叩く騒々しい音の為だった。 「何よ、ウルサイわねえ」 息苦しさを覚えながら起こされた不機嫌さそのままの声で、廊下に出て文句を付ける。 「アスカが閉めたんじゃないか」 「あらそう」 余りに鮮明な悪夢に、シンジの部屋にカギを掛けた事など忘れていたのだ。 「しばらくそうしてれば」 冷たく言い放って、シャワーを浴びる為に風呂場へ向かう。 夢を見ながら目を覚ましたせいで、忘れたいと思うような内容を現実のように覚えていた。 アスカの目の前で、加持がシンジを抱いていた。 まるで見せ付けるかのように、アスカの手足を椅子に縛りつけ、目を逸らせないよう頭まで固定して、そうして二人が情事を楽しむ。そんな夢だった。 夢に見たシンジの手足は、まるで抱かれる為のそれだった。 細く、頼りなく、嫋やかな肢体は男を感じさせない。 中性と言うよりむしろ女性のような身体で、顔で、加持に抱かれるシンジ。口付けられ噛まれた跡が、その白い肌に点々と朱く残る。 その肌に汗を浮かべて、喘ぐ。 シンジは高い声で加持に懇願する。 許しを得ようと、啼く。 そんなシンジに触れる加持は、あの夜アスカに与えたのと同じ優しさと烈しさでシンジを弄んだ。 快楽へ、その頂点へ辿りつく道筋を示しながら、決してその全てを与えようとはしない。 責め立てられ、煽られて、堪らなくなったシンジが啼く声を至福の表情で聞く。 加持の歪んだ笑みがアスカの視界一杯に広がる。 酷い夢だ。 「最低の気分だわ……」 何より許せないのは、そんな悪夢を見ながら汗とは違うモノで身体を濡らしてしまった自分自身だ。 身動きを許されない夢の中で、アスカはただ叫んでいた……いや、叫ぼうと口を開くが声は出なかった。 口にまで枷を嵌められ、目を逸らす事も許されず、ただ見守る他無い。 抉られ、突かれ、掻き回されるシンジ。 加持に抱かれるシンジの身体に、自分の身体に刻まれた記憶を重ねた。 胎の中の奥深くにまで加持が入り込む。その熱さ。 アスカは再び下腹を押さえた。 リアルに触感が甦る。 それが記憶した加持との逢瀬のそれなのか、今見た夢の繰り返しなのか、もはや区別が付かない。 夢の中では叫ぶ事も出来ないまま、アスカもまた喘いでいた。抱かれるシンジが感じているであろう感触を、見ているだけな筈のアスカもまた体験した。 「何で……こんな……」 夢の中だけでは無い。今この瞬間も、現実にアスカの身体は熱く滾っていた。 皮膚が粟立ち、汗を洗い流そうとする己の掌の感触にすら痺れてくる。 身体の奥底もまだ、熱いままだ。 足の間で秘唇が口を開いているのが分かる。 熱く濡れて血を集め、膨れたそこにシャワーを当てる。 「あ……あぁ」 指で触れるのは何故か、躊躇われた。 加持に抱かれる情景を想像しながら自分を慰める事など茶飯事だ。 けれど今は、水流での刺激にすら戸惑う。 加持がシンジを抱く……その想像は、何故かアスカの肉欲を痛く刺激した。 いつも目を瞑り思い出す熱い夜の記憶にも増して、アスカの脳裏に浮かんだその光景は妖しくアスカの身体を滾らせて離れない。 「うう……嫌よ……何でこんな」 許せない筈の想像に熱くなる身体。その妄想に身体を預けてしまう事に覚える嫌悪と背徳感。 「ああ……イヤ」 力の抜けた膝が折れ、アスカはシャワーのカランに縋り付くようにして冷たいタイルの床に崩れた。 しかしその手はシャワーを離さず、反対の手で水流を強めてさえいた。 「うっ……あぁっ……くっ」 迸る温かい水流に翻弄されて、秘唇がざわめく。 包皮の中にも水流が当たり、勃起した秘芯は痛い程に膨れていた。 そして胎の中から流れて落ちる熱いぬめり。 間違いなく自慰である筈のその行為に、アスカは犯されているように歯を食いしばって耐えた。 声を出してその快楽を貪るのに抵抗する事で、最後の自負心の一欠片を繋ぎ止めた。 「んん……んっ……ふっ……あっ」 アスカの太股が震え、腰が戦慄く。 最後はシャワーの先を股間に押し付けるようにして、果てた。 「はっ……はあっ……ううぅ……」 泣き出したくなるほど、惨めな気分だった。 けれど、見たくない筈の情景に興奮し、滾った身体を持て余し続けるよりは、マシだ。 改めてシャワーで全身を清めて、ようやく落ち着く。 |
迸る水音が止まると、ダイニングで電話が鳴っていた事に気が付いた。 いつから始まったのか長く鳴り続けるベルの音に、シンジがさっさと出ないかと苛付いた挙げ句、当のシンジが電話にも出られないのが自分のせいだと思い出す。 血流に火照り、濡れたままの裸の肌にタオルを巻いてダイニングへ出る。 どうせシンジは部屋から出てこれない。構うものか。 「はい葛城です……」 呼ばれた電話はNERV本部からの連絡だった。 待機は解除。だが、ミサトとは暫く連絡が付かないという内容だった。訳が分からない。 「何時に戻って来るんですか?」 返ってきた答えは更に訳が分からなかった。 早ければ明日には、だが遅くなれば何日後になるか見当が付かないと言う。 それ以上の質問は許されず、向こうから一方的に電話は切られた。 |
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