Sky Lover

エピローグ

〜30年後〜(1975)

  


 ベトナム戦争から帰った長男が、ハワイで結婚式を挙げるという。

 ついでと言っては悪いが、長い間顔を合わせていない親戚一同が集まるにはもっ
ともふさわしい場所に思えて、本人が望まない盛大な披露宴を押し付けたものだか
ら、息子は随分気を悪くしたようだ。

 シンジはいつも使うパンナムエアの機上から、太平洋を見下ろしていた。

 アスカの実家を訪ねる時は、いつもこの航路だ。
 成田から、ハワイを経由してロサンゼルスへ。

 アスカが何も無いアンカレッジ空港を嫌うので、毎回ハワイを経由(中継するだ
けですむはずが無い)する羽目になる。

 アスカの里帰り中にLAで生まれた息子は、成人するとアメリカ国籍を選んだ。
 アメリカの大学に通っていた為なのだが、運悪く徴兵に引っかかってベトナムへ。

 無事に帰って大学を出る事が出来て、シンジとしては心底ほっとした。

 だがその後、海の向うで就職と結婚を決めてしまった。

 もうあいつは日本に戻る気なんて無いな、と、シンジは通路の向うの席で眠りこ
けているゲンドウを見た。
 シンジがアスカと結婚するから、アメリカ国籍を取るかもしれないと言った時は
猛烈に反対したゲンドウも、今回は何も言わなかった。
 本人はこれが最後の海外旅行だと言って、まんざらでもない様子だ。

 飛行機に乗るのは嫌だと言って二度とアメリカに行く事の無かったユイも、孫の
結婚とあっては出かけないわけにもいかないからと、連れ出す事に成功した。

 LAからはアスカの母、キョウコと、シンジ達の長男が花嫁の家族と共にやって
来る。

 キョウコももう歳(と言うと本人は大変気を悪くする)なのだから、家族がそば
に居てやるのは良いかもしれないと思って、シンジとしては長男のアメリカ永住に
全面的に賛成だ。

 そして、隣りで本を読んでいるアスカと、その隣りで眠っている愛娘に目をやる。

 アメリカから帰ってこなくなった長男の影響か、娘の方は日本の方が絶対に安心
だと言い張る。
 まあ、シンジとしてはどちらかが目の届くところに居てくれれば良いと思ってい
るのだが、アスカは娘を一人で海外にやるなど考えられないらしい。

 娘はアスカやキョウコよりもユイに似た。
 つまりシンジの家系の血が濃く出ている。

 そして、ユイよりもずっと、レイに似ていた。

 シンジは太平洋に浮かぶ白い雲を眺めながら、ふとあの日の事を思い返していた。
 時代は変わり、成層圏など旅客機が当たり前に飛ぶようになったが、やはりシン
ジにとっては特別な場所なのだ。

 いま、家族が揃ってこうして、平和に高度1万mを飛んでいる。
 それでもふと、飛行機に乗っているとまたあの声が聞こえないかと、耳を澄まし
てしまう。

「なんか見えた?」

「ん、別に……天気が良いね、明日も晴れると良いなあ」

「晴れるわよ。せっかくハワイ選んだんだから」

「そうだと良いね。……ねえ、タキシード持ってこなかったけど、ホントに良かっ
 たの?」

「今さらなに言ってるのよ。ハワイでタキシードなんて、暑くて着てれらるわけな
 いじゃない」

「わかってるけど、アロハで教会なんて、不安でさ」

「大丈夫よ」

 苦笑いするシンジに、アスカが微笑み返す。


 機内アナウンスが、到着予定時刻を告げていた。







終わり

 初出:アスカの穴 投稿掲示板(1997年 8月11日〜1998年 4月 9日)


 参考:合作時の担当(初出日時)

 原案:けんけんZ(1997年 8月11日)

 一話:JOKER(1997年 8月13日)

 二話:JOKER(1997年 8月13日)

 三話:けんけんZ(1997年 9月6日)

 四話:JOKER(1997年 9月23日)

 五話:けんけんZ(1997年10月19日)

 六話:けんけんZ(1997年10月26日)

 七話:JOKER(1997年12月11日)

 八話:けんけんZ(1998年 1月18日)

 九話:けんけんZ(1998年 4月 9日)

 エピローグ:けんけんZ(1998年 4月 9日)

 この他に、別バージョンの九話が有ります。
 今回はこちらのエンディングに合わせ、けんけんZが改稿致しました。


[REMAKE]目次のページに戻る
制作・著作 「よごれに」けんけんZ

返信の要らないメールはこちらへken-kenz@kk.iij4u.or.jp
レスポンス有った方が良い場合はくりゲストブックまで。