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ア    
ス    
、女の


by むう





昼休み。
遠くで、校庭の賑いが聞こえてる。

僕は、保健室の前で立ち尽くしていた。

気乗りのしない僕を、委員長が押し切った。だから、来ている。
 
 『碇君。アスカの様子、見てきて』

アスカが毎月一回、つらい思いをしてるのは、前から知ってた。
でも何を言えばいいんだろ。

昼休みは、半分終わっていた。

僕は意を決して、ノックした。

 トントン

返事がない。もう一度ノックしたが、返事はやっぱりなかった。
そっと扉をあけて中に入った。

誰もいないのかな、って思ったとき、
視線の端にベットに横たわるアスカが見えた。
こっちに背を向けて、丸くなって寝てる。
赤い髪が、白いシーツに映える。
呼吸と同時に、布団のてっぺんがわずかに上下してる。

僕は、アスカに近づいた。
心臓の鼓動が高鳴る。別にやましいことは何もないのに。

そっと声をかける。

「アスカ・・・・大丈夫?」

アスカは、ゆっくり体をこっちにむけた。

「・・・・なにしに来たのよ」

汗ばんだ額。
いつもの元気がない。

「休み時間だから・・・・委員長が行けって・・・」

言い訳がましい言葉。
自分でも情けない。こんなことしか言えないなんて。

「あんたなんか来ても、しょうがないでしょ」

「ごめん・・」

「謝んないでよ。何度言わせんの!」

またやってしまった。本当、情けない。


沈黙が、重くのしかかる。


「うん・・・じゃあ、お大事に」

僕がたまらず逃げだそうとすると、アスカが呼びとめた。

「待ちなさいよ!」

捨てられた子猫みたいな、不安げな表情(かお)。

今にも怒り出しそうでもあり、今にも泣き出しそうにも見えた。

「手、貸して」

「え?」

「手よ、手」

僕がおずおずと右手を差し出した。
アスカはその手をつかむと、ぐっと引き込んだ。

「ア、アスカッ」

バランスを崩して、僕はベットの端に腰掛けることになる。
アスカは僕の手を、服の上からお腹に当てて、抱え込んだ。
びっくりして手をひっこめようとしたけど、アスカが離さなかった。

「少しだけだから・・・」

ぐさっときた。
普段のアスカにはない切ない声。微かに震えてる。

「・・・お願い」

「・・・うん」

僕は魔法にかけられたように、アスカに従った。
右手が、アスカのお腹の、おへそのすぐ下に置かれてる。
あったかい感触とアスカの呼吸のリズムが、手の平に伝わってくる。
気持ちいいよ、って言ってくれてる気がする。

「シンジ・・・・もうちょっと・・・」

アスカの目から、涙がこぼれてるのが見えた。
僕は左手で、アスカの髪を撫でる。そっと。できるだけやさしく。

しばらくして、アスカはベットの奥の方に体を寄せ、僕が寝る場所をあけてくれた。

「そんな姿勢じゃ、疲れるでしょ」

靴を脱いで、アスカの隣に添い寝する姿勢になる。

僕は大胆なことに、左腕をアスカの首の下に通して腕枕をした。
アスカ怒るかな、ってちょっと心配だったけど、
アスカは素直に首を上げて腕枕を受け入れてくれた。
しばらく頭を動かして、一番良い位置を探すとそこに下ろした。

僕がアスカを後ろから抱きしめる格好になった。

腕の中にすっぽりアスカが入ってる。

女の子の体。

こんなに柔らかいんだ・・・・

目の前には、アスカの綺麗な赤い髪。
すっと鼻を近づけると、シャンプーの匂いがした。
いつものアスカの、いい匂い。胸がいっぱいになる。

普段なら我慢できなくなっちゃうんだけど、今日は不思議とやさしい気持ちのままだった。

安心しきって、体を預けてるアスカ。
首をしめれば、簡単に殺せてしまう。
僕の腕のなかの、生命(いのち)。
もろくていとおしい、存在。

子供を産むって、女の人にとって、どんなことだろう?
アスカは? どんな風に思ってるんだろう?

前に『子供なんか絶対いらない』って、言ってたけど。

でも。もしも許されるなら・・・

アスカ・・・・・

僕はウトウトと眠くなり、いつのまにか寝てしまった。



  ・・・とても不思議な夢を見た。

  羽の生えた天使になった僕が、アスカに尋ねる。

  「男の子がいい? それとも女の子にする?」

  「うーん・・・・手間がかからない方!!」

  「どっちも、手間はかかるよ」

  「うーん・・・・」

  アスカは腕組みしたまま、ずっと考えていた・・・



目が覚めると、もう夕暮れ時だった。

ベットにアスカの姿はなかった。

メモが一枚、アスカの几帳面な字で残されていた。

  『ありがと。先、帰るね。  アスカ』

腹は立たなかった。おいていかれたのに。
それどころか僕は、やさしい気持ちのまま、メモに見入っていた。

  『ありがと。先、帰るね。  アスカ』

宝物にしようって、思ってた。



( Fin )




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