女(エヴァ)
---- (アダム)より造られしもの----
part 2
by むう

「シンジ君、いるんでしょ?」 「・・・・・・」 「・・・・来て」 ドアの向こう。 誰もいないかもしれない。 このまま終わらせることもできる。 このまま寝てしまえば、たぶんそれで終わり。 (思い過ごし・・・いや、願望ね。) 秘処を熱く火照らせながらも、妙に冷静な自分がいる。
   引              裂かれた 自我  十五年
  あの日     あの時から
止められた時計     
しかしミサトの脚は、ミサトをドアの前まで運んでしまった。 そして迷わず、ドアを開ける。 果たして、そこにシンジはいた。 「う。あ、あぁあ」 驚いたシンジが、後ろにペタンと尻もちをつく。 震えてる。いや、怯えていると言うべきか。 うつむいて、ミサトの体から視線を外している。 ミサトは全裸のまま、体を隠そうともせず、シンジを見下ろしていた。 (こんな時でも、冷静なのよね・・・・) ミサトは自分に苦笑した。 これが、男に嫌がられる。 分かってる。 全部分かってて、それでも、そうなってしまう。 二人の自分がいた。 女である自分と、それを見ている自分。 「シンジ君・・・・」 ミサトはやさしく声をかけたが、返ってきたのは、ほとんど涙声だった。 「また・・・からかってたんですね」 シンジはちょっとだけ視線をあげ、すぐにまた床に落とした。 「僕だって・・・・男ですよ」 いつものパジャマ姿。 頬を伝う、一筋の涙。 「あんまりですよ・・・こんなの」 「からかってなんか、いないわ。私の本当の気持ちよ」 ミサトは落ち着いて答えた。 「あたしは、同情や仕事だけで他人と一緒に住めるような人間じゃないわ。  それにひやかしやからかいで、こんな真似できる女でもない」 前半は、駅のホームでシンジに言った言葉だ。 シンジとミサトの、初めての抱擁。それは、家族としての抱擁だった。 そして今、ミサトはもう一歩踏み出そうとしていた。 「軽蔑してくれていいわ。でも私は、シンジ君の男にひかれてる。  自分でも驚いてるのは事実だけど」 「信じられません」 「そうね。私も信じられないわ」 「じゃあ、なぜ」 「あなたがいなくなって、自分の気持ちに気付いたの」 きっぱりと言うミサト。 シンジの家出と捕獲、そして帰郷。 (私はシンジ君のことを、道具として見ていた。  いえ、見ようとしていた、と言うべきね) ミサトは、初めて自分の気持ちに気付いた。 その晩。 何もなくなったシンジの部屋に入り、きれいに整えられらベットに座った。 そこまでは、平静でいた。 が、ふとシンジのベットに横になった時、それは始まった。 (・・・シンジ君、の匂いだ) それは布団にかすかに残った、男の匂い。 ミサトはそこにあった毛布を頭までかぶり、 顔をうずめ、大きく息を吸った。 今度は、もっとはっきりと、匂いが感じ取れた。 シンジの部屋で、初めてミサトは自慰を行った。 (私のなかに、こんなに激しいものがあるなんて・・・) 自分でも信じられなかった。 そのシンジが、今、目の前にいた。 恥ずかしさはなかった、むしろ、悦びだった。 「シンジ君の男にひかれてる。女として、あなたが欲しいの」 「・・・・・・・」 「あなたがエヴァに乗るたびに、怪我をしないか心配だったの」 「そんなの・・・信じられないです」 「本当よ」 「じゃあ、どうしてエヴァになんて乗せるんですか」 しばしの沈黙の後、ミサトはその質問には直接答えず、かわりにいった。 「信じてもらえなくてもいいわ。でも事実よ。  あなたにもしものことがあったら、使徒を全部倒したあと、私も死ぬわ」 今まで考えてもみなかった言葉。 だが、嘘じゃない。 本当の自分。 「ここ・・・見て」 脇腹の傷跡を指さすミサト。 しかしシンジは視線を上げない。 「セカンドインパクトのとき、出来たの」 構わずしゃべる。 「全て、失ったわ。両親も、記憶も、言葉も。全部・・・・たぶん、女も」 黙りこむシンジ。 しかし落ち着きを取り戻しているのが、ミサトには分かった。 「14よ。今のシンジ君と同じ」 「私の時間は、あの時から、止まっているの・・・・体はもう、おばさんだけど」 「ごめんね。嫌なもの、見せちゃったわね」 くるりとシンジに背をむけ、部屋に戻っていく。 半分は演技、半分は本気。
(続く)




part3に続く
純愛進化研究所(笑)に戻る