女(エヴァ)
---- (アダム)より造られしもの----
part 3
by むう

「ごめんね。嫌なもの、見せちゃったわね」 くるりとシンジに背をむけ、部屋に戻っていく。 半分は演技、半分は本気。 バタン 閉じられたドア。 長い長い、沈黙。 尻もちをついた姿勢で、 シンジは目の前のドアを、呆然と見つめていた。 全てが、信じられなかった。 (男として見てる? ミサトさんが? 僕を?) あまりのことに、パニックになっていた。 そもそも、ここに来てからの出来事全てが、信じられないことの連続だった。 頭の中に、いろいろなミサトが浮かんでは消える。 (ミサトさん・・・) 駅のホームでの抱擁。 柔らかい女の胸。 淡い香水の匂い。 それを胸いっぱいに吸い込んでいた、自分。 このまま、時間が止まってくれればと思っていた。 (ミサトさん・・・) 怖いくらい冷酷な、司令室でのミサト。 ズボラでだらしない、家でのミサト。 ときどき見せる、やさしい笑顔。 (ミサトさん・・・) ケンスケのセリフ。  『他人の俺達には見せない、ホントの姿だろ』  『それって、家族じゃないか』 ドキっとした。 家族。 そこから連想されるのは、泣いている子供の自分。 それがいつしか、ミサトに変った。 (ひかれてる?・・・でもそれは、家族として?) 家族。 カゾク ッテ ナニ ? ホントウ ノ スガタ 沈黙。 ドアの向こう。 たぶん、待っている。 シンジの答えを。 言いたい言葉。 それは、すぐそこにありそうなのに。 見つからない。 息が詰まる。 苦しい。 「僕は・・・・僕には・・・・」 やっとの思いで口にした言葉は、消え入るようなつぶやきだった。 続かない。 「僕には・・・・僕には・・・・分からないです・・・・ミサトさんも、自分も・・・」 ドアの向こう。 動かない。 「で、でも・・・・」
デモ?  シンジは自問する。 ボクハ ナニヲ イオウトシテイル ? 目の前にはドアがあった。 そしてすぐ向こうには、ミサトが立っている。 多分、自分を待っている。 (ミサトさん・・・) (ミサトさん・・・) (ミサトさん・・・)
全てのミサトが浮かんでは消えた、その後に、 ドアが閉まる直前のミサトの後ろ姿が、シンジの脳裏に浮かびあがった。 長い髪。 肩から腰に、そして脚への続く、女の曲線。 カーテンの閉じていない窓から月明りが入り、 暗闇のなか、ミサトの白い裸体がぼんやりと浮かびあがっていた。 それは、一瞬だけ、目に入った光景。 その瞬間、胸が締め付けられた。 「でも・・・でも・・・・綺麗、でした」
キレイ デシタ ようやく出てきた言葉。 シンジは自分でも、その言葉を繰り返した。 キレイ デシタ キレイ デシタ キレイ デシタ 急に、胸のつかえが無くなった。 大きく深呼吸するシンジ。 なぜだか、すごく、落ち着いた。
言い出せなかった、 言葉 見つからなかった、 言葉 ずっとずっと探していた、 言葉
「すごく・・・・綺麗でした」 自然に涙が溢れてくるシンジ。 悲しみじゃない、涙。 そしてドアが、もう一度開かれた。
(続く)




part4に続く
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